関節1つの中には、固定子、回転子、減速機、角度検出器、軸受、駆動基板、外箱が入っている。この7点のどこに費用をかけるかで、ロボットの動き方も、代金の行き先も決まる。判断は、減速比を上げるか下げるかの1点に絞れる。
人型ロボットの部品表のうち、関節が占める割合は最大7割とされる。1体に数十個が載る。だから1つの関節で下した設計の判断が、ロボット全体に波及する。
判断の中身は1つに絞れる。減速比を上げるか、下げるかである。上げれば、作り込みの重心は精密な機械の側へ移る。下げれば、電動機と電子回路と熱の処理へ移る。これを数十の関節で繰り返した結果が、そのロボットの製造原価と、どの会社に代金が落ちるかを決める。
本稿はある分解調査の記事を土台に、関節の中身を部品ごとに追い、そこに出てくる数字を手元で計算し直し、そのうえで日本の減速機、軸受、磁石、電動機の各社が有価証券報告書に何を書いているかを確かめる。先に1つだけ書いておくと、日本の減速機大手は、ヒト型が普及する速さが自社の中期経営計画の前提より遅いと、自分の報告書に書いている。
関節1つに何が入っているのか
まず中身から見る。ある膝関節を実測で分解した図では、左から順に5つの部品群が並ぶ。
図1 — 5つの部品群と、7点それぞれが担う仕事
駆動基板は電力と信号と制御を受け持つ。磁気式の角度検出器は、この関節に2つあるうちの1つである。固定子と回転子が電動機そのもので、その先に遊星減速機が2段、出力側を交差ころ軸受が支える。
部品ごとの仕事は次のようになる。固定子は回転する磁界を作る、固定された銅の巻線。回転子は円筒状の鋼の部材に接着した永久磁石で回る。遊星減速機は速さを回す力に変え、この関節では2段構成をとる。磁気式の角度検出器は軸の位置を読んで制御側へ返す。交差ころ軸受は荷重がかかっても軸を中心に保ち、摩擦を小さくする。駆動基板は電池の直流を三相の電流に変える。外箱は同心を保ち、関節の外へ熱を運ぶ。
減速機は焼き入れした鋼の部品でできており、ロボットで使われる方式は3つある。角度検出器は磁気の輪か光学の円板を読む方式があり、電動機側と出力側の2つを備える関節もある。軸受は玉や交差したころのような転がる要素が、焼き入れした2枚の軌道の間を走る。駆動基板には電力用の半導体と制御用のマイコンと接続端子が入る。外箱は組立体を1つに保ち、構造の荷重を受け、電動機が出す熱も処理する。設計によっては、位置を保つための制動装置が入る。
電動機そのものは、積層した電磁鋼板、銅線、磁石、樹脂で主にできている。
言葉が3つに割れている
見積もりを読むうえで、先に整理しておく用語が3つある。業界では入れ替えて使われているが、指しているものは違う。
関節モジュールは機械の組立体で、電動機、減速機、角度検出器、軸受、外箱、設計によっては制動装置を含む。ここで注意がいるのは、角度検出器の置き場所である。ある届出は角度検出器を関節モジュールの中に入れ、別の届出は駆動基板と並ぶ制御部品として外に置く。同じ部品が、書類によって別の箱に入っている。
駆動基板は電力と制御の基板で、電池の直流を電動機用の三相電流に変え、指令と実際の動きを突き合わせて制御する。
アクチュエータは、その両方を含みうる広い言葉である。だから2社が「アクチュエータ」の見積もりを出しても、片方は駆動基板を外箱の中に入れ、もう片方は別の明細で売っていることがある。見積もりを比べるときは、まずどこまでが1点に含まれるのかを確かめる必要がある。
回す力はどこで生まれるか
電動機の中で何が起きているかを、断面で見ておく。
図2 — 固定子の巻線が作る回る磁界と、それに引かれる回転子
