証券会社の予測では、2028年にHBMを最も多く買うのはエヌビディアではなくブロードコムになる。顧客ごとの専用半導体を受託設計する側が、汎用GPUの本家を需要で追い越すという、買い手の順位の入れ替わりである。
韓国メリッツ証券の試算として伝えられた2028年のHBM需要は、ブロードコムが350億〜400億ギガビット、エヌビディアが300億、グーグルが200億、AMDが100億。ブロードコムが首位に立ち、グーグルが自前の調達を大きく積み増す形になる。供給側ではSKハイニックスがブロードコムの調達の5〜6割、エヌビディアの6〜7割を握るとされ、同社の売上に占めるHBMの比率は2028年以降に5割を超えるという見立てが付く。本稿は展示された実物の構造から始め、この予測に賛成と反対の両方の材料を米国の提出書類で確かめ、日本勢の領分まで追う。為替は2026年8月14日のセントルイス連邦準備銀行の公表値(1ドル=1,414.29ウォン、同159.21円)による。売買の推奨や評価は示さない。
展示された断面が語る、HBMが積層でしかあり得ない理由
公開の場に置かれた模擬パッケージは、下から順に4つの層でできている。最下層がパッケージ基板、その上にインターポーザーと呼ばれる中継板、さらに演算を担うロジックダイ、そして金色の記憶素子が10段以上積み上がる。展示に添えられた説明は2つの技術を名指ししていた。Advanced MR-MUFとTSVである。
TSVは素子を垂直に貫く配線で、積んだ記憶素子どうしを最短距離で結ぶ。横に並べて配線を引き回すのに比べ、信号の通り道が桁違いに短くなる。これが「広帯域」の正体で、帯域を稼ぐには面積ではなく高さを使うしかないという物理が背景にある。MR-MUFは、積み上げた素子の隙間に液状の封止材を流し込んで一括で固める工法を指す。1段ごとに薄い膜を挟む従来の方法に比べ、熱の逃げ道が確保でき、反りも抑えられる。段数が増えるほどこの差が効く。
構造を押さえると、なぜHBMが特定の数社にしか作れないかが見える。素子を薄く削り、垂直に穴を開け、平坦さを保ったまま積み、樹脂で固め、その全工程で歩留まりを維持する。工程の1つでも落ちれば積み上げた全段が無駄になる。サムスンのHBM4で歩留まり8割という数字が話題になったのは、この積み上げの難しさゆえである。
買い手の順位が入れ替わる、GPUからカスタム半導体へ
需要予測の意味は、単に数量の話ではない。ブロードコムが首位に立つということは、HBMの最大の行き先がGPUから、顧客ごとに設計された専用半導体へ移ることを指す。同社はグーグルやメタなどの求めに応じて演算装置を設計・製造する立場にあり、その受注が積み上がるほど、汎用GPUではなく専用品にHBMが載る。グーグルが自前で200億ギガビットを調達する予測も、同じ流れの表れである。
規模の妥当性は別の一次情報で確かめられる。マイクロンはHBM市場が2025年の約350億ドルから2028年に約1,000億ドルへ拡大すると見込む。3年で3倍近い。この拡大の中身が汎用GPU向けから専用半導体向けへ移るという予測は、買い手の交渉力の分布が変わることを意味する。GPUは1社が値付けを握るが、専用半導体は設計を委ねる側が主導権を持つ。
供給側の集中度も確かめておく。2026年1〜3月期のHBM出荷シェアはSKハイニックスが58%、サムスン電子とマイクロンが各21%。首位が独走してきた構図にサムスンとマイクロンが挑む形は続くが、需要が3倍になる過程で首位の売上構成そのものが変わる。HBMが売上の半分を超えれば、それはもはやメモリー会社ではなく、AI部品の会社である。
米国の提出書類で買い手側の体力も見ておく。ブロードコムは直近の年次報告で売上639億ドル・営業利益255億ドル、営業利益率39.9%、研究開発費110億ドル。エヌビディアは営業利益1,304億ドル、研究開発費185億ドル。マイクロンは売上374億ドル・営業利益率26.1%。AMDは売上346億ドル・営業利益率10.7%で、研究開発費81億ドルは営業利益37億ドルの2倍を超える。同じ「AI半導体の勝ち組」でも、稼ぐ力には桁の違いがある。
HBMは循環にすぎないという反論と、その具体的な設計
強気の予測には正面からの反論がある。キャシー・ウッド氏はメモリー株を避ける理由として、HBMを半導体の中で最も循環的で汎用品化しやすい部分とみている、と説明する。同氏の主張の中心は価格ではなく設計にあり、セレブラスやGroqが採る推論向けの構成がHBMの必要量を減らす、あるいは無くしうるという点にある。技術の費用が3倍4倍に膨らめば、技術者は最終的にその制約を回避する設計を選ぶ、という論法である。
