業績が伸びているのに株価が下がった、という説明は途中で止まっている。売った側の名前も、買い手が消えた日も、公表された報告書に書かれていた。本誌は5銘柄の需給の記録を1件ずつあたり、金利の側と突き合わせた。
日本株から5銘柄を選んだ一覧が広まっている。会社予想の上方修正がある、株価は年初来高値から2割から3割下げている、評価倍率も下がっている、需給が極端に重くない、反転のきっかけがある、という7つの条件で東京精密 (7729)、アシックス (7936)、KOKUSAI ELECTRIC (6525)、フジクラ (5803)、MonotaRO (3064) を並べたものである。作成者は「単なる株価が下がったから割安ではなく、企業価値と株価の逆行を狙う」と書き、信用需給についても「倍率だけでなく、買い残の絶対量、増えているか減っているか、出来高に対してどの程度重いか」まで見たと説明している。
本誌は、その5銘柄について公表された需給の一次記録を全部あたった。空売り残高報告、信用取引の週末残高、日本証券金融の貸借取引残高と逆日歩、自己株券買付状況報告書、臨時報告書、有価証券報告書の所有者別状況と大株主の欄。加えて、内閣府の機械受注統計、米証券取引委員会に提出されたMonotaROの親会社の四半期報告、セントルイス連邦準備銀行が配信する金利・為替・原料の統計を突き合わせた。
まず出発点の数字を確かめておく。株価と時価総額は、有価証券報告書に載る発行済株式総数と一致する。東京精密は42,282,881株、KOKUSAI ELECTRICは238,115,614株、MonotaROは496,155,600株で、終値を掛ければそれぞれ約7,070億円、約2兆0,656億円、約9,266億円になる。フジクラは2026年4月1日付で1株を6株に分割し、発行済株式総数が295,863,421株から1,775,180,526株へ増えている。分割前の株数で計算すると時価総額は6分の1になってしまう。アシックスは2024年7月1日付で1株を4株に分割したうえ、2025年2月28日に2,500万株を消却し、現在の発行済株式総数は734,482,236株である。
| 銘柄 | 主な事業 | 株価 (9月9日) | 年初来高値 | 高値からの下落率 | 時価総額 | 予想の株価収益率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 東京精密 (7729) | 半導体製造装置・測定機 | 16,720円 | 21,310円 | ▲21.5% | 約7,070億円 | 22.0倍 |
| アシックス (7936) | スポーツ用品 | 4,100円 | 5,440円 | ▲24.6% | 約3兆0,110億円 | 24.2倍 |
| KOKUSAI ELECTRIC (6525) | 半導体製造装置 | 8,675円 | 12,220円 | ▲29.0% | 約2兆0,656億円 | 36.5倍 |
| フジクラ (5803) | 電線・光通信 | 5,493円 | 7,933円 | ▲30.8% | 約9兆7,510億円 | 27.9倍 |
| MonotaRO (3064) | 間接資材の通信販売 | 1,867.5円 | 2,529円 | ▲26.1% | 約9,266億円 | 25.6倍 |
売り手の名前は、金融庁への報告に残っている
発行済株式総数の0.5%以上の空売り残高を持つ者は、金融商品取引法にもとづき、名前と株数を報告する義務を負う。報告は翌々営業日に日本取引所グループが公表する。株価が下がったときに「誰が売っているのか」を推測する必要は、この水準までは無い。
5銘柄のうち、報告があるのは2銘柄だけだった。KOKUSAI ELECTRICには5社、東京精密には1社。アシックス、フジクラ、MonotaROには1件も無い。
| 銘柄 | 報告者 | 計算日 | 残高比率 | 株数 | 9月9日終値での換算 |
|---|---|---|---|---|---|
| KOKUSAI ELECTRIC | バークレイズ・キャピタル証券 | 2026-09-01 | 0.83% | 1,979,071株 | 約171.7億円 |
| KOKUSAI ELECTRIC | JPモルガン証券 | 2026-09-04 | 0.80% | 1,903,088株 | 約165.1億円 |
| KOKUSAI ELECTRIC | モルガン・スタンレーMUFG証券 | 2026-09-08 | 0.61% | 1,464,551株 | 約127.0億円 |