固定子は動かない側で、銅の巻線が円周に並ぶ。電流を順に流していくと、磁界が円周を回っていく。回転子は回る側で、焼結したネオジム鉄ボロンの永久磁石を鋼の構造体に接着してある。磁石が回る磁界に引かれて追いかけ、そこに回す力が生まれる。
この断面の内側で回す力を作るか、外側の歯車で増やすか。記事全体の問いは、この配分の話に還元できる。
減速比を上げると、3つの代償が付いてくる
電動機と関節は、そもそも別々の領域で働いている。電動機は速く回るときに最も小さく、効率よく回る。関節は比較的ゆっくり動きながら、回す力を出す必要がある。減速機は、その2つの間を橋渡しする。速さを落として、関節側の回す力を増やす。
減速比を上げれば、てこの効きは大きくなる。ただし3つの代償が付く。
第1に、力が熱に逃げる。歯車は摩擦でいくらか失う。遊星の1段は電動機の仕事の95%から98%を返し、波動歯車の1段は85%から90%まで落ちる。遊星を2段重ねるとさらに下がり、範囲を2乗して0.95²=90.25%、0.98²=96.04%、つまりおよそ90%から96%になる。これは計算による見積もりで、実測値ではない。関節が数十個あると、この差は熱、稼働時間、そして電池の大きさや冷却の追加として積み上がる。
第2に、関節が重くなって部品表が膨らむ。減速機は精密な鋼の部品でできており、鋼は重い。膝が300グラム重くなるのは、300グラム分の費用では終わらない。その膝を動かす股関節に、より大きな回す力が要る。すると電動機が大きくなり、銅と磁石が増え、軸受が強くなり、電流が増え、電池も大きくなりうる。各関節の質量が、ロボットの中で複利のように効いてくる。
第3に、外力の伝わりやすさと応答が落ちる。高い比は、関節を電動機から機械的に切り離す。外から動かしにくくなり、電動機の側からも外の力を感じ取りにくくなる。理由の1つが反射慣性 (出力軸に換算した慣性) である。電動機の回転慣性は、減速比の2乗を掛けた大きさで出力側に現れる。
この2乗が効き方をつかみにくくしているので、数字にしておく。3対1で9倍、6対1で36倍、10対1で100倍、50対1で2,500倍、100対1で1万倍。つまずいたときに素早く反応できなくなる理由は、ここにある。
そこで設計は、両端のどちらかに寄る。1つは小さくて速く回る電動機に高い比の減速機を合わせる形、もう1つは大きくて回す力の強い電動機に低い比の減速機を合わせる形である。前者では作り込みの重心が減速機に集まる。精密な歯車、厳しい公差、専門的な製造、方式によっては多段構成。後者では電動機と電気系に移る。磁石、銅、大きな電流、それを扱う電子回路と熱の処理。
だからこの選択は、どの部品が効いてくるか、どの供給元が替えにくいか、そして関節の供給網のどこに価値がたまるかを決めている。
仕様表で見るべき5つの数字
関節の主張を評価するときに見る数字は5つある。
連続の回す力と最大の回す力。最大は短い時間だけ何ができるかを示し、連続は現場で繰り返し何ができるかを示す。実演で見える動きは最大側の数字で、現場に置いたときに続く動きは連続側で決まる。
力の密度。同じ質量でどれだけ回す力が出るか。高ければ手足が軽くなり、その手足を動かす上流の関節も小さくでき、部品表全体が下がりうる。
逆に動かしやすさ。外から加わる力を、どれだけ自然に受け止め、感じ取れるか。歩行、物の扱い、人との接触で効く。
歯の遊び。向きを変えたときにどれだけ機械的な不確かさが残るか。細かい作業で効く。
衝撃への耐性。現実の打撃を繰り返し受けて壊れないか。信頼性、保守、使える期間で効く。
減速機は3方式、作り方が供給側の顔ぶれを決める
3つの方式は同じ問題を解くが、製造の要件が違うので、供給側の採算も違ってくる。
図3 — 用途、単価、衝撃への強さ、精度の取り合い
