推論の支出が学習と並んだ年でも、出荷されたサーバーの75.9%はGPU搭載機で、3年間の最高だった。「推論はASICへ移る」という筋書きに実績は付いてきていない。出す側・設計する側・作る側を当局に提出された数字で分ける。
投稿の主張は4つに分かれる。推論が市場を奪っている。5年でASICがエヌビディアを食うが、台数ではGPUが多数派のまま。ASICを出せるのはグーグル、アマゾン、メタ、マイクロソフト、OpenAIの5社だけ。そして設計があっても作れるのはTSMC、インテル、サムスンの3社だけ。添えられた2枚の図はCLSAのもので、1枚目はIDCとガートナーを出所とする推論と学習の支出比率、2枚目はトレンドフォースを出所とするAIサーバーの出荷構成比である。
2枚の図の数字を、そのまま並べる
推論と学習の比率は、2023年の30対70から2025年に50対50へ動き、CLSAの推計では2026年に60対40、2030年に75対25へ進む。学習の比率が毎年下がり、推論が毎年上がる。この比率そのものに異論はない。
| 年 | 学習 | 推論 |
|---|---|---|
| 2023年 | 70% | 30% |
| 2024年 | 60% | 40% |
| 2025年 | 50% | 50% |
| 2026年 (推計) | 40% | 60% |
| 2027年 (推計) | 35% | 65% |
| 2028年 (推計) | 30% | 70% |
| 2029年 (推計) | 28% | 72% |
| 2030年 (推計) | 25% | 75% |
2枚目はAIサーバーを載っている半導体の種類で割ったものである。GPU搭載機、ASICとその他、FPGA搭載機の3区分で、2023年から2025年が実績、2026年以降が予測にあたる。
| 年 | GPU | ASICとその他 | FPGA |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 72.2% | 24.3% | 3.5% |
| 2024年 | 74.5% | 22.8% | 2.7% |
| 2025年 | 75.9% | 20.9% | 3.2% |
| 2026年 (予測) | 69.7% | 27.8% | 2.5% |
| 2027年 (予測) | 67.0% | 30.5% | 2.5% |
| 2028年 (予測) | 63.1% | 34.5% | 2.4% |
| 2029年 (予測) | 60.2% | 37.6% | 2.3% |
| 2030年 (予測) | 58.5% | 39.5% | 2.0% |
ASICの比率は2023年から2年続けて下がっていた
2枚目の実績欄を左から読む。ASIC搭載機の比率は2023年の24.3%が最も高く、2024年に22.8%、2025年に20.9%へ落ちている。反対にGPU搭載機は72.2%から74.5%、75.9%へ上がった。投稿の「5年でASICがエヌビディアを食う」は、実績が示す向きと逆の予測である。
トレンドフォース自身の2026年1月20日付の発表は、この点を隠していない。2026年のASIC搭載機の比率27.8%を「2023年以来の最高」と書いている。つまり2026年に達成されるのは、2023年の水準への回復であって、それを超える新しい高さではない。予測欄の2030年の39.5%まで含めても、GPU搭載機は58.5%で多数派のままである。「台数ではGPUが多数派」という投稿の観察は、予測を含む8年分のどの年でも成り立つ。
1枚目と2枚目を同じ年で重ねると、食い違いが出る。推論の比率が30%から50%へ20ポイント上がった3年間に、ASICの比率は3.4ポイント下がった。推論を担ったのはGPUである。
推論が半分になった年に、GPUの売り手は最高益を出した
エヌビディアの2026年7月26日期の四半期は、売上高962億ドルで前年同期比106%増、データセンター売上高は890億ドルで117%増だった。売上総利益率は75.0%、純利益は596億8,800万ドルである。次の四半期の見通しは1,080億ドルで、四半期で2桁の伸びが続く。推論が支出の半分に達した年の決算がこれである。
同じ発表文に、投稿の分類では見落とされる1行がある。「Groq 3 LPX が本格量産に入った」という記述で、Groq は2025年12月24日にエヌビディアが約200億ドルで資産を取得した推論専用チップの会社である。Groq 側は「非独占のライセンス契約」と表現し、創業者のジョナサン・ロス氏らがエヌビディアへ移った。GPUを売る会社が、GPUではない推論専用の半導体を自社の製品として量産している。2枚目の3区分で言えば、この半導体は「ASICとその他」に入る。
