ソフトバンクグループの保有報告を原本から数え直すと、「TSMC売却で2.7億ドルを現金化」は読み違いで、それは売り残した株の評価額だった。主役は株数が動かないまま評価額が3.2倍になったインテルである。

ソフトバンクグループが2026年8月14日、6月末時点の米国上場株の保有報告(13F)を米国証券取引委員会へ提出した。TSMCの持分を71.5%減らしたという要約が広く流通しているが、金額の性質に読み違いがある。本稿は報告の原本を株数から検算し、あわせて同社の資金の向かう先であるOpenAIの売上の急伸を検証する。円換算は2026年8月7日の為替(1ドル=157.54円、セントルイス連邦準備銀行の公表値)による概算である。売買の推奨や評価は示さない。

13F(Form 13F)とは

米国の機関投資家が、四半期ごとにSEC(米国証券取引委員会)へ提出を義務付けられている「保有株式報告書」です。正式名称は「Form 13F - Information Required of Institutional Investment Managers Pursuant to Section 13(f)」で、証券取引法(Securities Exchange Act of 1934)のSection 13(f)に基づくため「13F」と呼ばれます。

提出義務がある投資家

投資裁量権を持つ資産が1億ドル以上の機関投資家。
対象は主にヘッジファンド、投資顧問会社、銀行、保険会社、年金基金など。

報告内容
四半期末時点で保有している米国上場株式などの詳細を開示します。主な項目は以下の通りです。

  • 銘柄名
  • CUSIP番号
  • 保有株数
  • 市場価値
  • 議決権の保有状況

基本的にロングポジションが対象で、ショートポジションは原則として含まれません。

直接的な影響はほぼ「ADR銘柄」に限られる
Form 13Fは、原則として米国で取引される証券だけを対象とします。

  • 東証にしか上場していない純粋な日本株 → 報告対象外
  • 米国でADR(米国預託証券)として上場している日本企業の株式 → 報告対象

そのため、13Fで見える日本関連の動きは、主に以下の銘柄に集中します。

  • トヨタ(TM) 7203
  • ソニーグループ(SONY) 6758
  • ホンダ(HMC) 7267
  • ソフトバンクグループ(SFTBY) 9984
  • 三菱UFJ(MUFG) 8306
  • みずほFG(MFG) 8411
  • 三井住友FG(SMFG) 8316
  • 野村HD(NMR) 8604
  • 武田薬品(TAK) 4502
  • 任天堂(NTDOY) 7974

など

実際に、過去の13Fでは海外ヘッジファンドがソニーやレーザーテック、メガバンクなどの持ち高を減らした例が報じられています。この動きはADR価格に影響し、裁定取引を通じて本家の日本株にも一定の影響を与えることがあります。

「2.7億ドルを現金化」は様式の読み違いである

原本の数字はこうなっている。TSMCの米国預託証券は3月末の198万5,000株から6月末の56万5,000株へ減り、142万株の売却で減少率は71.5%になる。ここまでは流通した要約のとおりである。

読み違いは金額にある。2億6,983万ドル(約425億円)という数字は、売却で得た現金ではなく、6月末に残っている56万5,000株の評価額である。13Fという様式は四半期末の残高だけを載せ、売却の代金も時期も記載しない。売った142万株の代金は、期中の株価(3月末337.9ドル、6月末477.6ドル)から逆算すると4億8,000万から6億8,000万ドルの幅にあり、いずれにせよ2.7億ドルではない。残した株の値札を、手にした現金として伝えた要約が独り歩きしている。

新規の持分も原本で数え直せる。キャピタル・ワンは2つの口座に分かれて記載され、合算で27万6,811株・5,553万ドル。Life360は1万178株・48万8,544ドルで、報道された「約1万700株」より少ない。TSMC売却の規模に対し、新規2件は合わせて約56億円相当にとどまる。

主役は、株数不変で評価3.2倍になったインテルである

ソフトバンクグループの13Fの中身の比較
ソフトバンクグループの13Fの中身の比較

流通した要約が触れていない数字が、報告の中で最も大きい。インテルの保有は8,695万6,522株で3月末から1株も動いていないのに、評価額は38億3,700万ドルから121億4,200万ドル(約1兆9,100億円)へ3.2倍になった。この株数を2025年8月の出資額約20億ドルで割ると1株23.00ドルになり、取得時の公表条件と一致する。1年足らずで評価が6倍になった計算で、13Fの合計181億7,000万ドルのうち67%がこの1銘柄に集中している。

もう1つの見落としが、ビットコイン財務会社Twenty One Capitalの消滅である。3月末に5億7,000万ドルあった持分が6月末の報告から消えており、全売却にあたる。TSMCの削減が見出しになる一方で、それより大きい持分の整理は報じられないまま通り過ぎた。13Fの合計は114億1,000万ドルから181億7,000万ドル(約2兆9,000億円)へ増えたが、増加の大半は売買ではなくインテルの評価益である。

エヌビディア全売却からの一本道

今回の削減は、時系列に置くと一貫した経路の途中にある。2025年3月末、同社はエヌビディアを約30億ドルまで積み増し、TSMC約3億3,000万ドルとオラクル約1億7,000万ドルの持分を新設した。AI計算基盤への集中と受け止められたが、同年10月にエヌビディア3,210万株を全売却して約58億ドル(約9,100億円)を得た。売却は同社への見方と無関係で、OpenAIなどへの投資原資に充てると説明されている。

