光源を守るためだけに置かれてきた部品がある。それを外せると主張する測定が、2025年2月に学術誌の最上位の評価を受けて載った。書いたのはインテルの17人で、同じ会社の年次報告はこの分野を1行も扱っていない。

2025年2月15日発行の Journal of Lightwave Technology 第43巻第4号、1855頁から1860頁に「Feedback Tolerant Quantum Dot Lasers Integrated With 300 mm Silicon Photonics」が載っている。著者は17名で、全員がインテルに所属する。責任著者の所属はカリフォルニア州サンタクララである。掲載誌は表題の下に、最上位の評価を示す「Top-Scored Paper」と付している。受領が2024年8月29日、改訂が10月3日、受理が10月7日、公開が10月16日、現行版が2025年2月17日。前身にあたる発表は、2024年の光ファイバー通信に関する国際会議 (OFC) での講演M3C.2にさかのぼる。

論文そのものの記載
論文そのものの記載

要旨が主張しているのは3つに絞られる。量子ドットレーザーを300ミリのシリコンフォトニクスに集積した最初の例であること。線幅増大係数がほぼゼロで、戻り光への耐性が高く、光アイソレータを使わない動作が成り立つこと。そして異種材料を貼り合わせた量子ドットレーザーとシリコンのマイクロリング変調器を組み合わせ、戻り光がマイナス13デシベルに達しても128ギガビット毎秒のPAM4 (4値パルス振幅変調) 信号のアイパターンの質が落ちないこと。

量子ドットそのものより、300ミリの製造ラインに載ったことが要点になる

この研究の位置づけを取り違えないための注記が1つある。量子ドットは300ミリのシリコンウエハー上に直接成長させたわけではない。化合物半導体の側で作った量子ドットの層を、シリコンフォトニクスのウエハーに貼り合わせて集積している。論文の題名と要旨は「異種材料を集積した (heterogeneously integrated)」「化合物半導体とシリコンの異種材料 (heterogeneous III-V/Si)」という語を使っており、その区別をはっきり示している。

シリコン上への直接成長 (モノリシック成長) は、格子定数が違う材料を無理につなぐため、結晶の欠陥が入りやすい。貼り合わせは、良い結晶を良いまま持ってきて接合するので、素子の性能は出しやすい。代わりに、貼り合わせる工程とその歩留まりが量産の鍵になる。どちらが製造に向くかは、300ミリの設備と工程管理の側で決まる。過去の研究の多くは、300ミリのシリコンウエハー上への直接成長を追ってきた。この論文が「初めて」と言っているのは、貼り合わせによる量子ドットレーザーを300ミリの製造の流れに載せた点である。

集積する先は、シリコンで作った光導波路の部品群である。300ミリで作れば、先端の露光装置を持つ工場の能力と、大量生産の処理能力をそのまま使える。量子ドットという材料の話ではなく、量子ドットを既存の半導体工場の流儀に載せた話として読むほうが実態に合う。

線幅増大係数がほぼゼロになると、耐えられる戻り光が桁で変わる

半導体レーザーに注入した電子の数が変わると、利得と同時に屈折率も動く。この2つの動きの比が線幅増大係数である。値が大きいほど、光の強さのゆらぎがそのまま位相のゆらぎに変換される。

線幅増大係数
線幅増大係数

戻り光が入ると、共振器の中で位相の条件が乱れる。係数が大きい素子では、この乱れが自分自身をさらに乱す向きに働き、ある強さを超えたところで発振が複数の状態を行き来し始める。スペクトルが広がり、雑音が急に増える。コヒーレンス崩壊と呼ばれる現象である。崩壊が始まる戻り光の強さは、おおむね1に係数の2乗を足した量に反比例して大きくなる。

量子井戸レーザーの係数は2から5が典型的な範囲にあたる。2026年1月30日に Light: Science & Applications に載った測定では、量子ドットのファブリ・ペロー型レーザーの係数が利得のピーク (約1,275ナノメートル) で約0.65だった。3.5と0.65では、1に2乗を足した量が13.25対1.42で9.3倍、デシベルに直して9.7デシベルの差が出る。インテルの論文が言う「ほぼゼロ」なら、この量は1に近づく。

