三重県の6月の生産指数が2割落ち、大和証券は四日市のNANDが1か月だけ減産したと読んだ。指数の元になる経産省の数量は動いておらず、落ちたのは1個あたりの金額だった。相場日程表の12項目も公表日程で確かめた。
大和証券が顧客向けに配った資料の30ページは「メモリ AI→汎用品シフトで業績下支え」と題し、3つの図と1つの表で三重県のメモリ生産を描いている。同じ資料を引いて出回っている要約は「三重県の生産動向。キオクシアの大減産は1か月で終了。8月は生産量回復。AIサーバー向けはまだ回復しないため決算は明らかに鈍化するが、その後回復が見えてきた」という3文に縮まっている。本稿は資料の図表を元データから描き直し、3文のそれぞれが統計のどの数字に対応し、どこまでが実測でどこからが計画や見立てなのかを分ける。資料と併せて出回っている9〜11月の相場日程表は、12項目を公表済みの日程と結果に当てた。
表の5品目は経産省の速報でどこまで確かめられるか
資料の左上の表は、7月の鉱工業生産で前月比が目立った5つの財を並べている。モス型IC (メモリ) は5月+28.1%、6月▲54.2%、7月+53.1%。外部記憶装置は+39.1%、▲10.9%、+43.2%。通信用ケーブル光ファイバ製品は▲10.5%、+14.4%、+19.9%。電力用電線・ケーブルは▲2.7%、+10.2%、+10.8%。半導体製造装置は▲0.4%、+11.1%、+10.7%である。経済産業省が8月31日に公表した7月分速報は、上昇に寄与した品目の1位を半導体製造装置 (前月比10.7%、寄与度0.41ポイント)、2位をモス型IC (メモリ) (53.1%、0.21ポイント) と記しており、7月の2つの値は速報の本文と一致する。残る3品目の率は速報の本文に載らず、経産省が公表する品目別の時系列で確かめる必要がある。
同じ速報で、鉱工業全体の生産指数は104.7 (前月比+0.1%) と4か月連続の上昇、出荷は103.5 (+2.2%)、在庫は98.1 (+0.5%) だった。電子部品・デバイス工業は生産が+2.6%で上昇業種の3位、在庫は▲7.5%で在庫低下の1位である。経産省の業種別時系列では電子部品・デバイス工業の6月は▲6.1%で、メモリの▲54.2%が業種全体を6%押し下げた計算になる。大和総研は同じ速報を「コンセンサス▲0.7%を上回った」と評価し、経産省は基調判断を「一進一退」に据え置いた。
三重県の指数はなぜ四日市の鏡になるのか
資料の右上の図は三重県の主要業種別生産指数で、出所は三重県庁である。三重県はキオクシアの四日市工場 (NAND6棟) を抱え、県の電子部品・デバイス工業の指数は事実上この工場の稼働を映す。県の公表値では、生産指数 (総合、季節調整済、2020年=100) は2月126.3、3月123.4、4月139.1、5月164.3 (前月比+18.1%、2か月連続上昇) と上がり、6月に131.2 (▲20.1%、3か月ぶり低下) へ落ちた。6月の低下業種は電子部品・デバイス工業、輸送機械工業、非鉄金属工業で、5月の上昇業種にも電子部品・デバイス工業が入っている。
電子部品・デバイス工業の線は2025年12月ごろまで100前後で推移し、2026年1月に200を超え、5月に378、6月に244.0となった。5月から6月の下げ幅は35%で、総合の20.1%より大きい。輸送機械工業も5月の155前後から6月に112.1へ落ちており、県総合の低下は電子部品だけの話ではない。図2の値のうち2026年1〜6月の総合と各線の6月末の値は県の公表値で、それ以外は県庁の図から本誌が読み取ったもので、3ポイント程度の誤差を含む。
ここで押さえるべきは公表の順番である。三重県の6月分は8月下旬に出た。経産省の7月分速報は8月31日、生産動態統計の7月分は同じ月末に出ている。県の指数は全国の指数から約1か月遅れて同じ月を映す二次的な鏡であり、「三重県の生産動向」を先に見る意味は、キオクシアという1社の動きが業種の値としてほぼそのまま出るところにある。
数量は動いていない、落ちたのは単価