波動歯車は、薄肉で柔らかい鋼製のカップが硬い外輪の中で変形して動きを伝える。人体でたとえるなら、しなやかな軟骨か張った腱にあたる。硬い歯車どうしが回るのではなく、制御された弾性変形を使う。小さく軽い体積で歯の遊びがほとんどなく、50対1以上の高い比が取れるので、精密な産業用ロボットや手術用ロボットに向く。難点は単価の高さ、専門的な製造、そして衝撃への耐性が他方式より低いこと。柔らかい部品は使用の中で疲労もする。
この製造基盤は歴史的に日本に集まってきた。何百万回曲げても割れないカップを削る工程が要るからである。中国勢が入ってきて分け前を取りつつあるが、値下げ一本の競争というより、競争の土台が成熟してきた形に見える。中国側の代表的な1社は、直近の中間決算で出荷も利益率も上がっている。
サイクロイドは、突起の付いた円板が固定されたピンやころの輪の中で偏心して動き、力を複数の接点に分散する。人体でたとえるなら、かみ合う背骨の椎骨にあたる。少数の歯に力が集中しない。衝撃への耐性、耐えられる荷重の大きさ、歯の遊びの小ささが強みで、重い荷を扱う用途に向く。難点は重くかさばること、組立が複雑になりうること。調達で難しいのは偏心する円板の輪郭を削る工程で、これができる工場は遊星の歯切りより狭く、波動歯車より広い。ヒト型ではまだ多くないが、中国のヒト型メーカーの少なくとも1社はサイクロイドの関節を中核技術に挙げている。「重いから避けられる」という説明が、どの設計にも当てはまるわけではない。
遊星は、中心の太陽歯車が複数の遊星歯車を回し、外側の内歯車がそれを受ける。人体でたとえるなら、肩や股のような球状の関節にあたる。力を複数の接点に分散する、剛性の高い構造である。効率が高く(1段で95%以上のことが多い)、衝撃に強く、一般的な歯車製造の設備で作れる。難点は歯の遊びがあること、高い比を得るために段を重ねると遊びも摩擦も重さも複雑さも増えることである。歯車の供給元は限られておらず、従来からある歯車製造の広い裾野から引ける。課題は量産で公差を保つことになる。そして低い比の遊星は、次に見る準直接駆動の土台でもある。
準直接駆動が費用の置き場所を変える
ヒト型の記事を追っていると必ず出てくる言葉が、準直接駆動である。これは減速機の種類ではなく、関節の設計思想を指す。回す力の強い電動機に、非常に低い比の減速機(3対1から10対1)を合わせる構成である。「準」は「ほとんど」の意味で、電動機がほぼ直接に関節を駆動し、外からの力への応答を大きく残したまま、回す力を増やすぶんだけの歯車を挟む。
図4 — 8つの観点で並べた、低い比と高い比の取り合い
この構成の減速機は、費用の低さと機械効率の高さ(95%以上)から、遊星が主流である。低い比のサイクロイドを使う派生も出てきている。
四足ロボットの参照設計として広く引かれてきた関節が、この考え方の原型になった。減速比は遊星の1段で6対1、連続の回す力が6.9ニュートンメートル、最大が17ニュートンメートル。対して、従来の産業用ロボットの手首は50対1から100対1で、荷を静止させたまま固める。ヒト型の膝は深くしゃがむのに大きな回す力が要るため、低い比の多段遊星(例えば22.5対1)を使うが、それでも産業用の水準よりはるかに低く抑え、衝撃への耐性を残している。
低い比を選ぶと、機械的には3つの利点が出る。第1に、外から押すと電動機がそのまま回るので、関節そのもので外力を感じ取れる。高い比の減速機は、これに対して逆止弁に近い振る舞いをする。第2に、反射慣性が小さいので、つまずきのような乱れに素早く反応できる。第3に、衝撃に強い。歩くロボットは毎秒何度も地面を打つ。低い比の設計は、その打撃におおむねよく耐える。