量子ドットが有利な理由は係数だけではない。ドットに閉じ込められたキャリアの動きが速く、緩和振動の減衰が大きいため、戻り光で揺さぶられても振動が持続しにくい。前掲の2026年1月の報告は、この点を「超高速のキャリア動特性による高い減衰がコヒーレンス崩壊を抑える」と記している。

戻り光を14.1倍にして測った3つの数字

インテルが測ったのは、相対強度雑音と光スペクトル、64ギガビット毎秒の二値変調 (NRZ) の誤り率、128ギガビット毎秒のPAM4での送信の質、の3つである。戻り光の強さは可変光減衰器で切り替えている。減衰器を入れるとマイナス30デシベル、外すとマイナス13デシベルになる。

デシベルは対数の目盛りなので、読者が自分で割合に直せるよう対応表を置いておく。

戻り光の強さ戻る光の割合何分の1か
−31デシベル0.079%1,259分の1
−25デシベル0.316%316分の1
−24.5デシベル0.355%282分の1
−14デシベル3.98%25分の1
−13デシベル5.01%20分の1
−8デシベル15.85%6分の1
−6.7デシベル21.38%5分の1

マイナス24.5デシベルからマイナス13デシベルへ動かすと、戻る光の量は0.355%から5.01%へ14.1倍になる。マイナス30デシベルとの比較なら50倍にあたる。

戻り光を入れても雑音と波長は動かない
戻り光を入れても雑音と波長は動かない

バイアス150ミリアンペアで測った相対強度雑音は、減衰器を入れた場合も外した場合も、おおむねマイナス142からマイナス151デシベル毎ヘルツの範囲に収まり、2本の曲線はほとんど重なる。光スペクトルでは、副モード抑圧比が50デシベルを超えたまま維持され、主モードの山は割れない。発振の波長は約1,299.5ナノメートルから約1,299.6ナノメートルへ、目盛り1ナノメートルの1割ほど長い側へ動く。戻り光が共振器の実効的な長さを変えるため波長が動くこと自体は物理として起きるが、動いた先で安定している。測定はいずれも室温で行われている。

注入電流を上げると雑音は21デシベル下がる

相対強度雑音のバイアス依存も同じ図に載っている。60、80、100、120、140、160ミリアンペアの6本で、低い周波数では60ミリアンペアでおよそマイナス129デシベル毎ヘルツ、160ミリアンペアでおよそマイナス150デシベル毎ヘルツまで下がる。

注入電流と相対強度雑音
注入電流と相対強度雑音

差の21デシベルは、雑音の電力にして126分の1にあたる。高いバイアスでマイナス145からマイナス150デシベル毎ヘルツの範囲に入ることは、強い戻り光を入れても雑音やスペクトルが大きく崩れないことと、同じ事実の裏表にあたる。相対強度雑音は光の強さのゆらぎを表し、受信側の信号対雑音比に直接効く。ここに余裕が無ければ、戻り光が少し入っただけで誤り率が急に悪化する。

比較のために書いておくと、前掲の2026年1月の報告では、量子ドットのファブリ・ペロー型レーザーの相対強度雑音が出力マイナス2.3デシベルミリワットでマイナス150デシベル毎ヘルツ、4.2デシベルミリワットでマイナス160デシベル毎ヘルツとされている。緩和振動の周波数は約2.8ギガヘルツで、かろうじて見える程度にしか現れない。減衰が強いことの直接の証拠にあたる。

64ギガビットでは、誤り率の線が2本重なる

二値変調の測定では、戻り光マイナス13.0デシベルで信号対雑音比5.13・消光比5.13デシベル、マイナス24.5デシベルで信号対雑音比5.29・消光比5.05デシベルだった。信号対雑音比の差は3.0%、消光比の差は0.08デシベルにとどまる。

