蓄電事業DB / 電力システムの技術

電力システムの50の技術 — 系統用蓄電池とのつながりで読む

電力工学とエネルギー経済学の観点から、電力システムを支える50の技術を7つの分野に分けて解説します。系統用蓄電池は、送電網に直接つなぎ、需給の調整と市場取引で稼ぐ蓄電設備です。その事業に直結する23の技術には ★系統蓄電関連 の印を付け、そのつながりと、蓄電事業 体系解説で説明している項目を示します。

執筆と照合: Postation 編集部。2026年10月3日に一次資料と照合。数字の出所は末尾の一次資料にあります。

7つの分野

当てはまる技術はありません。

分散型エネルギーを統合する

電力システムの分散化と制御の基盤 / 10の技術、うち★系統蓄電関連 9

再生可能エネルギーが増えると、電圧の変動や周波数の乱れが起きやすくなります。各地に散らばった電源と需要を束ね、送電網を安定させるための技術です。

Ⅰ-1★系統蓄電関連

VPP (仮想発電所)

各地に散らばった蓄電池・電気自動車・太陽光発電などを通信でまとめて制御し、1つの発電所のように働かせる仕組み。

個々の設備は小さくても、束ねれば市場や送配電会社が求める規模になります。まとめて運用する事業者をアグリゲーターと呼びます。合計1,000kW を超える電源を束ねて小売電気事業者や送配電会社に電気を供給する事業者は、電気事業法の特定卸供給事業者として届け出る必要があります。届け出た事業者は、2026年9月1日時点で172者 (事業開始前の者を含む) です。

系統用蓄電池との関係系統用蓄電池の日々の運用 (市場への応札と充放電の計画) はアグリゲーターが担うことが多く、VPP と同じ仕組みで行われます。

蓄電事業 体系解説で学ぶ運用とアグリゲーター毎日の運用は誰が担い、何が収入を左右するのか
Ⅰ-2★系統蓄電関連

グリッドフォーミング型インバーター (GFM)

自ら電圧と周波数の基準をつくり、同期発電機のように送電網を支えるインバーター。

これまでのインバーターは、送電網の電圧と周波数に合わせて動く「グリッドフォローイング型」(GFL) でした。太陽光や風力の割合が増え、回転する発電機が減ると、周波数の急な変化を抑える慣性力が足りなくなります。グリッドフォーミング型は、制御によって疑似的な慣性力を生み出し、近くに大型の発電機が少ない送電網でも電圧と周波数を保ちます。ただし、インバーターは流せる電流の上限が低く、系統事故の際に供給できる電流は同期発電機より小さくなります。

系統用蓄電池との関係蓄電池のパワーコンディショナー (PCS) にこの制御を持たせると、再エネの割合が高い送電網で慣性力の不足を補う役割を担えます。

蓄電事業 体系解説で学ぶ変換装置 (PCS)出力と応答の速さは何で決まるのか
Ⅰ-3★系統蓄電関連

コネクト&マネージ

送電網の空き容量を柔軟に使い、増強を待たずに電源や設備をつなぐ考え方。

日本では、送電線が混雑したときの出力制御を受け入れる代わりに、増強を待たずに接続する「ノンファーム型接続」などがこれにあたります。送電網を新設する前に、既存の設備を使い切ることを狙います。

系統用蓄電池との関係蓄電池は充電のときも送電網の容量を使います。2025年4月からは、混雑時に充電を制限されることに同意すれば増強の完了前に接続できる「早期連系追加対策」が始まりました。この対策を適用した契約申込みは、2026年1月末時点で189件、計91.3万kW (概算) です。

蓄電事業 体系解説で学ぶ充電も系統の容量を使う充電の側にも送電網の制約はあるのか
Ⅰ-4

スマートグリッド

情報通信技術で、発電から消費までの電気の流れを最適化する次世代の送配電網の総称。

計量器・センサー・通信網で需給の状態をつかみ、設備の制御や料金に反映します。スマートメーターやデマンドレスポンス (需要応答)、配電網の自動化は、その構成要素です。

