マイクロンは2026年7月4日、広島県東広島市で1.5兆円を投じるHBM4新製造棟の起工式を開いた。経済産業省の補助は最大5,360億円。キオクシアのNAND、ラピダスのロジックと並べたとき、国内でAI半導体の3層が揃う地図が現れる。

半導体産業のコンサルタント服部毅氏は、経済産業省がマイクロン・キオクシア・ラピダスの3社が提携するよう働きかけているようだと指摘した。キオクシアが国内でNANDフラッシュメモリーを量産し、ラピダスがロジック半導体の生産に成功すれば、マイクロン広島工場のDRAMと合わせて、国内だけでAI半導体の供給網が整うという構図である。まだ「画策しているようだ」という段階の観測であり、3社や経産省の公式発表はない。本稿はこの構想の土台になる事実関係を、起工式の一次報道と日米の開示データで数える。円換算は2026年8月7日の為替(1ドル=157.54円、セントルイス連邦準備銀行の公表値)による概算である。売買の推奨や評価は示さない。

広島1.5兆円の中身: HBM4を1γノードとEUVで作る

マイクロン広島とラピダス・キオクシアの国内3層
マイクロン広島とラピダスキオクシアの国内3層

数字から確かめる。新製造棟の投資額は1.5兆円で、経産省の補助は最大5,360億円と投資額の約3分の1に当たる。第1期の造成面積は約2万8,000平方メートル、製造装置の搬入開始は2028年後半の見込み。作るのはHBM4を軸に、DDR5、LPDDRを含む先端DRAM群である。プロセスは1γ(ワンガンマ)ノードで、広島には2025年5月に日本初のEUV(極端紫外線)露光装置が量産導入済み。1γは前世代1β比で省電力約20%・記憶密度約30%の改善をうたう。新規雇用は1,000人超で、日本法人マイクロンメモリジャパンの従業員は約4,700人になる。

投資の文脈も一次資料で追える。マイクロンは2013年のエルピーダメモリ買収以来、日本へ累計240億ドル(約3.8兆円)超を投じており、今回の1.5兆円はその上積みに当たる。同社の設備投資はSECのXBRLデータで2023年8月期77億ドル→2024年8月期84億ドル→2025年8月期159億ドル(約2.5兆円)と2年で倍増しており、広島はこの投資拡大局面の一角にある。米国では2025年6月、トランプ政権と共同で約2,000億ドル(製造1,500億+研究開発500億)の国内投資拡大を発表し、アイダホ2棟(第1棟は2027年にDRAM出荷開始)、ニューヨークに最大4棟、バージニアの既存工場の改修を並べた。広島の位置づけを測る物差しがもう1つある。SECの全文検索で、マイクロンの提出書類に「Hiroshima」が現れた回数は2023年0件→2024年4件→2025年5件。広島は2024年から、米国の投資家向け開示に登場するようになった。

「3社提携」の技術的な下地: HBM4の土台はロジックでできている

服部氏が伝える経産省の構想を、感情論ではなく製造工程で読む。AIサーバーの半導体は役割分担が固まっており、GPU(大量データの高速処理)は米エヌビディア、CPU(複雑な計算処理)は米インテルと米AMD、HBM(GPUと組み合わせて処理を最適化)は韓国SKハイニックス・サムスン電子・米マイクロン、NAND(HBMの補完とサーバーのデータ保存)はサムスン・SK・キオクシアが主要企業である。この4品目のうち、GPUとCPUは輸入に頼るとしても、HBM・DRAMは広島、NANDはキオクシア(285A)の四日市・北上、ロジックは2027年量産を目指すラピダスの千歳と、記憶と論理の国内拠点は出揃いつつある。ラピダスは2025年7月に千歳のIIM-1で2nm GAAトランジスタの動作確認を済ませ、量産の壁は歩留まりに移っている。

3社の間には、単なる「同じ国にある」以上の技術的なつながりがある。HBM4から、積層の土台になるベースダイはロジックプロセスで作る設計に移行しており、SKハイニックスはこの土台を台湾TSMCに委ねる分業を発表済みだ。マイクロンのHBM4も土台の高度化が競争軸になる。つまりHBMの次の世代は、メモリー会社の中で完結せず、ロジックの製造能力を必要とする。ラピダスの2nmが立ち上がれば、広島のHBMの土台を国内ロジックで担う道が理屈の上では開ける。キオクシア側にも、NANDをHBMのように積んで帯域を稼ぐ高帯域フラッシュ(HBF)の標準化という接点が既にある。経産省の「3社提携」がどの深さを指すのかは不明だが、パッケージの中で3社の製品が物理的に重なる時代が来ていることは、規格の動きが示している。