64ギガビットの二値変調
64ギガビットの二値変調

受信した光の強さを変えながら誤り率を測った曲線は、2つの戻り光の条件でほぼ完全に重なる。掲載論文は「測れるほどの差は見られない (showing no measurable differences)」と記す。受信マイナス22デシベルミリワット付近で10のマイナス4乗、マイナス14デシベルミリワット付近で10のマイナス8乗の手前まで下がる線が、戻り光が50倍違っても動かない。

128ギガビットでの悪化は0.26デシベル、規格の上限まで1.12デシベル残る

PAM4での測定が本論文の中心になる。信号の良し悪しは、受信した波形を重ね書きしたアイパターン (目の形に見える図) で見る。その質を数字にしたのが送信の質を示す指標 (TDECQ) で、送信側の波形の悪さを受信の感度の悪化に換算した量で、小さいほど良い。

128ギガビットのPAM4
128ギガビットのPAM4

戻り光マイナス13.0デシベルで指標1.88デシベル・消光比5.26デシベル、マイナス24.5デシベルで指標1.62デシベル・消光比5.20デシベル。悪化の幅は0.26デシベル、率にして16.0%にとどまる。同じ区間で戻り光は14.1倍に増えている。

掃引の曲線を読むと、マイナス28デシベル付近の1.64が最小で、マイナス16デシベルの1.87が最大になる。マイナス19デシベルまでは1.65から1.71の範囲に収まり、そこから先で緩やかに立ち上がる。曲線は単調ではなく、最も弱い戻り光の点 (マイナス30デシベル付近) がわずかに高い1.70を示す。測定の再現性の幅を含んだ動きにあたる。

規格の上限との距離
規格の上限との距離

この値がどれだけ良いのかは、規格の上限と並べると分かる。IEEE 802.3dj が200ギガビット毎レーンのDR・FRで提案している上限は3.0デシベルで、従来のPAM4規格の3.4デシベルから引き下げられる。LR4は3.9デシベルから3.5デシベルへ。実測1.88デシベルは、3.0デシベルを1.12デシベル、3.4デシベルを1.52デシベル下回る。1.62デシベルなら1.38デシベルと1.78デシベルの差になる。

量産では、この余裕が温度・個体差・接続の損失・経年で削られる。研究室の値と規格の上限の間にどれだけ残っているかが、製品になるかどうかを分ける。128ギガビット毎秒のPAM4は毎秒64ギガボーにあたり、100ギガビット毎レーンの53.125ギガボーと200ギガビット毎レーンの106.25ギガボーの中間に位置する。上限との比較はあくまで目安として読む必要がある。

光アイソレータが担ってきたのは、信号を良くする仕事ではない

外そうとしている部品の中身を押さえておく。光アイソレータは偏光子・ファラデー回転子・検光子の3層でできている。入ってきた光から1つの向きだけを取り出し、磁界の中で45度回し、45度傾けて置いた検光子を通す。戻ってきた光は同じ向きにもう45度回るため、往きとは90度ずれて遮られる。

光アイソレータの仕組み
光アイソレータの仕組み

回転子の材料はビスマスを置き換えた希土類鉄ガーネットの単結晶膜である。住友金属鉱山は液相エピタキシャル法でこれを作り、厚さは100から500マイクロメートルと説明する。詳細な品質仕様は子会社のグラノプトが扱う。

この部品は信号を良くしない。光源が戻り光で壊れないように守るためだけに置かれる。光源が戻り光に耐えるなら、3層はそのまま要らなくなる。外すと減るのは部品代だけではない。磁石を含むため小型化と実装の自由度を縛り、偏光の向きをそろえる工程と、その検査の工程も付いてくる。光源をチップの近くへ置くコパッケージドオプティクスの構成では、この制約が重くのしかかる。

市場の規模については、調査会社の推計が2025年で6億4,414万ドルから8億7,000万ドルまで並立している。1ドル156.11円で約1,006億円から約1,358億円にあたる。推計の幅が3割を超えるのは、調べる範囲と定義が会社ごとに違うためで、1つの数字を根拠にする使い方には向かない。

