ヒューマノイドで誰が対価を得るのかを、13銘柄で示した投稿がある。ところが元になったゴールドマンの地図を全件数えると、完成品を作る44社に日本は1社もいない代わりに、部品側の9区分のうち3区分に日本企業6社が入っていた。

投稿は4つの問いを立てている。誰がロボットを作るのか、誰が知能と計算を与えるのか、誰がつかむ力と感触を与えるのか、誰が見る力を与えるのか。それぞれに米国上場の銘柄を並べ、合計13になる。日本企業は1社もない。本稿はこの13銘柄を、添付されたゴールドマン・サックス・グローバル・インベストメント・リサーチの一覧図と1件ずつ突き合わせ、何が残り何が落ちたかを数える。数値の取得日は2026年9月20日である。

投稿の13銘柄に対し、元の地図には120件が載っている

ゴールドマンの地図の全件 — 完成品44社と技術の供給側76件、日本はどこにいるか
ゴールドマンの地図の全件 — 完成品44社と技術の供給側76件、日本はどこにいるか

地図は左右2列でできている。左は完成品を作るメーカーが44社、右は技術の供給側が9区分・延べ76件。合わせて120件ある。投稿の13銘柄は、この120件から選ばれた結果である。

左列だけが色分けされている。凡例は10か国で、ノルウェー、インド、中国、米国、韓国、イスラエル、ドイツ、カナダ、英国、フランス。日本は凡例にない。 右列には国の情報がそもそも付いていないので、以下で右列の国籍を書くときは本稿が補った情報であり、上場先などで1社ずつ確かめたものである。

色の読み取りは目視に頼らず機械で行った。凡例の丸10色を基準色とし、社名の文字行を検出してからその行の色の帯の画素を、最も近い基準色に割り当てている。44行すべてで、3倍に拡大した画像での目視と一致した。読み取りの手順はスクリプトとして残してある。

完成品を作る44社のうち中国が29社で65.9%、日本は0社

国別に数えると、米国5社、韓国3社、ドイツ1社、フランス1社、英国1社、カナダ1社、ノルウェー1社、イスラエル1社、インド1社、中国29社になる。中国は44社中29社で65.9%を占める。

上場しているのは14社で、非上場が30社と68.2%を占める。米国5社のうち上場はテスラボストン・ダイナミクスの2社だけで、アジリティ・ロボティクス、アプトロニック、フィギュアAIの3社は地図の上では灰色、つまり非上場である。この灰色の印が実は動いていることは、後の節で扱う。

地図の塗り方には1か所、注意すべき点がある。ボストン・ダイナミクスは親会社が韓国の現代自動車グループだが、地図は米国の色で塗っている。国の印は本社の所在地で付いており、資本の出どころではない。どこに研究開発と人がいるかを見るなら妥当だが、資本関係で国を数えたい読者には合わない。

投稿が区分そのものを落とした33件に、日本企業の5社がいる

投稿の4区分と地図の9区分 — 落ちた33件はアクチュエーターと電池だった
投稿の4区分と地図の9区分 — 落ちた33件はアクチュエーターと電池だった

投稿の4区分を地図の9区分に当てはめると、対応するのは4区分だけである。

地図の区分件数日本企業投稿での扱い
基盤モデル7なし「知能と計算」に統合
GPU・CPU9なし「知能と計算」に統合
回転アクチュエーター133社区分そのものが無い
センサー(慣性計測・触覚)61社「つかむ・感じる」
電池62社区分そのものが無い
アクチュエーターの組み立て4なし区分そのものが無い
直動アクチュエーター10なし区分そのものが無い
ロボットハンド(多指)11なし対応する銘柄なし
視覚(カメラ・ライダー)10なし「見る」

回転13件、直動10件、組み立て4件のアクチュエーター計27件と、電池6件。合わせて33件が、投稿には区分としてすら現れない。地図の76件に対して43.4%である。

落ちた33件の中身が問題になる。地図に載る日本企業6社のうち、ハーモニック・ドライブ・システムズミネベアミツミニデックの3社は回転アクチュエーターに、パナソニックとTDKの2社は電池にいる。5社が、投稿には存在しない層にいる。 残る村田製作所はセンサーにいて、この区分は投稿の「つかむ・感じる」に対応するが、投稿はそこから米国2社しか挙げていない。

投稿の当てはめ方にも1か所ずれがある。「つかむ・感じる」に挙げられたノバンタとヴィシェイ・プレシジョンは、地図ではロボットハンドの欄ではなくセンサーの欄にいる。地図のロボットハンド11社にこの2社は入っていない。つかむ機構を作る会社と、つかむ力を測る会社が、同じくくりにまとめられている。

