政策金利が1.75%へ、40年債利回りが4.10%へ向かうという見通しが示された。同じ金利で設備を持つのが電力会社で、9社の年間設備投資は3兆3,087億円、自己資本比率は最も低い会社で16.8%である。

円の長期金利が3%に迫っている。ソニーフィナンシャルグループが2026年8月25日に公表した円金利の見通しは、10年債利回りが当面2.9%台で高止まりした後に徐々に低下し、40年債利回りは7〜9月期に4.10%を付けるという姿を描く。金利の水準そのものより、この水準がどこに効くかを追う方が投資判断には近い。原子力の再稼働も、送電網の増強も、AIの計算資源を置く施設への電力供給も、数十年かけて回収する設備を負債で持つ事業である。本稿は8四半期分の見通しを全数で書き出したうえで、利上げの織り込みが1カ月で急変した経緯、超長期債の買い手が海外から国内へ移りつつある局面を追い、その金利を負担する電力9社の財務体質を有価証券報告書の実数で測る。金利の振れ幅そのものが持つ意味は別稿で扱ったため、本稿は水準と経路、そして需給に絞る。

政策金利1.75%まで、8四半期の見通しを全数で書き出す

見通し表は2026年4〜6月期から2028年1〜3月期までの8四半期を対象とする。政策金利は1.00%から段階的に1.75%へ進み、2027年7〜9月期以降は1.75%で止まる。年限別では、5年債利回りだけが1.90%から2.26%へ一貫して上がり続ける一方、10年債は7〜9月期の2.95%を山として2028年1〜3月期には2.78%へ下がる。20年債は3.81%、30年債は4.05%、40年債は4.10%がいずれも7〜9月期の山で、その後は緩やかに低下する。

物価は山が遅れて来る。生鮮食品を除くコア消費者物価は10〜12月期に2.52%、2027年1〜3月期に2.63%へ上がった後、4〜6月期に1.49%へ急落する。生鮮食品とエネルギーを除くコアコアは2027年1〜3月期の2.20%から4〜6月期に0.80%へ落ちる。この段差は食料品の消費税をめぐる政策が物価指数に与える影響を織り込んだ形で、翌年に反動が出る。政策金利が1.75%で止まる想定と、物価が1%前後へ落ち着く想定は同じ絵の裏表である。

円金利見通し表と年限別の推移
円金利見通し表と年限別の推移

1カ月で年内1回から3回へ、織り込みが急変した経緯

長期金利を押し上げたのは短期金利である。7月の日銀会合と日米の協調介入を受け、翌日物金利スワップから読み取れる利上げの織り込みは、来年7月までに3回へ増えた。次回利上げが9月となる確率は8割弱、年内の追加利上げも約6割が織り込まれている。日銀7月会合の前は年内1回のみの織り込みだったから、1カ月足らずで市場の想定が入れ替わったことになる。

政治の側から見た制約も変わった。日米の協調介入の直後だけに、円安につながりかねない日銀の利上げへ高市政権が牽制を強めることは政治的に難しいという見方が市場で強まっている。4〜6月期の国内総生産は景気の持ち直しに一服感を示し、利上げを急ぐ正当性を疑う声も出た。ただし高市首相は同じ統計の後に景気回復が続いているとの認識を示し、国内総生産デフレーターは物価の粘着性を示唆している。貸出の動きを見る限り金融環境はなお緩和的で、9月の利上げと整合する説明を組み立てる材料は揃う。

物価の基調も上向きを示す。日本銀行が2026年8月25日に更新した消費者物価のコア指標では、刈込平均値が前年比2.0%と前回の1.8%から加速し、最頻値も1.4%へ上がった。加重中央値は1.1%で横ばいである。3つの指標のうち2つが上を向いたことは、値上げが一部の品目にとどまらず広がっている状況を示す。

3%台定着の分かれ目は、名目成長率と潜在成長率の1ポイント差

数年先の政策金利の到達点として市場が織り込む水準は、2%を明確に上回る2.25%へ切り上がりつつある。この水準が定着するなら、到達点の想定と長期金利の関係から、長期金利は3%台に乗る可能性が出てくる。足元の名目成長率が3%台であることを踏まえれば、長期金利が3%を伺うこと自体は自然な動きにあたる。

