銘柄一覧の13ティッカーのうち、米当局の登録では7社だけが金属鉱業に分類される。銅を掘る会社の営業利益率が6割に乗る一方で、精鉱を金属に変える工程の対価は2026年に0ドルへ落ち、日本の上場企業はほぼ全社がその工程に立っている。

人工知能、電気自動車、電力網、ロボット、防衛。この5分野がどれも銅を必要とし、供給が追いつかず、新しい鉱山の立ち上げには数十年かかる。銅を買う理由としてよく挙げられるこの筋書きは、値段の側では裏づけがある。2026年7月の銅の世界価格は1トン当たり1万3,542.82ドルで、前年同月比38.6%高、2019年1月比では2.28倍になった。

問題は、その値上がりがどの会社の損益に表れるかである。銘柄の一覧に並ぶのは掘る側だけで、掘った鉱石を金属に変える側は1社も入っていない。日本の上場企業は、ほぼ全社が後者にいる。

発行済株式数で割り直すと、時価総額は合っている

まず一覧表そのものを検算する。株価に発行済株式数を掛けて、示された時価総額と突き合わせた。株数は各社が当局へ出した最新の書類の表紙に載る実数である。

銘柄株価発行済株式数算出した時価総額表の時価総額
フリーポート・マクモラン76.23ドル1,436,017,523株1,094.6億ドル1,095億ドル−0.0%
サザン・コッパー209.26ドル834,331,706株1,746.0億ドル1,767億ドル−1.2%
アイバンホー・エレクトリック10.90ドル159,590,259株17.4億ドル17億ドル+2.3%
トレコール・メタルズ8.93ドル361,099,176株32.2億ドル33億ドル−2.3%

ずれは最大でも2.3%で、株数の基準日が数週間ずれていることで説明がつく。一覧表の数字そのものに誤りは無い。検証すべきはその外側にある。

銘柄一覧の11行を日本語で組み直した表
銘柄一覧の11行を日本語で組み直した表

一覧に挙がったティッカーは13、表に行があるのは11である。抜けているのはトリロジー・メタルズとノーザン・ダイナスティ・ミネラルズで、どちらも売上高を持たない探鉱段階の会社にあたる。ただし表に残ったアイバンホー・エレクトリックも、4〜6月期の売上高は72万4,000ドルしかない。同じ「売上がほぼ無い会社」のうち2社が落ちて1社が残った基準は、表からは読み取れない。

標準産業分類では、13のうち4つが金・銀鉱業に置かれている

米国の当局に提出される書類には、提出者ごとに標準産業分類のコードが付く。銅の銘柄として並んだ13を、そのコードで割った。

分類コード内容該当
1000金属鉱業フリーポート、サザン・コッパー、ハドベイ、エロ・コッパー、アイバンホー、BHP、リオ・ティント
1040金・銀鉱業トレコール (旧タセコ)、カレドニア、トリロジー、ノーザン・ダイナスティ
1400非金属鉱物鉱業テック・リソーシズ
該当なし上場投資信託銅鉱山ETF
13のティッカーを米当局の標準産業分類で割った内訳
13のティッカーを米当局の標準産業分類で割った内訳

この4件は性質が違う。トレコールの主力はカナダのギブラルタル銅鉱山、トリロジーとノーザン・ダイナスティの鉱床はいずれも銅を主体とする多金属で、分類が事業の現在地に追いついていない。テック・リソーシズの1400も、石炭事業を持っていた時代の名残である。

カレドニア・マイニングだけは事情が異なる。同社の資産はジンバブエのブランケット鉱山の64%持分で、産出物は金である。2026年6月末時点の確定・推定資源量を22%増やして217.8万オンスとしたのも金の資源量だった。銅の銘柄として並べられた1社が、銅を1トンも産出していない。

その結果は一覧表の右端に出ている。カレドニアは年初来−6.01%、1年で−12.64%、高値から−32.95%で、11行のうち年初来がマイナスなのはこの社とアイバンホーの2つだけである。金価格が最高値圏にあった局面で金鉱山株がこの位置にいる理由は銅市況では説明できず、ジンバブエという操業する国の側にある。

表の1行目にある社名は、3か月前に消えている

一覧の最上段は「タセコ・マインズ」と記されている。同社の社名変更は2026年6月25日に法的に発効し、6月29日からトロント証券取引所とニューヨーク証券取引所アメリカンで、6月30日からロンドン証券取引所で、トレコール・メタルズとして売買が始まった。

