JPモルガンはメモリー市場の頂点はまだ先だと主張した。DRAMとNANDを合わせた市場は2026年の9,710億ドルから2028年に1兆8,260億ドルへ拡大すると推計し、5月の自社推計から8%引き上げ、2028年も前年比27%成長を見込む。

論点は1つに絞られる。メモリーの好況は既に頂点を過ぎたのか、まだ序盤なのか。シティグループは最近、マイクロン・テクノロジーの目標株価を1,400ドルから1,150ドルへ引き下げ、DRAMとNANDの価格は来年から軟化し2027年半ばに山を越えるという見方を示した。短期は強気だが残りの滑走路は短いという読みである。JPモルガンはこの枠組みに正面から反論し、2028年まで拡大が続く、つまりこの周期は尽きかけていないと主張する。本稿はこの対立を、推計の中身、需給の算術、買い手の入れ替わり、マイクロンの年次報告書、そして日本の連鎖企業8社の有価証券報告書で順に確かめる。なお推計の数字はJPモルガンの資料と報道によるもので、本稿はその当否を断定しない。売買の推奨や評価は示さない。

推計を1枚にすると、2025年から2026年へ4.5倍の段差がある

世界のメモリー市場の規模と改定幅
世界のメモリー市場の規模と改定幅

JPモルガンの図表を数字で読み直す。世界半導体市場統計(WSTS)の実績では、DRAMとNANDの合計は2017年1,210億ドル、2018年1,550億ドル、2019年970億ドル、2020年1,130億ドル、2021年1,530億ドル、2022年1,320億ドル、2023年840億ドル、2024年1,640億ドル、2025年2,140億ドルと、2年ごとに山と谷を繰り返してきた。推計はそこから段差をつける。2026年9,710億ドル(5月推計9,360億ドルから4%上方修正)、2027年1兆4,420億ドル(同1兆3,640億ドルから6%)、2028年1兆8,260億ドル(同1兆6,910億ドルから8%)である。

この系列で目を引くのは伸び率の並びである。2025年から2026年は4.5倍、2026年から2027年は48%、2027年から2028年は27%。伸び率は減速するが、2028年でも2桁であり、推計期間の中に減少の年がない。シティの「2027年半ばに価格が山を越える」という見方が正しければ、2028年の1兆8,260億ドルは成立しない。両者の差は景気の強弱ではなく、供給が需要に追いつく時期の読みにある。

需要は年30%、供給は年24%、2028年までに月30万枚が足りない

DRAMの需給ギャップと買い手の入れ替わり
DRAMの需給ギャップと買い手の入れ替わり

JPモルガンの主張の根拠は、業界が短期間には解けない算術の問題にある。同社の推計では、DRAMのビット需要は2027年まで年30〜31%で伸びる一方、供給は年24〜26%しか増やせない。この差を2028年に埋めるには月およそ30万枚のDRAMウエハーの増産が必要で、既に決まっている投資に上乗せして580億ドルの追加設備投資を要する。新工場は計画、許認可、立ち上げに数年を要するため、この不足は短期の需要のぶれと無関係に、数年分の価格決定力を事実上固定する。HBMの2028年需要とブロードコムの弱気論を検証した回で見た「需要側の揺らぎ」と、今回の「供給側の硬さ」は同じ市場の表と裏である。

もう1つの構造変化は、誰がメモリーを買っているかである。2025年の世界DRAM需要に占めるサーバーの比率は39%にすぎなかったが、JPモルガンは2026年に56%、2027年に67%、2028年には74%へ高まると見込む。スマートフォンとPCに代わり、AIデータセンターが価格を決める買い手になる。AIアクセラレーターに供給する専用メモリーHBMは、2026年の約640億ドルから2028年に2,520億ドルへ約4倍になる見通しだが、別市場として切り出されるのではなく、DRAM全体の数字の内数にとどまる。HBMの伸びがDRAM全体の単価を押し上げる形で、市場規模に効いてくる。

マイクロンは220億ドルの長期契約を積み、2027年まで完売している

マイクロンの3年と、HBMの開示件数
マイクロンの3年と、HBMの開示件数

マイクロンに限れば、JPモルガンの指摘はシティなどの弱気論への反論として読める。同社は既に16件、総額220億ドルの長期供給契約を結んでおり、これは2030年に見込むDRAM数量の約20%にあたる。DRAMとHBMの生産能力は2027年まで完売しており、好不況を繰り返してきた業界としては異例に高い売上の見通しを経営陣に与えている。