Ⅰ-5★系統蓄電関連

マイクログリッド

特定の地域の中で電源と需要をつなぎ、送電網から切り離しても電気を自給できるようにした小さな電力網。

平時は送電網につないで運用し、災害などで送電網が止まると切り離して、地域の電源と蓄電池で電気を供給します。切り離した後は、地域の中で電圧と周波数を保つ設備が欠かせません。

系統用蓄電池との関係送電網から切り離して運転する間の電圧と周波数の基準は、グリッドフォーミングの機能を持つ蓄電池が担えます。

蓄電事業 体系解説で学ぶ変換装置 (PCS)出力と応答の速さは何で決まるのか
Ⅰ-6★系統蓄電関連

電力系統の柔軟性

再エネの出力の変動に合わせて、電力システム全体で需給を一致させ続ける能力。

太陽光発電が増えると、需要から太陽光の発電分を差し引いた量が昼に落ち込み、日没にかけて急増します。この量を1日の折れ線で描くとアヒルのような形になることから、米カリフォルニア州で「ダックカーブ」と呼ばれるようになりました。発電と消費のずれを埋める能力は、卸電力市場では電力量 (kWh)、需給調整市場では「調整力 (ΔkW)」として取引されます。

系統用蓄電池との関係リチウムイオン電池の蓄電所は、出力を1秒未満で変えられるとされ (国の検討会のとりまとめ)、充電と放電のどちらにも切り替えられるため、需給を調整する設備として使われます。

蓄電事業 体系解説で学ぶ周波数と調整力なぜ速く出し入れする設備が要るのか
Ⅰ-7★系統蓄電関連

出力制御

供給が需要を上回るときや送電容量が足りないときに、再エネなどの発電を止めて、需給の均衡や送電網の安全を保つ措置。

送電網では発電と消費を常に一致させる必要があり、余る電気をためる先や送る先が足りなければ、発電を止めないと周波数が乱れます。2025年度の再エネの出力制御量は、全国で20.2億kWh でした。同じ年度には東京電力管内でも初めて実施されました。

系統用蓄電池との関係系統用蓄電池は、電気が余って価格が下がる時間帯に充電し、価格が高い夕方に放電して、その値差で収入を得ます。止められるはずだった電気を使えるので、出力制御を減らす効果もあります。

蓄電事業 体系解説で学ぶ出力制御余った電気はどうなっているのか
Ⅰ-8★系統蓄電関連

EMS (エネルギー管理システム)

発電・蓄電・消費のデータを監視し、設備を最適に制御する仕組み。

工場やビル、家庭、地域など、対象の規模に合わせてさまざまな EMS があります。需要と価格の予測をもとに、いつ電気を使い、いつためるかを決めます。

系統用蓄電池との関係蓄電所の EMS は、市場の価格と送配電会社からの指令をもとに、電池の残量 (SOC) と温度を見ながら、30分ごとの充放電の計画を立てます。調整力として待機している間は、指令や周波数の変化に秒単位で応じます。

蓄電事業 体系解説で学ぶエネルギー管理システム (EMS)いつ充電し、いつ放電するかは誰が決めるのか
Ⅰ-9★系統蓄電関連

蓄電池

電気を化学エネルギーとしてためる装置。

系統用ではリン酸鉄リチウムイオン電池が主流で、長時間の放電に向くナトリウム硫黄 (NAS) 電池やレドックスフロー電池もあります。電池の種類によって、放電できる時間、寿命、設置場所の条件が変わります。

系統用蓄電池との関係電池は、系統用蓄電池の事業で初期費用の最も大きな割合を占める中核の設備です。容量 (kWh) と出力 (kW) の組み合わせが、参加できる市場を決めます。