推論の伸びがエヌビディアの外へ出ていくという見立ては、この1行と両立しない。同社の研究開発費は四半期70億5,400万ドルで、1年前の42億9,100万ドルから64%増えている。専用チップの側へ開発費を寄せる余力が、GPUの利益から出ている。
「出せる5社」の後ろに立つ設計会社の数字
投稿が挙げた5社は、自社の名前でチップを出す側である。実際にそのチップを設計し、製造の管理まで担う会社は別にいる。本誌はクラウド大手の専用チップとGPUの二本立てで分業の構図を書いた。ここでは同じ構図を、当局に出た数字で確かめる。
ブロードコムの2026年8月2日期の四半期は、売上高295億9,100万ドルで前年同期比86%増、純利益130億8,800万ドルだった。AI半導体の売上高は167億ドルで前年同期比221%増、前四半期比54%増である。次の四半期は217億ドルで236%増を見込む。四半期報告書には残存履行義務が約1,792億ドルと書かれ、そのうち約25%を12か月以内に売上として計上する見込みとある。2026年5月3日期に締結したカスタムAIアクセラレーターの長期契約がこれに含まれる。
| 会社 | 四半期 | 売上高 | 営業利益または純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| エヌビディア | 2026年7月期 | 962億ドル | 純利益596.9億ドル | データセンター890億ドル |
| ブロードコム | 2026年8月期 | 295.9億ドル | 純利益130.9億ドル | AI半導体167億ドル、残存履行義務1,792億ドル |
| マーベル | 2026年7月期 | 27.4億ドル | 営業利益4.6億ドル | 研究開発費7.4億ドル |
| インテル | 2026年6月期 | 161.3億ドル | 純損失110.3億ドル | ファウンドリー営業損失20.9億ドル |
OpenAI が2025年10月13日にブロードコムと結んだ契約は、10ギガワット分のアクセラレーターを2026年後半から2029年末までに展開するもので、両社は「18か月にわたり OpenAI の推論処理に合わせた設計に取り組んできた」と書いている。5社のうち少なくとも3社の名前は、決算上はブロードコムの売上として現れる。マーベルは同じ期に売上高27億3,900万ドル、営業利益4億6,000万ドルで、AWS の Trainium 3 の物理設計はアルチップが担い、メディアテックはグーグル向けの出荷を2026年下期に始める。出す側は5社でも、設計を実際に仕上げている側は台湾と米国の設計会社に集まっている。
「作れる3社」の3社目は、四半期で20.9億ドルの営業赤字
製造の側で投稿が挙げたのはTSMC、インテル、サムスンである。3社の並びは正しいが、3社の中身は同じではない。
インテルの2026年6月27日期の四半期は、売上高161億ドルで25%増だった。ファウンドリー部門の売上高は58億ドル、営業損失は20億8,900万ドルである。前年同期の損失31億6,800万ドルからは縮んだ。ただし58億ドルのうち外部の顧客から受けた受託製造・組立・検査の売上は2億9,300万ドルにとどまる。上半期でも4億6,700万ドルで、前年同期の2,200万ドルと5,300万ドルから増えたとはいえ、部門売上の5%に届いていない。残りは自社製品向けの内部取引である。
同じ四半期の純損失110億3,300万ドルは、米政府向けに預託した株式の時価評価損125億2,900万ドルが主因である。米政府が保有する持分と CHIPS 法に伴う仕組みで、営業の損益とは別の経路で数字が動いた。18A-P は量産前の試験生産に入り、2026年の総設備投資は約230億ドルを見込む。投稿が「$INTC」と添えた根拠はこの製造能力にあるが、外部顧客の売上が四半期3億ドルに満たない段階で「作れる3社」の1社として並ぶことと、そこへ資金を出す側が受け取る対価は、まだ一致していない。
