シリコン基板の表に半導体チップを載せ、内部にウェハ工程で抵抗を作り込み、裏面にチップ抵抗やコンデンサを実装する。両面を使うこの構造で、日清紡マイクロデバイスが試作品の実装面積を従来比で約80%削った。

同社が「シリコンマザーボード(Si-MB)」と名付けたこの技術は、シリコン基板の両面に回路を形成してICと受動部品を一体集約する3次元実装であり、世界初としている(同社調べ)。人工知能向けの半導体で話題になるチップレットが手を付けられなかった領域、すなわち大容量のコンデンサや低い抵抗値の部品を、同じ部品の中へ収めた点に新しさがある。本稿は画像から構造と比較表を書き起こし、なぜ受動部品の集積が難しかったのかを技術的に追い、当事者と競合の実数を有価証券報告書と米国の提出書類で確かめる。為替は1ドル=159.21円(2026年8月14日)による。売買の推奨や評価は示さない。

3つの方式を比べると、Si-MBの位置は「妥協点」ではない

3つの実装方式の比較と、集約の流れ
3つの実装方式の比較と、集約の流れ

公開された比較表は、部品を基板に載せる方式を3つに分けている。従来の部品実装、Si-MB、そしてチップレットである。評価軸は部品搭載の自由度、搭載面積、耐久性の3つで、それぞれの丸と三角が技術の性格を表している。

従来の部品実装は、パッケージに封止済みのICと部品を基板に並べる。自由度は高く、量産実績のあるパッケージを使うため耐久性も確保できる。ただし搭載面積は部品を並べる間隔に縛られ、小型化に限界がある。表では搭載面積だけが不可の評価になっている。

チップレットは正反対の性格を持つ。パッケージに入れる前の裸のチップを高密度で3次元に積むため、搭載面積の評価は最も高い二重丸である。しかし載せられるのはチップだけで、部品搭載の自由度は不可。さらに接続点の接合性に課題があるとされ、耐久性は三角にとどまる。

Si-MBは3つの軸すべてで丸を取る。チップと部品の両方を載せられ、既存パッケージの中に高密度で実装でき、そのパッケージが量産実績を持つゆえに耐久性も確保される。面積でチップレットに一歩譲る代わりに、自由度と耐久性を落とさないという設計思想が、表の形にそのまま現れている。産業機器や車載機器のように、小型化と信頼性を同時に求められる用途では、この組み合わせが効く。

集約の流れも図に示されている。プリント基板の上に並んでいたICはパッケージを外して半導体ダイスになり、抵抗器と配線はウェハ工程で作る集積回路になり、受動部品は基板の下面へ移る。3つの経路がSi-MBという1つの部品に合流する。

断面の6層が語る、受動部品の集積が難しかった理由

Si-MBの断面構造
Si-MBの断面構造

内部構造の図は、上から順に6つの要素を名指ししている。最上層が機能チップで、オペアンプICや電源ICが載る。その下がシリコン基板で、トランジスタや抵抗をウェハ工程で内蔵する。さらに絶縁膜、印刷配線と続き、下面に外部受動部品としてチップ抵抗やチップコンデンサが実装され、全体をフレームが支える。

ここで技術の核心は、なぜ下面に部品を置く必要があったのかにある。シリコンの内部に作れる受動素子には、物理的な上限がある。容量を稼ぐには面積が要り、1,000ピコファラッド以上の大容量コンデンサをシリコン上に作ろうとすれば、チップの面積がコンデンサに食い尽くされる。抵抗も同様で、1オーム以下の低抵抗を作るには導体の断面積を大きく取る必要があり、精度も温度特性も外付け部品に劣る。インダクタに至っては、磁束を蓄える構造そのものが平面のウェハ工程と相性が悪い。

チップレットが受動部品を扱えなかったのは、設計の怠慢ではなく、この物理に由来する。シリコンに作れないものは、シリコンの外に置くしかない日清紡マイクロデバイスの解は、その「外」を横ではなく下に取ったことにある。基板の裏側という、それまで使われていなかった面積を使う。

外形に既存の量産パッケージをそのまま採用した点も、技術というより商売の設計として重い。新しい実装技術の普及を止めるのは、多くの場合、性能ではなく顧客側の設備投資である。基板に載せる装置も検査の工程も、パッケージ外形が変われば作り直しになる。外形を変えないという選択は、顧客が今持っている実装設備をそのまま使えることを意味し、導入の費用と評価の工数を抑える。試作例では2つのコンパレータICを基板上に載せ、内部にウェハ工程で抵抗素子を形成し、下面の印刷配線上にチップ抵抗を実装して、窓比較器の機能を実現した。