そしてこの機械の側の移り変わりには、経済の側の意味がある。高い比は負担を減速機に残す。精密に研削した歯、厳しい公差、それを保てる少数の製造者。高い比は精度を買い、その代わりに歯切りの供給側が狭くなる。低い比は負担を電動機と電子回路へ押しやる。直径の大きい固定子、回す力を直に作るための多くの磁石、固定子の巻線に使う多くの銅、そしてそれを扱える駆動基板。低い比は衝撃への耐性を買い、その代わりに希土類の磁石と大電流の電子回路に依存する。
電子回路が複雑になっても、準直接駆動はロボット全体の関節費用を下げうる。理由は3つ挙げられている。
第1に、供給元の見つけやすさ。低い比の遊星は標準的な産業部品で、広く出回っている歯切り盤で作れる。波動歯車の減速機は、はるかに専門的な供給側が要る。ただし、低い比の設計は、作りの単純な歯車を補うために、より強い磁石をより多く使う。焼結したネオジム鉄ボロン磁石の生産は、中国が世界の94%を占める。20年前の約50%から上がった。
第2に、費用と効率。ある分解調査によれば、低い比の遊星は効率95%から98%(波動歯車は85%から90%)で、最大80%安い。
第3に、駆動基板の内製化。中国のあるヒト型メーカーの公開財務資料では、関節モジュール1つあたりの駆動基板の支出が2年で83%下がったとされる。この83%という数字は、本稿が取得できた資料では確かめられなかった。同社の上場申請書類から確かめられたのは、関節モジュールが調達費の19.4%、制御器が13.67%を占めること、そして主力機種の平均販売価格が2025年に25.56%下がったことである。数字を引くときは、確かめられた側とそうでない側を分けておきたい。
関節ごとに答えが違う
ヒト型は1種類の関節でできてはいない。関節ごとに、力、精度、衝撃、質量、収まりの組み合わせが違う。
図5 — 6つの群と、それぞれの最優先事項、減速比、自由度
肩と肘は収まりの良さ、滑らかな軌道、中程度の可搬重量を優先し、単段か2段の遊星(9対1から25対1)か、先端の精度を費用より優先する機種では波動歯車(50対1以上)を使う。自由度は1体で8から10。
腰と胴は静止時の保持力、構造の剛性、前後左右の可動域を優先し、回す力の強い遊星かサイクロイド(40対1から80対1)。自由度は1から3。
股と膝は極端な衝撃への耐性、最大の力の密度、動きながら逆に動く性質を優先し、低い比の準直接駆動の遊星(3対1から10対1)か、直動のころねじを使う。自由度は8から10。
足首は応答の速さ、衝撃の吸収、多軸の柔らかさを優先し、準直接駆動の遊星(5対1から15対1)か2本の直動連結。自由度は4。
手首は1ミリ以下の位置決め、遊びゼロ、先端の軽さを優先し、波動歯車(50対1から100対1)。自由度は4から6。
手と指は質量の最小化、極端に詰まった収まり、触れる力の制御を優先し、微小な送りねじ、微小な遊星、または準直接駆動。自由度は12から44以上になる。
脚と股は地面からの打撃から守るため準直接駆動の遊星か大きな力を出す直動に大きく寄り、手首と腕は狭い場所で保持する力を最大にするため波動歯車を使うか、準直接駆動の電動機を中央に置いて腱で力を送り、手足を軽く保つ。
実機はこの通りに分かれている。ある米国勢の最新世代は、肩、胴、手首のひねりといった回転する関節に波動歯車を使い、膝や肘のような大きな力が要る関節には直動を使う。ある米国の新興勢の手は、腱で駆動する準直接駆動をおよそ5対1から15対1で組み、電動機を前腕と胴に納めて先端の慣性を小さくし、人のそばで安全に使えるようにしている。ある中国勢は、投資家向けの説明で自社の中核構成を「高帯域で力を制御する準直接駆動の遊星回転関節」と呼ぶ。回す力の強い電動機と、低い比の遊星減速機と、素早い力制御の仕組みを組み合わせたものである。