蓄電事業 体系解説で学ぶ系統用蓄電池とは系統用蓄電池は家庭用・産業用と何が違うのか
Ⅰ-10★系統蓄電関連

次世代パワーエレクトロニクス

炭化ケイ素 (SiC) や窒化ガリウム (GaN) などの新しい半導体を使った電力変換の技術。

シリコン製の半導体に比べ、高い電圧や高温でも動作し、電力を変換するときの損失が少ないのが特徴です。変換装置を小さく軽くでき、冷却の負担も減ります。

系統用蓄電池との関係蓄電池の PCS は、充電と放電のたびに直流と交流を変換します。変換の損失が減れば、入れた電気に対して取り出せる割合 (往復効率) が上がります。

蓄電事業 体系解説で学ぶ変換装置 (PCS)出力と応答の速さは何で決まるのか

エネルギー事業のデジタル化

データで運用する基盤 / 10の技術、うち★系統蓄電関連 5

複雑になった電力系統を、予測・監視・取引の仕組みで管理するための情報技術です。

Ⅱ-1★系統蓄電関連

AI (人工知能)

大量のデータから規則性を学び、予測や判断を行う技術。

電力の分野では、需要と再エネの発電量の予測、卸電力価格の予測、設備の異常検知などに使われます。

系統用蓄電池との関係翌日の価格を予測して充放電の計画を立て、卸電力市場と需給調整市場に応札する作業では、予測の精度がそのまま収入の差になります。

蓄電事業 体系解説で学ぶ運用とアグリゲーター毎日の運用は誰が担い、何が収入を左右するのか
Ⅱ-2

IoT (モノのインターネット)

センサーや機器を通信網につなぎ、設備の状態を常にデータとして集める技術。

発電所や変電所、家庭の機器の状態を遠隔で監視し、制御に使えるようにします。VPP やデマンドレスポンスの土台です。

Ⅱ-3

P2P 電力取引

太陽光発電などで電気をつくる家庭や企業どうしが、電気を直接売買する取引。

太陽光パネルを設置した家庭が、余った電気を近くの需要家に売る使い方が想定されています。取引の記録や精算に、ブロックチェーンを使う実証が行われてきました。

Ⅱ-4

ブロックチェーン

改ざんしにくい形で取引を記録する分散型台帳技術。

電力の分野では、再エネの環境価値の追跡や、P2P 取引の自動精算 (スマートコントラクト) への応用が試されています。

Ⅱ-5★系統蓄電関連

デジタルツイン

現実の設備をコンピューター上の仮想空間に再現し、状態の推定や予測に使う技術。

計測した温度や電圧、運転の記録をこの仮想モデルに取り込み、外から見えない内部の状態を推定します。故障の前に手を打つ予知保全に使われます。

系統用蓄電池との関係蓄電池では、劣化の度合い (SOH) の推定や寿命の予測に使えます。電池の劣化は充放電の回数と深さ、温度のほか、使わずに置いた時間と充電の状態でも進みます。デジタルツインは、運用の計画と劣化の予測を一体で扱う手段になります。

