米アンソロピックが結んだ計算資源の契約のうち、使った量にかかわらず支払いが要る部分の9割は、グーグルとブロードコムのTPU、アマゾンのトレーニアム向けとみられる。スペースXからGPUを借りる契約は、90日前に通知すれば解約できる。

計算資源を使わなくても、アンソロピックは巨額の支払いを続けなければならない。ロイター通信が報じた同社の目論見書によると、同社は6社と計算資源の契約を結び、総額は10年で少なくとも5,180億ドルに上る。その約8割は、解約できないか、使った量にかかわらず支払いが要る契約だという (以下、まとめて「解約できない契約」と呼ぶ)。

契約の相手6社 (ブロードコム、グーグル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、スペースX、AMD) が米証券取引委員会 (SEC) に出した書類や発表を集め、金額と条件を1件ずつ照らし合わせた。契約を、使う半導体の種類で分けると、解約できない契約がどこに偏り、日本の部品・装置メーカーにどうつながるかが分かる。

アンソロピックの解約できない契約は、ブロードコム、グーグル、アマゾン、マイクロソフトの4社分で4,137億ドルとみられる

アンソロピックは2026年6月、目論見書の草案を非公開でSECに出し、上場を申請した。目論見書は今も公開されておらず、SECの電子開示システム「EDGAR」にも10月7日時点で載っていない。数字はロイターが9月28日から10月1日にかけて報じたものだ。

契約の相手金額期間解約の条件使う半導体 (推定)
ブロードコム関連 (機器のリース)1,612億ドルうちTPUのリース1,252億ドルは5年大半は解約できないTPU
グーグル (クラウド)1,111億ドル2026年4月〜2033年7月利用額が契約で決めた額に届かなければ差額を払う主にTPU
アマゾン (クラウド)1,100億ドル2026年5月〜2036年4月グーグルと同様の条件主にトレーニアム
マイクロソフト (クラウド)314億ドル2026年11月〜2033年5月マイクロソフト側が重大な契約違反を正さない限り、解約できないエヌビディアのGPU
スペースX (クラウド)最大845億ドル2029年まで大半は90日前の通知で解約できるエヌビディアのGPU
AMD200億ドル超の見込み報じられていない報じられていないAMDのGPU

出所: ロイターが報じたアンソロピックの目論見書 (2026年9〜10月)。使う半導体は、各社の発表と開示をもとにした本稿の推定。

4社との契約は1,612億ドル、1,111億ドル、1,100億ドル、314億ドルで、合計4,137億ドルになる。5,180億ドルの79.9%で、ロイターが伝えた「約80%」と一致する。残る1,043億ドルからスペースXとの845億ドルを引くと198億ドルで、AMDの「200億ドル超」とほぼ合う。総額は「少なくとも」5,180億ドルとされており、数億ドルの差はこれで説明がつく。ただ、ブロードコム関連は「大半」が解約できないとされ、4,137億ドルの全額が解約できないとは限らない。グーグルとアマゾンの契約は、利用額が契約で決めた額に届かなければ差額を払う取り決めで、使った量にかかわらず払う側に当たる。

金額が契約相手の開示や発表と合うのはアマゾンとマイクロソフトで、グーグルとの契約は同社クラウドの受注残高の2割

契約相手のうちアマゾンとブロードコムは、自社の開示書類でアンソロピックとの取引に触れている。アマゾン・ドット・コムの2026年4〜6月期の四半期報告書によると、子会社のAWSはアンソロピックとの既存の複数年契約を広げ、10年で1,000億ドル超を上乗せした。この中には、AWSが自社で開発した半導体の性能についての取り決めも入っている。金額と期間は、目論見書の10年で1,100億ドルと合う。

アマゾンは同じ四半期に、アンソロピックのシリーズGとシリーズHの優先株に50億ドルずつ、計100億ドルを出資した。アマゾンは最大200億ドルの融資枠も設けた。アンソロピックは計算資源の提供が節目に達するごとに、転換社債などと引き換えにこの枠から資金を受け取れる。シリーズHへの出資50億ドルはこの枠を使った形で、残りは150億ドルになった。

ブロードコムは2026年4月6日にSECに出した書類で、グーグル、アンソロピックとの協業を広げると開示した。アンソロピックは2027年から、ブロードコムを通じて約3.5ギガワット分の次世代TPUの計算資源を使う。TPU (テンソル・プロセッシング・ユニット) は、グーグルがブロードコムと共同で開発したAI向けの専用半導体で、ブロードコムが供給も担う。AI向けの専用半導体は特定用途向け集積回路 (ASIC) とも呼ばれ、クラウド大手が自社のデータセンター向けの設計を進めている。同じ書類には「使う量はアンソロピックの事業の成否に左右される」との記載もある。

