片手で持てる1キログラム以下の筒が、日本精工の出した答えである。関節は機体のコストの5割とされるが、名前の挙がった2社と波動歯車の最大手の開示を読むと、その需要は売上にも受注にもまだ現れていない。
関節は、ヒト型ロボットの原価の5割を占める。日本経済新聞は2026年9月16日、フィジカルAI(人工知能を機械の体に載せて現実の世界で動かす技術)の広がりを受けて、工場で働くヒト型ロボットの普及が現実味を帯びたと伝え、関節を構成する部品に日本企業が勝機を見いだしていると報じた。産業用ロボットで技術を磨いた日本企業が、ロボットを正確に動かす技術で世界の強者になっているという見立てで、例に挙がったのは日本精工とTHKである。解説は NIKKEI Tech Foresight 編集長の久米秀尚氏が務めた。
ロボットを動かすにはAIのようなソフトウエアだけでなく、肉体にあたる機械が要る。本稿はその肉体の中心である関節について、名前の挙がった2社と、日本精工の関節が使う波動歯車の最大手の開示を当たった。製品はそろっている。売上と受注の数字は、まだ動いていない。
関節1つは電動機と減速機と軸受を束ねた筒で、1機に30個以上が載る
ヒト型ロボットの関節は、アクチュエーター(電気の力を回転や押し引きの動きに変える駆動部品)でできている。日経クロステックは8月31日の詳細記事で、アクチュエーターが人型ロボットの製造原価の5割超を占め、二足歩行の機体は1機あたり30個以上を使うと書いた。
原価の半分に届く理由は中身にある。回転の関節1つには、電動機、減速機(電動機の速い回転を遅く強い回転に変える歯車)、出力側で荷重を受ける軸受、軸の角度を読む検出器、電池の電力を電動機の電流に変える駆動回路が入る。精密な歯車と軸受と電子回路の組を、1機で30回以上繰り返して積むことになる。
関節の原価比率には幅がある。本誌が9月に集めた公表推計は21%から70%に散らばっていた。何を関節に数えるか(駆動回路を含めるか、外箱を含めるか)で数字が動くためで、5割は中ほどの値にあたる。
日本精工の関節は1キログラム以下で、電気の部分は台湾のデルタ電子が受け持つ
日本経済新聞が紹介した日本精工の回転アクチュエーターは、減速機に波動歯車(薄い歯車をたわませてかみ合わせる方式で、小さく軽いまま大きな減速比がとれる)を使い、片手で持てるほど小さく軽い。
日本精工 (6471)は2025年11月6日、ヒト型ロボットに使える回転と直動の2種類のアクチュエーターを開発したと発表した。2026年7月の同社の技術論文によると、回転の型は外径80ミリ、長さ79ミリ、質量1.0キログラム以下で、繰り返し出せる最大トルクは110ニュートンメートル、質量1キログラムあたりのトルクは約110ニュートンメートルである。中心には配線を通す直径18ミリの穴があいている。直動の型は外径55ミリ、長さ200ミリ、0.9キログラム以下で、最大推力は3,900ニュートン、1キログラムあたり約4,300ニュートンになる。3,900を0.9で割ると4,333で、公表値と合う。
図1 — 日本精工の関節部品の中身と、2社の分担
この部品は1社では作っていない。技術論文は分担を明記している。日本精工が受け持つのは軸受とボールねじの機構設計で、枠のない電動機、角度検出器、駆動回路、ソフトウエアの基盤は台湾のデルタ電子が担う。駆動回路の変換効率は97%以上で、上位の制御とは EtherCAT と CAN という産業用の通信規格でつなぐ。減速機の供給元は、論文にも発表にも書かれていない。
重さの意味は掛け算で分かる。1キログラムの関節を30個積めば、関節だけで30キログラムになる。後で触れるTHKの研究用の機体は体重37.3キログラムで、30キログラムはその8割にあたる。関節が軽くなければ、機体は関節の重さを運ぶために関節を大きくする悪循環に入る。日本経済新聞が伝えた「片手で持てる」は、見た目の話ではなく設計の条件である。
日本精工は発売を2028年に置き、中期計画にロボットの売上目標の数字を入れていない
日本精工は2028年に市場へ投入する計画で、現在は関節の検証用に試作品を配っている段階にある。
日経クロステックは、日本精工がロボット関連で1000億円の売上を目指していると報じた。同社の2026年3月期の連結売上高は9,116億4,400万円で、1000億円はその11.0%にあたる。波動歯車の最大手が今期に見込む会社全体の売上高745億円の1.34倍でもある。
ただ、同社が2026年5月13日に示した中期経営計画2028の資料の文面には、ロボティクスの売上目標の数字が見当たらない。資料はロボティクスを2036年度に向けた新たな収益の柱と位置づける一方、2029年3月期の数値目標は産業機械事業の売上高4,200億円と営業利益420億円(利益率10%)で、2026年3月期の産業機械事業の売上高3,775億円からの上積みは既存の軸受と精密機器で組んでいる。協業先にはデルタ電子と、国内のロボット企業アールティを挙げた。
有価証券報告書では、ヒューマノイドの語は2回しか出てこない。産業機械事業で「ヒューマノイドロボットなど新領域における市場開拓に積極的に取り組んでいきます」と書き、AIロボティクス企業への戦略的な出資で関連会社の株式を取得したと記している。発売が2028年なら、中期計画の3年間に関節部品の売上はほとんど立たない。1000億円は2036年に向けた目標として読むのが数字の上では自然である(記者の見立て)。
THKは開示にヒト型の語が1度も無く、関節は研究用の機体で磨いている
