第II部 作る | 半導体技術 体系解説
半導体の製造工程 — 光で写し、削り、積み、平らにする
円板の上に回路を刻む工程を、光で写す・削る・積む・混ぜる・平らにするの順に見る。どの工程にも「なぜその方法でなければ届かないか」という物理の理由があり、装置を作れる会社が世界で数社に絞られる理由もそこにある。
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③ プロセス開発・製造技術
円板の上に回路を刻む工程を、光で写す・削る・積む・混ぜる・平らにするの順に見る。どの工程にも「なぜその方法でなければ届かないか」という物理の理由があり、 装置を作れる会社が世界で数社に絞られる理由もそこにある。
3.1 露光 — 光の波長が、描ける線の細さを決める
レイリーの式: CD = k₁ × λ / NA
描ける線の細さ (CD) は、光の波長 λ を短くするか、開口数 NA を大きくするか、工程側の係数 k₁ を下げるかの3つでしか変わらない。
EUV は波長を14分の1に縮めた。1回の露光で7ナノ相当の線を描けるのはこのためである。
| 世代 | 波長 λ (nm) | NA | k₁ | 最小の世代 | 供給 | 入手の可否 | 理由 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| i 線 (i-line) | 365 | 0.65 | 0.42 | 350nm | ニコン / キヤノン / ASML | ✅ 自由 (旧世代) | 水銀ランプ Hg 光源、1990 年代の主力。MEMS / Power 半導体の今でも現役。 |
| KrF (DUV) | 248 | 0.85 | 0.3 | 130nm | ASML / ニコン | ✅ 自由 (旧世代) | KrF エキシマレーザー、~130nm までの量産で標準だった。 |
| ArF Dry (DUV) | 193 | 0.93 | 0.28 | 65nm | ASML / ニコン | ✅ 自由 | ArF エキシマレーザー、波長 193nm が現在も DUV の主力光源。 |
| ArF Immersion (DUV) | 193 | 1.35 | 0.25 | 38nm | ASML 一強 (ニコン撤退寸前) | ⚠ 規制対象 (米国輸出規制連動、SMIC は保有) | 光路に純水 (n=1.44) を介在させ NA を 1.0 超に。これにより 7nm 以下も SAQP で原理的に可能になる。中国 SMEE はこの世代まで国産化進行中だが量産未到達。 |
| EUV (Low-NA) | 13.5 | 0.33 | 0.4 | 5nm | ASML 単独 (世界唯一) | 🔴 全面禁輸 (2019- BIS 規制) | 波長 1/14。Sn (錫) 液滴に 50kW CO₂ レーザを 50,000 回/秒打ち込んでプラズマ化、転換効率 5%。あらゆる物質に吸収されるため屈折光学不可、Mo/Si 多層膜ミラー (40 ペア) 反射率 70%。1 台 ~$200M、組立 1 年。 |
| High-NA EUV | 13.5 | 0.55 | 0.4 | 2nm | ASML 単独 (2024- 出荷開始) | 🔴 全面禁輸 | NA を 0.33 → 0.55 に拡大、解像度 1.7 倍。縦横で倍率の違う光学系で原版の倍率を X/Y 異なる比率に。インテル 18A / TSMC A16 から本格導入。1 台 ~$380M。 |
DUV (波長193ナノ・液浸) — 選ばれ続ける理由
EUV (波長13.5ナノ) — 1社しか作れない理由
- 光源: スズの液滴に毎秒5万回、50キロワットの炭酸ガスレーザーを当ててプラズマにする。光に変わるのは5%
- 光学系: どの物質にも吸収されるためレンズが使えない。モリブデンとシリコンを40層重ねた鏡で反射率70%
- 真空: 空気中で減衰するため、光の通り道をすべて真空にする
- 供給: オランダのASML 1社。光源のサイマーと光学のカールツァイス (ドイツ) を束ねている