アルファベットの開示にアンソロピックの名前はない。同社の2026年6月末の受注残高は全社で5,195億ドル、うちグーグルクラウドが5,139億ドルだった。受注残高 (会計上の残存履行義務) は、契約済みでまだ売上高に計上していない金額を指す。アンソロピックとの契約1,111億ドルは、このクラウドの受注残高の約21.6%になる。両者は時点が異なるため、比率は目安にとどまる。

マイクロソフトは2025年11月18日、アンソロピックがマイクロソフトのクラウド「Azure」の計算資源を300億ドル分購入すると約束し、追加で最大1ギガワット分を契約すると発表した。まずエヌビディアの最新世代のGPUを搭載したシステムで使う。300億ドルは、アンソロピックの目論見書にある314億ドルとほぼ同じ規模だ。目論見書によると、この契約はマイクロソフト側が重大な契約違反を正さない限り解約できない。

AMDは2026年7月22日、アンソロピックがAMDのGPU「Instinct MI450シリーズ」を最大2ギガワット分導入すると発表した。最初の1ギガワット分は2027年前半から使う。アンソロピックには最大50億ドルを出資する。契約金額は明らかにしておらず、「200億ドル超」はロイターが報じた目論見書の数字だ。解約の条件は報じられていない。

スペースXとの契約はエヌビディアのGPU約32万5,000個を借りるもので、両社とも90日前の通知で解約できる

解約できる契約で最も大きいのは、スペースXとの契約だ。スペースXは2026年2月にAI開発のxAIを統合し、6月12日に米ナスダック市場に上場した (ティッカーシンボルはSPCX)。スペースXが上場時に開示した目論見書によると、同社は2026年5月にアンソロピックとクラウドサービスの契約を結んだ。データセンター「Colossus」と「Colossus II」にあるエヌビディアのGPU約32万5,000個を貸し出す。料金は月12億5,000万ドルで、期間は2029年5月まで。最初の3か月を過ぎれば、両社とも90日前の通知で解約できる。

2029年5月までの37か月、月12億5,000万ドルを払い続けても総額は約463億ドルで、アンソロピックの目論見書にある最大845億ドルの半分強にとどまる。ロイターは「xAIとの複数の契約」と伝えており、差額には別の契約や拡大分が入っているとみられるが、スペースXの開示からは確かめられない。

スペースXの4〜6月期の四半期報告書では、AI部門の顧客で社名を伏せた「顧客B」が、全社の売上高78億1,400万ドルの19.5%を占めた。金額にすると約15億2,000万ドルになる。同じ期間に、AIインフラの売上高は前年同期より16億ドル増えた。スペースXの目論見書によると、契約が始まった5〜6月は料金を減額していた。満額なら2か月で25億ドルになり、顧客Bの約15億2,000万ドルは減額後の料金と矛盾しない。このため顧客Bはアンソロピックとみられる。

スペースXの6月末の受注残高は474億6,100万ドルだが、同社はサービスの提供に合わせて請求し売上高に計上する分を受注残高に含めていない。料金を月ごとに払い、90日前の通知で解約できるこの契約は、大半が受注残高に入っていないことになる。

年約414億ドルは10年の平均で、2027年からの5年間は年560億ドル前後になるとみられる

「10年間解約できず、平均で年約410億ドルを払う」との見方もある。4,137億ドルを10年で割ると年約414億ドルになるが、期間はTPUのリースの5年からアマゾンの10年まで契約ごとに違い、支払いは一部の年に集中するとみられる。各契約の金額を期間で均等に割ると、年あたりグーグルが約152億ドル、アマゾンが約110億ドル、マイクロソフトが約48億ドルになり、3社の合計は年約310億ドルだ。TPUのリース1,252億ドル (5年) が2027年に始まるとすれば、年約250億ドルが加わる。合わせると、2027〜2031年の5年間は年約560億ドルになる計算だ。

解約できない契約でアンソロピックが毎年払う額 (推定)
解約できない契約でアンソロピックが毎年払う額 (推定)

