サンディスクの模擬計算では、960GBのAIモデルに要るGPUが8枚から最少1枚になった。差を生んだのは容量の一点である。HBFの素材になるNANDは、キオクシアとの共同工場がある四日市と北上で作られている。

サンディスクは2026年8月13日の投資家向け説明会「In Focus 2026」で、NAND型の新しいメモリー「HBF」がAI推論の計算機構成をどう変えるかを示す模擬計算を公開した。米国の開示によれば、同社の損益は2025年6月期の営業損失13億7,700万ドルから、2026年1〜4月の3か月で営業利益41億1,100万ドルへ振れている。本稿は説明会資料の数字を検証し、規格化の経過と、日本側の連動を有価証券報告書の実数で追う。売買の推奨や評価は示さない。

帯域と演算をそろえ、容量だけを変えた模擬計算になっている

サンディスクが示したHBFとHBMの模擬計算の前提
サンディスクが示したHBFとHBMの模擬計算の前提

資料の前提を読むと、比較の設計が分かる。GPU1枚あたりの演算性能は4.5PFLOPS、メモリー帯域は12.8TB/秒、GPU間の接続は900GB/秒で、HBF側とHBM側の両方に同じ値を置いている。あふれた作業領域の退避先も、どちらも128GB/秒でLPDDRメモリーへつなぐ。違うのは搭載容量だけで、HBFは1枚あたり4TB、HBMは192GBである。

対象にしたのはアリババの公開モデルQwen3-480B-A35Bで、bfloat16形式なら重みが960GBになる。192GBのHBMでこれを載せるには8枚のGPUに分けて置くしかない。4TBのHBFなら1枚に収まり、模擬計算では1枚または4枚の構成で処理が成立した。負荷の想定は、対話を何度も往復する自律エージェント型の処理を模したものと明記されている。

読み方には注意が要る。これは供給側が前提を置いた模擬計算で、実機の測定値ではない。帯域を同じ値に固定した設計なので、差が出る場所は容量しかない。それでも「重みが載り切るかどうかでGPUの枚数が決まる」という構図自体は、後述する推論の費用構造と整合している。

規格化は表明から仕様公開まで6か月だった

HBFはNANDフラッシュをHBMのように積み、広い帯域で読み出せるようにしたメモリーである。SKハイニックスの発表では、スタックあたりの帯域は1.6TB/秒でPCIe 5.0接続のSSDの50倍を超え、容量は同等のHBMスタックの8〜16倍にあたる。8スタックを1つのGPUに並べれば、模擬計算にある12.8TB/秒と4TBの数字と符合する。

進みかたが速い。サンディスクとSKハイニックスが世界標準化の開始を表明したのが2026年2月25日、Open Compute Projectを通じて最初の技術仕様を公開したのが8月3日で、6か月しか経っていない。この間にGoogleとTenstorrentが枠組みへ加わった。仕様は8月4日から6日のFMS 2026にあわせて示された。

この座組には二重の意味がある。SKハイニックスはHBMの最大手であり、HBFが伸びればHBMの一部を置き換えられる側にいる。その会社が規格化の共同提案者に立つのは、置き換えが起きるならその両側を押さえるという構えになる。DRAMの供給元とNANDの供給元が、AI推論のメモリー階層を挟んで同じ規格に乗った。

推論の費用は帯域より先に容量で詰まる

なぜ容量が主役になるのかは、モデルの構造から説明できる。Qwen3-480B-A35Bは全体で4,800億の重みを持つが、1回の推論で動くのは350億にとどまる混合専門家型である。演算量は動く部分の大きさで決まる一方、メモリーには全体を置いておく必要がある。つまり演算は軽いのに、置き場所だけが大きい。

さらに自律エージェント型の使い方では、長い文脈を保持する作業領域が会話のたびに積み上がる。GPUの枚数を決めるのは計算の速さではなく、重みと作業領域が載り切るかどうかになる。載り切らなければ、演算能力が余っていてもGPUを足すしかない。8枚構成の演算の大半は、使われないまま容量のために確保されている。

NANDには読み出しの遅さと書き換え回数の上限という弱点がある。ただし推論での重みは読むだけでほとんど書き換えない。頻繁に書き換わる作業領域はLPDDRやHBMの側に置き、読み出し中心の重みをHBFに置くという分担なら、NANDの弱点が表に出にくい。HBFが学習ではなく推論を狙うのは、この性質による。

営業損失13億ドルの1年後に、粗利率78%の四半期が来た

キオクシアとサンディスクの損益の振れ
キオクシアとサンディスクの損益の振れ

米国証券取引委員会の開示データベースによれば、サンディスクの2025年6月期は売上73億5,500万ドルに対し営業損失13億7,700万ドル、純損失16億4,100万ドルだった。ウエスタンデジタルからの分離独立の初年度は赤字である。それが2026年1月3日から4月3日の3か月では、売上59億5,000万ドル、売上総利益46億6,200万ドル、営業利益41億1,100万ドルへ変わった。粗利率は78.4%、営業利益率は69.1%に達する。

記憶素子の会社の粗利率としては異例の水準で、AI向け需要によるNANDの品不足と価格上昇がそのまま乗った形になる。同じ説明会で同社は長期の財務目標として8割近い粗利率の維持を掲げており、市況の山を構造として固定できるかが、HBFという新しい製品分類を作る動機と重なっている。単一四半期の値である点は割り引いて読む必要がある。

HBFの素材は四日市と北上のNANDである

サンディスクは自社でウエハー工場を持たず、NANDはキオクシアホールディングス(285A)との共同出資工場で生産している。拠点は三重県四日市市と岩手県北上市で、HBFが積むNANDもこの枠組みの中にある。HBFの生産が立ち上がるなら、ウエハーは日本で作られる。

キオクシアの有価証券報告書は、NANDの市況の振れをそのまま映している。FY2024は売上1兆766億円に対し営業損失2,527億円で、利益率はマイナス23.5%だった。FY2025に営業利益4,517億円(26.5%)へ戻り、FY2026は売上2兆3,376億円、営業利益8,704億円、利益率37.2%に達した。2年で売上が2.2倍、損益が1兆1,231億円ぶん動いた計算になる。研究開発費は1,411億円、設備投資は2,837億円である。

装置と材料で連なる日本の上場企業

NANDを高く積む工程は、成膜とエッチング、ウエハーの薄化と接合、検査のそれぞれで装置が要る。有価証券報告書を収録している企業から、工程に沿って直近通期の実数を並べる。

証券コード会社名工程売上営業利益率
8035東京エレクトロン成膜・エッチング2兆4,435億円25.6%
6525KOKUSAI ELECTRIC成膜2,351億円17.8%
7735SCREENホールディングス洗浄6,057億円20.2%
6146ディスコ薄化・切断4,369億円42.3%
6857アドバンテスト検査1兆1,286億円44.2%
7729東京精密検査・加工1,668億円20.2%
4063信越化学工業ウエハー2兆5,740億円24.7%
3436SUMCOウエハー4,097億円0.3%
4062イビデンパッケージ基板4,162億円14.9%

積層メモリーの製造で薄化と接合を担うディスコの42.3%、メモリー検査のアドバンテストの44.2%は、収録企業全体でも最上位の水準にある。HBFはNANDをHBMと同じように薄く削って積み、シリコン貫通電極でつなぐため、この2工程の比重はさらに上がる。

同じ表で目を引くのはSUMCOの0.3%である。メモリーの価格が急騰しても、その素材であるシリコンウエハーの値段は長期契約で動きが遅く、市況の山がまだ届いていない。同じ供給網の中でも、価格を決められる位置とそうでない位置の差が、利益率の43ポイント差として現れている。

確かめられる点

HBFが実際の調達に進むかは、いくつかの開示で追える。サンディスクが掲げた8割近い粗利率が通年で続くか。キオクシアの次の半期報告書で設備投資の配分がどう変わるか。OCPの仕様に沿った製品を載せる計算機が、GoogleとTenstorrent以外から出てくるか。

模擬計算の8枚から1枚という数字は、供給側の前提の上に立つ。それでも、混合専門家型のモデルが大きくなり続け、動く部分との差が開き続けるなら、重みの置き場所を安く広くする技術の需要は構造として残る。NANDでそれを取りに行く経路の入り口に、四日市と北上の工場が立っている。