開示書類を日付順に並べると、話の筋が入れ替わる。売却の枚数と時期を確定させたのは2026年1月30日で、その日の終値は414.88ドルだった。高値の5か月前、後に付ける最高値の3分の1にあたる水準である。

マイクロン・テクノロジーの社長兼最高経営責任者であるサンジェイ・メロトラ氏が、2026年7月24日に同社株4万株を売却した。金額は約3,730万ドルにのぼる。株価が最高値から下げる局面での大口売却として受け止められたが、証券取引委員会に提出された報告書には、この取引が事前に定めた計画に基づくものだと明記されている。

同じ日に2件、合わせて4万株

提出された報告書は2件ある。1件目は31,285株を28,995,816ドルで、約定価格は906.48ドルから941.60ドルの範囲だった。2件目は8,715株を約830万ドルで、942.73ドルから965.85ドルの範囲である。両方に同じ注記が付く。2026年1月30日に採用した規則10b5-1の取引計画に基づく執行だという記載である。

事前設定売却の時系列と、開示された売却の内訳
事前設定売却の時系列と、開示された売却の内訳

終値で追うと、計画を採用した1月30日は414.88ドル。そこから6月25日に1,213.56ドルの最高値を付け、2.93倍になった。売却が執行された7月24日の終値は920.95ドルで、最高値から24.1%下げた水準にあたる。8月11日時点では868.52ドルで、最高値からの下落率は28.4%である。

対象となった投稿は「約150ドルから1,300ドル近くまで」と表現しているが、実績値では1年安値が2025年8月21日の115.79ドル、終値ベースの最高値が1,213.56ドルだった。1,300ドルという水準には52週高値の1,255ドルでも届いていない。丸めた数字より、1年で10.5倍という実測のほうが事実として強い。

売った日の株価に、意味を持たせられない仕組み

規則10b5-1の取引計画は、経営者が自社株を売買するための逃げ道ではなく、逆に自由を手放す仕組みである。経営者は決算も受注も設備計画も公表前に知る位置にいるため、その状態での売買は原則として規制の対象になる。

そこで、何株を、いつ、どの価格帯なら売るかをあらかじめ書面で確定させ、以後は本人の意思を挟まずに機械的に執行する。採用した後は相場が上がっても下がっても止められない。高値で売ることも、下げを避けることも仕組み上できない。売却日の株価は、計画を立てた人物が選んだ数字ではない。

「下落の直前に売り抜けた」という読み方は、出来事の順序と合わない。計画が確定した時点で、株価は後の最高値の3分の1だった。むしろ注目に値するのは、30%近い下落を通じて保有の大半を手放していない点である。

増産の決定は、日本の装置各社の受注として現れる

記憶素子の需要がAI向けで逼迫している状況は、日本の製造装置各社の業績に直結する。金融庁の開示に提出された有価証券報告書から、連結・通期の数字を取り出して並べた。

記憶素子の製造に関わる日本企業6社の実数字と、工程上の位置
記憶素子の製造に関わる日本企業6社の実数字と、工程上の位置
企業売上高営業利益率従業員1人あたり売上
信越化学工業 (4063)2兆5,740億円24.7%27,342人9,414万円
東京エレクトロン (8035)2兆4,435億円25.6%20,236人1億2,075万円
アドバンテスト (6857)1兆1,286億円44.2%7,241人1億5,586万円
SCREENホールディングス (7735)6,057億円20.2%6,884人8,800万円
ディスコ (6146)4,369億円42.3%5,547人7,876万円
KOKUSAI ELECTRIC (6525)2,351億円17.8%2,609人9,010万円

営業利益率で二つの層に割れる。試験装置のアドバンテストが44.2%、切断と研削のディスコが42.3%で、少人数のまま4割を超える。成膜と洗浄を担う東京エレクトロン、SCREEN、KOKUSAI ELECTRICは2割前後にとどまる。代わりが利かない工程を握る会社と、量が伸びれば台数が出る会社の違いが、そのまま利益率に出ている。

KOKUSAI ELECTRICは2,609人で2,351億円を売る。熱処理と成膜という限られた工程に絞った構成で、記憶素子の増産局面では受注の振れ幅が大きくなりやすい位置にある。国内7社の投資の型を三つに分けた比較は有報の実数字で賭け方を分けた稿で扱った。

内部配線をたどると、2025年2月の許可制に行き着く

記憶素子の内部では、極めて細い穴を金属で埋めて配線を通す。この用途に使われるのがタングステンで、融点が高く、細部を埋める工程に向く性質を持つ。

中国商務部と税関総署は2025年2月4日、公告2025年第10号として、タングステン、テルル、ビスマス、モリブデン、インジウムの関連品目に対する輸出管理を発表し、同日から実施した。指定品目の輸出には商務部の許可が要る。

2025年4月4日に中重希土類7品目へ適用された輸出管理は繰り返し報じられてきたが、その2か月前に別の公告で5品目が許可制に入っていた事実は、日本語での扱いが薄い。磁石とは別の材料が、別の枠組みで動いている。

銘柄証券コードこの文脈での位置
JXアドバンストメタルズ5016非鉄とレアメタルの製錬。素材側に最も近い
第一稀元素化学工業4082ジルコニウム系を専業で扱い、記憶素子の絶縁膜材料に関与する
住友金属鉱山5713非鉄の製錬と機能性材料を併せ持つ
三井金属5706亜鉛製錬の副産物として希少金属を得る工程を持つ
双日2768政府系機関との合弁で豪州産の重希土類を日本向けに確保する枠組みを持つ

開示の日付は、投稿の日付より遅れて届く

社長の売却が話題になったのは執行の後だが、意思決定は6か月近く前に終わっている。開示制度は取引の後に情報を出す設計になっているため、公開された時点では既に過去の話になる。

日本の個人投資家の間でこの銘柄の売買が増えている状況では、時差のある情報が現在の判断材料として流通しやすい。報告書に書かれた日付を確かめる作業は、数分で済む。