MicronのMehrotra CEOは、AIがメモリー産業の好不況の周期を恒久的に書き換えたと語った。10-Qには顧客からの預託金と約束220億ドルが載るが、「16契約・最低1,000億ドル」は提出書類にない。

Micron TechnologyのSanjay Mehrotra会長兼CEOは、CNBCのJim Cramer氏の番組で、AIがメモリー産業の数十年来の好況と不況の周期を恒久的に書き換えたと述べた。今日ではメモリーなしにAIは成り立たず、供給過剰がいずれ価格を押しつぶす従来の周期はもはや当てはまらない、という主張である。これは歴史上ほぼ数年ごとに崩れてきた産業にとって大胆な主張で、何が裏付けているかを確かめる価値がある。同氏によれば、データセンターの顧客はMicronが約束できる供給量より約50%多いメモリーを求めており、2026年度第3四半期の売上は前年同期の4倍の415億ドルで、ウォール街の予想356億ドルを大きく上回り、第4四半期の見通しは約500億ドルと、数か月前にアナリストが基準としていた水準のほぼ2倍になった。今回の周期を構造的に違うものにするのが、需要を固定するために同社が築いた契約の仕組みである。同氏は16件の戦略的顧客契約 (Strategic Customer Agreements) に署名したと述べ、それは5年の引取義務付き (take-or-pay) 契約で、後に市場価格が下がっても顧客に約束した数量の購入を義務づける。これらの契約は最低契約売上として約1,000億ドルを伴い、顧客から220億ドルの前払い預託金を受け取った。数年先の供給を保証するために顧客が前もって支払う形で、6月以降も契約が増え、顧客は従来よりはるかに早い段階から同社の製品企画に関わるようになったという。本稿はこの発言を米証券取引委員会 (SEC) への提出書類、Micronの10年の売上の記録、財務省の貿易統計 (e-Stat)、日本企業の有価証券報告書 (金融庁EDINET)、米連邦準備制度のデータ (FRED) で検算し、日本のメモリー工程と広島工場の電気まで追う。円換算は1ドル=159.21円 (2026年8月14日、FRED) による。

10-Qにある数字と無い数字: 預託金220億ドル・現金180億ドル・設備投資270億ドルは開示、16契約と1,000億ドルは発言

Micronが2026年6月25日に提出した10-Q (2026年5月28日までの四半期) は、戦略的顧客契約について次のように記す。第3・第4四半期に複数の戦略的顧客契約を結び、5月28日以降にも締結した契約を含め、これらの契約に関連して受け取る現金預託と関連する財務上の約束は、これまでに結んだ契約で220億ドルに達する見込みで、そのうち約180億ドルが現金預託の形をとる。5月28日時点で残存履行義務に配分された取引価格は約50億ドルで、うち4億2,200万ドルが契約負債として計上され、約3分の1が今後12か月に売上として認識される。2026年度の設備投資は政府助成金の受け取りを差し引いて約270億ドルを見込み、9か月の実績は196億ドル、助成金の受取は29.9億ドルである。借入金は9か月で93.8億ドルを返済し、2028年債、2029年のタームローンと債券、2030年債を全額繰上償還した。同社は手元資金、営業キャッシュフロー、政府助成、戦略的顧客契約に基づく顧客預託、利用可能な借入で、今後12か月とそれ以降の資金需要を賄えると記す。

Micronの10年: 売上は2年で半減を繰り返し、2026年度は第3四半期だけで前年度の売上を超えた
Micronの10年: 売上は2年で半減を繰り返し、2026年度は第3四半期だけで前年度の売上を超えた

一方で、契約が16件であること、5年の引取義務付きであること、最低契約売上が約1,000億ドルであること、顧客の需要が供給可能量の約1.5倍であることは、10-Qにも6月24日の8-K (決算発表) にも書かれていない。8-Kは「変革的な戦略的顧客契約を実行した」「複数年の戦略的顧客契約がMicronの強い業績の持続性と予測可能性を大幅に高めると考える」と記すにとどまる。220億ドルと180億ドルは監査人の確認を経た開示で、16件と1,000億ドルはCEOが番組で語った数字である。両者は矛盾しないが、重みが異なる。1,000億ドルが5年の合計なら年200億ドルで、2025年度売上374億ドルの53%に当たり、同社の売上の半分が契約で固定されたことになる。この比率の大きさが、周期が変わったという主張の根拠であり、同時に、顧客の側に移った義務の大きさでもある。