区分を9から4へ圧縮する作業自体は読みやすさのために要る。ただし圧縮で消えたのがどこかは、読む側の国籍で意味が変わる。米国の投資家にとっては、落ちた33件に米国企業はリーガル・レックスノード1社しかいない。日本の読者にとっては、地図に載っている日本企業の6社中5社が消える。なお層ごとの上場企業の実額を四半期の提出書類で追った集計は、本誌のロボット経済の8層37銘柄にある。

日本6社が何を出しているかは、自社の発表で確かめられる

地図に名前が載ることと、その会社が実際にヒューマノイド向けに何かを出していることは別である。6社それぞれの自社発表を当たった。

会社(証券コード)地図の区分自社が名指しした内容発表日
ハーモニック(6324回転ミネベアミツミと共同開発した「減速機搭載マイクロアクチュエータ」2025年12月16日
ミネベアミツミ(6479回転同上をCES 2026で初公開。寸法は幅13・高さ19.4・長さ60.4ミリ2025年12月16日
ニデック6594回転波動歯車減速機と扁平モーターを一体化し厚さ約40ミリの「超偏平アクチュエータ」2023年4月12日
村田製作所6981センサー純国産ヒューマノイドを開発する京都ヒューマノイドアソシエーションの設立4者の1つ2025年6月30日
パナソニック(6752電池電池の用途拡大先にヒューマノイドを名指し。門真の新拠点は延床約24,500平方メートル2026年9月16日
TDK6762電池用途にヒューマノイドを名指しした積層セラミックコンデンサーを量産2026年9月8日

ここで地図の見え方が一度崩れる。ハーモニックとミネベアミツミは地図では回転アクチュエーターの13件のうち別々の行に並ぶが、実際には共同開発していた。ミネベアミツミが2025年12月16日に出した発表によれば、両社が組んだロボットハンド向けの高トルクなマイクロアクチュエーターを、2026年1月6日から9日のCES 2026で初公開している。寸法は幅13ミリ、高さ19.4ミリ、長さ60.4ミリ。これを使うロボットハンドは指1本で5キログラムの重量物を持ち上げる。

一覧表は企業を独立した点として並べるが、実務では点と点がつながっている。日本の回転アクチュエーターは3社が横並びに競っているのではなく、少なくとも2社は同じ製品を一緒に作っていた。減速機を回す力の代金がどこで発生するかという仕組みそのものは、本誌のヒト型ロボットの関節の原価で扱った。

ニデックは子会社のニデックドライブテクノロジーが、波動歯車減速機「FLEXWAVE」と扁平で高出力のアキシャルフラックスモーターを一体化し、厚さ約40ミリの「超偏平アクチュエータ」を製品化している。発表は2023年4月12日で、6社の中では最も古い。

地図に区分の無い層がある。TDKがヒューマノイドを名指しした製品は電池ではなかった

TDKは電池の欄にいるが、名指しした製品は48ボルト化で効く受動部品だった
TDKは電池の欄にいるが、名指しした製品は48ボルト化で効く受動部品だった

TDKが2026年にヒューマノイドを用途として名指しした製品は、電池ではない。2026年9月8日の発表は、樹脂電極を使いながら端子抵抗を通常品並みに抑えた積層セラミックコンデンサー「CNシリーズ」に、定格100ボルト・X7R特性で容量10マイクロファラドの3225サイズ品を加えるというものである。外形は長さ3.2、幅2.5、厚さ2.5ミリ。容量許容差は±10%。型番は車載用がCNA6P1X7R2A106K250AE、民生用がCNC6P1X7R2A106K250AEで、量産開始は2026年9月。車載向けにAEC-Q200で認定されている。

なぜヒューマノイドが用途に並ぶのかを、TDK自身が書いている。AIサーバー、ヒューマノイドロボット、電動車、各種産業機器で48ボルト化が進んでおり、狙いは電力損失と配線の重量を減らすことにある。電圧を上げると電源ラインに使う100ボルト耐圧の部品に、より大きな容量が求められる。同社は同じ寸法で従来品の2倍の容量を実現し、等価直列抵抗を大きく下げた。結果として同じ面積に使う個数を半分にでき、部品点数も実装面積も減る。TDKは東証に6762で上場しており、2026年3月期の売上高は166億ドル、従業員は世界で約10.7万人である。

これが示すのは、地図の9区分がヒューマノイドの部品表を網羅していないということである。受動部品の区分がない。電源回路の区分もなく、配線の区分もなく、構造材も熱処理もない。48ボルト化という電圧設計の変更は、どの区分にも属さないまま、電池にも配線にも受動部品にも同時に効く。区分の細かさは作図の都合で決まっており、費用が実際にどこで発生するかとは一致しない。電池側の設計がどう決まるかは本誌のヒューマノイドの電池で扱った。

パナソニックも、電池そのものの発表ではない形でヒューマノイドに触れている。2026年9月16日、パナソニック エナジーは大阪府門真市に研究開発拠点「エナジーイノベーションスクエア」を新設し本格稼働を始めた。延床面積は約24,500平方メートル、地上6階建、約500名で、住之江の開発拠点と合わせて約800名規模になる。同社は現在の用途として電動車向けとAIデータセンター向けを挙げたうえで、今後の用途拡大先としてドローン、ロボタクシー、ヒューマノイドロボットを名指ししている。