蓄電事業 体系解説で学ぶ劣化電池はどう傷み、何が劣化を早めるのか
Ⅱ-6★系統蓄電関連

気象予測

日射や風などを予測する技術。

太陽光と風力の発電量は天気で決まるため、気象予測の精度が需給の計画を左右します。発電量の予測が外れると、その差を調整力で埋めることになります。

系統用蓄電池との関係晴れて太陽光が余る日は昼の価格が下がり、夕方との値差が広がります。気象予測は、蓄電池がいつ充電し、いつ放電するかを決める判断材料になります。

蓄電事業 体系解説で学ぶ卸電力の裁定値差でいくら稼げるのか
Ⅱ-7

スマートメーター

電気の使用量を計測し、通信で送る電力量計。現在の計量は30分単位。

使用量が細かく分かるため、時間帯別の料金や、節電した量を確かめるデマンドレスポンスの基盤になります。

Ⅱ-8★系統蓄電関連

IEC 61850

変電所の自動化に向けた通信の国際規格として始まり、いまは発電所や分散電源にも対象を広げている。

保護継電器や制御装置などの機器が、メーカーの違いを超えて同じ形式でデータをやり取りできるようにします。

系統用蓄電池との関係大規模な蓄電所を変電所の監視・制御のシステムに接続するときに使われる規格の1つです。

蓄電事業 体系解説で学ぶ変圧器・受変電設備送電網と電圧をどう合わせるのか
Ⅱ-9

デジタル変電所

計測と制御の信号を、銅線のアナログ信号から光ファイバーの通信に置き換えた変電所。

IEC 61850 に沿ってプロセスバスと呼ばれる通信網で機器をつなぎ、配線を減らし、きめ細かく監視できるようにします。

Ⅱ-10★系統蓄電関連

サイバーセキュリティー

重要インフラである電力システムを、サイバー攻撃から守る技術と運用。

電力の設備は遠隔で制御されるため、通信の経路が攻撃の入り口になり得ます。すべての通信を信用せず、そのつど検証する「ゼロトラスト」の考え方などが取り入れられています。

系統用蓄電池との関係多数の蓄電所が遠隔で一斉に誤った充放電をすれば、送電網の需給が乱れます。遠隔制御が欠かせない蓄電事業では、通信の安全確保が運用の前提になります。

蓄電事業 体系解説で学ぶ運用とアグリゲーター毎日の運用は誰が担い、何が収入を左右するのか

熱と運輸を脱炭素化する

給湯・冷暖房と自動車を電気で動かす / 5つの技術、うち★系統蓄電関連 1

熱と運輸のエネルギーを電気に置き換え、再生可能エネルギーで賄うための技術です。

Ⅲ-1

脱炭素化

化石燃料の使用を減らし、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする取り組みの総称。

発電の脱炭素化に加え、熱と運輸で使うエネルギーを電気に切り替える電動化や、燃料を水素などに置き換える取り組みも含みます。

Ⅲ-2

ヒートポンプ

少ない電気で空気などから熱をくみ上げ、給湯や冷暖房に使う技術。

使った電気の数倍の熱を運べるため、燃料を燃やして熱をつくるより少ないエネルギーで済みます。家庭やオフィス・店舗の給湯と冷暖房を電気で賄う中核の技術です。

Ⅲ-3★系統蓄電関連

V2G (電気自動車から送電網への給電)

電気自動車の電池を、送電網に電気を戻す蓄電池としても使う技術。

駐車中の電気自動車の電池を、需給の調整などに充てます。運転に必要な分の電気を残す必要があり、使える時間と量は利用者の行動で変わります。

系統用蓄電池との関係定置型の系統用蓄電池と同じく需給の調整に使えるため、その競合にも補完にもなり得ます。

蓄電事業 体系解説で学ぶ系統用蓄電池とは系統用蓄電池は家庭用・産業用と何が違うのか
Ⅲ-4

電動化

エンジンや燃料を燃やすボイラーを、モーターや電気による加熱に置き換えること。

電気を再エネでつくれば、熱と運輸の排出も減らせます。需要が電気に移るため、送電網の容量の増強と一体で進める必要があります。

Ⅲ-5

超電導リニア

超電導磁石で車両を浮かせて走らせる高速鉄道。

国内では東海旅客鉄道 (JR東海) が中央新幹線として建設を進めています。走行に大きな電力を使うため、路線の整備と合わせて電力の供給計画が検討されています。

二酸化炭素の排出が少ない電気をつくる

温室効果ガスを減らす電源 / 9つの技術

発電と燃料の段階で、二酸化炭素の排出を減らすか、なくすための技術です。

Ⅳ-1

CCS (二酸化炭素の回収・貯留)