- 1台およそ2億ドル、組み立てに1年、部品10万点
- 2019年の米商務省の規制で中国向けは輸出できない。同じ装置を別に作ることは物理と費用の両面で難しい
3.2 多重露光 — 分けて描くほど、欠陥が掛け算で増える
1つの層を何回かに分けて露光すると、欠陥は回数の分だけ掛け算で積み上がる。原版 (マスク) の枚数も同時に増えるため、費用は回数とともに跳ね上がる。
| 技法 | 露光回数 | マスク数 | 欠陥乗算 | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 1回の露光 | 1 | 1 | ×1 | EUV 1 回露光で 7nm 以下も実現 = 究極の解 |
| 2回に分ける露光 (LELE) | 2 | 2 | ×2 | 14nm 世代で実用化、許容範囲 |
| SADP (自己整合) | 1 | 2 | ×1.5 | 側壁形成で擬似 2 倍密度、10nm 世代 |
| SAQP (自己整合4重) | 1 | 4 | ×2.5 | 7nm DUV の現実解、SMIC 7nm はこれ。歩留まり 30-50% (TSMC EUV 7nm は 90%+) → コスト 2-3 倍 |
| SAOP (自己整合8重) | 1 | 8 | ×4 | 5nm DUV は理論上可能だが欠陥爆発で経済的に非現実的 |
3.3 削る・積む — 原子1層ずつの制御が要る理由
世代が進むほど、掘る穴の深さと幅の比 (アスペクト比) が大きくなる。232層の立体メモリーでは高さ10マイクロメートルに対し幅80ナノメートルで、比は125に達する。 まっすぐ垂直に削る技術と、原子1層の精度で積む技術がなければ届かない。 誘電率の高い絶縁膜と金属のゲートを組み合わせる方式 (HKMG) では、酸化ハフニウムの成膜に原子層堆積 (ALD) が要る。45ナノ以降のすべての世代がこれを使う。 素子が小さくなると二酸化ケイ素のゲート絶縁膜は1ナノメートルを切り、電子が膜をすり抜ける電流が急に増える。誘電率25の酸化ハフニウムなら同じ容量を4ナノメートルの厚さで作れるが、その厚さを均一に積む手段が原子層堆積しかない。
| 技術 | 種別 | 精度 | スループット | 応用 | サプライヤ |
|---|---|---|---|---|---|
| RIE (反応性イオンエッチング) | エッチング | ~5nm | 高 (1 円板数分) | Si / SiO₂ / 金属のエッチング | ラムリサーチ / 東京エレクトロン / AMEC |
| ALE (原子層エッチング) | エッチング | ~1Å (1 サイクル/層) | 低 (1 円板数十分) | 3nm 以下の極薄膜エッチング、フィンの削り込み | ラムリサーチ / 中国 AMEC |
| CVD (化学気相成長) | 成膜 | ±5% | 高 | 汎用 SiO₂ / Si₃N₄ / W 成膜 | アプライドマテリアルズ / 東京エレクトロン / NAURA |
| ALD (原子層堆積) | 成膜 | 0.1nm/サイクル | 低 | HKMG (HfO₂ ゲート)、3D NAND セル分離膜、EUV 保護膜 | 東京エレクトロン / Lam / 中国 Piotech |
| PVD (スパッタ) | 成膜 | ±3% | 高 | 金属配線 (Cu / Al / Ti) | アプライドマテリアルズ / NAURA |
| EPI (エピタキシャル成長) | 成膜 | 原子精度 | 中 | SiGe / SiC / GaN 単結晶層、FinFET ソース/ドレイン | アプライドマテリアルズ / ASMインターナショナル / 中国 NAURA |
3.4 不純物を混ぜる — 原子30個の数え違いが動作を変える
電流の出入り口を作るため、ホウ素・リン・ヒ素をシリコンに打ち込む。3ナノ以下では、混ぜた不純物の個数のばらつきが動作を左右する:
電流の通り道は30×10×5ナノメートル。ここに入るホウ素原子は約30個しかない。
±5個ずれるだけで、動き始める電圧が±100ミリボルト変わる。同じ円板から取ったチップでも1個ずつ性質が違うことになる。
