規制対象レアアースの対日輸出は2026年1〜6月に前年同期比で半減し、磁石は6月まで4か月連続で月200トンを割った。だが危機の震源は採掘シェア約7割の側ではない。精製シェア約9割の側である。この差の意味が分かると、関連銘柄の並びは一変して見える。

レアアース関連株への注目が再び強まっている。引き金は2026年8月8日に日本経済新聞が報じた実数だ。中国が輸出規制の対象とするレアアースの1〜6月の日本向け輸出量は前年同期比で5割減り、米国向けの1割減と比べても、日本への締め付けの強さが際立った(報道)。「脱中国依存」はいよいよ待ったなしの局面に入り、市場では東洋エンジニアリングが決算発表を受けて買われるなど、関連銘柄への物色が続く。本稿は、この主題を投資の土台から組み立て直す。対象の銘柄一覧30社を役割別に全部リスト化したうえで、最も報じられていない急所、すなわち「精錬」の工程を深掘りする。

先に、本稿の言葉を「とは」の形で定義する。ここを曖昧にしたままのレアアース記事が多いからだ。

用語とは何か
レアアースとはネオジムやジスプロシウムなど17種類の元素の総称(日本語では希土類)。強力磁石・研磨剤・触媒などに微量で効く「産業のビタミン」。埋蔵は世界に広く分布し、実は地殻中でそれほど希少ではない
軽希土・重希土とは17元素のうち軽い側(ネオジム等)と重い側(ジスプロシウム・テルビウム等)の区分。重希土ほど産地と精製が中国・ミャンマーに偏り、高温でも磁力を保つ磁石に不可欠
精錬(分離・精製)とは掘り出した鉱石や泥から17元素を1つずつ分けて高純度にする工程。鉄や銅の「製錬」と違い、レアアースでは化学的に瓜二つの元素を溶媒抽出で数百段かけて分離する。対象の議論で「精錬」と呼ばれているのはこの分離・精製である
都市鉱山とは使用済みの電子機器やモーターを「鉱山」に見立て、そこから金属を回収する再資源化事業。掘らずに精製工程へ原料を供給できる
レアアース泥とは深海底に積もったレアアース高濃度の泥。日本は南鳥島沖の排他的経済水域(EEZ)に大量の泥を確認しており、水深約6,000メートルからの回収が課題

対日5割減の中身 ― 磁石は月128トンまで細った

数字を分解する。中国は2025年4月、ジスプロシウム・テルビウムを含む7種類のレアアースとその磁石を輸出許可制に切り替えた。以降、日本向けの流れは目に見えて細り、レアアース磁石の対日輸出は2026年6月時点で月128トン、3月から4か月連続で200トンを下回る低水準が続く。1〜6月の規制対象レアアースの対日輸出量は前年同期比5割減。米国向けは1割強の減少にとどまり、貿易交渉の材料として温存された米国と、締め付けの対象となった日本という非対称が数字に表れた。

この規制の設計は巧妙で、全面禁輸ではなく「許可制」である点に本質がある。止めるのではなく、いつでも止められる状態を維持する。買い手の側は在庫を積み、代替を探し、価格の予見可能性を失う。2010年の尖閣諸島沖の衝突事件を機にした対日禁輸で日本が経験した構図の、より制度化された再演である。当時と違うのは、規制の対象が原料から磁石という加工品にまで広がり、日本の自動車・電機の生産計画に直接触れるようになったことだ。

支配の正体 ― 採掘7割より、分離・精製9割が効く

「中国がレアアースを支配している」という文章は、分解しないと投資判断に使えない。各種調査で中国の採掘シェアはおよそ7割。これは大きいが、豪州・米国・ミャンマーなどにも鉱山はあり、代替の余地がある。効いているのはその次の工程だ。掘った鉱石を17元素に分けて高純度化する分離・精製のシェアは約9割。世界のどこで掘っても、最後は中国の精製工場を通らないと使える素材にならない。これが支配の実像である。

レアアース供給網の狭窄点 ― 採掘7割ではなく精製9割が急所
レアアース供給網の狭窄点 ― 採掘7割ではなく精製9割が急所

なぜ精製がここまで偏ったのか。技術の中身から説明できる。レアアース17元素は化学的性質が瓜二つで、混ざった溶液から1元素ずつ取り出すには、溶媒抽出という操作を「ミキサーセトラー」と呼ばれる装置で数百段、直列に繰り返す必要がある。1段ごとの分離はごくわずかで、純度99.9%級に届くまで液を延々と往復させる。装置は巨大で、酸と有機溶媒を大量に使い、放射性元素のトリウムを含む廃棄物が出る。つまり精製の参入障壁は、科学の難しさそのものより、環境負荷の引き受け先と、価格が下がっても回し続けられる費用構造にある。中国は1980年代からこの工程を国家的に育て、環境費用を抑えた低価格で他国の精製産業を市場から退出させた。日本や米国に技術が「ない」のではなく、価格競争で「割に合わなくなって撤退した」というのが正確な経緯である。