DRAM世界シェアの現在地: 3強の寡占に中国CXMTという新たな変数

DRAM世界シェアとマイクロンの投資実数
DRAM世界シェアとマイクロンの投資実数

DRAMメーカーの世界シェアは、サムスン電子38.5%、SKハイニックス28.8%、マイクロン22.4%の3強で約9割を占め、そこに中国CXMT(長鑫存儲)が7.6%、その他2.7%と続く。注意すべきは7.6%の中身である。CXMTは輸出規制の対象外である汎用DRAMを増産しており、旧世代品の価格を押し下げる一方、AI向けの主戦場であるHBMでは3強の寡占が崩れていない。SKハイニックスのHBM首位にマイクロンが挑む構図の中で、広島はマイクロンのHBM供給網の日本拠点になる。

歴史の文脈も添えておく。日本のDRAMシェアはエルピーダの破綻(2012年)で事実上ゼロになった。その工場を買ったマイクロンが、13年後に日本最大級の半導体投資でHBM4拠点を建てる。国産メーカーの復活ではなく、外資の工場で国内供給力を確保するという設計であり、補助5,360億円はその対価である。

精錬の裏側: 研磨のセリウム、この工場の工程も中国の川上を通る

広島の新棟にも、精錬の急所は残る。半導体の平坦化(CMP)工程では、酸化膜の研磨にセリア(酸化セリウム)系スラリーが使われる。セリウムは軽レアアースで、精錬は中国が世界の約9割を握り、中重希土類7品目は2025年4月から輸出許可制の下にある。研磨材ではフジミインコーポレーテッド(5384)が国内大手、CMPスラリーはレゾナック(4004)が手掛け、信越化学工業(4063)はウエハーからレアアース磁石まで両にらみの立ち位置にある。中国域外のレアアース供給網の細さは既報の通りで、1.5兆円の工場も、川上の鉱物供給と無縁ではいられない。

日本株: 工場の国籍が変わっても、装置と材料の発注書は日本に来る

投資家にとっての実利はここにある。広島の1.5兆円の大半は建屋と製造装置に充てられ、装置・材料の調達先は日本勢が厚い。有価証券報告書の実数で並べる。

領域銘柄直近通期の実数 (EDINET)
前工程装置東京エレクトロン (8035)売上2兆4,435億円・営業利益率25.6%。DRAM向け成膜・エッチング
積層・後工程ディスコ (6146)同42.3%。HBM積層の研削・切断
試験アドバンテスト (6857)同44.2%。HBMの選別試験
EUV検査レーザーテック (6920)同48.8%。広島のEUV化で検査需要
EUVレジスト東京応化工業 (4186)同20.0%。1γの感光材
ウエハーSUMCO (3436)・信越化学 (4063)0.3%と24.7%。数量回復が焦点
メモリー本体キオクシアHD (285A)売上2兆3,376億円・同37.2%

並びが教えるのは、逼迫が既に届いた工程(ディスコ42.3%・アドバンテスト44.2%・レーザーテック48.8%)と、これから数量で取り返す工程(SUMCO0.3%)の落差である。キオクシアの37.2%は8月に完了した800億円の自社株買いと合わせ、メモリー上昇局面の現金創出力を示す。AIサーバー由来のメモリー逼迫が続く限り、広島・四日市・千歳の3拠点は、同じ装置・材料の買い手として日本のサプライヤー各社に発注を出し続ける。

確かめられる点

確認は公式発表の日付で足りる。第1に、「3社提携」が経産省・3社のいずれかから公式の枠組みとして発表されるか。現時点では観測記事の段階である。第2に、広島新棟の装置搬入が予定どおり2028年後半に始まるか。装置各社の受注開示が先行指標になる。第3に、ラピダスが2027年の量産開始と歩留まりの壁を越えるか。第4に、マイクロンの12月の四半期決算でHBMの売上と広島への言及がどう増えるか。第5に、CXMTのシェア7.6%が汎用DRAM価格をどこまで押し下げるか。第6に、キオクシアとSanDisk陣営のHBF標準化が製品計画に落ちるかである。

エルピーダが残した広島の工場に、日本最大級のメモリー投資が戻ってきた。国内でロジック・DRAM・NANDの3層が揃うかどうかは、まだ「画策」の段階である。ただし積層の規格は先に動いており、HBMの土台がロジックでできている以上、3社の距離は政策より先に、パッケージの中で縮まっていく。