米証券取引委員会 (SEC) は9月17日、自動マーケットメーカーでトークン化株を売買する取引施設の登録義務を5年間免除した。24日には米商品先物取引委員会 (CFTC) と米連邦準備理事会 (FRB) も、担保や準備資産に使う条件を示した。
トークン化は、株式や国債などの権利をブロックチェーン上のデジタルデータ (トークン) で表すことを指す。トークン化資産が金融の現場で使われるには、いくつかの関門がある。先物取次業者が顧客資金の運用先として認め、清算機関や取引相手が担保として受け入れる。銀行の自己資本規制でも、従来の証券と同じに扱われる必要がある。米当局は2025年12月以降、顧客資金の運用や担保、取引施設、銀行の自己資本規制、記録保存について順に扱いを示してきた。本誌はSECの命令、CFTCのFAQとスタッフレター、FRBの規則案、銀行監督3当局の共同FAQの原文に当たり、条件と数字を確かめた。
上院で法案が足踏み、SECはトークン化株の取引所登録を5年免除
米上院は9月15日、暗号資産 (仮想通貨) の市場構造を定める「クラリティー法案」の討論終結動議を賛成49、反対50で否決した。可決には60票が必要だった。法整備が遅れるなか、当局は既存の権限で対応を進めている。
SECが「イノベーション免除」と呼ぶ9月17日の命令 (34-106402) は、後述するCFTCのFAQなど担当部局の見解とは異なり、委員会としての決定だ。「トークン化証券取引施設 (TSV)」という区分を新たに設け、取引所の定義から外した。TSVは、自動マーケットメーカー (AMM) の流動性プールを提供し、取引に参加できる者の基準を定める事業者を指す。AMMは、プールに預けられた資産の比率で価格が決まる仕組みで、ブロックチェーン上で自動的に実行されるプログラム (スマートコントラクト) で動く。売り注文と買い注文を突き合わせる従来の取引所とは、約定の仕組みが異なる。
TSVで取引できるのは許可を受けた参加者だけだ。トークン化株と組み合わせて売買できるのは、別のトークン化株、証券に当たらない暗号資産、トークン化したマネー・マーケット・ファンド (MMF) だ。命令は例として、2025年7月に成立したステーブルコイン規制法 (GENIUS法) で認可を受けた発行体の決済用ステーブルコインを挙げた。組み合わせる暗号資産の種類に制限はない。ステーブルコインは、ドルなどの法定通貨と価値を連動させる暗号資産をいう。流動性供給業者 (流動性を供給する業者) も、自己勘定に限って取引し、顧客の資産を預からないことなどを条件に、ディーラーの定義から外した。
技術面の条件は次のとおりだ。スマートコントラクトはコードを公開し、第三者が監査できるようにする。そのうえで、誰でも参加できるパブリック型 (パーミッションレス型) のブロックチェーン上で稼働させる。参加者を限ったプールを設けることは認めた。その方法として、許可したアドレスだけが取引できる仕組みをプールに設ける方式と、トークン自体で移転先を制限する方式を例示した。
投資家保護の条件も付けた。TSVは、トークン化株の保有者が原株の株主と同じ権利を得られることを確かめなければならない。TSVでの新規発行や、参加者への株式購入資金の貸し付けは禁じた。上場先の取引所で原株の売買が止まれば、TSVも同時に取引を止める。発行会社と関係のない第三者がトークン化した株を扱う場合、TSVは発行会社に書面で通知し、発行会社が受け取ってから30日たつまで取引を始められない。発行会社がその間に異議を申し立てれば、その銘柄は扱えない。直近30日分の取引データは米ドル建てで無料公開し、約定から10分以内に更新する。
規模には上限を設けた。S&P500やラッセル1000の構成銘柄などからなる第1区分は、系列のTSVと合わせて75銘柄までしか扱えない。TSVでの売買高は、原株の前月の1日平均売買高の0.25%までとした。それ以外の第2区分は250銘柄まで、売買高は2.5%まで。売買高の上限を2回目以降に超えると、その銘柄の取引を3か月止める。期間は2031年9月17日までの5年間とした。
TSVは取引所にも代替取引システム (ATS) にも当たらない。このため、取引所などに適用される全米市場システム規則 (レギュレーションNMS) の規定は及ばない。例えば、他市場のより有利な気配値を無視した約定を禁じる注文保護規則 (規則611) は適用されない。SECはこの規則の廃止を6月に提案している。ポール・アトキンス委員長は声明で、今回の暫定的な措置の後に恒久的な規則整備が続かなければならないとの考えを示した。