サムスンは2025年7月にテスラから165億ドルの契約を得た。期間は2033年12月31日まで、対象はテスラのAI6で、テキサス州テイラー工場での量産は2027年後半に始まる。契約の相手は投稿の5社に入っていない会社で、しかも用途は車載と自社のデータセンター向けである。TSMC は2025年下期のファウンドリー市場で約72%、7nm以下では90%超を占め、AI向けウエハー需要は2022年から2026年で11倍、CoWoS の能力は2026年末に月11.5万〜14万枚へ向かう。「3社」の実態は、1社と、外部売上が四半期3億ドルの1社と、2027年後半に量産が始まる1社である。
日本には4社目の候補がある。ラピダスは北海道千歳の工場で2027年の2nm量産を目標に、月6,000枚から25,000枚へ増やす計画を掲げる。ただし量産契約を結んだ顧客はまだなく、60社超と協議中の段階にある。投稿の「3社」に日本の名前が入っていないのは、この1点による。
年次報告書に「推論」を書く会社と書かない会社
各社がこの転換をどう扱っているかは、当局に提出する書類の語数に出る。米国の9社の年次報告書で inference と training と GPU を数えた。
| 会社 | inference | training | GPU | foundry |
|---|---|---|---|---|
| エヌビディア | 5 | 18 | 67 | 11 |
| ブロードコム | 2 | 5 | 0 | 4 |
| マーベル | 1 | 4 | 4 | 32 |
| AMD | 7 | 7 | 69 | 9 |
| インテル | 8 | 7 | 31 | 166 |
| マイクロソフト | 2 | 16 | 0 | 1 |
| アルファベット | 1 | 5 | 4 | 0 |
| メタ | 0 | 7 | 0 | 0 |
| アマゾン | 0 | 2 | 0 | 0 |
ASICを「出せる5社」のうち、メタとアマゾンの年次報告書に inference は1回も出てこない。アルファベットは TPU を8回書くが inference は1回である。推論が支出の半分に達したという1枚目の主張は、推論のための専用チップを出しているとされる側の法定開示には、まだ語として現れていない。逆にエヌビディアとAMDは GPU をそれぞれ67回と69回書き、インテルは foundry を166回書く。何で稼ぐかが語数に出ている。
日本側も同じ物差しで数えた。2026年6月に提出された22社の有価証券報告書で「推論」を書いたのは、ソフトバンクグループ8回、キオクシアホールディングス6回、ソフトバンク3回、さくらインターネット1回の4社だけである。アドバンテスト、東京エレクトロン、ディスコ、イビデン、SCREEN、KOKUSAI ELECTRIC、東京精密は0回だった。推論への転換を書いたのは、装置や部材を売る側ではなく、メモリーとクラウドを売る側である。キオクシア (285A)は「2026年にはAIが大規模言語モデルの『学習』から『推論』へと移行し、推論ワークロードが急増すると予想されています」と記し、推論向けの高速SSDを2026年3月に発表したと続ける。本誌がKVキャッシュの仕組みと経済性で書いたとおり、推論の費用を決めるのはメモリーの容量と帯域であり、その転換を最初に書くのがメモリーの会社であることは筋が通っている。
日本で唯一の受託設計会社は、データセンターがまだ商談残高の中にある
「出せる5社」の後ろに立つ設計会社を、日本で探すと1社に行き着く。ソシオネクスト (6526)は顧客と仕様を決めてカスタムSoCを開発する設計専業で、有価証券報告書は「ASIC」を11回、「カスタム」を18回、「データセンター」を35回書く。2026年3月期の売上高は2,008億3,400万円で前期比6.5%増、うち製品売上が1,617億9,200万円、設計開発の対価であるNRE売上が383億2,500万円である。
ただし主要な顧客の欄を読むと、データセンターはまだ売上の中心にいない。加賀FEIが438億5,500万円で21.8%、中国の小鵬汽車系の投資会社が372億300万円で18.5%、CRS TECHNOLOGY が243億4,900万円である。売上の上位は代理店と車載で、「推論」という語は本文に1回も出てこない。データセンターは商談の側にある。商談獲得金額は2025年3月期の3,600億円程度から2026年3月期は3,100億円程度に減ったが、会社は「データセンター/ネットワーク分野を中心に大型商談を獲得」と書き、商談獲得残高は2022年3月末の約9,600億円から2026年3月末に約1兆5,100億円へ積み上がった。北米のデータセンター向け新規量産品は2026年度下期から販売が始まる。純利益は87億3,300万円で55.4%減った年に、2nm と1.4nm、CPO、3D/5.5D実装への投資を明記している。