10年の売上周期: 2018年304億ドルから2019年234億ドル、2022年308億ドルから2023年155億ドルへ半減した産業

「数年ごとに崩れてきた」という表現は、同社の提出書類で数字にできる。SEC EDGARのXBRLデータによる年度売上 (会計年度末は8〜9月) は、2016年124億ドル、2017年203億ドル、2018年304億ドル、2019年234億ドル、2020年214億ドル、2021年277億ドル、2022年308億ドル、2023年155億ドル、2024年251億ドル、2025年374億ドルである。2018年から2019年は23%減、2022年から2023年は49%減で、2023年度は58.3億ドルの純損失を計上した。設備投資も2022年度の120.7億ドルから2023年度の76.8億ドルへ絞り、2025年度に158.6億ドルへ戻した。頂点から2年で半減し、投資を止め、次の好況で足りなくなる。これがメモリーの周期で、Micronは3年ごとにこの往復を経験してきた。

2026年度第3四半期 (3〜5月) の売上415億ドルは、この1四半期だけで2025年度通年の374億ドルを上回る。前四半期の239億ドル、前年同期の93億ドルからの伸びで、粗利益率は79% (前四半期68%、前年同期26%)、クラウドメモリー部門は売上138億ドルで粗利益率83%、営業キャッシュフローは254億ドル (前年同期46億ドル) だった。第4四半期の見通しは売上500億ドル±10億ドルである。2023年度の155億ドルから3年で、四半期売上が年度売上の3倍近くになったのは、供給が増えたのではなく、HBM (広帯域メモリー) を中心に1ビット当たりの単価が上がったためで、HBM市場は2025年の400億ドルから2028年の1,960億ドルへ年70%で伸びる一方、容量は年37%しか増えず、1ギガビット当たりの単価は3年で1.9倍になる (先行記事)。

引取義務付き契約は周期をなくすのではなく、メーカーから顧客へ移す

引取義務付き契約 (take-or-pay) は、顧客が約束した数量を引き取らない場合でも代金を支払う契約で、液化天然ガスやパイプラインで長く使われてきた。メモリーの周期が崩れる起点は、市況が下がったときに顧客が発注を取り消し、メーカーが在庫を抱えて投げ売りする局面にある。契約がこの取消を封じれば、起点が消える。現金預託180億ドルは工場建設の原資になり、借入に頼らず設備投資270億ドルを賄える。不況期に投資を止め、次の好況で足りなくなる振幅も小さくなる。Mehrotra氏が「周期は当てはまらない」と言うのは、この2点を指している。

ただし契約が縛るのは数量で、価格の全てではない。契約の外にあるスマートフォンやPC向けの市場は従来どおり市況で動き、DRAMの契約価格は2026年1月に前四半期比90〜95%上がった。そして顧客の側、つまり大手クラウドの設備投資が止まれば、引取義務は顧客の損失として残り、契約の再交渉や法廷に移る。Microsoft・Google・Amazon・Meta (いずれも企業DB収録) の2026年の設備投資合計は1,690億ドルに達し、NVIDIAは2027年初出荷のAIサーバーを15%超値上げすると大口顧客に通知した。顧客が5年先まで数量を約束したのは、約束しなければ供給が得られないからで、この契約は周期をなくしたのではなく、周期の損失をメーカーから顧客へ移した。JPモルガンが「メモリー市場の頂点説」に反論し2028年に1兆8,260億ドルの市場を描いたのに対し、シティがMicronの目標を引き下げた (別稿) のは、この移転の受け手が耐えられるかという問いの違いである。

日本に届く3つの経路: 韓国からの輸入が半年で前年超、装置・検査の有報、広島工場と島根2号機

メモリーの好況は日本に3つの経路で届く。第1は払う側で、財務省の貿易統計によれば、半導体等電子部品の輸入額は韓国から2024年2,325億円、2025年2,271億円に対し、2026年1〜6月で2,866億円と半年で前年通年の126%に達した。韓国からの輸入はSamsungとSK hynixのDRAMとHBMが主体で、金額の急増はDRAM契約価格の上昇がそのまま円建ての支払いになった結果である。米国からの輸入は2025年2,046億円、2026年上半期1,236億円で、Micronの米国工場分を含む。日本のデータセンター事業者にとって、Mehrotra氏の言う「需要が供給の1.5倍」は、輸入額の増加として現れる。