ここから、対象の議論が指摘する重要な非対称が導ける。精製は、技術さえ確立すれば商業的な採算を合わせる難度が採掘ほど高くない。鉱山開発は探査から生産まで10年単位の時間と地質の運に左右されるが、精製は装置産業であり、原料と電力と環境許認可さえあれば計画的に建てられる。逆に言えば、精製の復活を阻んできたのは技術でも資源でもなく、「中国価格」との競争だった。この前提が、2025年に根本から変わった。

価格まで国家が決め始めた ― 精製の経済学を変えた米国の一手

最も報じられていない転換点はここにある。2025年7月、米国防総省はレアアース企業MPマテリアルズと10年間の枠組みに合意した。国防総省は優先株の引き受けで筆頭株主級の持分を取り、磁石の主原料ネオジム・プラセオジム(NdPr)に1キログラム=110ドルの価格下限を10年間保証する(公式発表)。当時の市場価格のほぼ2倍の水準である。直後にアップルが、再生材によるレアアース磁石を5億ドル分購入する契約を結び、出荷は2027年に始まる。

この仕組みの意味は深い。中国が価格を下げて他国の精製を潰す戦略は、「価格が市場で決まる」ことを前提にしていた。価格下限の保証は、その前提を外す。精製・磁石への投資は、中国の値下げが届かない安全圏で回収計画を立てられるようになった。市場価格ではなく政策価格で回る領域が生まれたのであり、これはかつての石油備蓄や半導体補助金と同列の、産業政策の道具立ての転換である。日本にとっての含意も明確で、住友商事(8053)は2023年にMPマテリアルズ製レアアースの日本向け独占販売代理店契約を結んでおり、米国の政策価格圏と日本の需要家を結ぶ配管を先に押さえた形になる。双日(2768)が経済産業省系の機構とともに豪ライナスへ出資し、日本初のレアアース権益と重希土の供給枠を確保してきた系譜も、同じ「政策と一体の商社」の型である。

30銘柄を役割で全リスト化 ― どの工程を買うのかを先に決める

対象の銘柄一覧30社を、供給網のどの工程を担うかで5つに分けて全て並べる。時価総額は元の一覧の記載時点(多くは2025年7月4日、括弧付きは個別時点)の値である。個別の銘柄は「レアアースの何を担うか」で読むのが本稿の提案であり、テーマ買いの過熱時ほどこの分類が効く。

① 海底採掘・回収技術 (10社) ― 南鳥島のレアアース泥に連なる工程

コード銘柄役割時価総額(百万円)
6269三井海洋開発海洋掘削技術を応用したレアアース濃集鉱物の回収技術454,496
5715古河機械金属深海採鉱技術。南鳥島沖レアアース泥の回収機材開発89,255
6297鉱研工業海底ボーリングマシン。ヒューリックによるTOBで上場廃止6,826
6330東洋エンジニアリング海底6,000mからレアアース泥を回収するシステム開発40,679
7003三井E&S大水深用ライザー(揚泥管)接合技術を2019年から開発275,480
1662石油資源開発深海掘削・海洋調査の知見への思惑268,308
1885東亜建設工業南鳥島EEZの泥をほぐす「解泥技術」を研究開発250,387 (25.12.03)
4403日油子会社の日油技研工業が海底ボーリングマシン667,353 (25.07.07)
7746岡本硝子深海探査機「江戸っ子1号」が南鳥島採泥試験の環境監視に採用14,590 (26.01.13)
6814古野電気船舶電子機器。海底探査・航海支援での思惑169,360 (25.08.19)

② 精錬・素材・磁石 (4社) ― 本稿の主役。次章で深掘りする

コード銘柄役割時価総額(百万円)
4063信越化学工業国内に分離・精製プラント。磁石・酸化物・化合物の製造と再生9,674,870
4004レゾナック秩父事業所でレアアース磁石合金の製造を継続640,683
5711三菱マテリアル磁石用の酸化物・合金粉末。使用済み製品からの回収も301,308
5706三井金属2025年4月に日本イットリウムを吸収合併しレアマテリアル事業部を新設1,197,112 (25.11.20)