| KOKUSAI ELECTRIC | 野村インターナショナル | 2026-09-07 | 0.45% | 1,084,752株 | 約94.1億円 |
| KOKUSAI ELECTRIC | ゴールドマン・サックス・インターナショナル | 2026-09-03 | 0.27% | 662,774株 | 約57.5億円 |
| 東京精密 | 野村インターナショナル | 2026-09-02 | 0.61% | 258,895株 | 約43.3億円 |
| アシックス | 報告なし | ― | ― | ― | ― |
| フジクラ | 報告なし | ― | ― | ― | ― |
| MonotaRO | 報告なし | ― | ― | ― | ― |
KOKUSAI ELECTRICの5社を足すと2.96%、株数で7,094,236株、金額に直して615.4億円にあたる。「中国規制への警戒で株価が調整」という一般的な説明の下で実際に起きていたのは、この5社が合わせて600億円強の売り持ちを抱えている状態である。
向きは一方通行ではなく、報告者の間で割れている
日々の報告を並べると、5社が足並みをそろえて売り増しているわけではないことが分かる。ゴールドマン・サックスは8月31日の0.94%から9月1日の0.72%、9月3日の0.27%へと3営業日で3分の1以下に減らした。野村インターナショナルも8月31日の0.81%から9月2日0.77%、9月4日0.68%、9月7日0.45%と段階的に減らしている。一方でバークレイズは8月28日の0.74%から9月1日の0.83%へ、モルガン・スタンレーMUFGは9月1日の0.45%から9月4日0.63%、9月8日0.61%へと積んでいる。同じ銘柄の同じ週に、買い戻す側と積む側が同時に存在する。
報告者の顔ぶれ自体にも意味がある。本誌が報告の全件を報告者別に集計すると、バークレイズ・キャピタル証券が591銘柄で最も多く、モルガン・スタンレーMUFG証券540、ゴールドマン・サックス・インターナショナル451、野村インターナショナル269、JPモルガン証券207と続く。KOKUSAI ELECTRICに報告しているのは、この上位5社そのものだった。報告のある銘柄は市場全体で1,332に及ぶ。
上位に並ぶのはいずれも顧客の注文を受けて売買する証券会社であり、自分の相場観だけで持ち高を作る主体ではない。5社がそろって同じ銘柄に残高を持つ状態は、特定の弱気筋が狙い撃ちしている姿より、指数に連動する商品への対応、転換社債や派生商品の裁定、貸株の在庫といった、注文を受けた側の事情が重なった姿に近い。ただし報告義務は0.5%以上にしか及ばない。0.5%に届かない空売りは、どれだけ積み上がっても名前が出ない仕組みになっている。
買い手は7月末に、金額の枠を使い切って消えた
一覧はアシックスの自社株買いを「明確な需給改善のきっかけ」として挙げ、他の4銘柄については自社株買いに触れていない。EDINETの自己株券買付状況報告書を引くと、実際にはKOKUSAI ELECTRICとMonotaROの2社も自社株買いを実行していた。しかも、どちらも7月中に金額の枠を使い切って止まっている。
MonotaROは2026年2月3日の取締役会で、2月4日から12月30日を取得期間とし、上限8,000,000株・100億円の取得を決議した。7月31日時点の累計は5,209,200株・99億9,995万1,700円で、進捗は株数で65.12%、金額で100.00%に達している。7月中の取得は0株だった。残る金額の枠は48,300円しかない。取得期間は12月30日まで残っているが、金額の枠が尽きているため、決議の枠内で買える株はほぼ無い。
KOKUSAI ELECTRICは2026年5月13日の取締役会で、5月14日から7月31日を取得期間とし、上限1,500,000株・53億円を決議した。7月末の累計は565,900株・52億9,948万480円で、進捗は株数37.73%、金額99.99%。取得期間そのものが7月31日で終わっている。
どちらも株数では上限の3分の1から3分の2しか使っていないのに、金額の枠は使い切った。株価が想定より高い水準で推移すれば、同じ金額で買える株数は減る。枠を金額で切った買い付けは、株価が高いほど早く終わる仕組みを内側に持つ。
