同じ「AI半導体の恩恵を受ける銘柄」として並べられる7社を、有価証券報告書の実数字で開くと、賭け方が3つに割れている。恩恵が届く順番も、外れたときに何が残るかも、7社で一致しない。
専用チップの出荷台数が2027年に汎用のGPUを上回るという予測は、市場の側から何度も語られてきた。設計がどう分かれるかは専用チップと汎用GPUの二刀流を扱った稿で解剖している。ここで追うのは、その予測に対して国内の供給企業がどう金を置いているかである。金融庁の開示に提出された有価証券報告書から、連結・通期の数字だけを取り出した。
7,241人で1兆1,286億円という異常値
アドバンテストの売上高は1兆1,286億円、従業員は7,241人である。1人あたり1億5,586万円になる。同じ供給網のTDKは106,545人で2兆5,048億円、1人あたり2,351万円だから、6.6倍の開きがある。
この差は優劣ではなく事業の形の違いである。検査装置は1台の単価が高く、作る数が限られる。部品は単価が低く、膨大な数を作る。人を増やして伸びる会社と、増やさずに伸びる会社が、同じ一覧に並んでいる。投資判断で「AI関連銘柄」と束ねると、この構造の違いが見えなくなる。
営業利益率でも同じ分岐が出る。アドバンテスト44.2%、ディスコ42.3%に対し、太陽誘電5.6%、TDK10.9%。前の2社は他社が代わりを作れない工程を握っており、値付けの主導権を持つ。
工場に賭ける会社と、頭に賭ける会社
売上に対する設備投資の比率を見ると、イビデンが15.4%で最も高い。村田製作所13.5%、信越化学工業13.2%が続く。需要が来る前に生産能力を積む形で、当たれば数量がそのまま乗り、外れれば固定費だけが残る。最も分かりやすい賭けである。
対してTDKは研究開発費が2,897億円、設備投資が2,986億円でほぼ同額になっている。売上に対する研究開発の比率11.6%は7社で最も高く、作りながら次を探す構えが数字に出る。回収は最も遅いが、外れたときに固定資産が残らない。
アドバンテストとディスコは設備投資の比率がそれぞれ3.0%と7.5%にとどまる。既に高い利益率を確保しており、能力を積むより現状の工程を守るほうに寄っている。7社を並べると、賭けの型が三つに分かれる。
専用チップが増えても、削れない工程がある
三つの型のうち、①の検査と加工は設計の勝敗から独立している。汎用のGPUが伸びても専用チップが伸びても、できた回路が正しく動くかを確かめる工程と、円板を切って削る工程は必ず通る。設計の主導権が誰に移るかに関係なく数量が出る位置にある。
②の工場に賭ける型は、顧客がどの設計を選ぶかで稼働が決まる。積んだ能力が空けば減価償却だけが走る。イビデンの設備投資比率15.4%は、営業利益率14.9%とほぼ同じ水準で、稼いだ分をそのまま次の能力へ回している計算になる。
③は時間軸が最も長い。TDKの研究開発費2,897億円は、アドバンテストの営業利益4,991億円の6割弱に相当する規模で、これを毎年費用として落としている。同じ予測に対して、三つの異なる時間軸で賭けが置かれている。
有報を機械で読むと、雑にまとめた記事では出ない差が出る
今回の数字は、開示書類から機械的に抽出した項目を突き合わせたものである。作業の途中で二つの罠を踏んだ。
一つは期間の取り違えである。同じ企業の同じ指標に値が二つ入っており、東京エレクトロンの売上高が2兆4,435億円と1兆1,796億円の両方で現れた。比率を取ると約2倍で、小さいほうが中間期だと分かる。開示区分の欄を確認して通期だけを採らなければ、記事の数字が半分になる。
もう一つは異常値である。ローム(6963)は営業利益が108億円の黒字でありながら純利益が1,584億円の赤字だった。期間の違いでは説明がつかず、巨額の特別損失を計上した可能性が高いが、その中身を一次資料で確認できていない。本稿では同社を一覧から外している。裏を取れない数字を並べるより、確実な7社で構造を示すほうが読者の判断に資する。
数字に現れないものを、数字の外側に置いておく
有価証券報告書に載るのは過去の実績であって、将来の受注ではない。設備投資の比率が高い企業は既に決断を下しているが、その決断が正しかったかは償却が終わるまで分からない。研究開発の比率が高い企業は、成果が製品として出るまで数字に現れない。
2027年という年に向けて、7社は同じ方向を向いていない。向いていないことが、有報の欄を横に並べただけで見えてくる。
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