一方で、長期的な均衡水準の目安となる名目潜在成長率は2%台後半と計算される。3%台の名目成長率と2%台後半の潜在成長率という1ポイント弱の差が、3%台が定着するか一時的な上振れで終わるかの分かれ目になる。中東情勢や日米両政権の動きを現時点で決め打ちすることは難しく、景気が年後半に減速すれば到達点の織り込みは後退する。同社の中心シナリオは9月、来年1月、7月の3回の利上げを想定しつつ、長期金利は徐々に低下する姿である。

利上げが進むこと自体が長期金利を抑える面もある。日銀の対応が遅れているという懸念が後退すれば、10年債と2年債の利回り差は縮む。実際に両者の差は縮小しており、10年物のアセットスワップスプレッド(国債利回りとスワップ金利の差で、国債の需給の緩みを映す)は水準を下げ、国債需給の悪化は限られている。10年物のブレークイーブンインフレ率(物価連動債から逆算する期待インフレ率)も2%前後で推移し、期待は安定している。

上振れは財政と中立金利、下振れは発行減額という綱引き

上振れの要因は2つある。1つは財政である。食料品の消費税をめぐる財源の議論に対し、見切り発車で財政が膨らむことへの警戒は根強い。英エコノミスト誌は「Japan pursues an ill-timed fiscal stimulus」と題した記事を掲載し、海外メディアの不安を代表している。米国政府も円安と日本の金利上昇に警戒を示しており、財政拡張へ突き進む展開は中心的な想定ではない。それでも予想が外れれば、財政のリスクプレミアムが再び高まり、長期金利が3%を超える展開はあり得る。

もう1つは中立金利そのものの上振れである。政策金利が1%に達しても金融環境は緩和的なままで、利上げの効果がこれから現れるとしても、なお緩和的であり続けるなら、中立金利は市場の想定より高いという見方が広がる余地がある。QUICKの月次調査(債券)によれば、債券市場の専門家が想定する中立金利の平均は1.5〜1.75%である。この想定が切り上がれば、到達点の織り込みは2.25%からさらに上を目指し、長期金利の3%台定着につながる。銀行の預金獲得競争が激しくなるなど、金融環境の細部では変化が着実に出ている。

下振れの要因は政府の市場安定化策である。流動性供給入札の減額や、9月以降の10年債の発行減額をめぐる観測が債券市場で強まっている。実現すればタームプレミアム(長い年限を持つことへの上乗せ)を押し下げ、長期金利の上昇余地は小さくなる。ただしこの種の措置は止血策に近く、長期金利の方向を最終的に決めるのは景気と物価、日銀、そして米国金利をめぐる思惑である。

ドル建て40年物スプレッドが米国30年物と並んだ、買い手の交代

超長期の年限では別の力学が働く。40年債と10年債の利回り差は緩やかに広がり、超長期債の需給はやや軟調に見える。財政リスクを映す40年物のアセットスワップスプレッドも緩やかに上昇した。ただし40年債利回りの水準そのものは5月上旬の山から下がっており、信用リスクを測るクレジット・デフォルト・スワップは横ばい圏で、財政リスクへの意識が突出して高まっているとまでは言えない。8月中旬の20年債入札も無難に通過した。

海外要因も効いている。中東情勢の再悪化を受けた物価と財政の懸念から、米30年債利回りは5%台を付けていた。ニューヨーク連邦準備銀行の推計モデル(ACMモデル)による10年物タームプレミアムも、7月以降は上昇に転じている。FREDの実測では、米30年債利回りは2026年6月1日から8月21日までの58営業日のうち38日が5.00%以上で、8月17日には5.31%と2007年以来の水準を付けた。この世界的な超長期金利の上昇が、日本の超長期ゾーンの先高観に寄与した。米財務省が国債の買い戻し規模を倍増させた経緯は別稿で検証している。

見落とされやすいのは、財政懸念の高まりが国債需給の悪化に直結していない点である。通貨ベースで調整した日本の40年物アセットスワップスプレッドは5月以降に低下し、米国の30年物とほぼ同水準まで縮んだ。それまで日本のスプレッドは米国より高く、海外投資家から見れば日本の超長期債は相対的に割安だった。その差が消えたということは、海外の買い支えが以前ほど期待しにくくなったことを意味する。今後は国内投資家の需要が需給を左右する。

