AI設備投資のベースライン推計は2026年の7,650億ドルから2031年に1兆6,360億ドルへ、6年累計で約7.6兆ドルに達する。資金の通り道で供給が追いつかない場所は、メモリーの帯域と光の配線の2つに絞られてきた。

積み上げの内訳から読む。市場に流通するベースライン集計では、AI設備投資は2026年7,650億ドル→2027年1兆110億ドル→2028年1兆2,200億ドル→2029年1兆3,920億ドル→2030年1兆5,780億ドル→2031年1兆6,360億ドルと拡大し、6年間の累計は約7.6兆ドル(約1,200兆円)になる。マッキンゼーが2025年に示した「2030年までにデータセンター投資6.7兆ドル」という試算とも桁が合う。本稿はこの資金の行き先で起きる2つの供給制約を、一次資料と有価証券報告書の実数で数える。円換算は2026年8月7日の為替(1ドル=157.54円、セントルイス連邦準備銀行の公表値)による概算である。売買の推奨や評価は示さない。

投資の7割は「計算」に向かい、建屋と電力が残りを分ける

AI設備投資のベースライン推計2026-2031
AI設備投資のベースライン推計2026-2031

推計の各年を計算(半導体・サーバー)、データセンター建屋、電力の3層に分けると、傾きの差が見える。計算への投資は2026年の4,940億ドルから2031年に1兆1,270億ドルへ2.3倍になり、6年累計5兆970億ドルで全体の67%を占める。建屋は2,320億ドル→4,360億ドルで累計2兆1,470億ドル(28%)、電力は390億ドル→730億ドルで累計3,580億ドル(5%)にとどまる。ハイパースケーラー4社の実績値は2026年だけで年4,000億ドル規模に達しており、この推計の初年度と矛盾しない。資金調達の裏側に3.5兆ドルの空白があることは別稿で扱った。

投資額が2.1倍になる間、資金が素通りできない部品が価格を決める。GPUそのものは増産の道筋が引かれている。詰まるのは、GPUに記憶を供給する帯域と、GPU同士をつなぐ光である。

ボトルネックその1: HBMは1年で7割増、HBFが「記憶の壁」に新しい層を加える

広帯域メモリーHBMの市場は2025年の約350億ドル(約5.5兆円)から2026年に約600億ドル(約9.5兆円)へ、1年で約7割増える。需要は2025年に前年比130%増、2026年も70%増の見通しで、供給側の顔ぶれは動いた。2026年1〜3月期の出荷シェアはSKハイニックス58%と、1年前の69%から低下し、マイクロンがサムスン電子を逆転して2位に浮上した。サムスンのHBM4歩留まり8割という数字の中身は別稿で検証した通り、首位争いの主戦場はHBM4の認定に移っている。

循環の谷から山への振れ幅は、マイクロンの開示が示す。SECのXBRLデータで同社売上高は2023年8月期154.9億ドル→2024年8月期251.0億ドル→2025年8月期374.4億ドル(約5.9兆円)と、2年で2.4倍になった。値上がり局面のメモリー各社は手元資金を積み増し、増産と株主還元の両方に回す余力を持つ。日本のキオクシアホールディングス(285A)も2026年3月期に売上高2兆3,376億円・営業利益率37.2%と、NAND市況の回復を丸ごと利益に変えた。

その次の一手が高帯域フラッシュ(HBF)である。SanDiskとSKハイニックスは2026年2月25日に標準化を開始し、わずか半年後の8月、サンタクララのFMS 2026でOCP(オープン・コンピュート・プロジェクト)経由の初版仕様を公開した。積層あたり最大512GB、帯域0.4〜3TB/s。HBMの帯域とNANDの容量の中間に位置し、推論で膨らむモデルの置き場所を狙う。AIのメモリー階層が抱える構造問題の解として、DRAM系(HBM)とNAND系(HBF)の2階建てが標準化の土俵に乗った。SanDiskのNAND技術は四日市・北上の合弁工場でキオクシアと共同生産されており、HBFが立ち上がれば日本の製造拠点が供給網の中に置かれる。

ボトルネックその2: InPレーザーの需給ギャップは「DRAMより深刻」

もう1つの詰まりは光にある。GPU群の規模が拡大するほど、ラック内(スケールアップ)とラック間(スケールアウト)の接続は銅から光へ置き換わり、800Gから1.6Tへの世代交代が進む。その心臓部が、リン化インジウム(InP)化合物半導体のレーザーである。米LumentumのハールストンCEOは「InPの需給ギャップはDRAM・NANDのそれを超えた」と述べ、通信事業者向けに数百個単位だった注文が、AIデータセンター向けに数億個単位へ膨らんだと明かした。