対策: 通り道を4面から囲む構造 (ゲートオールアラウンド・ナノシート) にして制御を強め、個数のばらつきの影響を物理的に弱める。
サムスンの3ナノ、TSMCの2ナノ、ラピダスの2ナノはいずれもこの構造を採る。
3.5 平らにする (CMP) — 銅の配線に欠かせない工程
アルミの配線には要らなかった工程である。銅は削って形を作れない (プラズマで削れない) ため、90ナノ以降はダマシン法に替わった:
- 二酸化ケイ素に溝を掘る
- 銅を全面に埋める
- はみ出した銅を研磨で削り落とす ← ここが欠かせない
求められる平坦度は0.5%以下。研磨液 (中国では安集科技がほぼ唯一) と研磨布、そして研磨機 (アプライドマテリアルズと荏原製作所) の3つがそろって初めて成り立つ。
3.6 材料 — シリコン一強から、用途で使い分ける時代へ
帯の隙間の広さ (バンドギャップ) と、壊れずに耐えられる電界の強さが、どの材料をどの用途に使うかを決める。 電気自動車の変換器が炭化ケイ素を選ぶのは、同じ耐圧なら厚さが10分の1で済み、通電時の抵抗が100分の1になるためである。損失が減り、航続距離はおよそ1割伸びる。
| 材料 | バンドギャップ (eV) | 絶縁破壊電界 (MV/cm) | 移動度 (cm²/Vs) | 主な用途 | 主な担い手 | 理由 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Si (シリコン) | 1.12 | 0.3 | 1500 | 汎用ロジック・メモリ (CPU / GPU / DRAM / NAND) | SMIC / Hua Hong / YMTC / CXMT | SiO₂ 自然酸化膜が完璧な絶縁体、地殻 25% 埋蔵で安価。これに勝てない。 |
| SiC (炭化ケイ素) | 3.26 | 3 | 950 | EV インバータ (1200V+)、太陽光 PCS、急速充電 | StarPower / BYD Semi / 中国中車 (CRRC Times) | バンドギャップ 3 倍 → 同耐圧で厚さ 1/10 → オン抵抗 1/100 → 損失激減。テスラ Model 3 が 2018 年採用後、業界標準化。 |
| GaN (窒化ガリウム) | 3.4 | 3.3 | 2000 | 5G 基地局 RF PA、急速充電、宇宙用耐放射線 | Innoscience (英诺赛科)、HiSilicon | 高電子移動度で高周波 (28GHz ミリ波) 向き。Si MOSFET の 100 倍速いスイッチング。 |
| Ga₂O₃ (酸化ガリウム) | 4.8 | 8 | 300 | 次世代超高耐圧 (数 kV+)、宇宙環境 | 研究段階 (Tsinghua / Fudan) | バンドギャップ最大級、耐圧 SiC の 3 倍。日本 NICT・ノベルクリスタルテクノロジーが量産技術で先行。 |
| Diamond (ダイヤモンド) | 5.5 | 10 | 2200 | 究極の高耐圧・高熱伝導 (実用化前) | 研究段階 | 熱伝導 Cu の 5 倍、究極の電力半導体材料。p 型化困難で実用化は 2030 年以降。 |
3.7 「7ナノ」は物理の寸法ではない — 名前と実寸法のずれ
「7ナノ」はもはや物理の寸法ではなく、従来世代と比べた密度に付けた商品名である。実際に作られている最小の寸法は20ナノメートル前後にとどまる。 SMICの7ナノはTSMCの7ナノと同じ密度に届くが、EUVを使えないため歩留まりは30〜50%にとどまる (TSMCは90%超)。
| 世代の名前 | ゲート間隔 | 配線間隔 | 密度 (100万素子/mm²) | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| TSMC 28nm | 117nm | 90nm | 8 | 平面型最終世代、コスト最適 = 旧世代の主力ノード |
| TSMC 16nm | 90nm | 64nm | 28 | FinFET 第 1 世代、3D ゲート化で短チャネル効果克服 |