③ 商社・権益 (9社) ― 海外の鉱山・精製と日本の需要家を結ぶ配管

コード銘柄役割時価総額(百万円)
2768双日豪ライナスに出資。日本初のレアアース権益811,125
8015豊田通商インドでのレアアース生産と回収・再資源化3,410,626
8053住友商事米MPマテリアルズ製レアアースの日本向け独占販売代理店4,495,601
8058三菱商事各種レアアース・タングステンの取り扱い11,743,371
8002丸紅レアアース関連製品と回収・再資源化4,909,202
8031三井物産レアメタル・レアアース関連製品の取り扱い8,709,960
3036アルコニックス非鉄原料の専門商社59,375
7485岡谷鋼機独立系専門商社。※上場は名古屋証券取引所138,024
8103明和産業化学品・自動車部品の専門商社28,394

④ 都市鉱山・再資源化 (5社) ― 掘らずに精製へ原料を送る国内資源

コード銘柄役割時価総額(百万円)
5857AREホールディングス電子機器スクラップから貴金属・レアアース類を回収148,258
5714DOWAホールディングス都市鉱山の大手。多品種の金属回収296,246
3556リネットジャパングループ使用済みPC・小型家電からの回収8,776
5724アサカ理研独自技術による電子スクラップからの回収5,870
7456松田産業電子スクラップからの貴金属・レアアース類回収89,875

⑤ 代替技術 (2社) ― レアアースを使わないことで規制の外へ出る

コード銘柄役割時価総額(百万円)
7280ミツバフェライト磁石で同等性能を出す「レアアースフリーモーター」を開発中(一部製品で実現)51,692 (26.01.07)
4082第一稀元素化学工業規制対象のイットリウムを使わない次世代ジルコニア材料34,721 (26.01.07)
レアアース関連30銘柄の役割地図 ― 採掘・精錬・商社・都市鉱山・代替の5分類
レアアース関連30銘柄の役割地図 ― 採掘・精錬・商社・都市鉱山・代替の5分類

精錬の注目銘柄を深掘りする ― 国内で17元素を分けられる場所

分類②を1社ずつ掘る。まず信越化学工業(4063)。時価総額約9.7兆円の同社は半導体シリコンウエハーと塩化ビニールの会社として知られるが、レアアースの分離・精製プラントを国内に持ち、磁石用材料から酸化物・化合物までを製造する、日本で最も川上に近い当事者である。使用済み家電から磁石を回収して高純度レアアースへ再生する循環も持ち、「掘らない精錬所」を国内で完結できる数少ない存在だ。

三井金属(5706)の動きは2025年の再編として注目に値する。同社は2025年4月1日、子会社の日本イットリウムを吸収合併し、レアマテリアル事業部を新設した。日本イットリウムは軽希土から重希土まで17元素の全域を扱う、国内でも数少ないレアアース総合メーカーで、半導体製造装置や積層セラミックコンデンサー向けの高付加価値材料を供給してきた。別稿で追った同社の銅箔事業がAI基板の主役であるように、精錬技術の内製化は「素材の川上を国内に戻す」動きの実例である。三菱マテリアル(5711)は磁石用の酸化物・合金粉末と再資源化を併せ持ち、レゾナック(4004)は磁石合金の研究開発事業を2018年にTDKへ譲渡した後も秩父で合金製造を続ける。

都市鉱山の5社は、分類上は再資源化だが、経済的には「精錬の入口」である。スクラップから回収した混合レアアースも、結局は分離・精製を通らないと磁石には戻れない。国内に分離能力が積み上がるほど、都市鉱山の在庫は資源としての価値を増す。この連関があるため、④の銘柄は②の設備投資ニュースに反応する構造を持っている。

南鳥島の泥は、精錬があって初めて資源になる

供給網の最後の部品が、国産の原料である。南鳥島沖のEEZに眠るレアアース泥は、2026年1月12日に地球深部探査船「ちきゅう」が清水港を出航して試験に入り、2月2日、水深約6,000メートルの海底から泥を船上へ引き揚げることに世界で初めて成功した(報道)。順調に進めば2027年2月には1日350トン規模の採泥実証が計画されている。分類①の10社はこの計画の要素技術、すなわち掘る(ボーリング)、ほぐす(解泥)、揚げる(ライザー)、監視する(環境評価)を分担しており、実証の進捗がそのまま個別銘柄の材料になる。

ただし、本稿の枠組みで見れば結論は自明である。泥を6,000メートルから揚げても、17元素に分ける精製がなければ、それは資源ではなくただの泥だ。採掘シェア7割の中国ではなく精製シェア9割の中国が問題である以上、南鳥島の成否も、都市鉱山の価値も、商社が運ぶ海外原料も、最後は国内の分離・精製能力という同じ一点に収束する。レアアース関連株という言葉で30銘柄を一括りに買うのではなく、この収束点に近い順に並べ直すこと。対日輸出が半減した2026年の夏は、その並べ直しを始める起点として記録されることになる。