米証券取引委員会の提出書類で実数を確かめる。マイクロンの売上は2023年8月期155億ドル、2024年8月期251億ドル、2025年8月期374億ドルと2年で2.4倍になった。営業損益は57億ドルの赤字から13億ドルの黒字、98億ドルの黒字へ転じ、営業利益率は26%に達した。設備投資は77億ドル、84億ドルと抑えた後、2025年8月期に159億ドルへほぼ倍増している。JPモルガンが示す580億ドルの追加投資は、マイクロン1社の年間設備投資の3.7年分に相当し、サムスン電子SKハイニックスを含む3社で分担しても、1社あたり年100億ドル規模の上積みになる。米10年国債利回りが4.65%にある局面で、この規模の投資を先行させる判断は、長期契約という売り先の確約があって初めて成り立つ。

開示の言葉数も同じ向きを示す。米上場企業の提出書類で「high bandwidth memory」に触れた開示は2023年45件、2024年132件、2025年159件と増え、2026年は8月21日までで281件と、8か月足らずで前年通年の1.8倍に達した。HBMを語る企業がメモリーメーカーの外側、つまり買い手と装置・材料の側に広がっている証拠である。マイクロンの広島投資とHBM4同社CEOの予約売却と日本の供給網で追った通り、この需要の一端は日本の工場と株主に直接つながっている。

日本の連鎖8社、営業利益率48.8%から0.3%まで

日本のメモリー連鎖8社の実数
日本のメモリー連鎖8社の実数

月30万枚のウエハー不足という数字を、日本側の有価証券報告書で受け止める。金融庁EDINETの直近本決算で、メモリーに直接つながる8社の営業利益率を並べると、検査装置のレーザーテック(6920)が48.8%、HBMの試験装置を握るアドバンテスト(6857)が44.2%、研削・切断のディスコ(6146)が42.3%と、装置の上流3社が4割超で並ぶ。NANDの当事者であるキオクシアホールディングス(285A)は売上2兆3,376億円・営業利益率37.2%で、外国人持株比率は68.5%と8社で突出して高い。2024年12月の上場後、海外マネーが最も厚く入った日本のメモリー株である。東京エレクトロン(8035)は売上2兆4,435億円・25.6%、信越化学工業(4063)は2兆5,740億円・24.7%と、規模で大きい2社は2割台で続く。

下位の2社に、この市場の盲点がある。シリコンウエハーのSUMCO(3436)は売上4,097億円に対し営業利益率0.3%、HBM向けの材料を持つレゾナック・ホールディングス(4004)は1兆3,471億円・3.5%である。JPモルガンが「月30万枚足りない」と言うウエハーの供給者が、連鎖の中で最も利益を出せていない。ウエハー価格は長期契約で決まり、メモリーの市況が上がっても即座には転嫁されないからで、不足はまず価格ではなく数量として現れ、ウエハーの価格改定は最後に来る。シティとJPモルガンの対立が「価格がいつ山を越えるか」を巡るものなら、SUMCOの利益率が0.3%から動き出す時期が、その答えを先に告げる指標になる。

貿易統計も方向を示す。2026年1〜6月の日本からの半導体製造装置の輸出は、中国向け7,846億円、台湾向け6,486億円、韓国向け4,725億円、米国向け2,404億円だった。メモリー2強の本拠である韓国向けが半年で4,725億円という水準は、580億ドルの追加投資が実際に発注へ変わるかどうかを、四半期ごとに確かめられる観測点になる。

精錬の側から見ると、メモリーの増産はタングステンとネオンの問題でもある

DRAMの微細化とHBMの積層は、材料の調達にも跳ね返る。配線にはタングステン、洗浄には高純度のフッ化水素、露光にはネオンガスが要り、いずれも精錬・精製の段階で供給元が偏る。中国が2025年2月からタングステン製品を輸出許可制の下に置いた影響は、月30万枚の増産計画にそのまま乗る。関連する日本株を有価証券報告書の実数で挙げるなら、本件の文脈ではレアアース磁石よりメモリー工程の材料と装置に位置取りがある。

確かめられる点

検証は公表の日付で追える。第1に、マイクロンの2026年8月期決算(9月下旬公表)で設備投資の計画値がどこまで上がるか。159億ドルからの上積み幅が、580億ドルの不足に対する同社の取り分を示す。第2に、長期供給契約の件数と金額。16件・220億ドルが次の四半期でどう増えるか。第3に、DRAMの契約価格が2027年前半に軟化するかどうか。シティの読みの最初の判定点である。第4に、SUMCOの営業利益率が0.3%から動くか。第5に、韓国向け半導体製造装置輸出の2026年7〜12月分。追加投資が発注に変わったかを、日本の貿易統計で確かめられる。

頂点を過ぎたのか序盤なのかという問いに、JPモルガンは供給の硬さで、シティは価格の周期で答えた。どちらが正しいかは2027年の契約価格が決めるが、その前に動く数字が日本にある。月30万枚の不足を埋める当事者の利益率が0.3%にとどまっている限り、不足はまだ価格に転嫁されておらず、この周期の頂点もまだ来ていない。