CFTC、トークン化国債での顧客資金の運用とブロックチェーンでの記録保存を容認
CFTCの3部局 (市場参加者部、市場監督部、清算・リスク部) は9月24日、暗号資産とブロックチェーンに関するFAQを更新した。4項目を追加し、1項目を改訂した。トークン化した国債やMMFは、いずれも条件付きで使えるとしたが、条件は用途ごとに異なる。
追加した項目の1つは、先物取次業者 (FCM) と清算機関 (DCO) が、顧客から預かった資金をトークン化資産で運用できるかどうかだ。3部局は、次の4点を満たすことを示せば運用できるとした。第1に、裏付けとなる資産が規則1.25で認められた投資対象であること。第2に、トークン化しても同じか機能的に同等の法的・経済的権利を持つこと。第3に、流動性の要件や集中投資の上限、残存期間など規則1.25の条件を守ること。第4に、規則が定める預託先で保管することだ。規則1.25が認める投資対象は米国債や政府機関債、一部の政府債MMFなどで、条件付きで日本国債も含む。
残る3項目は記録保存に関するものだ。CFTCの記録保存の規則 (規則1.31と、スワップデータの記録に関する規則45.2) は、特定の技術を前提としない。このため3部局は、要件をすべて満たせば、ブロックチェーン上の記録で保存義務を果たしても問題にしないとした。ブロックチェーンの外に控えがないことだけを理由に問題とすることもない。ただし、電子記録の真正性と信頼性を保つ仕組みを整える義務は残る。パブリック型のブロックチェーンを使う場合は、障害への備えも求めた。ネットワークや、取引履歴を閲覧するブロックエクスプローラーが止まっても、記録を保存して当局に提出できる体制が要る。
改訂した項目は、スワップディーラーが清算機関を通さないスワップ取引の証拠金に何を使えるかを扱う。決済用ステーブルコインを含む暗号資産は適格担保に当たらないとした。一方、適格担保をトークン化したものは、規制上の要件を満たし、権利が同じか機能的に同等なら使える。例えばトークン化したMMFを当初証拠金や変動証拠金に充てることを認めた。
CFTCの担当部局は2025年末から、こうした扱いに向けた見解を順次出していた。2025年12月のスタッフレター (25-39) はトークン化担保の指針だ。ヘアカット (担保の評価額から差し引く割合) は、裏付け資産にすでに使っているのと同じ、リスクに応じた算定方法を使ってよいとした。決済にかかる時間の差などに応じた調整は必要になる。2026年2月のスタッフレター (26-05) は、ノーアクションレター (当局が法執行を求めないと示す文書) だ。前年12月のスタッフレター (25-40) の決済用ステーブルコインの定義を一部改めて出し直した。FCMが顧客から受け入れた決済用ステーブルコインなどの暗号資産の価値を、証拠金不足の判定などに算入しても、市場参加者部は委員会に執行措置を勧めないとする内容だ。受け入れを始めてから3か月は決済用ステーブルコイン、ビットコイン、イーサリアムに限る。海外の先物取引を扱う顧客口座では、国内外の清算機関で担保として使われていない暗号資産にヘアカットを20%以上かける。決済用ステーブルコインは、FCMが自社の方針で割合を定める。FAQもスタッフレターも担当部局の見解で、委員会の規則ではない。FAQには法的拘束力がなく、執行を見送る約束でもないと明記している。
FRBが規則案、ステーブルコインの準備資産にトークン化国債を容認
FRBは9月24日、GENIUS法の施行に向けた規則案を2本公表した。GENIUS法は2027年1月18日か、最終規則の公表から120日後のいずれか早い日に施行される。1本目 (R-1899) は、FRBが監督する決済用ステーブルコインの発行体について、準備資産、自己資本、リスク管理の要件を定める。2本目 (R-1900) は、FRBに加盟する州法銀行が子会社を通じてステーブルコインを発行する際の承認申請の手続きを定める。申請書類が実質的にそろった日から120日以内にFRBが判断を示さなければ、承認したものとみなす。連邦官報への掲載から60日間、意見を募る。
準備資産の時価の合計は、常に発行残高の額面以上でなければならない。認める資産は、現金と連邦準備銀行への預け金、預金、残存期間93日以内の米国債、翌日物のレポとリバースレポだ。これらだけで運用するMMFと、FRBが認める同等の政府発行資産も含む。そのうえで、レポとリバースレポを除く資産は、トークン化した形での保有も認める案だ。条件は、トークン化していない同じ資産と法的に同一の権利を持つことと、関係する法令をすべて守ることだ。FRBは、条件を満たすトークン化資産の一覧の公表も検討している。発行体は償還の請求に原則2営業日以内に応じる。