買い手は既に動いた。NVIDIAは2026年3月、主要サプライヤー2社に各20億ドル(計40億ドル・約6,300億円)を投じ、長期供給契約を結んだ。1社は6インチInPウエハーの生産能力を倍増させ2027年末までに追加拡張、もう1社は2028年の量産開始へ生産体制を整えている。マッキンゼーの2025年6月の分析は、800Gモジュールの生産が2027年まで需要を40〜60%下回り、1.6Tでも2029年まで30〜40%の不足が続くと見込む。200G/レーンの変調器を集積したレーザー(EML)を量産出荷するのは現時点でLumentum1社とされ、米国側の主な顔ぶれはLumentum、Coherent、Applied Optoelectronics、スウェーデンのSivers Semiconductorsに集中する。NVIDIAが光でネットワークを作り直すSpectrum-X Photonicsの量産は、この光化の需要側の駆動源である。

開示データには、はっきりした非対称がある。米上場企業の開示書類で「high bandwidth memory」の言及は2023年45件→2026年(8月16日まで)270件と6倍化し、「co-packaged optics(光とチップの一体実装)」も24件→98件へ4倍になった。ところが「indium phosphide」は77件→67件と横ばいである。メモリーの逼迫は市場の共通言語になったが、その川上のInPはまだ開示の言葉になっていない。逼迫が価格と決算に現れるのはこれからで、ボトルネックの2つ目は静かなままだ。

精錬の裏側: インジウムの70%は中国、2025年から輸出規制の下にある

InPの川上には鉱物の問題が横たわる。TrendForceによれば、中国は世界の精錬インジウムの約70%を生産し、2025年からインジウムとInP関連の輸出管理を強化した。インジウムは単独の鉱山を持たず、亜鉛製錬の副産物として回収される金属で、精錬能力を持つ国が供給を握る。ガリウムやゲルマニウムで先行した「精錬の武器化」が、光配線の材料にも及び始めた形である。

日本はこの川上に製錬所を持つ数少ない国だ。亜鉛・銅製錬の副産物回収とリサイクルでインジウムを国内供給できる三井金属(5706)は営業利益率17.3%、スパッタリングターゲットや電子材料に展開するJX金属(5016)は19.8%と、製錬会社としては異例の利益率を確保している。DOWAホールディングス(5714)と住友金属鉱山(5713)も副産物回収の網を持つ。本稿の文脈で鉱物の主役はレアアースではなくインジウムであり、亜鉛製錬という地味な工程が、AI最先端の光配線の供給余力を左右する。

日本株の並べ方: 帯域は装置と検査、光は電線3社、素材は製錬

2つのボトルネックと日本株の対応表
2つのボトルネックと日本株の対応表

有価証券報告書の実数で、2つのボトルネックに連なる日本企業を並べる。

ボトルネック銘柄直近通期の実数 (EDINET)
メモリー帯域ディスコ (6146)営業利益率42.3%。HBM積層の研削・切断装置
メモリー帯域アドバンテスト (6857)同44.2%。HBMの試験装置
メモリー帯域キオクシアHD (285A)売上2兆3,376億円・同37.2%。HBF時代のNAND供給
メモリー帯域イビデン (4062)・レゾナック (4004)基板14.9%・材料3.5%。積層の裏方
光配線住友電気工業 (5802)・古河電気工業 (5801)InPレーザーを内製する電線大手。8.2%・4.9%
光配線フジクラ (5803)同16.0%。データセンター光配線で最高益
製錬三井金属 (5706)・JX金属 (5016)17.3%・19.8%。インジウムの国内供給

対比がそのまま投資の論点になる。メモリー帯域側の装置2社(ディスコ42.3%・アドバンテスト44.2%)とキオクシア(37.2%)は、逼迫が既に利益率へ届いた銘柄である。光配線側の住友電工8.2%・古河電工4.9%は電線・自動車部材を含む全社数字であり、InPと光部品の逼迫はまだ全社利益率を動かしていない。開示言及の横ばい(indium phosphide 67件)と符合するこの「未反映」こそ、CoWoSと基板で見たのと同じ構図の光版で、逼迫の価格転嫁が決算に現れるかどうかが分水嶺になる。フジクラ16.0%は、その転嫁が先行して起きた実例である。

確かめられる点

検証は開示と統計の日付で追える。第1に、マイクロンの12月の四半期決算でHBMの売上規模と2026年分の完売状況。第2に、HBM4の認定と量産で、SKハイニックス58%というシェアがどこまで削られるか。第3に、NVIDIAが長期契約を結んだ光サプライヤー2社の増産進捗、とりわけ2027年末までの6インチウエハー能力倍増が予定どおり進むか。第4に、HBFの仕様更新とサンプル出荷の時期、およびキオクシアの次期決算でNAND価格の上昇が続くか。第5に、住友電工・古河電工の中間決算(11月)で情報通信部門の利益率が動き始めるか。第6に、中国のインジウム輸出管理の運用と、日本の製錬各社の回収能力増強の発表である。

7.6兆ドルという数字は大きすぎて手掛かりにならないが、その資金が必ず通る2つの狭い通路には値が付く。帯域の通路は既に高値で取引され、光の通路はまだ静かである。開示書類の言及件数という単純な物差しが、次に騒がしくなる場所を先に教えている。