資料の下2つの図は経産省の生産動態統計「メモリ」で、生産金額・販売金額・月末在庫数量と、生産数量・生産金額・生産単価を2024年1月から2026年7月まで描いている。本誌は同じ系列を経産省の時系列表 (2024年はe-Stat、2025年は年報で補正した時系列、2026年は確報と7月速報) から取り直した。この統計の「メモリ」はNANDとDRAMの合計で、国内の生産拠点はキオクシアの四日市・北上とマイクロンの広島である。
生産金額は2026年1月の1,199億6,400万円から5月の2,865億7,700万円まで5か月で2.4倍になり、6月に1,995億6,100万円 (前月比▲30.4%) へ落ち、7月に2,333億7,600万円 (+16.9%) へ戻した。販売金額は6月に2,722億4,100万円と最高を付けており、生産が落ちた月に出荷は増えている。月末在庫数量は5月末4,378万個から6月末3,542万9,000個へ減り、7月末は3,945万6,000個である。
生産数量を見ると、5月4,789万5,000個、6月4,800万8,000個、7月5,434万1,000個で、6月は前月比+0.2%とほぼ横ばいである。生産金額を生産数量で割った1個あたりの生産単価は、5月5,983円、6月4,157円、7月4,294円で、6月の下げ幅は30.5%になる。金額の減少はほぼ全てが単価の低下で説明でき、個数は減っていない。
単価の推移そのものが、この2年のメモリ市況の要約になっている。2024年1月に675円だった単価は2025年12月に1,780円、2026年1月に2,370円、3月に3,658円、5月に5,983円と上がった。個数はこの間ほぼ横ばいで、四日市と北上の設備が急に増えたわけではない。伸びたのはAIサーバー向けの大容量SSDに載る高単価のダイの比率と、その価格である。6月に単価が3割落ちたのは、その比率が下がり、スマートフォンやパソコン向けの汎用品が増えたためで、資料の題名「AI→汎用品シフト」はこの単価の動きを指している。
資料の図の再現で1つ食い違いが出た。大和証券の図で「月末在庫数量 (右軸、千個)」と表示された線は、2025年3月に12万個台の山を作っている。経産省の在庫系列にはこの山が無く、2025年3月の在庫は4,983万7,000個である。同じ月の生産数量は1億2,509万3,000個で、大和証券の線はこの生産数量の系列と重なる。2026年に入ると同じ線は在庫系列と一致するため、図の途中で系列が入れ替わっている可能性がある。本誌の図は経産省の在庫数量をそのまま描いた。
指数が半減する仕組み ― 金額を物価で割る
個数が横ばいで、金額が3割減で、指数が54.2%減。この3つの数字が同時に成り立つ理由は、鉱工業指数の作り方にある。経産省の解説書「鉱工業指数のしくみと見方」は、一部の品目は数量ではなく金額を採用し、指数化する際に企業物価指数で実質化してから指数化すると説明している。金額を価格指数で割った系列は実質金額と呼ばれ、概念上は数量指数と同じ扱いになる。メモリのように容量も用途も異なる品を「個」で足しても意味が薄く、実質金額が数量の代わりになる。
6月は割られる側の金額が3割落ちた。同じ月、割る側の企業物価は上がっている。日本銀行の企業物価指数の6月速報は、輸出物価の電気・電子機器の上昇寄与 (+0.44%) の主な品目にモス型メモリ集積回路を挙げ、7月速報でも同じ品目が上昇の主因 (+0.13%) に挙がっている。分子が減って分母が増えれば、指数は金額の減り幅を超えて落ちる。三重県の電子部品・デバイス工業の指数が378から244.0へ35%落ちたのも同じ作りで、いずれも「個数の半減」を意味しない。
したがって要約の1文目「キオクシアの大減産は1か月で終了」は、指数の上では正しく、工場の個数の上では起きていない。四日市の稼働率が下がった証拠は、経産省の数量にも、キオクシアの決算説明にも無い。7月31日の決算説明でキオクシアは第8世代BiCS FLASHの生産比率が50%を超え、北上で第10世代の生産を始めたと述べており、減産や稼働率の低下には触れていない。