THK (6481)は、2026年3月18日に提出した2025年12月期の有価証券報告書にも、8月7日に提出した2026年12月期の半期報告書にも、ヒューマノイド、人型、ヒト型の語を1度も書いていない。半期の売上収益は1,510億6,700万円で、前年同期の1,141億3,700万円から32.4%増えたが、その説明にヒト型ロボットは出てこない。
同社の関節の技術は、研究用の機体で確かめられる。同社の記事によると、ヒト型ロボット「FRED」は身長1,200ミリ、体重37.3キログラムで、関節は20ある。関節にはサイクロイド歯車(多くの歯が同時にかみ合うため衝撃に強い減速機の方式)を積んだアウターローター型の電動機を使い、型式 RA-C80-04 の最大トルクは160ニュートンメートル、最大出力は960ワットである。2025年5月の走行実験では時速13.8キロメートル(毎秒3.8メートル)を記録した。記事は研究開発の段階と書き、製品化の時期には触れていない。
日経クロステックの詳細記事は見出しで、日本精工やTHKが「ギャップ」を埋めることに勝機があると書き、2ページ目で模擬環境で学んだ動きと実機の動きの差を埋めることを重視すると記している。有料部分の中身は本稿では確かめられていない(未取得)。
同じ関節でも、2社の選んだ減速機は違う。日本経済新聞が紹介した日本精工の型は波動歯車、THKの走る機体はサイクロイド歯車である。減速機の方式が決まっていないこと自体が、この市場がまだ試作の段階にあることを示している。
波動歯車の最大手の受注は55.7%増えたが、伸びたのは手術支援ロボットと半導体向け
関節の需要が本当に動き始めたなら、最初に現れるのは減速機の受注のはずである。波動歯車の最大手であるハーモニック・ドライブ・システムズ (6324)の2026年4〜6月の受注高は241億2,800万円で、前年同期から55.7%増えた。売上高は166億8,100万円(23.6%増)、営業利益は18億4,000万円で、前年同期の1億2,200万円から大きく戻った。受注残高は294億5,700万円(45.6%増)である。
図2 — 2026年4〜6月の地域別受注。北米のメカトロニクス製品が4.4倍になった
中身を地域と製品に分けると、伸びの出どころが分かる。決算短信の8行を足すと24,123百万円で、公表の合計24,128百万円との差は5百万円、各行の丸めで説明がつく。
| 地域と製品 | 受注高 (百万円) | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 日本 減速装置 | 8,857 | (+51.3%) |
| 日本 メカトロニクス | 1,193 | (+58.8%) |
| 中国 減速装置 | 981 | (−27.8%) |
| 中国 メカトロニクス | 149 | (+33.9%) |
| 北米 減速装置 | 2,663 | (+25.3%) |
| 北米 メカトロニクス | 4,416 | (+336.2%) |
| 欧州 減速装置 | 4,309 | (+26.4%) |
| 欧州 メカトロニクス | 1,555 | (+77.3%) |
北米のメカトロニクス製品(アクチュエーターと制御装置)は前年同期の約10億1,200万円から約34億円増え、受注全体の増加額約86億円の約4割を占めた。会社はその理由を、北米の手術支援ロボット向けのまとまった受注と、生成AI関連の先端半導体の設備投資と説明している。
ヒト型ロボットの機体メーカーが集まる中国向けは、減速装置の受注が27.8%減の9億8,100万円で、メカトロニクスと合わせても11億3,000万円で、受注全体の4.7%にとどまる。中国の売上高は10億700万円(18.3%減)で、産業用ロボット向けの受注が減ったためである。決算短信にはヒト型、ヒューマノイド、AIロボットの語が1度も出てこない。
前の期の数字にも同じ傾向が出ている。2026年3月期の有価証券報告書では、中国向けの減速装置の受注が31億7,317万円で38.1%減った一方、中国向けのメカトロニクスは8億4,040万円で378.7%増えた。同社は「AI・ヒト型ロボット」を新たな注力領域に置き、2030年度に連結売上高1,000億円以上を目指すとしたが、同じ報告書で、AIロボット市場は創成期にあり、社会実装が進む速さは中期経営計画を作ったときの想定とずれ始めていると書いた。今期の通期予想は売上高745億円(25.1%増)、営業利益85億円である。
関節の勝機は2028年以降の話で、今期と来期の業績には織り込めない
関節が機体の原価の半分を占め、日本の部品各社がそこで通用する製品を持つという見立ては、3社の技術資料で裏づけられる。日本精工の1キログラム以下の関節も、THKの時速13.8キロメートルで走る機体も、波動歯車の最大手の製品群も実在する。
一方で、ヒト型の需要はまだ3社の売上と受注に現れていない。日本精工の発売は2028年で、中期計画の数値目標にロボットの売上は入っていない。THKは開示でヒト型に触れていない。波動歯車の最大手の受注の伸びは手術支援ロボットと半導体向けで、機体メーカーの集まる中国向けは減った。投資家がこの勝機を読むなら、今期と来期の業績ではなく、日本精工の関節部品が初めて機体に載る2028年以降の売上として読むことになる。
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