耐えられる限界は、量子井戸から18デシベルぶん動いた

戻り光の耐性を素子の種類ごとに並べると、動いた距離が見える。

戻り光に耐える限界
戻り光に耐える限界

量子井戸の分布帰還型レーザーは約マイナス31デシベル、量子井戸のファブリ・ペロー型は約マイナス25デシベルで崩れ始める。量子ドットの分布帰還型は摂氏25度でマイナス14デシベル、摂氏85度でマイナス8デシベルという報告がある。混成の分布帰還型とQ値の高い共振器を組み合わせた構成ではマイナス6.9デシベルを超える。2026年1月の報告にある量子ドットのファブリ・ペロー型はマイナス6.7デシベルだった。

インテルの実測がマイナス13デシベルで劣化なしということは、量子井戸の分布帰還型の約マイナス31デシベルから18デシベル動いたことを指す。戻ってよい光の量が0.079%から5.01%へ63倍に広がった計算になる。

量子ドットの側にも壁はある。摂氏25度でマイナス14デシベル、摂氏85度でマイナス8デシベルという2つの数字は、温度が上がるほど耐性が下がる向きを示す。チップの近くに光源を置く構成は、まさに温度が上がる場所へ置くことを意味する。2026年1月の報告は摂氏15度から45度の範囲で戻り光マイナス7デシベルのもと特性の劣化が無い10ギガビット毎秒の伝送を実証し、±0.5デシベルの振れに収めたとする。同じ報告は、半導体光増幅器を組み込んだ帰還系を使い、戻り光0デシベル (入れた光を全部返す) まで誤り率が規定の値を下回ったとも記している。

インテルの年次報告に「光」の字が1回も無い

ここから先は、技術ではなく開示の話になる。

インテルの年次報告の語数
インテルの年次報告の語数

本誌は、インテルが米証券取引委員会へ提出した様式10-Kを3期分、全文で数えた。2025年12月期 (2026年1月23日提出) の本文は575,303字ある。そのうち、光に関わる語はどれも1回も出てこない。数えたのは photonic (光の)、silicon photonics、optical (光学の)、laser、transceiver、quantum、isolator、300 mm の8語で、すべて0回だった。

2023年12月期 (2024年1月26日提出) には、次の1文があった。「近年、単体のGPU、モビリティー向けの製品、AIアクセラレーター、IPU製品、そしてシリコンフォトニクスといった分野で製品の品ぞろえを広げてきた」。この1文が2024年12月期で消え、2025年12月期にも戻っていない。

同じ2年間に、事業の売却を指す語は37回から51回へ、事業の組み替えを指す語は38回から107回へ増えた。アルテラが1回から99回、モービルアイが52回から97回。年次報告が語る量は、投資家に対する重要性で決まる。売上高に効かない研究は落ちる。

語数がゼロであることは、研究をやめたことを直接には示さない。ただし、同じ会社が同じ時期に学術誌の最上位の評価を受けた論文を発表し、そこに「初めて」と書いている。研究の成果と、投資家向けの記載の間に開きがある状態にあたる。

売った部分と、残した部分

この裏には事業の切り分けがある。2023年第3四半期、インテルはシリコンフォトニクス事業のうち着脱式の光トランシーバーの部分をジェイビルへ譲った。ジェイビルは現行の製品群の販売と製造、次世代の研究開発を引き継いだ。インテルはより付加価値の高い部品事業と、人工知能の基盤を支える光による入出力に集中すると説明していた。

今回の論文が扱う量子ドットレーザーとシリコンフォトニクスの集積は、売らずに残した側にあたる。年次報告からシリコンフォトニクスの記載が消えたのは、売却の翌年度である。事業として数えなくなった領域から、研究としては「初めて」が出ている。

研究開発費は2年で21.4%減り、エヌビディアに逆転された

残した領域に金が回るかどうかは、本体の損益で決まる。

インテルの財務
インテルの財務

インテルの売上高は2021年12月期の790.24億ドルから2025年12月期の528.53億ドルへ33.1%減った。営業損益は2024年12月期の▲116.78億ドルから▲22.14億ドルへ戻したが、黒字には届いていない。純損益は▲187.56億ドルから▲2.67億ドルへ縮んだ。