ティッカーは据え置かれた。トロントとロンドンがTKO、ニューヨークがTGBのままである。一方で証券を特定する番号は変わっている。CUSIPは89472Y107が新たに付与され、ISINはCA8765111064からCA89472Y1079へ移った。議決権のある株式の59.3%が投票し、全議案が可決されている。

一覧表の日付は2026年9月9日で、改名から2か月半が経っている。ティッカーだけを追う仕組みでは社名が更新されず、番号で照合する仕組みなら更新される。銘柄表の鮮度は、こういう場所に出る。

銅鉱山ETFの中身と、この一覧は半分しか重ならない

一覧には銅鉱山ETFが1本入っている。組入は41銘柄、純資産80.4億ドルで、上位10銘柄が49.36%を占める。その上位はハドベイ・ミネラルズ5.69%、ファースト・クォンタム・ミネラルズ5.27%、テック・リソーシズB種5.24%、BHPグループ5.18%、KGHMポルスカ・ミェッチ5.05%である。

上位5のうち一覧に名前があるのはハドベイ、テック、BHPの3社にとどまる。首位級のファースト・クォンタムと、欧州最大級の銅生産者であるKGHMは、一覧に無い。前者はパナマのコブレ・パナマ鉱山が停止したまま、後者はポーランド国営系で、いずれも米国市場の主力銘柄ではない。銅の生産量で並べた序列と、米国で売買しやすい銘柄で並べた序列は、別のものになる。

銅くずの値段が地金を追い越した

値段の側をもう一段分解する。米国の生産者物価には、銅の各段階に別々の系列がある。2019年1月を起点に取り直すと、順番が入れ替わっている。

系列2026年7月前年同月比2019年1月比最高値との差
1号銅くず (電線を含む)807.27+36.1%+138.7%最高値を更新中
銅の世界価格 (地金)1万3,542.82ドル/トン+38.6%+128.0%−0.1%
銅・銅製品769.94+26.2%+107.5%−0.8%
銅の線・ケーブル418.54+18.5%+95.4%最高値を更新中
銅の各段階の生産者物価を2019年1月比で並べた図
銅の各段階の生産者物価を2019年1月比で並べた図

1号銅くずは、被覆も付着物もない裸の銅線を指す等級で、日本の回収業者が「1号銅」「ピカ線」と呼んで建値に最も近い値を付ける品位にあたる。そのくずが地金より10.7ポイント多く上がっている。金属としては同じ銅で、くずのほうが不純物を含む。それでも上がるのは、製錬所が原料に飢えているからである。鉱石から取れる分が足りず、使い終えた電線や基板から回す分の取り合いになっている。

反対の端では、線とケーブルが地金に32.6ポイント負けている。加工する側は原料高を製品価格へ移しきれていない。掘る、集める、溶かす、伸ばす。この4工程で、値上がりの取り分は掘る側と集める側に寄り、溶かす側と伸ばす側で薄くなる。

鉱石段階の公式価格は、2020年9月で途切れている

同じ生産者物価の系列群に「銅・ニッケル鉱石」がある。1988年6月から続いていたこの系列は、2020年9月の353.00を最後に更新されていない。

鉱石が足りないと誰もが語る市場で、鉱石段階の公的な価格指標が6年前に止まっている。銅精鉱の値段は、公表された指数ではなく、鉱山と製錬所が個別に結ぶ買鉱条件のなかに埋め込まれる。外から見える指標が地金と製品の両端にしか無く、真ん中が見えない。この構造が、次の節の数字が投資家の視野に入りにくい理由になっている。

鉱石から加工品までの4工程と、値上がりの取り分の偏り
鉱石から加工品までの4工程と、値上がりの取り分の偏り

製錬の取り分が0ドルになった年

銅精鉱を買って電気銅にする事業が受け取る対価は、精鉱の代金を引いた残りではなく、製錬の手間賃として鉱山側から受け取る買鉱条件で決まる。溶かす手間の分と、電気分解で純度を上げる手間の分に分かれ、業界ではTC/RCと表記される。

2026年の年間ベンチマークは1トン当たり0ドルで決着した。過去最低である。年間契約から外れた都度取引では、これがマイナス圏で推移している。製錬所が原料を確保するために、加工賃を払うのではなく払って引き取る状態になっている。

住友金属鉱山は有価証券報告書で見通しをこう置いた。「世界の銅地金の生産能力は増加が見込まれる反面、銅精鉱の供給増は限定的で、製錬マージン(TC/RC)の回復は2030年以降の想定」。当事者が、4年以上戻らないと書いている。