灰色の印は動いている。投稿の4番目の銘柄は、地図が非上場とした企業だった

投稿の銘柄コードCCXIの正体と、地図の外で組まれた日本の14者
投稿の銘柄コードCCXIの正体と、地図の外で組まれた日本の14者

投稿が「作る側」に挙げた4銘柄のうち、テスラ、シャオペン、モービルアイの3つは地図の44社に見つかる。残るCCXIは見つからない。米国証券取引委員会に現在登録されている銘柄の一覧で引くと、CCXIはチャーチル・キャピタル・コープXI、登録番号2074973だった。ロボットメーカーではなく、特別買収目的会社である。ナスダックにCCXI、CCXIU、CCXIWの3つの銘柄コードで上場している。

提出書類をたどると、この会社の標準産業分類は3569、一般産業機械になっている。2026年6月24日の届け出の添付資料に、相手先が書かれていた。アジリティ・ロボティクスである。 地図に「アジリティ・ロボティクス・米国・非上場」として灰色で載っている、その企業だった。

条件は届け出に記されている。統合前の株式価値は25億ドル、調達額は総額6億2,000万ドル超を見込み、うち約2億ドルは1株10ドルでの私募増資。統合後は銘柄コード「AGLT」で北米の主要取引所に上場する予定である。登録届出書は2026年9月4日に提出され、2026年9月17日には、新型のDigit 5を公開したのを受けて10月6日にアナリスト・投資家向けの説明会を開くと発表した。Digit 5の複数年契約の受注は累計3億ドル超、9か所の顧客拠点での稼働は累計6万5,000時間を超えたと記している。経営陣は米国の製造・流通・物流での市場規模を約1兆ドルと見積もっている。これは会社自身の推計である。

同じ届け出に、地図には現れない関係が2つ書かれていた。導入先の企業としてトヨタ自動車のカナダ工場が挙がり、出資者・提携先としてソフトバンク・ビジョン・ファンド2が挙がっている。地図の120件に日本企業のメーカーは1社もないが、米国で唯一のヒューマノイド専業の上場企業になろうとする会社の顧客名簿と株主名簿には、日本の名前が載っている。

もう1つ、供給側から買い手へ一方向に引いた見立てを崩す例がある。シェフラーは地図では直動アクチュエーターの供給側に置かれているが、同じ届け出では導入先の顧客であり、かつ出資者でもある。供給する側と買う側と出資する側を1社が兼ねているとき、「誰が対価を得るのか」という問いは1本の矢印では答えられない。

そして日本が作る側に回る動きは、地図の外で進んでいる。村田製作所は2025年6月30日、早稲田大学、テムザック、SREホールディングスとともに京都ヒューマノイドアソシエーションを設立した。掲げたのは日本のヒューマノイドロボット産業の再興と純国産ロボットの開発で、活動は5つの柱に整理されている。国産の連携体制づくり、第1段階としてのレスキューロボット開発、京都を中核としたサプライチェーンの構築、経済的な波及と産業競争力の強化、ソフトウェアとAIとの連携である。

2025年10月2日の発表では参画が9者になり、作るロボットを3種と定めた。汎用部品で基礎を組む最初の試作機、災害現場や建築土木を想定した出力重視の機種、成人サイズで俊敏に動く機能重視の機種で、3つ目は将来ロボカップへ提供する予定だという。日程は2025年末に仕様を確定し、2026年3月に最初の試作機、2026年末に2台目という順である。その後2025年12月3日に住友重機械工業、ルネサスエレクトロニクス日本航空電子工業が、2026年1月30日に住友電気工業ロームが加わった。量産は2027年中を見込むと報じられている。

本稿が名前を確認できた2026年1月30日時点の参画者は14者である。ただしテムザックの2025年12月3日の発表は同じ時点を「13者連携」と記しており、本稿が名前を特定できていない参画者が1者いる。ここは未取得のままにしておく。

この14者のうち、ゴールドマンの地図に名前があるのは村田製作所の1社だけである。 マブチモーター、カヤバ、NOK、ヒーハイスト、住友重機械工業、ルネサスエレクトロニクス、日本航空電子工業、住友電気工業、ローム、テムザック、SREホールディングスは、120件のどこにも出てこない。

地図は、いま部品を売っている会社を並べたものであり、これから作る側に回ろうとしている国を映す道具ではない。投稿はその地図をさらに13銘柄へ圧縮した。日本の投資家がこの13銘柄の通りに読むと、日本企業が実際に対価を得ている層が丸ごと視界から消え、これから対価を得ようとしている14者は最初から視界に入らない。見るべきは13の銘柄ではなく、落ちた33件と、地図の外にある14者の名簿である。

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