SK hynixは2026年8月20日、光と電気を同じ封止の中に収める「CPO(光電融合)」の技術指針をまとめた論文がNature Electronicsに載ったと発表した。責任著者はAI InfraチームのSeunghoon Hong氏とバージニア大学のKyusang Lee教授である。
共著者にはUIUC・MIT・NTU・延世大学の研究者が加わる。CPOとは、光の送受信器をプロセッサーと同じパッケージの中に置く実装をいう。会社の発表は2点に寄りかかっている。自社のチームリーダーが責任著者であること、そしてこの仕事がHBMの革新を超えてシステム水準の設計図に踏み込んでいることである。米国の投資調査Photon Capitalはこの発表を読み、15ページの論文を開き、12人の著者の公開記録を1人ずつたどった上で、この流れは論文から始まったのではなく、会社の発表にはその前の一歩が1行も書かれていないと指摘した。同社はこの発表をCPO製品の日程ではなく立ち位置の合図として扱い、技術の選択は既に資金で記されており、メモリー3社が並んでその跡を残していると結ぶ。本稿はこの指摘を、SK hynixのX投稿(8月19日17時02分・閲覧1万7,100回)と論文の図表、そして2025年5月のAvicenaの資金調達の公表で確かめ、日本側の当事者を金融庁EDINETの有価証券報告書で並べる。なお米国側の調査の有料部分(12人の著者の経歴)は本稿では扱わず、公開情報で裏付けられる範囲に限る。売買の推奨や評価は示さない。
計算は2年で3倍、接続は1.4倍、論文が描く「帯域の壁」
論文が最初に置く図は、3本の曲線の伸び率の差である。計算の処理能力は1995年以降おおむね2年で3倍になってきた。一方でチップ間の接続帯域は2年で1.4倍にとどまり、AIモデルの要求は2年で8.8倍の速さで増えている。正規化した目盛りで2025年の位置を比べると、AIモデルは10の10乗、ハードウエアは10の6乗台、接続は10の2乗に満たない。計算は速くなるのにデータが運べない、この開きが「帯域の壁」である。
論文はこの壁の解き方として、単一ノードで帯域100Tb/s超、1ビット当たりの消費電力1pJ未満、遅延10ns未満という3つの目標を置き、フォトニックインターポーザーで光の接続をメモリーの境界まで延ばす「光中心」の構成を掲げる。従来は光の送受信器をプリント基板の遠い位置に置き、プロセッサーとの間を銅配線で結んでいた。距離が長いほど損失と消費電力が増え、帯域を上げるほど銅は不利になる。CPOはこの送受信器をインターポーザーの上、プロセッサーから数mmの位置に移し、光ファイバーで直接外へ出す。CPOの仕組みを整理した回で見た構成が、メモリーメーカーの側から書き直された。
発表に載らなかった表、10プラットフォームで1pJに届くのは1行だけ
論文の表2は、産業界の代表的なCPOと光I/Oの10プラットフォームを帯域・遅延・消費電力・到達距離で並べる。SK hynixの会社発表にはこの表が無い。スイッチ側ではBroadcomのBailly(Tomahawk 5)が51.2Tbps・1ビット当たり約6.9pJ(800Gポートで5.5W)、後継のDavisson(Tomahawk 6)が102.4Tbps・約5〜7pJの見込み、NVIDIAのQuantum-X Photonicsが115.2Tbps・約5.6pJ(1.6Tポートで9W)で、いずれも遅延は1ホップ10ns未満、到達はラック規模である。チップレット側ではAyar LabsのTeraPHYが双方向8Tbps・5pJ未満、IntelのOCIが双方向約4Tbps・約5pJ、Ranovusの光エンジンが複数Tbps。インターポーザー型ではLightmatterのPassage M1000が4,000mm²で114Tbps・壁コンセント換算4.6pJ、Celestial AIのPhotonic Fabricが14.4Tbps・到達50m超である。
表の最後の2行が、マイクロLEDの並列送受信である。AvicenaのLightBundleは304チャネル×3.3Gbpsで約1Tbps、16nmのCMOSとマイクロLED配列で作り、1ビット当たり約1pJ、到達50m未満。マイクロソフトのMOSAICは460チャネル×2Gbpsで約1Tbps、DSPもFECも使わず遅延は数ns、約6.6pJ(片端5.3pJ)である。10行のうち、論文が掲げる「1pJ未満」の目標に最も近いのはAvicenaの1行だけであり、帯域ではなく電力で並べ直すと、この表の順位は逆転する。
15か月前の5月、メモリー3社はAvicenaの出資者に並んでいた
Photon Capitalが「会社発表に無い前の一歩」と呼ぶものは、公開情報で特定できる。Avicenaは2025年5月14日、Tiger Globalが主導するSeries Bで6,500万ドルを調達したと発表した。累計は1億2,000万ドルで、参加者にはMaverick Silicon、Prosperity7 Ventures、Venture Tech Alliance、SK hynix、Cerberus Capital Management、Hitachi Ventures、Lam Researchが名を連ねる。同社の出資者にはSamsungとMicronも含まれ、2022年の2,500万ドルの調達から数えてメモリー3社がすべて同じ資本構成表に載った。論文の発表はその15か月後にあたる。