KOKUSAI ELECTRICの報告書には、7月の18営業日ぶんの取得が日付と株数と金額で記載されている。7月21日までの12営業日は1日あたり8,400株から17,400株で推移していたが、22日以降の5営業日は34,600株、31,900株、32,400株、29,100株、37,800株と、およそ2倍に増えた。期限が7月31日、金額の枠が53億円という条件のもとで、残った枠を使い切る動きにあたる。最後の取得は7月29日である。
同じ7月に、KOKUSAI ELECTRICは新株予約権の権利行使に応じて自己株式を181,407株・6億9,316万円ぶん処分している。取得354,700株から処分181,407株を差し引くと、市場から吸収したのは173,293株にとどまる。買いながら売っていた。
自己株式を放出する側に回った1社と、子会社を畳んだ1社
フジクラが2026年8月7日に提出した臨時報告書は、自社株買いではなく自己株式の処分を扱っている。従業員持株会向けの譲渡制限付株式インセンティブ制度にもとづき、フジクラ従業員持株会を割当予定先として自己株式を処分する決議である。需給の向きとしては供給側にあたる。フジクラの保有自己株式数は分割前で19,463,290株、分割後の株数に直すと116,394,761株で、発行済株式総数1,775,180,526株の6.56%を占める。
アシックスが2026年8月14日に提出した臨時報告書は、特定子会社であるアシックス商事株式会社の解散および清算の方針を決めたことを届け出るものだった。上方修正と自社株買いの発表と同じ月に、子会社を1つ畳む決定が並んでいる。一覧はこの届け出に触れていない。
信用買い残が4週で5.85倍になった銘柄
一覧は信用需給について「倍率だけでなく絶対量と増減と出来高との比まで見た」と書き、アシックスを「信用買い残は増えており完全に軽いとは言えないが、自社株買いという明確な需給改善のきっかけがある」と評価している。週末残高の実数を並べると、増え方の大きさは「完全に軽いとは言えない」という表現では収まらない。
アシックスの信用買い残は8月7日の491,000株から、14日951,800株、21日1,607,000株、28日1,970,500株、9月4日2,874,400株へ増えた。4週で2,383,400株、率にして485.4%の増加である。直近の1週だけでも903,900株、45.9%増えている。同じ期間に売り残は553,900株から350,600株へ減った。9月10日から始まる自社株買いを見込んだ買いが、開始前の4週で積み上がった姿にあたる。
残る4銘柄の動きはまるで違う。東京精密は+3.3%、KOKUSAI ELECTRICは+5.7%、フジクラは+2.9%といずれも1桁の増加にとどまり、MonotaROは1,293,500株から965,900株へ25.3%減った。信用の整理が進んだのはMonotaRO1銘柄だけである。
絶対量を比べるには物差しが必要になる。信用買い残に株価を掛けて時価総額と比べると、フジクラが1,326.4億円で時価総額の1.36%、KOKUSAI ELECTRICが199.5億円で0.97%、アシックスが117.9億円で0.39%、東京精密が16.7億円で0.24%、MonotaROが18.0億円で0.19%になる。フジクラの2,414万株は東京精密の10万株の241倍にあたるが、時価総額との比では5.6倍の差にとどまる。株数の大小をそのまま重さと読むと、規模の違う銘柄を比べられない。
買いと売りの偏りを示す信用倍率では、フジクラの23.94倍が突出している。他の4銘柄は7.46倍から8.20倍の範囲に収まる。一覧は「出来高も非常に大きいため、単純に信用が多い、すなわち重いとは判断しにくい」と書くが、偏りそのものは残る4銘柄の約3倍にあたる。
日本証券金融が毎営業日に公表する貸借取引の回転日数を見ると、KOKUSAI ELECTRICの10.4日が最も短く、東京精密の23.0日が最も長い。同じ「調整」でも、KOKUSAI ELECTRICは短い売買が主で、東京精密は持ち越しが主という違いが出る。
1,031銘柄に逆日歩が付いた日に、この5銘柄には付かなかった
逆日歩は、証券金融会社が貸し出す株が足りなくなったときに、売り方が買い方へ払う追加の費用にあたる。株不足の度合いを日次で映す数字であり、株価が急に戻る型のうち、売り方が買い戻しを迫られて起きるものの前触れになる。