研究開発費は2022年12月期の175.28億ドルを頂点に、2025年12月期の137.74億ドルまで21.4%減っている。2024年12月期との比較でも16.8%減にあたる。今回の論文が受理されたのは2024年10月7日で、研究開発費がまだ前年比で増えていた2024年12月期の期中である。

研究開発費の逆転
研究開発費の逆転

比較の相手を置くと構図が変わる。2022年12月期のインテルの研究開発費175.28億ドルは、エヌビディアの2023年1月期73.39億ドルの2.39倍あった。2023年12月期対2024年1月期で1.85倍、2024年12月期対2025年1月期で1.28倍、2025年12月期対2026年1月期では137.74億ドル対184.97億ドルで0.74倍になる。

そのエヌビディアの2026年1月期の様式10-Kでも、photonic は0回、laser は1回しか出てこない。コパッケージドオプティクスの交換機を発表している会社でも、年次報告に光は現れない。光に人と金を割けるかどうかは、光そのものの良し悪しより、本体の損益と研究予算の側で決まる局面に入っている。

同じ性質を、日本の上場企業が有価証券報告書に先に書いていた

インテルが実測で示した「戻り光に強いのでアイソレータが要らない」という性質は、日本の上場企業が自社製品の特長として有価証券報告書に明記している。

QDレーザの5期
QDレーザの5期

株式会社QDレーザ (証券コード6613) は、富士通と東京大学の産学共同の開発体制の下、量子ドットレーザ技術開発の先駆者であった創業者の菅原充によって、富士通と三井物産の両社のベンチャーキャピタル資金を活用し、2006年4月に設立された。第20期にあたる2026年3月期の有価証券報告書には、シリコンフォトニクス用量子ドットレーザーの特長として3つが並ぶ。温度が摂氏100度以上の高温のCPUの近くでも安定して動作すること。反射戻り光に強いためアイソレータが不要となり低コスト化できること。高温度で動作させても長寿命であること。

同じ報告書は量子ドットレーザー全般の特長として、摂氏マイナス40度から120度近辺まで電流の調整なしで動作すること、摂氏200度以上でも動作すること、シリコンフォトニクスチップに低雑音でレーザー光を導入できることを挙げる。摂氏150度以上に耐える波長1,300ナノメートルのファブリ・ペロー型も製品として載っている。

単体の売上高は2022年3月期の11.01億円から2026年3月期の13.73億円へ、5期で24.6%増えた。経常損益は▲8.94億円、▲5.47億円、▲6.01億円、▲4.44億円、▲3.06億円と推移し、損失は65.8%縮んだ。それでも20期目で経常黒字には届いていない。売上高に対する経常損失の比率は81.1%から22.3%へ下がった。

本文の語数を数えると、「網膜」が65回、「半導体レーザ」が47回、「量子ドット」が38回、「シリコンフォトニクス」が13回。売上高を支えているのはレーザー網膜投影のアイウエアの側で、シリコンフォトニクス向けの光源はまだ事業の柱になっていない。技術の正しさが米国で出た論文で裏づけられても、その技術を最も早くから持っていた会社の損益計算書はすぐには動かない。

20社を走査して「量子ドット」が出たのは1社だけ

本誌は光通信・光部品・材料に関わる日本の上場企業20社の有価証券報告書を全文で走査した。

日本の光関連企業の語数
日本の光関連企業の語数
会社量子ドットシリコンフォトニクス光電融合その他の語
QDレーザ (6613)38回13回0回半導体レーザ47・網膜65・アイソレータ2
沖電気工業 (6703)0回1回2回フォトニクス2・光デバイス1
アドバンテスト (6857)0回2回2回化合物半導体1
古河電気工業 (5801)0回0回6回フォトニクス7・光デバイス5・光通信9
三菱電機 (6503)0回0回5回光デバイス12・コパッケージ2
住友電気工業 (5802)0回0回1回化合物半導体7・データセンター9
フジクラ (5803)0回0回1回光部品6・光通信6
日本電気硝子 (5214)0回0回0回光アイソレーター1
住友金属鉱山 (5713)0回0回0回データセンター3のみ
日本電信電話 (9432)0回0回2回データセンター37
ソシオネクスト (6526)0回0回2回データセンター55
TDK (6762)0回0回1回データセンター10