メモリー好況が日本に届く3つの経路: 輸入統計、装置・材料の有報、そして広島工場の電気
メモリー好況が日本に届く3つの経路: 輸入統計、装置・材料の有報、そして広島工場の電気

第2は受け取る側で、Micronの設備投資270億ドルは日本の装置・材料・検査の受注になる。2026年3月期の有価証券報告書では、東京エレクトロン (8035) が売上2兆4,435億円・営業利益率25.6%・研究開発費2,779億円、アドバンテスト (6857) が売上1兆1,286億円・営業利益率44.2%、ディスコ (6146) が売上4,369億円・営業利益率42.3%、信越化学工業 (4063) が売上2兆5,740億円・営業利益率24.7%で、HBMの積層に使う材料を供給するレゾナック (4004) は売上1兆3,471億円・営業利益率3.5%である。同じメモリー企業のキオクシア (285A) は売上2兆3,376億円・営業利益率37.2%で、NANDでも同じ周期の上昇局面にある。

第3は電気である。Micronの10-K (2025年10月3日) は、広島工場を将来のDRAM世代とAIメモリー生産のために更新中で、EUV露光を使うDRAMの広島での生産に経済産業省の助成を受け、2025年8月期末以降に最大5,000億円 (約34億ドル) の新たな助成枠で合意したと記す。経産省の支援一覧では特定半導体基金2,135億円とポスト5G基金250億円が時点の上限だった。広島県東広島市は中国電力 (9504) の管内で、島根2号機 (82万kW) は2024年12月に13年ぶりに再稼働し、2025年1月に営業運転へ戻った。10-Qは広島に加え台湾でDRAMとHBMの生産能力を拡大し、シンガポールのNAND新棟を2028年後半に稼働させ、インド・グジャラートの組立・検査拠点が出荷を始めたと記す。データセンターのメモリー需要が広島の工場を広げ、その工場が島根の原子炉の電気を使う。AI、メモリー、原子力は同じ送電網の上にある。

物価指数はメモリーの急騰を反映しない: 半導体PPI 29.0に対し工業生産指数は191.9

米国の半導体生産者物価指数 (PCU334413334413) は2025年7月に29.8、2026年6月に29.7、7月に29.0で、横ばいから低下している。同じ7月の米半導体工業生産指数 (IPG3344S) は191.9で前月の187.4から上がった。Micronの粗利益率79%と前年同期比4.5倍の売上は物価指数には現れず、契約価格と企業の開示にしか現れない。統計の品目構成がDRAMやHBMの契約価格を反映しないためで、投資家が周期の転換を追うなら、8-K・10-Qの残存履行義務と契約負債、貿易統計の輸入額、HBMの単価の3つを見る必要がある。米10年債利回りは8月20日時点で4.69%で、270億ドルの設備投資を預託金で賄う構造は、金利が上がるほどメーカー側に有利に働く。

メモリー周期の転換に向き合う関連銘柄: 受け取る側と払う側、売買の推奨や評価は示さない

本稿の主題はメモリーの周期であり、希土類でなく「メモリー工程で受け取る日本株」と「メモリーを払う側の日本株」を置く。数字は2026年3月期の有価証券報告書 (EDINET) によるもので、売買の推奨や評価は示さない。

希土類の関連銘柄は先行記事に役割別の整理がある。MicronSK hynixSamsungの3社がHBMの供給者で、この3社の外にHBMを作る企業はない。

確かめられる点

第1に、Micronの2026年8月期の10-Kで、戦略的顧客契約の件数と最低契約売上が開示に載るか。CEOの16件・1,000億ドルが監査対象の数字になれば、発言と開示の差は消える。第2に、残存履行義務が5月28日の50億ドルから、契約後にどこまで増えるか。1,000億ドルの大半がここに載るなら、売上の半分が固定されたことが数字で確かめられる。第3に、第4四半期の売上が500億ドル±10億ドルに届き、粗利益率が79%を保つか。第4に、日本側では貿易統計の韓国からの半導体部品輸入が2026年通年で5,000億円を超えるか、東京エレクトロンアドバンテストの受注残がHBM向けで伸びるか。第5に、中国電力の島根2号機が定期検査を経て稼働を続け、Micron広島の増設と同じ時期に電力供給が保たれるか。

「今回は違う」という言葉は周期の頂点で繰り返されてきたが、今回は顧客が5年分の数量を約束し、前払いで180億ドルを差し出したという点で、過去の頂点と形が違う。周期が消えたのか、顧客へ移ったのかは、顧客側の設備投資が止まったときに初めて分かる。