反論の中身を具体的に見ると、両社はチップ内部のSRAMに重みを置き、外部の記憶装置への往復そのものを減らす設計を採る。HBMは「チップの外にある速い記憶」だが、そもそも外に出さなければ帯域の問題は生じない。代償として1チップに載る容量は小さくなり、大きなモデルを扱うには多数のチップを束ねる必要が出る。つまりHBMを回避する設計は、記憶の問題を接続の問題へ置き換えている。置き換え先が光配線であることは、次の節につながる。
判定材料は開示の言葉にも現れる。米上場企業の提出書類で「HBM4」の言及は2024年10件、2025年7件、2026年(8月19日まで)19件と伸び方が鈍い。対して「co-packaged optics(光とチップの一体実装)」は19件、47件、99件と5倍を超えた。記憶を積む方向と、接続を光にする方向の両方へ投資が向かっている状況で、どちらか一方だけが正しいと決めつける材料は、今のところ提出書類にはない。
光の側の当事者は、期待とは裏腹に営業赤字だった
接続を光にする方向の当事者として、アプライド・オプトエレクトロニクスの説明が伝えられている。米国内で生産する800Gと1.6Tの製品には上乗せ価格が付く見通しで、平均販売単価と利益率に効く。長期供給契約は複数の交渉が進んでいるが、生産能力を特定の顧客に押さえられることを警戒して選別している。受注は翌年後半まで販売済みで、300〜400ミリワット級のレーザーを既に持ち、光とチップの一体実装が立ち上がれば利益率40%超を見込む、という内容である。
この説明を提出書類と突き合わせると、期待と実績の隔たりが見える。同社の直近の年次報告では売上5億ドル、営業損益は1億ドルの赤字で、営業利益率はマイナス12.0%だった。研究開発費は1億ドル。将来の40%超という数字は、光とチップの一体実装が量産に入った後の姿であり、現在の損益計算書はまだその手前にある。同じ光の分野でもルメンタムやコヒレントには買い手が資本を投じているのに対し、この会社は自力で立ち上がる途中にある。
原子力は「建設段階」に入った、ただし売上はまだ立っていない
計算資源の最後の制約が電力である。Okloはアイダホ国立研究所で物理的な建設段階に入ったと表明した。同社はメタと組み、オハイオ州パイク郡の206エーカーにAurora炉16基(各75メガワット)を置く計画で、2026年に事前工事と敷地調査、2030年に初号機、2034年に1.2ギガワットへ段階的に拡張する。メタは電力を前払いし、計画の確実性を高める資金も出す。TerraPowerも年内にデータセンター向けの別案件を発表する見通しにある。
買い手の顔ぶれは大手技術企業に寄っている。メタがOkloとTerraPower、アマゾンがX-energy、アルファベットがKairos、マイクロソフトがスリーマイル島の再稼働。米国内では22件の原子炉計画が動き、世界では130を超える小型モジュール炉の設計が開発されている。データセンターの電力供給網の上流に、電力会社ではなく技術企業が入り込んだ。
ここでも提出書類が隔たりを示す。Okloの直近の年次報告に売上高の計上はなく、営業損益は1億ドルの赤字である。開示の言葉としては急速に広まっており、「small modular reactor(小型モジュール炉)」の言及は2024年134件から2026年358件へ2.7倍になった。言葉が先に広がり、売上はこれから立つ。2030年という初号機の時期は、HBMの需要予測が置く2028年より後にある。電力の制約が本当に外れるのは、AI設備投資の現在の波の次の波である。
買い手は資本を寝かせない、設備投資はマイクロンの26分の1だった
投資家の立場から見ると、需要予測の順位よりも重い事実が提出書類にある。設備投資額の非対称である。米証券取引委員会のXBRLデータで直近4年を並べると、マイクロンは2022年8月期121億ドル、2023年8月期77億ドル、2024年8月期84億ドル、2025年8月期159億ドルと、谷から2倍以上に増やした。HBMの増産がそのまま数字に出ている。
同じ期間のブロードコムは4億、5億、5億、6億ドルである。2028年にHBMを最も多く買うと予測される会社の設備投資が、作る側の26分の1にとどまる。設計と受注に徹して製造を委ねる会社は、需要が3倍になっても自らの資本を寝かせない。営業利益率でブロードコムが39.9%、マイクロンが26.1%と差が出るのは、この構造の裏返しである。買い手の順位が入れ替わっても、資本を抱える側は変わらない。