その国内側では、2026年に入って生命保険会社の投資需要が持ち直し、株高に伴う資産構成の調整から信託の買いも増えている。財政懸念と日銀の買い入れ縮小が続くなかで、景気減速による到達点の織り込み後退と、年金積立金管理運用独立行政法人による投資増への期待を含む政府の市場安定化策が、超長期債の需要を下支えする構図にある。生命保険を傘下に持つソニーフィナンシャルグループのような金融持株会社は、超長期の保険債務に見合う資産として30年債や40年債を保有するため、この需給の一方の当事者にあたる。

電力9社の設備投資3兆3,087億円と、自己資本比率16.8%から41.0%の開き

40年債利回り4.10%という水準が最も重く効く産業を、有価証券報告書の実数で確かめる。EDINETから電力9社の2026年3月期を取ると、年間の設備投資額は合計3兆3,087億円に達する。内訳は東京電力ホールディングス9,048億円、関西電力5,807億円、東北電力4,227億円、九州電力3,815億円、中部電力3,280億円、中国電力2,807億円、電源開発1,886億円、四国電力1,248億円、北陸電力970億円である (内訳は億円未満を四捨五入したため、単純に足すと合計と1億円ずれる)。

財務体質の開きは大きい。自己資本比率は中部電力の41.0%から中国電力の16.8%まで、24ポイントの幅がある。9社の総資産の合計から純資産の合計を差し引いた負債は約41兆円で、営業利益の合計1兆7,370億円に対し23.6倍の規模になる。電力は負債で設備を持ち、その設備を数十年かけて回収する事業であり、調達金利の変化が最も長く効く業種にあたる。

銘柄 (証券コード)2026年3月期 設備投資営業利益自己資本比率
東京電力ホールディングス (9501)9,048億円3,377億円21.8%
関西電力 (9503)5,807億円4,376億円35.1%
東北電力 (9506)4,227億円1,604億円19.4%
九州電力 (9508)3,815億円2,249億円19.9%
中部電力 (9502)3,280億円2,300億円41.0%
中国電力 (9504)2,807億円902億円16.8%
電源開発 (9513)1,886億円1,010億円37.6%
四国電力 (9507)1,248億円678億円27.4%
北陸電力 (9505)970億円875億円24.4%

0.31ポイントが40年で4,103億円になる計算

見通し表の40年債利回りは、2026年4〜6月期の3.79%から7〜9月期の4.10%へ0.31ポイント上がる。この差が事業に効く大きさを、単純な形で確かめる。仮に9社の年間設備投資3兆3,087億円をすべて40年債で調達したとすると、利回り3.79%なら年間の利払いは1,254億円、4.10%なら1,357億円になる。調達額に0.31ポイントを乗じた差は年102.6億円で、40年の満期まで積み上げれば4,103億円に達する。1年分の投資に対する調達金利が0.31ポイント動くだけで、北陸電力の年間設備投資970億円の4.2年分にあたる差が生じる。

現実の資金調達は社債と借入金の組み合わせで、既存の負債すべてが直ちに新しい金利へ乗り換わるわけではない。それでも借り換えのたびに新しい水準が適用され、設備の耐用年数が長いほど差は複利で効く。原子力発電所の安全対策工事、送電網の増強、AIの計算資源を置く施設への電力供給といった投資は、いずれも回収に数十年を要する。40年債利回りが4%台で定着するかどうかは、これらの投資が採算に乗る境目を動かす。

40年債利回り0.31ポイントの差が電力投資に効く経路
40年債利回り0.31ポイントの差が電力投資に効く経路

同時に、金利上昇が電力会社に不利にだけ働くわけではない。電力は規制料金と長期契約を通じて費用の一部を価格へ反映できる事業で、物価上昇局面では収入側も上がる。負債の重い会社ほど金利上昇の影響を受ける一方、自己資本比率41.0%の中部電力と16.8%の中国電力では、同じ金利環境でも耐性が違う。銘柄を並べるときに設備投資額だけを見て序列を付けると、この差を見落とす。原子力を含む電源側の銘柄がどこで稼ぐかという分類は90銘柄の全数照合で整理してある。

観察点を3つに絞る。第1に9月の日銀会合で利上げが実施されるか、そして到達点の織り込みが2.25%から動くか。第2に10年債の発行減額が実現し、超長期ゾーンのスプレッドが縮むか。第3に生命保険と信託の買いが、海外投資家の後退分を埋められるか。3兆3,087億円の設備投資は毎年繰り返され、そのたびに当日の金利で調達される。金利の見通し表は債券投資家のための資料に見えて、実際には電力と原子力の採算表の一部である。