発電所や工場から出る二酸化炭素を分離・回収し、地中深くに閉じ込める技術。

火力発電や素材の生産など、排出を避けにくい分野の脱炭素化に使います。日本では2024年に、二酸化炭素の貯留事業を許可制にする法律が成立しました。

Ⅳ-2

アンモニア混焼

燃焼時に二酸化炭素を出さないアンモニアを、石炭火力などの燃料に混ぜて燃やす技術。

混ぜる割合を高め、最終的にはアンモニアだけを燃やす専焼を目指します。JERA は IHI と共同で、2024年に碧南火力発電所4号機で、燃料の熱量の20%をアンモニアに置き換える実証を行いました。燃やす段階では二酸化炭素を出しませんが、アンモニアをつくる段階の排出や、窒素酸化物の管理が課題になります。

Ⅳ-3

水素エネルギー

水の電気分解や化石燃料の改質などでつくり、発電・熱・燃料に使える二次エネルギー。

再エネの電気で水を分解してつくる水素を「グリーン水素」、化石燃料からつくり二酸化炭素を回収・貯留する水素を「ブルー水素」と呼びます。電気を水素に変えてためる方法は、季節をまたぐ貯蔵の候補になります。ただし、電気に戻せるのは2〜5割で、戻す設備によって違います。長期脱炭素電源オークションでは、水素を燃料とする発電所は「脱炭素火力」の区分で募集されます。一方、送電網から受電した電気でエネルギーをため、送電網へ戻す設備は、募集要綱では蓄電池・揚水発電以外の「長期エネルギー貯蔵システム」と定義され、揚水発電と同じ募集区分に入ります。

Ⅳ-5

核融合

軽い原子核どうしが融合するときに出るエネルギーを取り出す技術。

日本・欧州・米国などが共同で、フランスに国際熱核融合実験炉 (ITER) を建設しています。核融合による発電は、まだ実用化に向けた研究開発の段階です。

Ⅳ-7

高効率火力発電

石炭ガス化複合発電 (IGCC) やガスタービン複合発電 (GTCC) など、熱効率を高めた火力発電。

同じ燃料で多くの電気をつくれるため、排出を減らせます。出力を素早く変えられる火力は、再エネの変動を埋める調整力としても使われています。

Ⅳ-8

新型原子炉 (SMR など)

小型モジュール炉 (SMR) や高温ガス炉など、安全性と柔軟性を高めた次世代の原子炉。

工場で部品をつくって組み立てる小型の炉や、高い温度の熱を取り出して水素の製造などにも使える高温ガス炉が開発されています。

Ⅳ-9

燃料電池

水素と酸素の化学反応から、直接電気をつくる装置。

燃やさずに発電するため効率が高く、水素を燃料にすれば二酸化炭素を出しません (都市ガスから水素を取り出す家庭用の燃料電池は二酸化炭素を出します)。水素の形でためたエネルギーを電気に戻す手段の1つです。国際エネルギー機関によると、電気を水素に変え、燃料電池で再び電気に戻すときの往復効率は30〜50%です。

送電と配電を変える

送電網と配電網の高度化 / 6つの技術、うち★系統蓄電関連 1

地域をまたぐ送電、送電容量の拡大、配電網の制御など、送電網と配電網の物理的な制約を乗り越える技術です。

Ⅴ-1

HVDC (高電圧直流送電)

交流ではなく直流で、長い距離や海を越えて電気を送る技術。

直流は、定常状態ではケーブルの充電電流 (静電容量に流れる電流) が問題にならないため、長い海底ケーブルに向きます。周波数の違う送電網どうしをつなぐこともできます。国内では、東日本 (50ヘルツ) と西日本 (60ヘルツ) を結ぶ周波数変換設備の容量を、2028年12月に210万kW から300万kW へ増やす計画です。北海道と本州を結ぶ直流の連系設備も、2028年3月に90万kW から120万kW へ増やす計画です。

Ⅴ-2

ダイナミックレーティング (DLR)

送電線が流せる電流の上限を、外気温や風などの気象条件に合わせて動的に決める運用。

送電線に流せる電流の上限は、電線の温度とたるみで決まる熱の制約のほか、系統の安定度や電圧の制約でも決まります。熱で上限が決まる区間では、気温が低い日や風で電線が冷える場合に、固定値より多く流せます。設備を増やさずに送電容量を引き出す手段です。