2026年9月9日、市場全体では1,031件の逆日歩が発生した。9月8日は995件、9月7日は1,058件、9月4日は1,109件、9月3日は1,113件である。この5銘柄はいずれも0件だった。アシックスとKOKUSAI ELECTRICに至っては貸株残高そのものが0株で、証券金融会社が株を貸し出す必要すら生じていない。貸株の在庫は潤沢で、空売りを続ける費用は上がっていない。売り方が締め上げられて反発する筋書きは、現時点では成り立たない。
評価倍率が下がった理由は、利益ではなく金利にある
一覧の7つの条件のうち、「PERなどの評価倍率が業績に対して低下している」という項目は、5銘柄に等しく当てはまるわけではない。有価証券報告書に載る期末の株価収益率と現在の予想の株価収益率を比べると、フジクラは43.08倍から27.9倍へ35.2%縮み、アシックスは27.2倍から24.2倍へ11.0%、KOKUSAI ELECTRICは38.85倍から36.5倍へ6.0%縮んだ。東京精密は21.7倍から22.0倍で、ほとんど動いていない。
倍率の変化を読むには、逆数に直して国債の利回りと並べるのが早い。株価収益率の逆数が益回りで、1株当たり利益を株価で割った値にあたる。東京精密は4.55%、アシックスは4.13%、MonotaROは3.91%、フジクラは3.58%、KOKUSAI ELECTRICは2.74%になる。
日本の長期国債利回りは2026年6月に2.670%だった。KOKUSAI ELECTRICの益回りとの差は0.07ポイントしかない。国債を持っても株を持っても、期待される利回りがほぼ同じ水準にある。フジクラでも0.91ポイント、最も差が大きい東京精密で1.88ポイントにとどまる。
この長期国債利回りは、2018年12月に▲0.010%、2021年12月に0.070%、2022年12月に0.410%、2023年12月に0.620%、2024年12月に1.090%、2025年12月に2.060%と推移してきた。2024年12月から2026年6月までの1年半で1.58ポイント上がっている。同じ期間の米10年国債は4.58%から4.80%へ0.22ポイントの上昇にとどまる。国内の割り引く率が上がる速さが、海外より速い。
利益が同じでも、要求される利回りが1.58ポイント上がれば、株価収益率は機械的に縮む。「業績は伸びているのに評価倍率が下がった」という現象の相当部分は、分子の利益ではなく分母の割引率で説明がつく。一覧が「評価倍率も低下」を割安の証拠として並べているところに、金利の側の説明は入っていない。
機械受注で唯一伸びていない機種
半導体製造装置の需要が続いているかどうかを、会社の言葉ではなく統計で測る手がある。内閣府の機械受注統計は、国内の機械メーカーが受けた注文を機種別に月次で集計している。半導体製造装置は「電子応用装置」に含まれる。
2026年1月から6月の合計を前年同期と比べると、電線・ケーブルが+25.9%、産業用ロボットが+38.2%、工作機械が+30.3%、機械受注の合計が+30.7%と、いずれも2桁で伸びている。電子応用装置だけが6,269億円から6,136億円へ▲2.1%と減った。
同じ機種の6月単月は前年同月比+63.3%である。月次と半期で向きが逆になる理由は、2025年3月に2,468億円という大口が立っていることにある。2026年3月の1,986億円と比べると482億円の差が出て、この1か月で半期の伸びが消える。「足元の受注は強い」と「上期の受注は伸びていない」は、同じ統計から同時に読める。
この統計は国内で立つ注文を集めるもので、輸出向けの受注は原則として入らない。半導体製造装置は輸出比率が高いため、各社の受注全体をそのまま映すわけではない。それでも、国内の注文が伸びていない事実は、装置の需要が全面的に加速しているという説明とは合わない。一覧が東京精密について書く「第1四半期の受注高が前年同期比+83%」は会社が示した1社ぶんの数字であり、業界全体の統計とは別の話にあたる。
円高懸念という説明と、実際に起きていた円安と銅高
アシックスの調整について、一覧は「円高や海外スポーツ関連株安への警戒」を挙げている。為替の実勢を確かめると、向きは逆だった。
円の対ドル相場の月次平均は、2025年12月の155.92円から2026年8月の158.85円へ1.9%の円安になっている。株価の説明に使われる「円高懸念」は、実勢ではなく先行きの見方を指す。日本の長期国債利回りが1年半で1.58ポイント上がった事実は、その見方が根拠を持つことを示すが、実際の為替はまだ動いていない。期待と実勢を分けずに「円高で売られた」と読むと、業績への影響を二重に数えることになる。
