中国の人型ロボットの生産は政策の見通しで年10万台を超える。だが首位を争うユニツリーの売上の約7割は大学と研究機関から来ており、収益を生む現場への導入は受注の2割未満と報じられる。作る力と使う先の差が現在地である。

中国の工業情報化省は、2026年の人型ロボットの生産が10万台を超えるとの見通しを示している。実現すれば台数で世界最大の生産国になる。一方で、買い手の中身を見ると生産の勢いと需要の実態が大きく離れている。数字の出所と時点をそろえて検証し、日本の投資家がどの開示で確かめられるかまでを追う。本稿の円換算は2026年8月7日の為替(1ドル=157.54円、セントルイス連邦準備銀行の公表値)による概算である。売買の推奨や評価は示さない。

10万台と2万6,000台と1万4,300台は、別の物差しの数字である

計画・累計生産・実出荷・需要の質の4層
計画・累計生産・実出荷・需要の質の4層

まず数字の性質をそろえる。10万台超は政策の見通しであり、調査会社トレンドフォースは2026年4月、中国の人型ロボット生産が前年比94%増となり、ユニツリーとAgiBotの2社でおよそ8割の占有率になると予測した。

2万6,000台のほうは累計の生産の節目である。AgiBotは2026年6月時点で累計1万5,000台の生産を公表し、ユニツリーは3月時点で約1万1,000台を数えた。年初からの出荷ではなく創業からの累計であり、ユニツリーはその後、二足の累計生産が1万8,000台に達したと公表している。そして期間の実出荷で見ると、2026年上期の世界出荷は前年同期比272%増ながら、AgiBotが約8,400台(占有率44%)、ユニツリーが約5,900台(31%)で、2社を足しても約1万4,300台にとどまる。上期にAgiBotがユニツリーを上回り、首位は入れ替わった。

なおAgiBotの登記社名は上海の会社である。深センの会社として紹介される報道が流れているが、自社の公表資料が示す拠点は上海にあたる。2023年創業で、広東省の自動車部品各社との提携をうたうが、顧客名は開示していない。

売上の7割は研究室から来ている

需要の質を示す数字が、生産の勢いと最も離れている場所である。報道によれば、ユニツリーの売上のおよそ7割は大学と研究機関向けで、工場や物流拠点ではない。人型の受注のうち、収益を生む業務に導入されるものは2割に満たないとされる。残りは研究室と大学、そして量産の予定を持たない社内の研究部門に納められている。

この構成は価格戦略の帰結でもある。ユニツリーの人型G1はおよそ1万6,000ドル(約252万円)で、世界で最も安い部類の研究用足場になった。安さは学術調達には強く効くが、商用の買い手は動きが遅い。値下げの経緯と、内製率9割がそれを支える構造は前稿で検証したとおりで、R1は約70万円まで下がっている。それでも買い手の中心は研究室のままである。

香港市場に2023年12月に上場したUBTechの失速は、この差の先行例になる。物流や小売りの引き合いを根拠に数千台の出荷を見込んだが、実現したのは上海の倉庫への少数導入や家電量販店での実演にとどまり、数量の受注は止まっている。導入先の統合費用が想定を超えたこと、ソフトウェアが現場ごとの作り込みを要すること、そして特定の作業では安い代替手段に負けることが理由に挙げられ、社内の目標は半分以下に削られたとの観測も報じられている。公式の出荷計画の修正は出ていない。

決定的な用途の欄だけが埋まっていない

ロボット分類ごとの確立した用途と人型の空白
ロボット分類ごとの確立した用途と人型の空白

生産と需要の差が一時的なずれで終わらない理由は、決定的な用途の不在にある。四足ロボットは点検・警備・娯楽で居場所を見つけた。産業用アームは自動車と電子の組立を半世紀かけて標準化した。自律走行の搬送ロボットは倉庫の棚搬送を取った。人型だけが、ある作業を代替手段より安く上手にこなすという1点をまだ示せていない。

人型の約束は柔軟性にある。人間向けに作られた建物と道具をそのまま使え、施設を作り替えずに済む。その代償が複雑さ・重量・電力・価格で、1つの作業に絞った瞬間、必ず安い専用機か人と競うことになる。箱を運ぶ人型の相手は他社の人型ではなく、搬送ロボットとコンベヤと人の労働であり、作業あたりの費用では現状すべてに負けている。試みられている狭い通路での棚補充や、配置が頻繁に変わる現場での軽い組立は、いずれも数量の受注に届いていない。

経済性の物差しを日本に置くと距離が測れる。国税庁の民間給与実態統計によれば、2024年の日本の平均給与は477万5,000円である。G1のハードの価格約252万円はその半年分に届いた。それでも導入が進まないのは、割り算の分母に稼働率と作業の成功率が入るからで、統合費用と保守を上乗せした「作業あたりの費用」で人時単価を下回った作業が、まだ1つも実証されていないためである。価格の低下は必要条件であって十分条件ではない。

生産能力の先行は、補助金の構造でもある

生産側が需要を待たずに膨らむ背景には、政策の設計がある。過去18か月で中国の複数の製造各社が組立線の新設と部品の供給契約を発表しており、その多くは雇用の創出と先端製造の目標に紐づいた地方政府の補助金を伴う。理屈の上では年数万台を作れる生産線も、実際に回すには上流の部品と下流の需要の両方が要る。電池、関節の作動装置、演算部品は依然として隘路で、需要側の企業の大半は試行の段階にあり、工場を全力で回す規模の発注には至っていない。

その結果、公表される出荷数には関連会社への納入、研究パートナーへの提供、在庫として持たれる台数が混ざる。生産の数字が需要の数字として流通する構造は、政策目標が生産に紐づいている限り続く。

日本の部品株は「受注の質」で読む

日本の投資家にとって、この需要の霧は部品側の開示の読み方を変える。人型の関節に使われる波動歯車のハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)は直近通期で売上596億円・営業利益率4.3%、RV減速機のナブテスコ(6268)は3,079億円・6.7%にいる。完成側のファナック(6954)は21.4%、SMC(6273)は22.6%で、外国法人等の持株比率はそれぞれ51.4%と58.0%に達する。

読み方の要点は、部品の受注が「生産計画」に紐づくのか「需要」に紐づくのかの区別にある。研究室向けが7割という買い手の構成は、大学が2台目を大量には買わないという意味で一巡性が強い。生産が需要を先回りしている間、部品の発注は続くため短期は追い風になるが、商用の受注が立たないまま生産線が積み上がれば、調整は在庫として部品側に戻ってくる。前稿で扱った部品会社とユニツリーの32億元(約750億円)の長期供給契約も、性質としては生産計画への紐づけであり、需要の証明ではない。

ロボットの部品・検知器・演算の4層の全体像は別稿で扱っている。人型の台数予想だけを見て部品側の業績を予想できないという結論は、需要側から見ても同じ場所に着地する。

確かめられる点

検証は開示の日付で追える。第1に、AgiBotとユニツリーが2026年後半に顧客名と導入の中身を開示するか、とりわけ単一の商用顧客から500台を超える受注が出るか。第2に、UBTechが11月の四半期説明で出荷計画の修正や受注の転換率に言及するか。第3に、中国の自動車や物流の大手が複数年の購入契約を結び、試行から数量への転換を示すか。第4に輸出で、国内の需要が遅れるなら、労働の経済性が異なる東南アジアと欧州へ製造各社が出て行く動きが数字に出る。

上場したユニツリーは四半期ごとの開示義務を負った。研究・教育向け7割という構成が下がり始めた四半期が、この産業の需要が実在し始めた四半期になる。