ここに、この発表の読み方がある。HBMで競う3社が、メモリーと計算資源を光で結ぶ方式のうちマイクロLEDという1つの選択に、競合のまま同時に資金を置いた。論文がマイクロLED方式を表2に載せ、その行が1pJという目標に最も近いことは、技術の選択が学術誌より先に資金で決まっていたことを示す。SK hynixの発表がHBMの次の設計図を語りながら出資の跡に触れないのは、発表の性格がCPO製品の日程表ではなく、AIの競争が半導体からシステムへ移る局面での立ち位置の表明だからである。HBMの2028年需要を検証した回で見たメモリー3社の競争は、接続の方式では同じ船に乗っている。
装置の側も同じ方向を向く。Avicenaに出資したLam Researchの2026年6月期は売上232億ドル・営業利益82億ドルで、米10年国債利回りが4.69%の局面でも、装置大手が新興の光接続に資金を置く余力を持つ。米上場企業の提出書類で「co-packaged optics」に触れた開示は2023年24件、2024年19件、2025年47件から2026年は8月21日までで99件と、8か月で前年の2倍になった。「silicon photonics」は122件、162件、158件、229件。論文の言葉である「bandwidth wall」はまだ0件で、概念が開示の言葉に入る前に、CPOという製品の語句が先に定着している。
光で結ぶ側の日本12社、運ぶ側の利益率は1桁にとどまる
CPOが広がると、日本の当事者はどこに立つか。金融庁EDINETの有価証券報告書で12社を営業利益率の順に並べる。光導波路の日東電工(6988)が17.9%、データセンター向け光配線のフジクラ(5803)が16.0%、村田製作所(6981)が15.4%、パッケージ基板のイビデン(4062)が14.9%と、封止の内側と基板に近い企業が2桁で並ぶ。光電融合のIOWNを掲げるNTT(9432)は売上14兆4,091億円・11.8%・研究開発費2,786億円、日本電気硝子(5214)が11.0%、TDK(6762)が10.9%で続く。
光を運ぶ側は1桁である。光ファイバー大手の住友電気工業(5802)は売上5兆1,102億円・研究開発費1,629億円に対し営業利益率8.2%、受光と発光の素子を持つ浜松ホトニクス(6965)が7.6%、光通信デバイスの三菱電機(6503)が7.3%、光パッケージの京セラ(6971)が5.7%、半導体レーザーと光ケーブルの古河電気工業(5801)が4.9%である。CPOは光の送受信器を封止の内側に移す技術であり、付加価値もそこへ移る。運ぶ側が利益率を上げるには、ファイバーやレーザーを部品として売るのではなく、封止の内側に入る光エンジンの供給者になる必要がある。財務省の貿易統計では、2026年1〜6月の日本からの科学光学機器の輸出は米国向け3,312億円、中国向け3,174億円、韓国向け1,804億円で、韓国向けの1,804億円はSK hynixとSamsungという買い手の存在を映す。
精錬の側から見たCPO、インジウムリンとガリウムと石英
光の送受信には半導体レーザーが要り、その材料はインジウムリン(InP)やガリウムヒ素で、マイクロLEDは窒化ガリウム(GaN)である。インジウムとガリウムの精錬は中国に集中し、中国は2023年8月からガリウムとゲルマニウムを輸出許可制の下に置いた。光ファイバーの石英ガラスは高純度の四塩化ケイ素から作られ、供給者は限られる。CPOが広がるほど、銅の代わりにこれらの材料が制約になる。本件の文脈で挙げる関連銘柄は、希土類そのものではなく、光の材料と部品で封止の内側に入る余地を持つ日本株に置く。
確かめられる点
検証は公表の日付で追える。第1に、SK hynixがCPOを使ったメモリー製品の日程を示すか。論文は指針であり、製品の時期は別に公表される。第2に、Avicenaの次の資金調達と量産の時期。LightBundleの約1pJという数字が製品で再現されるかが、表2の順位の意味を決める。第3に、米提出書類で「co-packaged optics」の言及が2026年通年で150件を超えるか。第4に、住友電気工業と古河電気工業の次の有価証券報告書で、光エンジンや光デバイスの売上が区分開示されるか。運ぶ側から封止の内側へ入る転換は、開示の区分に先に現れる。第5に、Samsung・Micronのいずれかが自社のCPO指針を公表するか。3社が同じ出資先に並んだ事実は、同じ方式への収れんか、それとも保険か、次の発表で判別できる。
発表文は論文と責任著者を語り、論文は帯域の壁と10の比較表を語り、資金は15か月前にマイクロLEDという1つの方式を指していた。3つの層を重ねて初めて、SK hynixのCPOの流れは論文から始まったのではないことが見える。会社が書かなかった1行を公開情報で埋めることが、この発表の正しい読み方である。
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