開発費で劣る側が世界初を出した

集約する側と、集約される側の実数
集約する側と、集約される側の実数

技術の位置づけが分かったところで、当事者の体力を有価証券報告書の実数で確かめる。日清紡ホールディングス(3105)は売上5,023億円、営業利益264億円で営業利益率5.3%、研究開発費233億円、設備投資199億円である。研究開発費が売上に占める比率は4.6%にあたる。

同じ物差しで比べると、この比率は決して高くない。ルネサスエレクトロニクス(6723)は売上1兆3,212億円に対し研究開発費2,403億円で18.2%TDK(6762)は2兆5,048億円に対し2,897億円で11.6%、ローム(6963)は4,811億円に対し466億円で9.7%、村田製作所(6981)は1兆8,309億円に対し1,589億円で8.7%を投じている。本稿で並べた11社のうち、日清紡ホールディングスの4.6%は9番目である。開発費の総額でも比率でも上位にいない会社が、世界初を掲げる実装技術に到達した

理由は同社の来歴にある。日清紡マイクロデバイスは2022年1月1日、オペアンプの新日本無線と電源ICのリコー電子デバイスが経営統合して発足した会社である。統合の引き金になったのは2018年から19年の米中貿易摩擦と、2020年からの感染拡大による事業環境の変化だった。アナログICは単体の性能だけで決まらず、周りに置く抵抗やコンデンサの定数設計で最終的な性能が変わる。信号処理と電源という2つの系統を1社に集めたことで、ICと周辺部品をまとめて設計する視点が組織の内側に生まれた。微細化の投資競争とは別の場所に、解くべき問題を見つけたことになる。

同社は3次元集積で別の道も並走させている。OKIとの共同で結晶膜接合(CFB)技術を用いた薄膜アナログICの3次元集積に成功し、2026年の量産化を目指すと発表している。Si-MBが基板の両面を使う方向だとすれば、こちらは異なる材料の膜を貼り合わせる方向であり、狙う課題が違う。

集約する側より、集約される側のほうが3倍稼いでいる

部品を減らす技術と聞くと、部品を売る会社の売上が減ると考えたくなる。有価証券報告書の実数は、その直感を裏切る。

村田製作所の営業利益率は15.4%で、日清紡ホールディングスの5.3%の約3倍にあたる。TDKは10.9%、太陽誘電(6976)は5.6%である。設備投資でも村田が2,478億円、TDKが2,986億円と、日清紡ホールディングスの199億円を1桁上回る。集約される側とされる部品の作り手が、集約する側より厚い利益を得ている。

からくりは、部品が減るのは「点数」であって「機能」ではないところにある。回路が1,000ピコファラッドの容量を必要とするなら、集約しようがしまいがその容量は要る。Si-MBが減らすのは基板上に並べる面積であって、コンデンサそのものではない。むしろ電子機器の高機能化で部品点数が増える流れは続いており、財務省の貿易統計を見ると、2026年1〜6月の日本からのコンデンサー輸出は中国向け1,426億円、台湾向け759億円、米国向け565億円、韓国向け355億円に達する。半導体等電子部品の輸出は台湾向け1兆701億円、中国向け9,560億円で、桁が違う規模で部品が流れ続けている。

米国側の当事者と比べると、日本勢の利益率の低さが際立つ。テキサス・インスツルメンツは売上177億ドルに対し営業利益率34.1%、研究開発費21億ドル(売上比11.8%)、設備投資45億ドル。アナログ・デバイセズは110億ドルで26.6%、研究開発比率16.0%である。マイクロチップ・テクノロジーは47億ドルで10.4%、onsemiは60億ドルの売上に対し営業利益は1億ドルにとどまる。アナログ半導体は微細化の最先端を追わない代わりに、成熟した製造工程で長く売り続ける事業であり、テキサス・インスツルメンツの34.1%はその構造の到達点にあたる。日清紡マイクロデバイスが実装技術で差をつけようとしているのは、この利益率の差を性能で埋めるためでもある。