事務ミスやシステム障害などによる損失 (オペレーショナルリスク) に備える自己資本は、発行残高に応じた額と、準備資産以外から得る収益に応じた額を足して求める。発行残高に応じた額は、200億ドル以下の部分に2%、200億ドル超500億ドル以下の部分に1.5%、500億ドル超の部分に1%をかける。収益に応じた額は、この収益の3年間の年平均の25%だ。こうして求めた基準額に、過去の損失の実績に応じた係数をかけて増減させる。
FRBなど3当局、銀行の自己資本規制でブロックチェーンの種類を問わず
これに先立ち、FRBと米通貨監督庁 (OCC)、米連邦預金保険公社 (FDIC) は3月5日、連名でFAQを公表した。銀行の自己資本規制は特定の技術を前提としないとした。トークン化していない同じ証券と法的に同一の権利を持つ適格なトークン化証券は、自己資本規制上も同じに扱う。トークン化証券を原資産とするデリバティブも同じだ。
担保としての扱いも示した。自己資本規制の「金融担保」の定義に当てはまり、対抗要件を備えた第1順位の担保権があるなどの要件を満たせば、信用リスク削減手法として認める。ヘアカットもトークン化していない証券と同じだ。さらに、参加者を限る許可型 (パーミッションド型) のブロックチェーンか、パブリック型かで扱いを変えないと明記した。FRBの9月の規則案は、準備資産の扱いがこのFAQと整合すると脚注で記している。
国際的な基準はまだ固まっていない。バーゼル銀行監督委員会は、銀行の暗号資産の保有に関する資本基準を2026年1月から適用する予定だった。だが2025年11月に基準の見直しを急ぐことで合意し、2026年5月には年内に改めて方針を示すとした。
パブリック型ブロックチェーンの扱い、当局で異なる
4つの措置は、法的な位置づけも、確定済みか案の段階かも異なる。
| 分野 | 措置 | 法的な位置づけ |
|---|---|---|
| トークン化株の取引施設 | SECが9月17日、特定の取引施設と一部の流動性供給業者に登録を免除 | 委員会の時限・条件付きの免除 |
| 担保と顧客資金 | CFTCのスタッフレター (25-39、26-05) と9月24日のFAQ更新 | 担当部局の指針・見解と条件付きのノーアクションレター |
| ステーブルコインの準備資産 | FRBが9月24日、準備資産・自己資本・申請手続きの規則案 | 意見募集中の規則案 |
| 銀行の自己資本と担保 | FRB・OCC・FDICが3月5日、トークン化証券の扱いを明確化 | 現行規制の解釈を示す共同FAQ |
いずれも、トークン化していない資産と同じ法的権利を条件にしている。SECは原株と同じ権利を、FRBの規則案と3当局のFAQは「同一」の権利を求め、CFTCだけが「機能的に同等」まで認める。権利が変わらなければ、記録の手段がブロックチェーンに移っても従来どおり扱う、という考え方だ。
違いが出たのは、パブリック型のブロックチェーンの扱いだ。SECはスマートコントラクトをパブリック型で稼働させることを条件にし、参加者は許可制とした。CFTCはパブリック型を記録保存に使うことを認めつつ、ネットワークの障害時でも記録を提出できる体制を求めた。銀行の自己資本のFAQは、許可型かパブリック型かで区別しない。同じパブリック型でも、取引施設に使うのか、記録保存に使うのか、ブロックチェーン上の資産を担保として持つのかで、事業者が整えるべき体制が変わる。
使い道が増えれば、トークン化資産を選ぶときに確かめる点も増える。国債に投資するトークン化ファンドを運用目的で保有するだけなら、利回りや手数料、手続きの手間で他の商品と比べれば足りる。同じ資産がFCMの顧客資金の運用先や店頭デリバティブの証拠金、ステーブルコインの準備資産、銀行取引の担保にも使えるとする。その場合は、どの取引先が担保として受け入れるか、どの業務に使えるかも確かめる必要がある。緊急時にどれだけ早く換金や移転ができるかも比べる材料になる。
今後は、FCMや銀行がトークン化資産を実際に受け入れるか、免除の条件の下でTSVが開業するかが焦点になる。
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