なお自由度の範囲は、その群を十分に動かす構成を想定した数で、足し合わせて最小構成になる数ではない。入門的な構成では、手、手首、足首、胴の可動を省いたり減らしたりする。分解の対象になったヒト型の標準構成は23自由度、教育向けの上位構成で23から43自由度である。
数字を自分で確かめる
ここまでに出てきた主張のうち、手元で計算し直せるものを確かめておく。
図6 — 効率の掛け算、反射慣性の2乗、そして実測値
参照設計の関節は、最大17ニュートンメートルを610グラムで出す。割ると27.9ニュートンメートル毎キログラムになる。いま出回っている関節モジュールは、最大時で45から75ニュートンメートル毎キログラムとされる。参照設計から1.6倍から2.7倍に上がった計算になる。
力の密度は、供給側が仕様表に書いてくることは少ない。回す力を関節全体の質量で割って自分で出す数字である。連続側の力の密度も必ず見る。熱の制限があるので、続けて出せる性能は最大の数字より下に来る。
衝撃への耐性は、定格に対する最大または瞬間の回す力の比で示されることが多く、市販の関節モジュールでおよそ2倍から4.6倍の幅にある。連続で出せる力と、一瞬だけ出せる力の差がこれだけあるということでもある。
日本の減速機大手が有価証券報告書に書いた一文
ここから日本側に移る。EDINETから22社の有価証券報告書を取得し、本文の語数を機械で数えた。
図7 — 減速機、軸受、磁石、電動機のそれぞれに立つ日本企業
ハーモニック・ドライブ・システムズ (6324)は、波動歯車装置という語を156回、減速機を90回書いた。22社で突出している。2026年3月期の連結売上高は595億5,788万円で前期比7.0%増、営業利益は25億6,700万円(前期は600万円)で、営業利益率は4.3%である。製品群別では減速装置が463億3,300万円(9.5%増、全体の77.8%)、応用製品が132億2,400万円。受注高は616億1,338万円(16.2%増)、受注残高は218億7,311万円。従業員は1,419名である。
地域別の受注では、日本向けの減速装置が254億8,083万円で26.9%増えた一方、中国向けは31億7,317万円で38.1%減った。販売実績でも中国向けは37.3%減っている。同社は当期に4億3,455万円の受注取り消しも計上した。
その報告書に、次の一文が入っている。「AIロボット市場については中長期的な成長期待に変わりはないものの、現時点においては創成期にあることから、2024年5月13日に公表した中期経営計画策定時に想定していた前提条件と比べ、社会実装の進展ペースについて想定との差異が生じつつある状況となっております」。
同社はこれを受けて中期経営計画を作り直し、2026年度から2030年度の新計画で「AIロボット」「航空・宇宙・防衛」「eモビリティ」を注力領域に置いた。2030年度に連結売上高1,000億円以上、営業利益率15%以上、投下資本利益率と自己資本利益率10%以上を掲げる。2026年2月には東証スタンダード市場からプライム市場へ移っている。
ヒト型の需要が来ると言われている当の会社が、来る速さは自社の想定より遅いと書いた。この一文は日本ではほとんど引かれていない。営業利益率4.3%という数字も、この分野で価値をたっぷり取っている会社の姿ではない。
もう1社の減速機大手であるナブテスコ (6268)は、2025年12月期の部品事業で受注高824億2,800万円(16.2%増)、売上高793億2,500万円(17.3%増)、営業利益54億2,000万円(103.2%増)を計上した。産業用ロボットの在庫が適正水準に戻り、需要が堅調だったためである。2026年12月期に125億円の設備投資を予定し、研究開発費は134億3,600万円。精密減速機の新製品として小型の製品群と故障検知の仕組みを開発している。ただし、この報告書に人型ロボットという語は1度も出てこない。