この試算は、どの契約も均等に払うと仮定した推定で、実際の支払いの予定は報じられていない。TPUのリース1,252億ドルはブロードコム関連の1,612億ドルに含まれるとみなし、内訳が報じられていない残り約360億ドルは試算から除いた。TPUのリースはサーバーの納入に合わせて順に始まるとみられ、その場合は支払いの一部が2032年以降にずれ込み、年あたりの額は試算より低くなる。スペースXとの契約を2029年5月まで続ければ、年150億ドル (月12億5,000万ドル) がさらに加わる。

この支払いを、アンソロピックの売上高や損益と比べる。目論見書によると、同社の2025年の売上高は約46億ドルで、前年の約12倍に増えた。計算資源と設備の費用は73億3,000万ドルで、営業費用126億5,000万ドルの半分を超えた。営業損失は80億ドルを超え、純損失は420億ドルに上った。このうち約340億ドルは、株式に転換できる条件で調達した資金の評価額が上がったことで計上した損失で、現金は流出しない。2025年末の現金と短期投資は202億8,000万ドルあった。

ブルームバーグなどの報道によると、2026年4〜6月期の売上高は115億ドルを超えた。4倍して年に換算すると460億ドル規模で、解約できない契約の支払いを10年で平均した年414億ドルとほぼ同じだが、本稿の試算の2027年以降の年約560億ドルには届かない。ロイターが報じた目論見書によると、2025年の売上高の4分の1近くを2社の顧客が占めた。大口顧客の多くは長期契約を結んでおらず、支出を減らしたりやめたりする可能性があるという。支払いは長期の契約で決まっている一方、売上高には長期の契約の裏付けが乏しい。この差を埋めるには、売上高の伸びに加え、アマゾンの融資枠や、次に述べるブロードコムの資金が要る。

ブロードコムはTPUを売り、リース料の支払いを保証し、資金も貸す

アンソロピックは計算資源の多くを自社で持たず、借りて使っている。ただ、借りる契約の裏には、巨額の設備を誰が持つかという取り決めがある。ブロードコムは2026年5〜7月期の四半期報告書で、顧客名を伏せてその仕組みを説明している。

ブロードコムは2026年6月、金融機関と組み、顧客が計算資源を調達するのを支える仕組み「AI XPV」を立ち上げた。第1弾は350億ドル規模で、金融機関が主導し、顧客1社に1ギガワットを超える計算資源を用意する。金融機関は、ブロードコムが手がける専用半導体を載せたAIサーバーを買い取り、顧客に5年間リースする。リース料の支払いはブロードコムが保証する。顧客が払えなくなった場合、ブロードコムは残りの支払額の85%からサーバーの売却額を差し引いた分を負担する。保証額は、サーバーをすべて設置した時点で最大約290億ドル (将来の支払いをそのまま足した額) になる。ブロードコムが保証で支払ったことはまだない。

さらに顧客は、リース料の支払いに充てる場合に限り、最大420億ドルの転換社債を発行してブロードコムに引き受けてもらえる。2026年8月2日時点では発行していない。ロイターによると、アンソロピックの目論見書にはブロードコムが最大420億ドルを貸すとの記載があり、TPUのリース1,252億ドルの約3分の1を賄える額だという。上限の額と5年のリースが一致することから、この顧客はアンソロピックとみられる。半導体の売り手が、買い手の支払いを保証し、資金まで貸す構図だ。ロイターによると、目論見書は利益相反のおそれにも触れている。売り手が買い手に購入資金を出す取引 (ベンダーファイナンス) は、エヌビディアも手がけている。

ブロードコムの受注残高は、半導体とソフトウエアの複数年契約のうち確定した分で約1,792億ドルあり、約25%を12か月以内に売上高に計上する見込みだ。これはブロードコムが製品を売る取引の金額で、アンソロピックが金融機関に払うリース料とは取引が別のため、単純には比べられない。

解約できない4,137億ドルの約9割は専用半導体向けとみられ、エヌビディアのGPU向けは1割に満たない

各社の発表と開示をもとに推定すると、解約できない4,137億ドルのうち、ブロードコム関連 (内訳の分からない約360億ドルを含む) とグーグルの契約は2,723億ドルで65.8%、主にトレーニアムとみられるアマゾンの契約は1,100億ドルで26.6%を占める。グーグルとの契約の半導体ごとの内訳は開示されていないが、グーグルは2025年10月23日、アンソロピックが最大100万個のTPUを使う計画だと発表している。内訳の分からない約360億ドルもTPU向けとみなすと、TPUとトレーニアムを使う契約は合わせて92.4%になる。エヌビディアのGPUを使うマイクロソフトとの契約は314億ドルで7.6%にとどまる。