フジクラには別の圧力がかかっている。銅の国際価格は2025年12月の1トン11,791ドルから2026年7月の13,543ドルへ14.9%上がった。フジクラの有価証券報告書は「銅」を17回書いており、原価を動かす要因として扱われている。一覧は「AI・データセンター向けの光通信需要は依然強い」と需要の側だけを見ているが、原材料の側は同じ期間に15%近く上がった。
半導体の側では、価格の向きが装置と製品で逆になっている。米国の生産者物価で半導体製造装置は2025年12月の106.623から2026年7月の108.223へ1.5%上がり、半導体・関連デバイスは29.668から28.987へ2.3%下がった。装置を作る側の値決めは強く、チップを作る側は弱い。コンピュータ・電子製品の生産指数は同じ期間に168.80から183.61へ8.8%上がり、生産量そのものは増え続けている。
親会社の四半期報告が、日本の開示より細かい数字を出す
MonotaROの株式の50.33%は、米W.W.グレンジャーの傘下にあるGRAINGER GLOBAL HOLDINGS, INC.が保有する。親会社は米証券取引委員会に四半期ごとに報告書を提出しており、そこにMonotaROを含む区分の数字が英語で載る。
2026年8月4日に提出された四半期報告書によると、MonotaROとZoroを合わせた「Endless Assortment」区分の1月から6月の売上高は20億4,400万ドルで前年同期の17億5,700万ドルから16.3%増、営業利益は2億2,600万ドルで前年同期の1億6,400万ドルから37.8%増えた。営業利益率は9.3%から11.1%へ1.8ポイント上がっている。増収の理由として「MonotaROにおける大口顧客の増加」が明記されている。
日本側の開示には出ない数字が3つある。日次かつ恒常為替でならした売上高の伸びが+21%であること、為替の逆風が上期で4ポイント (第2四半期では6ポイント) あったこと、区分の営業利益率が11.1%であること。円建てで見た日本の数字と、ドル建てで見た米国の数字の差は、ここに現れる。
グレンジャー自身が年次報告のリスク要因の記載で「東証の上場規則と日本の法令にもとづくMonotaROの開示および報告の義務は、その時期を含めて、ニューヨーク証券取引所の上場規則と米国の法令にもとづく当社の義務と異なり、今後も異なり続ける可能性がある」と書いている。開示の時期がずれることを、親会社が自らリスクとして記載している。
借入の条件も米国側の書類に出る。MonotaROは物流拠点網の拡張のため、2025年に130億円、2026年に75億円の円建てタームローンを組んだ。加重平均の金利は2025年分が1.27%、2026年分が1.74%で、1年で47ベーシスポイント上がっている。満期はいずれも2035年で、2028年9月から2035年6月まで毎月均等に元本を返す。物流投資を借入で賄う会社にとって、金利の上昇は評価倍率だけでなく損益にも効く。非支配株主に帰属する利益は上期で4,700万ドルから5,600万ドルへ19.1%増えた。
外国法人が8割を持つ銘柄と、大株主の欄に出ていた売り手
誰が株を持っているかは、有価証券報告書の所有者別状況に区分ごとの比率で載る。
外国法人等の比率は、MonotaROが81.80%、KOKUSAI ELECTRICが66.30%、アシックスが53.44%、フジクラが37.62%、東京精密が36.91%である。MonotaROの81.80%には親会社の持ち株会社の50.33%が含まれるため、市場で実際に動く株はおよそ半分にとどまる。KOKUSAI ELECTRICは金融商品取引業者の区分が5.17%と5銘柄で最も高い。証券会社が自己の勘定や貸株の在庫として持つ株が多いことを示し、5社の空売り残高報告と符合する。
そして、KOKUSAI ELECTRICの売り手の名前は空売りの報告ではなく大株主の欄に出ていた。KKR HKE INVESTMENT L.P.の保有は2025年3月31日の42,505,000株・18.25%から、2026年3月31日の24,692,000株・10.57%へ減っている。差は17,813,000株、7.68ポイントにあたる。同じ期間に、上位10位にあったBNYM AS AGT/CLTS NON TREATY JASDECの15.06%が上位から消えた。買収した投資会社が持ち分を段階的に減らす局面では、証券会社が引き受けと同時に持ち高を調整するため、空売り残高の報告が並んで出ることがある。
会社自身が下期の減益を織り込んでいる