「量子ドット」が出たのはQDレーザ1社だけだった。「シリコンフォトニクス」は沖電気工業1回・アドバンテスト2回・QDレーザ13回の3社にとどまる。日本の大手が使う語は「光電融合」で、古河電気工業6回、三菱電機5回、日本電信電話2回、ソシオネクスト2回と並ぶ。同じものを指しながら、語彙が分かれている。

沖電気工業は「アドバンストコンポーネント事業ではCFB・シリコンフォトニクス・光ファイバー部品を強みに光電融合市場やGaNパワー半導体市場での事業化を加速してまいります」と書く。売上高4,216.35億円、純利益215.10億円の会社の、事業の柱の1つとして名指しされている。

外す研究と、良くする研究が同時に走っている

もう1つ、アイソレータを作る側の動きがある。

日本電気硝子 (5214) は研究開発に関する記載のなかで「従来材料の約2倍の磁気光学特性を有するガラスを用いた高性能な光アイソレーター」を挙げている。AI社会を支える次世代メモリ用ガラス薄膜や全固体ナトリウムイオン二次電池と並ぶ扱いで、同社の売上高は3,114.02億円、純利益は296.16億円である。磁気光学特性が2倍になれば、同じ回転角をより薄い材料で得られる。小さく、薄く、安くなる方向の改良にあたる。

一方で、ファラデー回転子の単結晶膜を作る住友金属鉱山の有価証券報告書には、「ファラデー回転子」も「光アイソレータ」も1回も出てこない。出てくるのは「データセンター」の3回だけである。同社の製品説明のページには材料も製法も載っているので、作っていないわけではない。連結の業績を語るうえで書く規模に達していない、という意味になる。

米国側では、コヒレントが年次報告に「光トランシーバー、コパッケージドオプティクス、面発光レーザー、電界吸収型変調器つきレーザー、シリコンフォトニクス、集積回路、アイソレータ、熱電冷却素子」を並べて記している。語数は laser が94回、transceiver が22回、isolator が3回、silicon photonics が2回にのぼる。研究開発費7.23億ドルの会社が、外される側の部品と外す側の技術を同じ文の中に並べている。

検査装置だけは、先に受注が立っている

光の集積が量産へ進むかどうかを最も早く映すのは、それを検査する装置の受注になる。

アドバンテスト (6857) の2026年3月期の有価証券報告書に、次の記載がある。「次世代DRAM向けやシリコンフォトニクス向けなど今後期待の高い領域における高付加価値テスト・ソリューションの市場投入準備が進捗。シリコンフォトニクスは大規模量産向け用途で初受注」。同じ記載のなかに、SoCテスタの市場シェアが暦年2024年の58%から暦年2025年の65%へ拡大したとも書かれている。単体の売上高は9,882.32億円、経常利益は4,253.72億円だった。

「大規模量産向け用途で初受注」という短い一文は、誰かが光の集積回路を量産する判断を下したことを意味する。装置を売る側の受注は、作る側の意思決定より後、量産の立ち上がりより前に立つ。日本の上場企業の開示のなかで、時間の順序としては最も早い部類の情報にあたる。

計算するチップは18.2%安くなり、つなぐ部品は51.3%高くなった

光をつなぐ部品に価格が付く条件がそろっているかどうかは、米国の生産者物価で測れる。

物価と生産と雇用
物価と生産と雇用

半導体・関連デバイスの生産者物価は、2018年1月の34.800から2026年8月の28.472へ18.2%下がった。直近でも2025年12月の29.668から4.0%下がっている。一方で光の部品を含むその他電子部品の生産者物価は2018年1月比で51.3%上がり、2025年12月の172.661から2026年8月の177.981へ3.1%上がった。差は69.5ポイントになる。