三菱マテリアルは同じ環境への手を3つ挙げる。銅精鉱を他社と共同で買って調達力を上げること、廃基板の処理へ収益源を移すこと、そしてチリのマントベルデ銅鉱山で「当社銅鉱石処理量に対して持分銅量比率を拡大することで、低TC/RCによる減益影響の緩和を図る」ことである。3番目は、製錬所の赤字を鉱山の持分で埋めるという設計を明示している。

日本の電気銅生産量は7年間動いていない

では日本の生産量は減ったのか。生産動態統計で電気銅を取り出した。

生産量前年比
2018年1,594,517トン
2019年1,495,359トン−6.2%
2020年1,580,086トン+5.7%
2021年1,516,684トン−4.0%
2022年1,556,452トン+2.6%
2023年1,494,160トン−4.0%
2024年1,567,419トン+4.9%

7年間の最大値と最小値の差は6.7%しかない。買鉱条件が史上最低へ落ちていく間、日本の電気銅の生産量はほとんど動いていない。本誌がニッケルの等級の分断で追ったフェロニッケルが同じ期間に82.4%減ったのと、対照的である。

2024年の販売数量は1,436,037トン、販売金額は1兆9,476億4,100万円で、1トン当たり約135.6万円になる。月次の振れは2024年9月の117,424トンから5月の137,272トンまでで、定期修理の月に落ちる形をとる。住友金属鉱山が「東予工場の定期炉修(大型休転)を実施したことにより前連結会計年度を下回りました」と書いたのは、この振れのことである。

日本の電気銅生産量7年と、製錬各社が有価証券報告書に書いた対応
日本の電気銅生産量7年と、製錬各社が有価証券報告書に書いた対応

有価証券報告書に現れた「減産措置を実施する方向」

その動かなかった量について、会社が初めて減産に触れた。JX金属は2026年3月期の有価証券報告書にこう書いている。「足許の銅精鉱買鉱条件が著しく悪化していることから、当社グループが運営する製錬所において減産措置を実施する方向で検討を進めています」。

同社の本文37万3,428字を数えると、「銅」157回に対して「リサイクル」が80回出る。三菱マテリアルは「リサイクル」37回、DOWAホールディングスは84回で、いずれも銅の出現回数に迫る。製錬会社の開示が、鉱石を溶かす話から回収して再生する話へ重心を移している。

書き方は3社3様である。

会社本文の「銅」「製錬」「リサイクル」開示に書いた手
JX金属 (5016)157回55回80回製錬所の減産措置を検討
住友金属鉱山 (5713)142回145回15回買鉱条件の回復は2030年以降と想定
三菱マテリアル (5711)88回58回37回共同買鉱・廃基板・持分比率の拡大
DOWAホールディングス (5714)51回95回84回伸銅品でAIサーバー向けが牽引

DOWAの伸銅品事業は売上高が前期比14.4%増の1,473億3,600万円、営業利益が同75.9%増の93億700万円で、同社は「AIサーバー向け等の需要が堅調」「銅の価格が第4四半期に上昇したことが業績に寄与」と記した。銅高が素直に効くのは、製錬より下流の加工にある。

一方で三菱マテリアルの連結売上高は1兆8,440億53百万円で前年度比6.0%減、連結営業利益は605億2百万円で同63.0%増だった。売上が減って利益が増える形は、量を追わずに構造を作り替えた結果である。

日本の投資家は、すでに掘る側の持分を持っている

一覧に日本企業が無いことは、日本の投資家が掘る側に触れていないことを意味しない。持分がすでに入っている。

アリゾナ州のモレンシー鉱山はフリーポート・マクモランが72%、住友金属鉱山グループが28%を保有する。内訳は住友金属鉱山アリゾナが15%、SMMモレンシーが13%で、前者は住友金属鉱山80%・住友商事20%の出資である。この13%は2016年5月にフリーポートから10億ドルで取得したもので、同じ鉱山の産出を、米国の投資家と日本の投資家が72対28で分け合っている。

チリのカセロネス銅鉱山はJX金属が100%を持っていた。2023年7月に51%をカナダのルンディン・マイニングへ譲渡して約700億円の損失を計上し、2024年6月に追加で19%を譲渡して持分は30%になった。同社の有価証券報告書に「カセロネス」が13回、「ペランブレス」が10回出るのは、この2件が現在も損益に効いているためである。