Ⅴ-3★系統蓄電関連

アクティブ配電網

分散電源からの逆向きの電気の流れ (逆潮流) を前提に、電圧の調整や保護の設定を能動的に行う配電網。

これまでの配電網は、電気が変電所から需要家へ一方向に流れることを前提に設計されてきました。屋根置きの太陽光発電などが増えると、電気が逆向きに流れて電圧が上がり、保護装置の設定も合わなくなります。

系統用蓄電池との関係配電網につなぐ蓄電池は、充電と放電で電圧を適正に保つ手段の1つになります。送電網への接続の手続きと工事にかかる期間は、系統用蓄電池の事業で最初に確かめる項目です。

蓄電事業 体系解説で学ぶ送電網への接続つなぐまでに何が要り、どれだけかかるのか
Ⅴ-4

非接触給電

電磁誘導や磁界の共鳴で、ケーブルをつながずに電気を送る技術。

電気自動車の充電への応用が研究されており、道路に埋めた設備から走りながら充電する方式もあります。

Ⅴ-5

LVDC (低電圧直流配電)

交流に変えずに、直流のまま低い電圧で電気を配る方式。

太陽光発電と蓄電池は直流で電気を出し入れし、情報機器も直流で動くため、交流と直流の変換の回数を減らせば損失を抑えられます。データセンターなどで採用が検討されています。

Ⅴ-6

超電導ケーブル

特定の温度以下で電気抵抗がゼロになる超電導現象を使い、送電の損失を減らすケーブル。

直流では電気抵抗による損失がほぼなくなり、交流でも従来のケーブルより損失を小さくできます。ただし交流では超電導体の中で「交流損失」が生じます。また、ケーブルを液体窒素などで極低温に保つための冷却設備とその電力が要ります。

電気を支える基盤技術

停電に強い設備と維持管理 / 5つの技術、うち★系統蓄電関連 3

電力システムの安定性と安全性を保ち、設備を長く使い続けるための技術です。

Ⅵ-1

SF6 ガスの代替

遮断器などの絶縁に使われてきた六フッ化硫黄 (SF6) を、温室効果の小さいガスや真空の技術に置き換える取り組み。

SF6 は絶縁と電流の遮断に優れる一方、二酸化炭素の2万倍を超える温室効果を持つガスです。漏れを減らし、代わりのガスへ移す取り組みが進んでいます。

Ⅵ-2★系統蓄電関連

設備のアセットマネジメント

設備の導入から廃棄までにかかる費用 (ライフサイクルコスト) を抑え、設備から得る価値を最大にする管理手法。

点検・修繕・更新の時期を、故障の確率と費用で決めます。送配電会社では、高度成長期に整備した設備の更新計画に使われています。

系統用蓄電池との関係蓄電池は、充放電を繰り返すほど劣化し、使い方で傷み方が変わります。市場で稼ぐために深い充放電を繰り返すか、電池を長持ちさせるか。その両立を図ることが、蓄電事業の運用の中心になります。

蓄電事業 体系解説で学ぶ劣化電池はどう傷み、何が劣化を早めるのか
Ⅵ-3★系統蓄電関連

災害レジリエンス

災害などで送電網が損傷したときに被害を小さく抑え、早く復旧する能力。

ブラックアウト (全域停電) から送電網を復旧させるには、外部からの電気なしで起動できる電源 (ブラックスタート電源) が要ります。国の作業部会の資料に転載された電力会社の比較表では、揚水発電の定速機は発電運転のときにこの機能を持ち、可変速機と蓄電池は持たないとされています。