軸受、磁石、角度検出器 — 日本勢が立っている場所
日本企業がこの分野に立っている場所は、減速機だけではない。
日本精工 (6471)の有価証券報告書は、電源に強みを持つ台湾の電子部品大手と組み、人型ロボット向けに適用できる回転式と直動式の関節部品を開発したと書く。回転式は超薄肉の軸受を最適に配置することで、関節部用として他社比30%増の力の密度となる小型・軽量化を実現した。直動式は逆に動かしやすいボールねじを採用し、腕と脚の用途で高い逆作動性を実現するとともに、密に配置して放熱を高める構成で他社比30%増の推力密度を実現したとしている。低い比を選ぶ設計でいちばん効いてくる性質を、日本の軸受大手が自社の報告書に明記している。軸受という語は175回で22社最多だった。
ミネベアミツミ (6479)はヒト型に当たる語を5回書いて22社で最も多く、軸受と力の検出器でこの市場に入ると記す。電動機に当たる語は124回である。
大同特殊鋼 (5471)は、赤外の点光源が産業用ロボットの角度検出器の光源として広く採用されていると書き、発光窓の直径が世界最小の水準である35マイクロメートルでありながら125度の高温でも信頼性を保つ新型を挙げた。協働ロボットとヒト型の市場が広がる中で、光源には高い分解能のための窓の微小化と耐熱性が求められている、という書き方である。磁石が26回、希土類が15回で、材料の側にも立っている。
村田製作所 (6981)は、京都で協議会を設立し、日本発の純国産人型ロボットの開発に取り組むと書いた。マブチモーター (6592)は、協働ロボットやヒト型の用途での拡販を目指して中空構造の電動機の品ぞろえを広げている。
一方で、ファナック (6954)はロボットという語を99回、川崎重工業 (7012)は108回書いているが、ヒト型に当たる語は1度も書いていない。THK (6481)は直動に当たる語を20回書きながら、ヒト型はゼロである。産業用ロボットで実績のある会社ほど、ヒト型という語を報告書に入れていない。
値段はどちらの側も上がった
最後に、外側の数字を4つ当てておく。
図8 — 生産者物価、事業所数、供給の集中、そして1体あたりの部品表
米国の生産者物価を2019年1月と2026年7月で比べると、歯車と動力伝達装置が50.4%高、電動機と発電機が46.1%高、ねじ・ボルト類が60.3%高になった。同じ期間に電気機器の生産指数は9.9%下がっている。
歯車の側と電動機の側で、値上がりの差は4ポイントしかない。つまり、高い比を選んでも低い比を選んでも、投入する材料と部品の値段はどちらも同じように上がっている。方式の選択は、投入価格の差を取りに行く話ではなく、どの供給側に依存するかの話になる。
日本にある事業所の数も見ておく。経済構造実態調査によれば、2022年の変速機の出荷は4,499億円で145事業所、歯車は1,274億円で301事業所、数値制御ロボットは5,568億円で63事業所、ロボットの部分品は1,174億円で514事業所である。「歯車を削れる会社は限られる」という話は、数で見ると301事業所ある。狭いのは歯車そのものではなく、精度の等級のほうになる。
低い比を選んで歯車の狭さを避けると、別の集中に当たる。国際エネルギー機関の2026年4月の報告によれば、2024年の中国の世界シェアは、焼結ネオジム鉄ボロン磁石の生産で94%、希土類の精錬で91%、採掘で60%である。磁石は2005年ごろの約50%から94%へ上がった。
そして1体あたりの数字。ある中国製ヒト型を分解した調査(2026年6月9日公表)は、部品表の合計を8,976ドル、販売価格を27,300ドル、粗利益率を67%と算出した。同じ調査が、低い比の遊星は波動歯車より最大80%安く、効率は95%から98%対85%から90%だとしている。