ロス・ペランブレス銅鉱山はアントファガスタが60%、日本勢が合計40%を保有する。JX金属15.79%、三菱マテリアル10%、丸紅は9.21%から2023年の追加取得で12.48%へ引き上げた。丸紅は同じ取引でパンパシフィック・カッパーの株式も取得しており、鉱山側と製錬側の両方に軸足を置く形をとっている。

日本勢が持つ主な銅鉱山の権益比率
日本勢が持つ主な銅鉱山の権益比率

三菱商事の記述はさらに踏み込む。「既存鉱山の品位低下や開発難度の上昇等により制約が高まる構造」として、当連結会計年度末に減損の戻入れの兆候を認めて使用価値を再測定した。2025年9月にはチリ国営コデルコとの間で、ロスブロンセス銅鉱山と隣接するアンディナ鉱山の一体操業について最終合意している。一度は減損した鉱山の価値を、価格見通しの上方修正が戻している。

対照的に、伊藤忠商事の有価証券報告書には本文33万3,860字のうち「銅」が0回しか出ない。総合商社という同じ業態のなかでも、銅への露出は大きく割れている。

2025年9月の泥流が、2028年まで生産を削る

供給が追いつかないという筋書きには、1年前に具体的な事件が加わっている。2025年9月8日、フリーポート・マクモランがインドネシアで操業するグラスバーグ鉱山の地下部で、湿った鉱石が採掘点から大量に流れ出した。泥流は複数の坑内階層を一気に通り抜け、作業員7人が死亡した。同社は取引先に不可抗力を通知している。

影響は事故の年で終わらなかった。フリーポート・インドネシアは2026年5月8日、地下鉱山の全面的な生産回復を2027年末から2028年初めへ延期すると発表した。稼働率の想定は2026年後半に65%、2027年半ばに80%である。2026年のインドネシアの生産は、従来見通しの銅17億ポンド・金160万オンスを約35%下回る。

グラスバーグは世界有数の銅・金鉱山で、1鉱山の停止が世界需給に届く規模を持つ。2026年の需給は60万トン規模の供給不足が見込まれており、その一因がここにある。一覧表でフリーポートが年初来47.36%高になっているのは、自社の減産を織り込んだうえでの銅高である。

同社の4〜6月期は売上高70億2,900万ドル、営業利益20億300万ドル、純利益9億8,400万ドルだった。サザン・コッパーの同期は売上高42億8,900万ドルに営業利益26億2,300万ドルで、営業利益率は61.2%に達する。掘る側の利益率が6割に乗る一方で、溶かす側の加工賃は0ドルである。この対比が、いま銅という金属で起きていることの全体像になる。

精製銅への関税は、まだ決まっていない

米国の通商拡大法232条に基づく銅の措置は、2026年9月時点で原料段階を対象から外している。銅鉱石、銅精鉱、マット、カソード、アノード、そして銅くずは課税の対象外に置かれた。地金そのものへの関税も現時点では発動していない。

商務省は精製銅に対して2027年1月1日から15%、翌年から30%という段階的な関税を勧告している。決定はまだ出ていない。この一点が、ニューヨーク市場とロンドン市場の値差を動かす最大の要因として残っている。

日本の製錬会社にとっては別の意味を持つ。銅くずが対象外である限り、米国から出るくずは関税なしで海外へ動く。三菱マテリアルが廃基板の処理を成長の柱に置き、JX金属が「リサイクル」を80回書いた事業設計は、この扱いが続くことを前提にしている。

何を見れば掘る側と溶かす側の差が縮むか

第1に、買鉱条件の年間ベンチマークである。0ドルからマイナスへ沈むのか、それとも戻るのか。住友金属鉱山が置いた2030年以降という想定より早く動けば、日本の製錬3社の損益は同時に向きを変える。

第2に、生産動態統計の電気銅である。7年間149万トンから159万トンの帯を出なかった生産量が、JX金属の検討どおりに減り始めるか。減産が実行された月から、この統計は帯を割る。

第3に、銅くずと地金の生産者物価の差である。2019年1月比で10.7ポイント開いたこの差は、原料の逼迫の度合いをそのまま映す。差が縮むときは、鉱石の供給が戻ったか、くずの回収量が増えたかのどちらかになる。

第4に、精製銅への関税の決定である。2027年1月からの15%が発動すれば、米国内の地金価格は世界価格から切り離される。一覧表に並ぶ11銘柄のうち、米国内で製錬まで持つのはフリーポートだけで、他社は鉱石か精鉱の段階で国境を越える。本誌がコモディティ全体の復権で追った精製のボトルネックは、銅では買鉱条件という値段の形をとって現れている。