| TSMC 10nm | 64nm | 44nm | 50 | FinFET 改良、SADP 主体 |
| TSMC 7nm | 57nm | 40nm | 100 | EUV 部分採用 (一部レイヤ)、1st 世代 EUV |
| TSMC N5 (5nm) | 51nm | 30nm | 173 | EUV 全面採用、アップル A14 / M1 で量産 |
| TSMC N3 | 48nm | 23nm | 213 | FinFET 最終世代、アップル M3 |
| TSMC N2 | 45nm | 20nm | 313 | GAA Nanosheet 初採用 (2025-)、ラピダスも同等狙い |
| TSMC A16 | 42nm | 16nm | 380 | High-NA EUV + 裏面からの給電 (2026 計画) |
| SMIC 7nm (N+2) | 57nm | 40nm | 90 | DUV 多重露光 (SAQP) で TSMC 7nm 相当密度。歩留まり 30-50%、コスト 2-3 倍。Kirin 9000s 採用 |
3.8 後工程 — 供給の上限を決めているのは露光装置ではない
ここまでは円板の上に回路を作る前工程を扱ってきた。だが円板は製品ではない。 切り分け、固定し、配線をつなぎ、樹脂で覆って初めて出荷できる。この一連を 後工程 と呼ぶ。 長らく労働集約的な下流工程と見なされてきたが、AI 用演算器の供給制約が実際に発生しているのは、 露光ではなく後工程の先端実装である。演算器と高帯域メモリを1つの土台に載せる工程の容量が世界的に不足し、 前工程に余力があっても出荷できない状態が続いた。
| 工程 | 何をするか | 難所 | 世界の主導企業 | 日本の位置 |
|---|---|---|---|---|
| ① 検査 (ウエハテスト) | 切り出す前に、1個ずつ電気的に動くか調べて不良に印を付ける | 微細な端子へ探針を当てる精度と、検査時間そのものの費用 | アドバンテスト (日) / テラダイン (米) | ★ アドバンテストが高帯域メモリ向け検査で世界首位級 |
| ② ダイシング (個片化) | 直径300mmの円板を、1個ずつのチップに切り分ける | 切り代を削るほど取れる数が増える。欠けを出さずに薄く切る技術 | ディスコ (日) | ★★★ ディスコが世界シェア約8割。代替が存在しない |
| ③ ダイボンディング | チップを基板や金属枠に固定する | 熱の逃げ道を確保しつつ、位置を数マイクロメートルで合わせる | ASMパシフィック (香港) / 新川 (日) | 装置と接合材料の双方で供給 |
| ④ 配線接続 | 極細の金線・銅線で電極をつなぐ (ワイヤ方式)、または微小な突起で直接接合する (バンプ方式) | 端子数が増えるほどワイヤ方式が限界に達し、バンプ方式へ移行する | ASMパシフィック / K&S (米) | 田中貴金属がボンディングワイヤで世界的シェア |
| ⑤ 封止 | 樹脂で覆い、湿気と衝撃から守る | 硬化時の収縮でチップに応力がかかると特性が変わる | レゾナック (日) / 住友ベークライト (日) | ★★ 封止材料で日本勢が世界の過半を握る |
| ⑥ 先端実装 | 複数のチップを1つの土台に載せ、高帯域メモリを積層して束ねる | ★ ここが AI 用演算器の実質的な供給上限。工程数が多く、歩留まりが積算で効く | TSMC (CoWoS) / インテル (Foveros) | 新光電気工業・イビデンがパッケージ基板を供給 |
表を縦に読むと、日本勢が前工程よりも後工程で強い位置を占めていることがわかる。 切り分け装置は世界の約8割、封止材料は過半、検査装置と接合材料でも上位にある。 前工程の露光装置では不在に近い日本が、後工程では代替の効かない担い手になっている。 微細化の物差しから外れた領域ほど、日本の持ち分が残っているという構図は、 前節のパワー半導体・光半導体と同じ形をしている。
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