アンソロピックの計算資源の契約を、解約の条件と半導体の種類で分けた内訳 (推定)
アンソロピックの計算資源の契約を、解約の条件と半導体の種類で分けた内訳 (推定)

一方、解約できない契約に入らない約1,043億ドルは、ほぼ全額がスペースX (エヌビディアのGPU、845億ドル) とAMD (AMDのGPU、200億ドル超) の分になる計算だ。アンソロピックが計算資源を減らすとき、解約して支払いを止められるのは主にスペースXのGPUで、TPUとトレーニアムは使う量を減らしても支払いが残る。

TPUの需要については、グーグルのTPUがASICの増加分の7割を占めるという予測と、東京エレクトロンの見方を別稿で扱った。専用半導体の仕組みは半導体の体系解説にまとめている。

イビデンは売上高の3割がエヌビディア向け、アドバンテストは専用半導体向けの検査装置の需要がGPU向けを上回る可能性を指摘

本稿が調べた日本の上場企業18社の有価証券報告書に、アンソロピックの名前は出てこない。ただ、イビデンとアドバンテストは専用半導体の見通しを開示しており、解約できない契約が専用半導体に偏る点と重なる。

会社開示の数字専用半導体についての説明
イビデン (4062)エヌビディア向けの売上高1,224億7,000万円、売上高全体の29.4% (前期20.3%)専用半導体やネットワーク向けは「現世代からの参入は難しい」。次世代以降は参入の余地が十分ある
アドバンテスト (6857)売上高1兆1,286億円のうちエヌビディア向け20.2%、TSMC向け11.1%将来は専用半導体向けの検査装置の需要が、GPU向けと同じ程度か、それを大きく上回る規模になる可能性がある

出所: 両社の2026年3月期有価証券報告書、イビデンの決算説明会 (2025年10月31日) とアドバンテストの決算説明会 (2026年7月29日) の質疑応答

イビデンは、AIサーバー向けの半導体パッケージ基板で自社のシェアを「70〜80%程度」とみている。2026年3月期の有価証券報告書によると、エヌビディア向けの売上高は1,224億7,000万円で、全体に占める割合は29.4%に高まった。前期はインテル向け (20.8%) がエヌビディア向け (750億7,700万円、20.3%) をわずかに上回っていた。当期はエヌビディア向けがインテル向けの18.1%を抜き、エヌビディアが最大の顧客になった。

専用半導体向けの基板については、2025年10月31日の説明会で見通しを示した。電子事業の売上高に占める専用半導体向けの比率は、2026年1〜3月期に10%弱、2026年度 (2027年3月期) に10%超になるという。専用半導体向けのうち2025年度に取り込めたのは、ネットワーク機器向けが中心だった。最先端の基板の戦略を問われると、最先端の専用半導体やネットワーク向けの基板は「現世代からの参入は難しい」とし、次世代以降は参入の余地が十分あると答えた。

アンソロピックの解約できない契約は、2027年から使う約3.5ギガワット分の次世代TPUが柱になるとみられる。イビデンはTPUの基板を手がけているかを明らかにしていない。この需要を取り込めるかは、次世代の専用半導体向け基板で採用されるかにかかる (イビデンの銘柄ページ)。

アドバンテストは半導体検査装置 (テスター) の大手で、主力の「V93000」はGPUにも専用半導体にも使われる。2026年3月期の売上高1兆1,286億円のうち、エヌビディア向けが20.2%、TSMC向けが11.1%を占めた。2026年7月29日の説明会では、足元はGPU向けの市場が最大だとしたうえで、「将来的にはカスタムASIC向けテスタ需要がGPUと同等、あるいはそれを大きく上回る規模に成長する可能性がある」と述べた。同社は、GPU、CPU、専用半導体のどれがどれだけ需要の伸びに寄与しているかは切り分けにくいと説明し、「成長の源泉がどこであるかは大きな問題ではない」とも述べた。半導体の種類を問わず、検査の工程は欠かせない。TPUの検査にどの会社の装置が使われているかは公表されていない (アドバンテストの銘柄ページ)。

アンソロピックの契約5,180億ドルのうち、解約できない4,137億ドルについては、9割をブロードコム、グーグル、アマゾンの3社との専用半導体を使う契約が占めるとみられる。エヌビディアのGPUの契約は、大半が90日前の通知で解約できるスペースXとの契約にある。アンソロピックが長期の支払いを決めた計算資源は、エヌビディアの供給網よりも、TPUとトレーニアムの供給網に多くを頼っているとみられる。

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