つまり読み筋は「半導体への弱気」ではない。上場しているAI半導体株という換金しやすい資産を現金に替え、非上場のAI基盤へ移す資金繰りの経路であり、TSMCの71.5%削減はその続きにあたる。ロボットや自動運転を含む「physical AI」への投下も同じ財布から出る。AI投資の資金調達の全体構造は別稿で扱ったとおり、投資の主体が上場株から回りにくい資産へ移るほど、13Fに映る範囲は狭くなる。

ここに13Fという様式の限界がある。載るのは米国上場株だけで、提出は四半期末から45日遅れ。OpenAIの持分も、英アームの支配持分も、Vision Fundの非上場投資も載らない。13Fでソフトバンクグループの全体を測ることはできず、映っているのは氷山の一角である。

OpenAIの年換算売上は6.3兆円、観測される値札はその25倍

OpenAIの売上加速と価格弾力性の実測
OpenAIの売上加速と価格弾力性の実測

資金の向かう先の数字も動いた。OpenAIの年換算売上は400億ドル(約6兆3,000億円)を超え、2025年末のほぼ2倍になった。ブロックマン社長によれば7月だけで2割超伸びている。3月時点では月20億ドル・年換算240億ドル、週間利用者9億人超、有料契約5,000万超、売上の4割超が企業向けだったから、3月から少なくとも67%伸びた計算になる。押し上げているのはコーディング製品、有料購読、立ち上がり中の広告事業で、CodexやChatGPT Workといったエージェントの需要も急増していると報じられている。

観測される上場の値札は1兆ドル(約158兆円)で、年換算売上の25倍にあたる。3月時点の評価額は8,520億ドルだった。一方で2030年までの計算資源への投下は約6,000億ドル(約95兆円)が伝えられており、売上の伸びが投下の重さを追い越せるかが上場の中心の問いになる。予測市場は年内の上場実現に17%、年末までの評価1兆ドル到達に65%、1兆5,000億ドルに約30%の確率を付けている。

値下げが売上を増やすという実測が出た

売上の急伸は、価格の急落と同時に起きている。米国の主要モデルの利用価格の指数は7月中旬から約4分の1下がった。背景には中国勢DeepSeekMoonshotとの競争があり、DoorDashやAirbnbが費用を抑えるために中国製モデルの利用を始めたと報じられている。OpenAIはGPT-5.6 Lunaを80%、Terraを20%値下げし、最上位のSolは据え置いた。アンソロピックも9月に予定していたSonnet 5の値上げを撤回し、Opus 5を最上位Fable 5の半額で投入している。

値下げが売上を減らすとは限らないことを示す実測が、早くも出ている。TD CowenがOpenRouterの経路データを集計したところ、7月30日の値下げ後の7日間でLunaの使用量は約14倍、Terraは約5倍に跳ね、収入はそれぞれ34%と45%増えた。価格を8割下げても使用量が14倍になれば売上は増える。需要の価格弾力性が1を大きく超えているという意味で、値下げは失点ではなく攻め手になっている。供給側の原価も動いており、OpenAIは推論の仕組みの改善でGPT-5.6の提供費用を2割下げ、トークン生成の効率を15%超上げたと説明する。OpenRouterは流通経路の一部にすぎず全体を代表しない点は割り引く必要があるが、方向は明確である。

9984の有価証券報告書は、13Fより2桁大きい本体を示す

日本側の一次資料で全体の規模を測り直す。ソフトバンクグループ(9984)の有価証券報告書によれば、2026年3月期の売上は7兆7,987億円、純利益は5兆23億円に達した。FY2022の純損失1兆7,080億円から4年で6兆7,000億円ぶん振れており、この振れ幅こそが投資会社としての同社の性格を示す。研究開発費は9,755億円で収録524社の3位にあたり、その主体は傘下の英アームである。外国法人等の持株比率は30.0%、有報記載の株主総利回りは1.55倍にとどまる。

この物差しで見ると、13Fの位置づけが定まる。米国上場株の合計約2兆9,000億円は純利益5兆円より小さく、TSMCに残した425億円は純利益の1%に満たない。見出しの大きさと金額の大きさが逆転しており、13Fの売買を追うだけでは、この会社の重心であるOpenAIとアームの動きは何も見えない。

確かめられる点

検証は開示の日付で追える。第1に、次の13F(11月中旬提出)でインテル67%の集中とTSMCの残り56万5,000株がどう扱われるか。第2に、ソフトバンクグループの2027年3月期中間決算(例年11月)にインテルの評価益がどう反映されるか。第3に、OpenAIが上場の登録書類を出せば、報道値でしかなかった売上の内訳が初めて監査付きの数字で確かめられる。第4に、同社の持分の評価が公開市場の値札に変わることで、9984の純資産の議論が動く。

裏返しの危険も原本から読める。13Fの67%が1銘柄に集中している以上、インテルの株価が下がれば、次の四半期の報告は同じ株数のまま大きく縮む。評価益は売却するまで現金ではなく、この報告に載る数字は3か月ごとに書き換わる値札である。