なお「関節が部品表の7割」という言い方には注意がいる。公表されている推計は21%から70%まで開く。何を関節に数えるか(駆動基板を含めるか、外箱を含めるか)、どの機種か、どの生産量かで変わるためである。上端だけを引くと、部品表の議論が3倍ずれる。
仕様表を読むための用語
現場で仕様表を開いたときに、最低限そろえておく言葉を整理しておく。
減速比は、関節の中にある速さと回す力の交換比率で、N対1と書く。高速で回す力の小さい電動機が減速機を回し、減速機は出力軸の回転をN分の1に落とし、代わりに回す力をおよそN倍にする(効率の損失を差し引く前の話である)。高い比(40対1から100対1)は自転車の軽いギヤにあたり、回す力を出して保つてこの効きが大きいが出力の速さは落ちる。低い比(3対1から9対1)はばねのように弾む運動選手の手足に近く、応答が速いがてこの効きは小さいので、電動機が重い仕事を引き受ける。
定格の回す力は、熱の限界を超えずに出し続けられる大きさ。最大の回す力は、熱が制約になるまでの短い時間に出せる大きさ。この2つの差が大きい関節は、見出しの最大性能を出し続けられない。
力の密度はニュートンメートル毎キログラムで、手足の先の質量が上流のすべての関節に回す力の負担をかけるため、ロボットでは重い指標になる。同じ重さを持ち上げられなくても体重比で強い岩登りの選手と、絶対値で強い重量挙げの選手の違いにあたる。回す力を増やすには電動機の材料を増やすのが普通で、それが質量を増やすので、この指標を上げるのは工学的にも難しい。
歯の遊びは角度の分(ふん)で測ることが多い。1分は1度の60分の1である。歯車列を一方向に回してから逆に回すと、歯が隙間を渡って反対方向に力を伝え始めるまでの間、出力側が一瞬止まる。関節の緩みのようなもので、大きすぎると針に糸を通すような細かい作業で精度が落ちる。ただし歯車の設計によっては、潤滑、熱膨張、確実な動作のために小さな隙間が要る。
逆に動かしやすさは、出力側に加えた外力がどれだけ簡単に電動機を逆に回せるかを表し、関節を動かすのに要る出力側の回す力で特徴づけられる。力が抜けた腕は押されるとなめらかに逃げ、こわばった腕は外から動かされることに抵抗する。人との接触、力の制御、動きの速い場面で有効になる一方、剛さと荷の保持が大事な場面では、逆に動きにくい設計が役に立つ。
これから確かめる4つの数字
第1は、ハーモニック・ドライブ・システムズの中国向け受注である。減速装置で38.1%減った水準が戻るのか、それとも中国勢への置き換えが進むのか。同社の四半期開示で追える。
第2は、日本精工が台湾勢と組んで開発した関節部品が、どの機種に載るかである。他社比30%増という数字は自社の説明で、実機に載って初めて検証される。
第3は、ヒト型メーカーの部品表に占める関節の割合である。21%から70%という幅は広すぎる。関節に何を数えるかを明示した部品表が公表されるかどうかが、この議論の質を決める。
第4は、焼結ネオジム磁石の94%という集中である。低い比の設計を選ぶほど磁石が要る。歯車の供給が狭いことを避けたつもりで、より狭いところに寄っていないかどうかは、方式を選ぶ前に確かめておきたい。
回す力の代金をどこで払うかという問いに、正解は1つではない。関節ごとに答えが違い、その組み合わせが1体のロボットの原価になる。ただ、どちらを選んでも代金は誰かに落ちる。それが精密な歯車を削る少数の工場なのか、磁石を焼く94%の側なのかという違いだけである。
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