半導体製造装置の生産者物価は同じ期間に16.6%上がり、通信用電線・ケーブルは6.5%上がった。コンピュータ・電子製品の生産指数は2018年12月の128.92から2026年7月の183.61へ80.5%上がっている。ところが半導体・電子部品製造の就業者数は2022年12月の399.8千人から2026年8月の370.4千人へ7.4%減った。人を増やさずに量を増やす形が続いている。

工程を減らす部品には、この環境で価格が付く。アイソレータを外すという構成は、部品を1つ減らすだけでなく、偏光をそろえる工程と検査の工程を減らす。人手が増えない前提で量を増やすときに、まさに求められる種類の節約にあたる。

買う側の金は増えている。米民間の情報処理設備投資は2018年10〜12月の8,403.91億ドルから2026年4〜6月の1兆6,115.20億ドルへ91.8%増え、2025年10〜12月の1兆4,663.58億ドルからの半年でも9.9%増えた。

金が動いたのは、外れる側ではなく載せる側だった

金がどこへ流れたかは、実際の取引で見るのが早い。

誰が払い、誰が受け取るか
誰が払い、誰が受け取るか

クレド・テクノロジー・グループは2026年4月、光トランシーバー向けのシリコンフォトニクス集積回路技術を手がけるダストフォトニクスの買収に合意し、5月に完了した。前払いは現金7億5,000万ドルと約92万株。業績の条件に応じて最大約321万株が追加され、取引の総額は最大でおよそ13億ドルになる。1ドル156.11円で約2,029億円にあたる。クレド自身の2026年5月期の研究開発費2.79億ドルの4.7倍である。

同じ物差しで、光アイソレータの市場は調査会社の推計で2025年に6億4,414万ドルから8億7,000万ドル、約1,006億円から約1,358億円だった。買収1件の金額が、外れる側の市場全体の推計を上回る規模にある。

研究開発費を並べると、エヌビディア184.97億ドル、インテル137.74億ドル、ブロードコム109.77億ドル、シスコシステムズ95.63億ドル、マーベル20.75億ドル、コヒレント7.23億ドル、ルメンタム3.56億ドル、クレド2.79億ドル、アプライド・オプトエレクトロニクス0.86億ドルになる。光に関わる語が最も多く出てくるコヒレントとルメンタムの研究開発費の合計10.79億ドルは、光に関わる語が0回のエヌビディアの5.8%にとどまる。

読者が自分で確かめる4つの手順

ここまでの数字は、有料の情報端末を使わずに取れる。

第1に、論文の識別子 (10.1109/JLT.2024.3481454) から掲載誌の該当箇所を開く。要旨と図の説明文には測定の条件が数字で書かれている。図の説明文に「すべての測定は室温で行った (All measurements are taken at room temperature)」とあれば、室温以外では測っていない。何を測っていないかは、図の説明文に書かれていないことから読む。

第2に、米証券取引委員会の全文検索で、会社の様式10-Kをそのまま開いて語を数える。事業として数えているかどうかは、語数で分かる。数がゼロなら、少なくとも投資家向けの説明では扱われていない。

第3に、EDINETで日本企業の有価証券報告書を開き、同じ語を数える。日本では「光電融合」という語が使われるため、英語の語をそのまま訳して探すと見つからない。研究開発に関する記載と、事業の内容に関する記載を分けて読むと、研究として持っているものと事業として売っているものの差が出る。

第4に、装置を売る側の開示を見る。検査装置の受注は、量産の意思決定と立ち上がりの間に立つ。「初受注」という語が有価証券報告書に現れたかどうかは、一次資料で確かめられる。

戻り光マイナス13デシベルで送信の質を示す指標が1.88デシベル、規格が置く上限まで1.12デシベル。この2つの数字は、光アイソレータを外す構成が測定として成り立つことを示す。同じ会社の年次報告に光に関わる語が1回も無いこと、その技術を20年持ってきた日本の会社が売上高13.73億円で経常赤字3.06億円であること、検査装置の側だけが「大規模量産向け用途で初受注」と書いていること。この3つは、成り立つことと売れることの間にまだ距離があることを示している。