投資の手段そのものにも制約がある。HBM首位のSKハイニックスは韓国取引所の銘柄で、米国ではSKHYとHXSCLの符号で店頭取引されるにとどまる。ニューヨーク証券取引所やナスダックには上場していない。サムスン電子も同様である。米国市場でHBMの本流に正面から投資できる銘柄は事実上マイクロンだけで、韓国勢を買うなら現地市場か店頭銘柄、そして1ドル=1,414.29ウォン(2026年8月14日)という為替の変動を引き受ける必要がある。日本の投資家が「HBM本命」に賭けようとすると、この二重の制約に突き当たる。
日本側に落ちる実額は、財務省の貿易統計で確かめられる。2026年1〜6月の半導体等製造装置の輸出額は、中国向け7,846億円、台湾向け6,486億円、韓国向け4,725億円、米国向け2,404億円だった。韓国向けの4,725億円は、SKハイニックスとサムスンがHBMの生産能力を積み増すために日本の装置を買っている実額である。同じ期間に中国向けが首位を保つ点も見落とせない。規制の下でも汎用品の製造装置は動いており、装置各社の売上は買い手の国籍を選ばない。
需要側が誰であれ、積層の材料と装置の代金は日本勢に入る
買い手の順位が入れ替わっても、HBMを積む工程の材料と装置は変わらない。MR-MUFの中身である封止材は日本勢が握っており、有価証券報告書の実数はこうなる。
| 企業 | 役割 | 直近通期の実数 |
|---|---|---|
| 住友ベークライト (4203) | 半導体封止材の大手 | 売上3,199億円・営業利益率11.1%・外国人持株40.1% |
| 日東電工 (6988) | 研削時の保護テープと光学材 | 売上1兆282億円・17.9%・44.7% |
| レゾナック (4004) | 封止材と後工程材料の総合 | 売上1兆3,471億円・3.5% |
| ディスコ (6146) | 素子を薄く削り切る装置 | 売上4,369億円・42.3%・43.9% |
| アドバンテスト (6857) | 積んだ後の選別試験 | 売上1兆1,286億円・44.2%・49.5% |
| レーザーテック (6920) | 露光原版の検査 | 売上2,515億円・48.8%・25.3% |
| イビデン (4062) | パッケージ基板 | 売上4,162億円・14.9%・34.4% |
| 日本特殊陶業 (5334) | セラミック基板・部材 | 売上7,312億円・18.9%・31.0% |
装置側の営業利益率が42〜49%と突出するのに対し、材料側は3〜18%にとどまる。同じ「日本が担う部分」でも、代替の利きにくさが利益率の差として出ている。外国人持株比率はディスコ43.9%、アドバンテスト49.5%、日東電工44.7%と高く、この構図は海外の投資家に先に買われている。
積層の材料をたどると、精錬と鉱物に行き着く
封止材や基板の性能を決めるのは、樹脂そのものよりも中に混ぜる充填材と、配線の金属である。基板の平坦さを出す研磨にはセリア系の砥粒が使われ、セリウムは軽レアアースで精錬の大半を中国が握る。TSVの配線は銅で、めっきと平坦化を繰り返す。放熱のための部材にはアルミナや窒化アルミが入る。
中国は2025年4月から重希土類7品目を輸出許可制の下に置き、ガリウムとインジウムでも管理を強めている。積層を支える材料は、鉱物の供給という一段下の層でつながっている。関連する日本企業を実数で並べると、信越化学工業(4063)が売上2兆5,740億円・営業利益率24.7%、三井金属(5706)が7,585億円・17.3%、JX金属(5016)が8,846億円・19.8%、大同特殊鋼(5471)が5,781億円・7.3%、双日(2768)が2兆7,574億円となる。
確かめられる点
検証は開示の日付で追える。第1に、ブロードコムの次の四半期開示でカスタム半導体の受注残がどう動くか。第2に、SKハイニックスの決算で売上に占めるHBMの比率が公表されるか。第3に、セレブラスとGroqの採用事例が名前つきで増えるか。増えなければ「HBM不要論」は理屈の域を出ない。第4に、アプライド・オプトエレクトロニクスが営業黒字へ転じる時期と、光とチップの一体実装の量産開始。第5に、Okloのオハイオ計画が2026年内に事前工事へ入るか。第6に、米国の提出書類で小型モジュール炉の言及が358件からさらに増えるかである。
2028年という予測の年は、まだ2年以上先にある。その間に確かめられるのは、需要の順位ではなく、各社が実際に何を積み、何を売り、いくら稼いだかという決算の数字である。展示された模擬パッケージの断面が示すとおり、この産業の競争は積層の高さと歩留まりという、極めて物理的な場所で決まっている。
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました