米マイクロン・テクノロジーは9月30日、顧客に一定量の購入を義務づける長期供給契約が26件に増え、契約額は2030年までの売上高の35%超にあたると発表した。キオクシアは2028年の出荷量の約半分を長期契約で売る目標を掲げる。

マイクロンが同日発表した2026年6〜8月期(9月3日まで)の売上高は542億ドルで、前年同期の約4.8倍になり、市場予想(515億ドル)も上回った。26年8月期通期の売上高は1,332億ドルと、前の期の3.6倍になった。同社は、27年8月期と28年8月期の需給は26年8月期よりも「はるかに逼迫する」との見通しを示した。品薄が続くとみた顧客の間で、数年分を先回りして確保する動きが広がっている。各社の開示をみると、日本の工場で生産するメモリーも、多くが長期契約で販売される見通しだ。マイクロンの概要は編集部の企業データベースで紹介している。

売上高は前年同期の約4.8倍、品薄は少なくとも2028年まで続く見通し

特別項目を除く粗利益率は87.0%で、3〜5月期から2.1ポイント上がった。6〜8月期は5月29日から9月3日までの14週で、通常の四半期より1週長い。売上高は前四半期比で約31%増えたが、13週に換算すると約21%増にとどまる(編集部試算)。

製品別では、DRAMの売上高が398億ドルで全体の73%を占めた。

米マイクロン・テクノロジーの四半期の売上高。前年同期は113億ドル、3〜5月期は415億ドル、6〜8月期(9月3日まで)は542億ドルで、9〜11月期は615億ドルの見通し
米マイクロン・テクノロジーの四半期の売上高。前年同期は113億ドル、3〜5月期は415億ドル、6〜8月期(9月3日まで)は542億ドルで、9〜11月期は615億ドルの見通し

DRAMは電源を切るとデータが消える半導体メモリーで、パソコンやサーバーが処理中のデータを一時的に記憶する。3〜5月期と比べると、ビット換算の出荷量は1ケタ台半ばの伸びにとどまる一方、平均販売価格は10%台後半上がった。電源を切ってもデータが残るNAND型フラッシュメモリーは、売上高が141億ドルだった。ビット換算の出荷量は約10%増え、平均販売価格は約30%上がった。売上高の伸びは、数量より値上がりによるところが大きい。

9〜11月期の売上高は615億ドル(上下15億ドル)を見込む。特別項目を除く粗利益率は86.25%前後とした。同社はこの水準を27年8月期の粗利益率の底とみている。

同社はDRAMについて「需給が均衡する時期は見通せない」と説明し、主な理由に製造装置を置くクリーンルームの不足を挙げた。同社は、業界全体のビット換算の出荷量が、2027年と2028年にDRAMで20%台前半、NANDで20%台半ば伸びると予想する。それでも両年とも供給が需要に追いつかない状態が続くという。米JPモルガン・チェースが10月1日付で顧客向けに出したメモリー市場のリポートの要約によると、JPモルガンも需給の逼迫が2028年まで続くとみている。同リポートは題で、マイクロンの長期契約の協議が2031年分まで及んでいる点を挙げた。

HBMは2027年分の大部分が契約済み、2028年にはDRAM生産能力の約3割に

需給の逼迫に拍車をかけているのが、人工知能(AI)向けの広帯域メモリー(HBM)だ。複数のDRAMチップを縦に積み重ねたメモリーで、画像処理半導体(GPU)のすぐ隣に置き、GPUとの間で大量のデータをやりとりする。同じ記憶容量を得るには、汎用DRAMより多くのウエハーが要る。

マイクロンによると、2027年に供給するHBMは、ビット換算で大部分について、2026年より大幅に高い価格で契約を結び終えた。同社は、業界全体のHBMの出荷量がビット換算で2028年まで汎用DRAMより速く伸びるとみている。HBMの値上げが進み、汎用DRAMとの粗利益率の差は縮まっている。

HBMがDRAMの生産能力を圧迫するとの見方は、証券会社や調査会社、メモリー大手の予測にも表れている。香港の金融情報サイト、智通財経によると、JPモルガンは9月23日付のリポートで、HBMの需要がビット換算で2026〜2028年に年平均63%伸びると予測した。HBMがDRAMの生産能力全体に占める比率は、2025年の19%から2028年に31%へ高まるという。需要に対する供給の不足率は2026年の20%から28年に16%へやや縮むものの、3年間の需要の累計は1,630億ギガビットとほぼ変わらない。27年には、特定用途向けの半導体(ASIC)向けが需要の48%を占め、エヌビディア向けの43%を上回るとみる。10月1日付のリポートの要約によると、JPモルガンはHBM以外のサーバー向けDRAMの需要も37%伸びるとみている。

台湾の調査会社トレンドフォースは、DRAM大手3社が投入するウエハーに占めるHBM向けの比率が、2025年末の約18%から2027年末に約30%へ高まるとみる。ロイター通信によると、韓国サムスン電子のキム・テウ副社長も9月、この比率が現在の約20%から2027年に30%近くになるとの見方を示した。

マイクロンの長期契約は26件、顧客が預けると約束した資金は320億ドル

マイクロンは長期供給契約を「戦略的顧客契約」と呼ぶ。契約は6月の決算発表時点で16件あり、今回は26件に増えた。契約額は2030年までの売上高の35%超にあたると見積もる。当時の契約内容は、前回の記事で検証した。いずれも、顧客が約束した数量を引き取らなくても代金を支払う「テイク・オア・ペイ」型だ。期間は原則として2026年から2030年末までの5年で、自動車向けは3年が多い。2031年まで続く契約を新たに結び、既存の2件も期間を1年延ばして2031年までとした。顧客の業種は、データセンター、消費者向け製品、自動車にわたる。

価格の算定方式は契約ごとに違う。契約から見込む売上高の4分の3は算定方式が定まっており、その過半には価格の上限と下限がある。残りの4分の1は、市場価格をもとに定期的に価格を交渉する。最大級の契約では、既存製品の価格の上限を、おおむね2026年4〜6月の市場価格に合わせている。上限がある分、相場がさらに上がっても、この部分の販売価格は上限で頭打ちになる。マイクロンは、下限の価格で売っても、粗利益率は過去の好況期の最高水準を大きく上回ると見込む。これから結ぶ契約については、足元の相場を反映した高い価格で交渉しているという。

長期契約を裏付ける資金の規模は、決算資料の3つの数字から読み取れる。

項目金額内容
顧客が預けると約束した資金320億ドル9月30日時点。6月24日時点は220億ドル。大部分は現金
預かり金の残高127億ドル9月3日時点の貸借対照表の計上額
残存履行義務(受注残高に近い)約1,500億ドル9月30日時点。6月24日時点は約1,000億ドル。最低数量・最低価格で計算

320億ドルは受け取った金額ではなく、顧客が預けると約束した資金の総額だ。9月3日時点で実際に預かっていた現金は127億ドルで、残りは段階的に受け取る。2つの数字は基準日が違うため、差し引いて未受領の額とみることはできない。マイクロンは預かり金を契約負債に計上しており、使い道に制限はない。顧客が最低購入量を引き取れば、同社は契約期間の後半にかけて返還する。預かり金の出入りは財務活動のキャッシュフローに計上するため、フリーキャッシュフローには含まれない。

米マイクロン・テクノロジーが長期供給契約で確保した資金。顧客が預けると約束した資金は6月24日時点の220億ドルから、9月30日時点で320億ドルに増えた。9月3日時点で実際に預かっていた現金は127億ドル。残存履行義務は約1,500億ドル
米マイクロン・テクノロジーが長期供給契約で確保した資金。顧客が預けると約束した資金は6月24日時点の220億ドルから、9月30日時点で320億ドルに増えた。9月3日時点で実際に預かっていた現金は127億ドル。残存履行義務は約1,500億ドル

残存履行義務は、契約を結んだがまだ売上高に計上していない金額を指す。受注残高に近い考え方だが、価格が固定か上限と下限のある契約だけを数え、市場価格に連動する契約は含まない。約1,500億ドルは直近の四半期の売上高の約2.8倍にあたる。最低価格で計算しているため、実際の売上高はこれを大きく上回ると同社はみている。10月1日付のリポートの要約によると、同社は決算説明会で、27年8月期の出荷の75%超について、供給先への割り当てか契約が決まっていると説明した。

キオクシアは約半分、サンディスクは約3分の2を長期契約に

長期契約の比率は、各社で基準が違うため単純には比べられない。JPモルガンは同じ要約で、マイクロンの比率は5割を超えることが多いアジアのメモリー各社を下回るが、契約期間や利益率、資金の受け取り方といった条件が異なるためで、需要の弱さを示すものではないと分析した。一方でマイクロンは6月の時点で、すべての契約を結べば、長期契約が売上高の半分程度かそれ以上を占めると説明していた。各社の決算資料をもとに、表にまとめた。

会社長期契約の比率比率の基準契約期間
マイクロン35%超2030年までの売上高原則5年
キオクシア約50%(目標)2028年の出荷量2027・28年分(一部の顧客から提案)
サンディスク約3分の2(計画)2028年6月期の出荷量(ビット換算)最長5年
サムスン電子60〜70%(計画)生産能力全体5年(毎年交渉して延長)
SKハイニックス開示なし(約10社と契約)--

キオクシアは7月31日の決算説明資料で、2028年の出荷量の約50%を主要顧客との長期契約で販売する目標について、順調に進んでいると説明した。長期の需要を見通し、成長投資の裏付けにする狙いだという。個別の契約の内容は開示していない。2月の時点では、2026年分の契約は「ほぼ合意」したとし、数量は年単位、価格は四半期ごとに交渉すると説明していた。一部のハイパースケーラー(大規模なデータセンターを運営する企業)からは、2027年と28年を対象にした契約の提案を受けていた。5月には、複数年の契約は従来の1年契約とは「根本的に建て付けが変わる」と述べ、収益の見通しを立てやすくなるとした。

キオクシアは決算説明資料で、2027年も需要が供給を上回ると予想した。一方、トレンドフォースは、NANDの需給が2027年後半に緩むとみており、見方は分かれている。

米サンディスクは8月の決算発表で、これまでに顧客8社と長期契約を結んだと明らかにした。2027年6月期は出荷量(ビット換算)の約半分、2028年6月期は約3分の2を長期契約で販売する計画だ。年次報告書によると、契約期間は最長5年。残存履行義務は7月3日時点で598億ドルだった。期末後に結んだ2件の契約額313億ドルを加えると、約911億ドルになる。契約の裏付けは前受金12億ドル、保証金15億ドルと、第三者の金融機関が預かる担保50億ドルだ。

サムスン電子は7月、データセンターを運営する世界の上位5社と契約をまとめ、さらに5社と最終交渉に入ったと説明した。生産能力全体の60〜70%を長期契約に割り当てる計画だ。契約期間は5年で、毎年交渉して1年ずつ延ばす。顧客からの前受金は、予定額の約4分の1をすでに受け取ったという。

韓国SKハイニックスは7月の決算発表で、顧客約10社と長期契約を結んだと明らかにした。

長期契約を支える四日市と北上の工場、マイクロンは広島で増産

サンディスクの長期契約は、日本の工場と切り離せない。同社の年次報告書によると、キオクシアと共同で運営する製造棟は、四日市(三重県)に6棟、北上(岩手県)に2棟ある。サンディスクはキオクシアとの合弁会社に49.9%を出資し、両社は原則として生産量を半分ずつ引き取る権利を持つ。サンディスクはフラッシュメモリーのほぼ全量を合弁工場から調達する義務を負う。このため、サンディスクが2028年6月期に長期契約で販売する予定の製品も、大部分は四日市と北上で作る。

キオクシアは、両社の生産能力の比率を60対40と説明している。両社の計画を合わせると、日本の2つの工場で作るNANDの多くは、品薄が続く間、長期契約で販売される見通しだ。キオクシアは8月、北上工場で第3製造棟の建設に向けて土地などの整備を始め、2029年度中の稼働を目指すと発表した。投資は政府の支援を前提とする。キオクシアの開示資料は、編集部の企業データベースと銘柄ページにまとめている。

マイクロンも日本で増産に動く。7月には、DRAMを生産する広島工場の拡張に向けた起工式を開いた。拡張部分は次世代の製造技術に切り替えるための設備で、2028年後半に生産を始める予定だ。同社は四半期報告書で、広島工場では次世代のDRAMとAI向けメモリーの生産に備えて設備を更新していると説明している。

設備投資の上積みは2028年後半以降の増産向け、株主還元は12月から拡大へ

マイクロンは27年8月期の設備投資を、従来の計画より増やす。9〜11月期に約115億ドル、上半期で約250億ドルを見込み、下半期はさらに上積みする。増額分の大半は建屋の建設費に充て、2028年後半以降に使うクリーンルームを前倒しで整える。主な拠点の稼働時期は次のとおり。

  • シンガポールのHBM組み立て工場は2027年初め、台湾の銅鑼工場(苗栗県)は2027年半ばに出荷を始める
  • 米アイダホ州の新工場は1棟目が2027年半ば、2棟目が2028年後半に生産を始める。米ニューヨーク州の新工場は2030年に生産を始める
  • シンガポールのNAND新工場と広島工場の拡張分は、2028年後半に生産を始める

建屋が完成するまで、生産能力はすぐには増えない。JPモルガンは10月1日付のリポートの要約で、設備投資を増やしてもビット換算の供給はそれほど増えず、需給の逼迫は和らぎにくいとみている。

製造技術では、DRAMの「1γ(ガンマ)」とNANDの「G9」が量産の主力となる。次の世代の製品は2027年後半に量産を始める。JPモルガンは、マイクロンの製造技術が中国のメモリー各社より2世代進んでいるとみる。

マイクロンは12月9日から株主還元を拡大する。この日は、2024年12月9日に米CHIPS法(CHIPS・科学法)に基づく補助金の最終契約を結んでから2年にあたる。補助金の契約では、最初の2年間の自社株買いは、社員への株式報酬による希薄化を抑える範囲などに限られていた。26年8月期の自社株買いは6億5,000万ドルにとどまった。マイクロンは今後、余剰資金の全額を株主に還元する方針を示した。

同じ要約によると、JPモルガンは、メモリー株の評価が高まるには積極的な株主還元が欠かせないとみている。キオクシアホールディングス、マイクロン、サンディスク、SKハイニックス、サムスン電子、台湾の南亜科技(ナンヤ・テクノロジー)の6社の投資判断を「オーバーウエート(強気)」とした。そのうえで、当面は株主還元の手厚いSKハイニックスをサムスン電子より有望とみる。

品薄が続く間に、メモリー各社は長期契約で数年先までの売り先を確保している。四日市と北上で作るNANDも、多くの納入先が決まりつつある。

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