もう1社のメガチップス (6875)は任天堂向けが売上の77.0%を占め、ASIC事業のLSI需要減で売上高は361億6,900万円と14.5%減った。保有する SiTime 株40万株の売却で2027年3月期に約480億円の特別利益を計上する予定で、設計の対価より投資の回収が利益を作る。日本の設計会社は、投稿の5社の後ろではなく、車載とゲーム機の後ろに立っている。
貿易統計と機械受注に出ている日本の位置
装置と部品の輸出先を見ると、日本がこの分業のどこにいるかが決まる。2026年1〜7月の半導体等製造装置の輸出額は、中国向けが9,919億円、台湾向けが7,659億円、韓国向けが5,475億円で、米国向けは2,808億円である。半導体等電子部品は台湾向け1兆2,682億円、中国向け1兆2,169億円に対し、米国向けは1,563億円にとどまる。電算機類 (周辺機器を含む) の輸出は米国向け798億円で、この798億円は同じ期間の半導体等製造装置の4か国向け合計2兆5,861億円の3.1%にすぎない。
| 品目 (2026年1〜7月) | 台湾 | 中国 | 韓国 | 米国 |
|---|---|---|---|---|
| 半導体等製造装置 | 7,659億円 | 9,919億円 | 5,475億円 | 2,808億円 |
| 半導体等電子部品 | 1兆2,682億円 | 1兆2,169億円 | 3,590億円 | 1,563億円 |
| 電算機類 (周辺機器を含む) | 58億円 | 179億円 | 70億円 | 798億円 |
| 電算機類の部分品 | 42億円 | 1,106億円 | 148億円 | 1,562億円 |
「作れる3社」の工場がある台湾・米国・韓国と、そこに並ぶ中国へ、日本は装置と部品を売っている。内閣府の機械受注統計で電子応用装置の受注額合計は2026年3月に1,986億3,600万円と突出し、4月723億1,300万円、5月629億1,900万円を経て6月に1,184億3,600万円へ戻った。装置の受注は四半期の締めに寄る。本誌がHigh NA と AI 需要で確かめたように、装置を売った側の資料が買う側の順番を決める構図は、ここでも同じである。
米国の統計では半導体の値段が下がり、生産だけが増えている
米労働省の生産者物価で、半導体・関連デバイス製造は2026年8月に28.47で前年同月比3.1%低下、2019年1月比では12.7%低い。一方で連邦準備制度理事会の鉱工業生産指数は、半導体・電子部品が2026年7月に191.90で11.9%上昇、2019年1月比85.0%上昇である。値段は下がり、量は増えている。AIサーバーに載る記憶装置の生産者物価が88.0%上がっているのと対照的で、推論の支出が増えても、半導体という品目の単価は統計上は上がっていない。
この差は2枚目の読み方を変える。ASIC搭載機の比率が上がるとき、増えるのは台数であって単価ではない。エヌビディアの売上総利益率75.0%が続く限り、比率の低下は売上の低下を意味しない。逆に、ASICの比率が1ポイント上がるごとにブロードコムの売上が1ポイント増えるという関係も、統計からは出てこない。
2枚の図に残る4つの空欄
第1に、出荷構成比の2026年欄である。トレンドフォースは2026年8月3日にAIサーバー出荷の伸びを28%から31%近くへ上方修正した。ASIC搭載機の比率27.8%が実績でも達成されれば、3年ぶりに比率が上がった年になる。
第2に、ブロードコムの次の四半期である。AI半導体217億ドルの見込みと、残存履行義務1,792億ドルが売上に変わる速さ。25%が12か月以内という記述どおりに進めば、年450億ドル前後が契約から売上へ変わる。
第3に、インテルの外部顧客である。四半期2億9,300万ドルの外部売上が、18A-P と 14A の採用でどこまで伸びるか。営業損失20億8,900万ドルの部門を「作れる3社」に数え続けるには、この数字が要る。
第4に、日本の2社である。ソシオネクストの北米データセンター向け量産が2026年度下期に始まり、商談残高1兆5,100億円のうち製品売上へ変わる額が有価証券報告書に出る。ラピダスの60社超との協議が、1社でも量産契約に変わるかどうか。投稿の「5社」と「3社」に日本の名前が入るかは、この2つで決まる。
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