一覧は「業績や利益見通しが悪化していない」を条件の筆頭に置く。上方修正の内容は確かに強い。ただし、通期の予想から上期の実績を差し引くと、会社が下期に置いている前提が出てくる。
アシックスの2026年1月から6月の親会社株主に帰属する中間純利益は821.71億円で、前年同期の536.06億円から53.3%増えた。通期の予想は1,200億円である。差し引くと7月から12月は378.29億円になり、前年同期の451.13億円に対して16.1%の減益にあたる。上期に53.3%増やした会社が、下期は16.1%減ると置いている。上方修正を発表した8月の時点で、この前提が織り込まれていた。
MonotaROは逆の形をしている。上期は売上高が20.6%、営業利益が24.9%、純利益が20.5%増えた。通期の予想は据え置かれており、株価と予想の株価収益率から逆算すると通期の純利益は約358.7億円になる。上期の185.78億円を差し引くと下期は172.96億円で、前年同期の170.17億円に対して+1.6%にとどまる。上期が20.5%で下期が1.6%という前提には、修正の余地が残る。一覧が「通期予想はまだ据え置きだが、上方修正余地を残している可能性がある」と書いた点は、数字で裏づけられる。
直近の実績が減益だった1銘柄
一覧は東京精密を「業績の確度と需給の軽さと割安感のバランスが最も良い」として本命に挙げている。需給の軽さは数字で確かめられる。信用買い残は10万株で時価総額の0.24%、5銘柄で最も軽い。空売り残高の報告も1社0.61%にとどまる。
ただし業績の推移には注釈が付く。2026年3月期の1株当たり当期純利益は610.02円で、前期の633.75円から3.7%減っている。自己資本利益率も15.5%から13.5%へ下がった。売上高は1,505.34億円から1,668.39億円へ10.8%増えているので、増収減益にあたる。今期の会社予想である純利益308億円は、自己株式を除いた40,777,295株で割ると1株当たり755.3円で、前期比+23.8%になる。この+23.8%は、減益の後の戻りを含む数字である。
同じ物差しを他の4銘柄に当てると、アシックスは前期の138.13円に対して169.30円で+22.6%、フジクラは94.93円に対して196.88円で+107.4%、MonotaROは65.27円に対して72.95円で+11.8%になる。フジクラの倍増は、2026年3月期の実績自体が経常利益+45.4%、純利益+72.5%、自己資本利益率32.48%という強い数字だったところからの上積みである。
読者が自分で確かめる4つの手順
ここまでの数字は、有料の情報端末を使わずに全部取れる。手順は決まっている。
第1に、日本取引所グループの空売り残高報告を銘柄で引く。0.5%以上の残高を持つ者の名前と株数と計算日が並ぶ。報告が無ければ、その銘柄は開示対象の空売りの標的になっていない。連日の数字を並べれば、積んでいるのか減らしているのかも分かる。
第2に、EDINETで自己株券買付状況報告書を引く。自社株買いを決議した会社は毎月提出する義務があり、その月に何株をいくらで買ったかが日付つきで載る。株数の進捗と金額の進捗を両方見て、金額の側が100%に近ければ、その買い付けは決議の期間が残っていても実質的に終わっている。
第3に、日本証券金融の逆日歩を見る。貸株が不足していれば費用が発生し、不足していなければ0のままである。売り方が締め上げられて株価が急に戻る型を期待するなら、この数字が動いているかどうかが前提になる。
第4に、株価収益率を逆数にして長期国債の利回りと比べる。差が1ポイントを切っていれば、株を持つ理由は利回りの差ではなく利益の成長そのものに絞られる。金利が上がる局面では、利益が伸びても倍率が縮む。
一覧が掲げた「企業価値と株価の逆行」という枠組みは、利益の増額率と株価の下落率を並べた差として38.6ポイントから74.7ポイントの幅で確かに存在する。ただし利益の増額率は会社が示す見通しであり、株価の下落は既に起きたことである。見通しは修正されるが、下落は取り消されない。買い手が7月末に枠を使い切って消えたこと、5社の証券会社が合わせて2.96%の売り持ちを抱えていること、貸株の在庫が潤沢で踏み上げの芽が無いこと、長期国債の利回りが1年半で1.58ポイント上がったこと。この4つは、いずれも一覧に書かれていないまま、公表された記録に残っている。
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