「8月は回復」は実測ではなく計画の数字
要約の2文目「8月は生産量回復」の根拠は、経産省が7月分速報と同時に公表した製造工業生産予測指数である。8月調査で製造工業の8月見込みは前月比+6.4%、傾向的な上振れを補正した補正値は+3.1% (推計幅+1.5〜+4.7%)、9月見込みは▲4.2%だった。電子部品・デバイス工業の計画は8月+3.1%、9月▲5.1%である。7月については前月の予測が+1.2%、補正値が▲0.7%、実績が+0.1%で、補正値の方が実績に近かった。
8月の実績は9月30日の鉱工業指数8月分速報で分かり、三重県の8月分は10月下旬になる。9月30日はマイクロンの6〜8月期決算の発表日でもあり、国内の8月の指数と米国の同じ期間の決算が同じ日に出る。8月の「回復」を確かめる日はここである。
決算は鈍化するのか ― 3社の提出書類
要約の3文目「AIサーバー向けはまだ回復しないため決算は明らかに鈍化する」を、提出書類の実額に当てる。キオクシアHDの2026年3月期有価証券報告書 (EDINET) は売上収益2兆3,376億円 (前期比37.0%増)、営業利益8,704億円、純利益5,545億円、研究開発費1,411億円、設備投資2,837億円を記す。7月31日の決算短信では2026年4〜6月期の売上収益が1兆7,671億円 (前年同期比5.2倍、前四半期比2.0倍)、営業利益1兆2,700億円 (28.3倍)、純利益8,421億円 (46倍) で、四半期の売上収益が前の年度の4分の3に達した。SSD・ストレージが1兆1,747億円で66%を占め、ブレンデッドの販売単価は前四半期比で約7割上がり、データセンター向けが6割を超えた。
会社が示した7〜9月期の見通しは売上収益2兆3,900億円 (前期比35.2%増)、Non-GAAP営業利益1兆9,000億円 (利益率79.5%)、純利益1兆2,700億円で、鈍化ではなく加速を見込んでいる。上限8,000億円の自社株買い (8月3日から10月30日) と、9月30日を基準日とする1株を3株にする分割も同時に決めた。生産動態統計の単価が6月に落ちた月を含む四半期で、会社の見通しは上向きである。株価は別の動きをした。日本経済新聞によれば7月29日の株価は上場来高値から7割弱下げ、ベインキャピタルが保有株を全て売却し、7月16日には米フィラデルフィア半導体株指数の4%超の下落とサンディスクの12%超の下落が重なった。
米国側の書類も同じ方向を向く。マイクロンの2026年3〜5月期 (10-Q) は売上高414億5,600万ドル、売上総利益350億5,600万ドル (粗利率84.6%)、営業利益333億1,800万ドル、純利益282億4,300万ドルで、会社説明ではNAND売上高が99億ドルとほぼ倍増し、データセンター向けSSDが50億ドルを超えた。6〜8月期の売上高見通しは490〜510億ドルである。サンディスクの4〜6月期 (8-K、8月5日) は売上高89億7,000万ドル (前期比51%増)、純利益69億ドルで、増収の3分の2が価格、3分の1が数量だった。データセンター向け売上高は前年比437%増、7〜9月期の見通しは103〜108億ドルである。棚卸資産は7月3日時点で26億9,800万ドルと4四半期連続で増えているが、価格上昇分を含む金額の増加で、数量の積み上がりとは区別して読む必要がある。
「AIサーバー向けはまだ回復しない」を裏付ける公表数字は、本誌が当たった範囲では見つからなかった。トレンドフォースは7月3日に、7〜9月期のNAND契約価格の上昇が前期比10〜15%と前の四半期より鈍り、10〜12月期はさらに縮まると見ている。上昇の鈍化はあるが、下落や需要の途切れではない。生産動態統計で6月の単価が落ちた事実と、超大手クラウドの発注が四半期ごとに波を打つ性質を重ねると、6月に高単価品の比率が一時的に下がった姿は説明がつく。ただしそれを「AIサーバー向けの未回復」と呼ぶかどうかは、7月に単価が4,294円へ戻り、販売金額が6月に最高を付けたことと合わせて判断する必要がある。本誌の読みでは、6月は発注の谷であって需要の消失ではない。