系統用蓄電池との関係蓄電池をブラックスタートに使うには、自ら電圧と周波数をつくるグリッドフォーミングの機能が要ります。

蓄電事業 体系解説で学ぶ変換装置 (PCS)出力と応答の速さは何で決まるのか
Ⅵ-4★系統蓄電関連

大規模停電の防止

周波数の低下が連鎖して発電所が次々に止まることや、電圧の崩壊を防ぐ技術と運用。

大きな発電所が止まると周波数が下がり、さらに別の発電所が止まる連鎖が起きることがあります。周波数が下がり始めてから数秒のうちに、出力を素早く増やす設備や、一部の需要を切り離す仕組み (負荷遮断) で連鎖を止めます。

系統用蓄電池との関係リチウムイオン電池の蓄電所は、応答時間が1秒未満とされます (国の検討会のとりまとめ)。需給調整市場の一次調整力では、指令を待たず周波数の変化を自ら検出して10秒以内に応じる必要があり、PCS と EMS の応答の速さが参加できる商品の範囲を決めます。

蓄電事業 体系解説で学ぶ応答の速さ指令にどれだけ速く応じられるのか
Ⅵ-5

廃炉 (福島第一原子力発電所)

放射性物質の閉じ込め、溶け落ちた燃料 (燃料デブリ) の取り出しと処理などを、数十年かけて進める作業。

東京電力ホールディングスが国の計画に沿って進めています。燃料デブリは、2024年に2号機で試験的に取り出されました。

電力市場の仕組み

制度設計とエネルギー経済学 / 5つの技術、うち★系統蓄電関連 4

電気の価値を、電力量 (kWh)・調整力 (ΔkW)・供給力 (kW)・環境価値に分けて取引する仕組みです。系統用蓄電池は、このうち電力量・調整力・供給力の3つの価値を組み合わせて収入を得ます。

Ⅶ-1★系統蓄電関連

需給調整市場

送配電会社が、周波数と需給のずれを直すための調整力 (ΔkW) を調達する市場。

応答の速さと継続できる時間で、一次調整力から三次調整力②まで5つの商品があります。調整力の対価は、出力を増減できる幅を確保して待機していることに対して支払われます。

系統用蓄電池との関係蓄電池は応答が速く、一次・二次調整力に参加しやすい設備です。ただし、一次・二次①と複合商品の上限価格は、2026年3月の前日取引化で19.51円から15円へ、同年9月1日の受け渡し分から10円 (ΔkW・30分あたり) へ下がりました。

蓄電事業 体系解説で学ぶ需給調整市場調整力の対価はどう変わったのか
Ⅶ-2

非化石価値取引市場

再エネなどの「二酸化炭素を出さない」という価値を、電気そのものと切り離して証書で取引する市場。

日本卸電力取引所が運営する市場で、小売電気事業者が、非化石電源の比率目標の達成などのために証書を購入します。

Ⅶ-3★系統蓄電関連

ダイナミックプライシング

需給の状況に応じて、時間帯ごとに電気の料金が変わる仕組み。

小売の料金を卸電力の価格に連動させ、需要家に安い時間へ使用を移してもらうことを狙います。日本卸電力取引所のスポット市場は、1日を30分ずつ48の時間帯に分けて価格を決めます。下限は1kWh あたり0.01円で、海外の一部の市場と違い、マイナスの価格はありません。

系統用蓄電池との関係系統用蓄電池は、価格の安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電する「裁定取引 (アービトラージ)」で収入を得ます。1日のうち価格の高い4時間と安い4時間の、それぞれの平均価格の差を2025年度で平均すると、システムプライスでは8.10円、エリア別では東京の7.25円から北海道の10.77円でした (1kWh あたり)。

蓄電事業 体系解説で学ぶ卸電力の裁定値差でいくら稼げるのか
Ⅶ-4★系統蓄電関連

容量市場

4年後に電気を供給できる能力 (kW) を取引し、発電や蓄電の設備に投資回収の見通しを与える市場。

電力広域的運営推進機関が毎年、4年後の1年分の供給力を入札で確保します。落札した設備は、約束した時間に供給できなければ受け取る額が減ります。20年の固定収入を与えるのは、別の制度である長期脱炭素電源オークションです。