企業売上高営業利益率研究開発費研究開発/売上
テキサス・インスツルメンツ177億ドル34.1%21億ドル11.8%
アナログ・デバイセズ110億ドル26.6%18億ドル16.0%
村田製作所 (6981)1兆8,309億円15.4%1,589億円8.7%
ルネサス (6723)1兆3,212億円15.2%2,403億円18.2%
TDK (6762)2兆5,048億円10.9%2,897億円11.6%
マイクロチップ・テクノロジー47億ドル10.4%11億ドル23.0%
太陽誘電 (6976)3,553億円5.6%145億円4.1%
日清紡ホールディングス (3105)5,023億円5.3%233億円4.6%
ローム (6963)4,811億円2.3%466億円9.7%

日本勢はEDINET収録の有価証券報告書、米国勢は米証券取引委員会のXBRLデータによる直近通期。

実装の言葉は増えているが、チップレットだけが伸びているのではない

米上場企業の提出書類で実装技術の言葉を数えると、この分野の広がり方が見える。「advanced packaging(先端実装)」の言及は2024年332件、2025年394件、2026年(8月20日まで)489件と増え続けている。「chiplet」は76件、71件、134件で、2025年にいったん減ってから2026年に倍近くへ戻った。「system in package」は38件、48件、53件と緩やかに伸びる。

言葉の伸び方は、技術の主戦場が1つに収束していないことを示す。人工知能向けの巨大なチップではチップレットが要るが、産業機器や車載機器のように部品点数と信頼性が問題になる領域では別の解が要る。TSMCが角形パネル実装に挑む動きが前者の系列だとすれば、Si-MBは後者の系列に属する。同じ「3次元実装」という言葉でも、解いている問題が違う。

日本の後工程を支える企業の実数も押さえておく。イビデン(4062)は売上4,162億円・営業利益率14.9%・設備投資643億円、日本特殊陶業(5334)は7,312億円・18.9%、そして素子を薄く削る装置のディスコ(6146)は4,369億円に対し営業利益率42.3%である。実装が3次元へ向かうほど、削る・積む・検査するという工程の装置が要る。誰の技術が採用されても、装置の代金は入る。

誘電体と電極をたどると、精錬とレアアースに行き着く

シリコン基板の下面に載るコンデンサの中身は、セラミックの誘電体と金属の内部電極を交互に積んだ構造である。誘電体の主成分はチタン酸バリウムで、そこへ希土類元素を添加して温度に対する特性を整える。ジスプロシウム、ホルミウム、イットリウムなどが微量ながら効き、この添加設計が各社の技術の中核にある。内部電極にはニッケルが使われ、かつてのパラジウムから置き換えが進んだ。インダクタの磁性材料にはフェライトが入り、鉄・ニッケル・亜鉛の精錬が上流に来る。

集積が進んでも、これらの材料が要らなくなるわけではない。むしろ小型化するほど誘電体は薄くなり、層数は増え、材料の均一性への要求は厳しくなる。中国が2025年4月から重希土類7品目を輸出許可制の下に置いた影響は、磁石だけでなくコンデンサの添加元素にも及ぶ。ジスプロシウムとホルミウムは、いずれも中国の精錬に強く依存する重希土類である。

関連する日本企業を有価証券報告書の実数で並べる。信越化学工業(4063)は売上2兆5,740億円・営業利益率24.7%でシリコンウェハと希土類磁石の両方を持つ。非鉄製錬の三井金属(5706)は7,585億円・17.3%、JX金属(5016)は8,846億円・19.8%で、いずれも電子材料向けの高純度金属を供給する。磁石合金と特殊鋼の大同特殊鋼(5471)は5,781億円・7.3%。営業利益率で見ると、原子力や半導体の材料でも確認した通り、精錬の上流が17〜25%と厚く、加工に近づくほど薄くなる。実装技術が変わっても、この序列は動かない。

確かめられる点

検証は日付と数字で追える。第1に、Si-MBの量産採用が公表されるか。試作から量産までの距離は、産業機器と車載では評価工数の分だけ長い。第2に、日清紡ホールディングスの次の有価証券報告書で、研究開発費と設備投資が4.6%と199億円からどう動くか。世界初を掲げた技術を量産へ運ぶには、投資の水準が変わるはずである。第3に、OKIとの結晶膜接合による3次元集積が2026年内に量産へ入るか。第4に、村田製作所太陽誘電のコンデンサ出荷が、集積の進展にかかわらず伸び続けるか。第5に、米開示書類で「advanced packaging」の言及が489件からさらに増えるか。

チップレットが解けなかった問題を、開発費で上位にいない会社が別の角度から解いた。基板の裏側という、誰も使っていなかった面積に着目した点が、この技術の中身である。微細化の競争から降りた場所にも、まだ未使用の設計余地があるという事実のほうが、80%という削減率より長く効く。