相場日程表の12項目を公表日程に当てる
相場日程表は9月4日から2027年までの12項目を「株価方向」付きで並べたもので、投稿者の見立てである。本誌は各項目の日程と、既に結果が出たものはその結果を当てた。
初日の9月4日の米雇用統計は、表が「さえない」と置いた項目である。米労働統計局の発表は非農業部門雇用者数が16万2,000人増で、ダウ・ジョーンズの予想5万3,000人を3倍上回り、失業率は4.1%、時間当たり賃金は前月比0.3%増の37.75ドルだった。見立てと結果は逆で、雇用統計の後に9月の利上げ観測が上がっている。FOMCは9月15〜16日、日本銀行の会合は9月17〜18日で表のとおりであり、総裁は9月2日に毎回の会合で利上げを議論すると述べた。Appleの発表会は8月26日に9月9日開催が告知され、米CPIの公表は9月11日、日本のメジャーSQも9月11日 (第2金曜) で一致する。マイクロンの決算は9月30日、10月SQは10月9日で表と合う。米中間選挙は11月3日 (火) が投票日で、表の11月4日は日本時間の開票日にあたる。損出し売りの規模、信用期日の集中、騰落レシオの底、日経平均の水準予想は公的な数字が無く、本誌は検証していない。
メモリの投資家にとってこの表で重いのは、9月30日に鉱工業指数の8月分とマイクロンの決算が同じ日に出ることと、10月30日にキオクシアの自社株買い期間が終わることの2つである。前者は「8月は回復」の答え合わせ、後者は買い手が1つ減る日である。
日本の投資家が追う銘柄と、金額の層
四日市の稼働を数字で追う手順は、月末に経産省の生産動態統計で「メモリ」の生産数量と生産金額を取り、単価を割り出すことから始まる。鉱工業指数の品目 (モス型IC (メモリ)) は同じ日に出るが、実質化の分だけ振れが大きい。三重県の指数は約7週遅れで同じ月を映す。四半期に一度の決算はこの3つの後に来る。単価が上がっている間は数量が横ばいでも売上収益は伸び、単価が下がり始めれば数量が増えても売上収益は頭打ちになる。2026年6月はその最初の谷で、7月にいったん戻った。
生産動態統計の販売金額を4〜6月で足すと7,040億2,900万円になる。キオクシアの同じ四半期の売上収益1兆7,671億円の4割で、残りは海外拠点の売上高、SSDへの組み立て付加価値、共同運営先のサンディスクへの出荷分などで説明される。国内工場の出荷額だけを見ても、売上収益の方向は追える。
銘柄の層は3つに分けられる。1つ目はキオクシアHD (285A) そのもので、9月30日の分割後は売買単位あたりの金額が3分の1になる。2つ目は検査工程のアドバンテスト (6857) で、2026年3月期の売上収益は1兆1,286億円、営業利益4,991億円、純利益3,754億円 (EDINET) と、メモリの積層が増えるほど検査時間が伸びる構造にある。3つ目は資料の発行元である大和証券グループ本社 (8601) を含む証券会社で、三重県の統計を先に読んで顧客に配る側にいる。株価の水準は本稿では扱わない。
確かめられなかったこと
表の5品目のうち、外部記憶装置・光ファイバ・電力用電線の5月と6月の率、およびメモリの5月と6月の率は、経産省の品目別時系列で本稿の公開時点までに照合できていない。7月の2品目 (メモリ+53.1%、半導体製造装置+10.7%) は速報本文で一致した。米セントルイス連銀のFREDは9月3日から5日にかけて接続できず、雇用統計の値は米労働統計局の発表とCNBCの報道に拠った。e-Statには生産動態統計の2025年以降の月次表が収録されておらず、2025年分は経産省の補正済み時系列、2026年分は確報と速報の表を直接読んだ。三重県の図の2023〜2025年の値は県庁の図からの読み取りで、県が公表する数表とは一致しない可能性がある。「AIサーバー向けはまだ回復しない」の根拠となる一次資料は見つからず、本稿はこの主張を検証できないものとして扱った。
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