系統用蓄電池との関係期待容量が1,000kW 以上で、1日1回以上、3時間以上連続して運転できる蓄電池は、安定電源として参加するのが基本です。条件を満たさない蓄電池は、ほかの設備と束ねて発動指令電源として参加する道があります。容量市場の収入は1年ごとの入札で決まるため、20年の固定収入を求める事業は長期脱炭素電源オークションに応札します。

蓄電事業 体系解説で学ぶ容量市場容量市場では何に対価が払われるのか
Ⅶ-5★系統蓄電関連

広域運用

エリアを越えて地域間連系線を使い、全国で需給を調整したり、費用の安い電源から順に動かしたりする運用。

電力広域的運営推進機関は、地域間連系線の管理と、需給がひっ迫したときのエリア間の融通の指示を担います。平時にエリアをまたいで調整力を融通し合う広域需給調整は、一般送配電事業者が共同のシステムで行います。連系線が混雑すると、市場の価格はエリアごとに分かれます。

系統用蓄電池との関係エリアごとに価格が分かれると、蓄電池が得る値差もエリアで変わります。九州や東北のように出力制御が多いエリアと、そうでないエリアでは、蓄電池の収益機会が違います。

蓄電事業 体系解説で学ぶエリア別の偏りどこに申込みが集まっているのか

一次資料

  1. 資源エネルギー庁 次世代電力系統ワーキンググループ 第12回 資料1-1 (再生可能エネルギーの出力制御の実績、2026年8月6日)
  2. 同 資料2 (系統用蓄電池の接続状況・早期連系追加対策、2026年8月6日)
  3. 資源エネルギー庁 特定卸供給事業の届出事業者の一覧 (2026年9月1日時点)
  4. 資源エネルギー庁 電力安定供給ワーキンググループ 第4回 資料6 (需給調整市場の上限価格、2026年7月14日)
  5. 日本卸電力取引所 スポット市場の取引結果 (年度別 CSV。4時間の値差は当サイトの集計)
  6. 電力広域的運営推進機関 容量市場 (メインオークションの説明資料と結果)
  7. 電力広域的運営推進機関 2026年度供給計画の取りまとめ (2026年3月、地域間連系線と周波数変換設備の増強計画)
  8. 電力広域的運営推進機関 長期脱炭素電源オークション 募集要綱 (応札年度2025年度、2025年9月3日)
  9. 資源エネルギー庁 長期脱炭素電源オークション 制度検討作業部会 資料3-3 (2025年5月28日、揚水発電のブラックスタート)
  10. 資源エネルギー庁 定置用蓄電システム普及拡大検討会 とりまとめ (2025年3月7日、蓄電の方式の応答時間)
  11. 東京電力パワーグリッド 広域需給調整への参加 (2020年)
  12. 国際エネルギー機関 再生可能エネルギーの季節・年ごとの変動への対応 (2023年4月、英語)
  13. 再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議 水素基本戦略 (2023年6月6日)
  14. 経済産業省 二酸化炭素の貯留事業に関する法律案の閣議決定 (2024年2月13日)
  15. IHI 碧南火力発電所4号機での燃料アンモニア20%転換の実証 (2024年)
  16. 東京電力ホールディングス 燃料デブリの取り出し
  17. ITER 機構 加盟国 (英語)
  18. 気候変動に関する政府間パネル 第6次評価報告書 第1作業部会 第7章 (地球温暖化係数、英語)

各技術の数字は、上の一次資料と、蓄電事業 体系解説の一次資料で確かめた値です。日本と海外で制度が違う点 (卸電力市場の下限価格、容量市場の期間など) は、日本の制度に沿って書いています。本ページは技術と制度の説明で、特定の事業や銘柄への投資を勧めるものではありません。

系統用蓄電池の事業を何から学べばよいかは、蓄電事業 体系解説の3つの学習経路にまとめています。

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