8月24日の東京市場で、AIデータセンター向けの電線・光通信11銘柄のうち10銘柄が下げた。下落率はサンコール12.0%、古河電気工業5.1%、フジクラ5.0%。同じ週、需要側の米Lumentumは通期売上を83%伸ばしている。

株価の下げと需要の強さが逆を向いた1日だった。日経平均が488円安となったこの日、売りが集中したのはAIデータセンターの配線と光通信を担う銘柄群である。本稿は当日の下げを構成した7つの要因を金利・イベント・需給に分解したうえで、需要側の実測をSECの開示で、日本各社の足元をEDINETの有価証券報告書と四半期実績で突き合わせ、この下げが「何かが壊れた」下げなのか「積み上がった持ち高が整理された」下げなのかを、銘柄ごとに仕分ける。増幅器と遮断器を担うレアアースの急所、電線の先にある電力網まで含めて追う。

日経平均488円安、売りは7つの要因が重なった

8月24日の日経平均は前週末比488円27銭(0.74%)安の6万5,528円09銭で続落した。日本経済新聞によると、下押しの主因は日米長期金利の上昇とAI・半導体関連への売り、韓国株安である。米国債利回りはFREDの実測で、財務省の買い戻し発表直後にあたる8月19日の10年債4.65%・30年債5.19%から、21日には4.74%・5.27%へ再び切り上がった。中東情勢を背景とする原油の高止まりが金利の再上昇を支え、前週末21日の米市場では半導体株指数SOXが反落。そこへ8月26日(日本時間27日早朝)のエヌビディア決算という年内最大級のイベントが重なり、持ち高を軽くする売りが電線・光通信株まで届いた。売上高910億ドル±2%という会社側ガイダンスに対する着地と次の見通しが焦点になる構図は決算プレビューの別稿で整理したとおりである。

要因を並べると、SOX反落、日米金利上昇、エヌビディア決算前の持ち高調整、韓国株安による投資家心理の悪化、AI関連の一括売り、直近上昇銘柄の利益確定、信用・レバレッジ取引の整理の7つになる。いずれも需要そのものの変調ではなく、価格と持ち高の側の話である点が、この日の下げの性格を決めている。

8月24日の電線・光通信11銘柄の騰落率と分類
8月24日の電線・光通信11銘柄の騰落率と分類

需要側の実測、Lumentumの通期売上は83%増えた

売られた理由が需要でないことは、需要側の開示が示す。光トランシーバー用部品の米Lumentumが8月11日に発表した2026年6月期は、SECのXBRLデータで通期売上高30億1,400万ドル。前期の16億4,500万ドルから83%増え、2年前の13億5,900万ドルからは2.2倍になった。第4四半期(4〜6月)単体の売上高は10億1,000万ドルと四半期で初めて10億ドルを超え、前年同期の4億8,100万ドル(通期から3四半期分を差し引いた実測値)から2.1倍である。AIデータセンターの中で計算結果を運ぶ光の需要は、減速どころか加速の途中にある。CoherentCorningを含む光通信の米国側の顔ぶれは企業データベースの各ページに整理してあり、この決算を受けて前週初の東京市場では国内の光デバイス株が買われていた。つまり今回の下げは、1週間前に需要の強さを織り込んだ銘柄群が、金利とイベントを理由に持ち高を戻した動きである。

Lumentumの売上推移と8月24日の株価調整の対比
Lumentumの売上推移と8月24日の株価調整の対比

フジクラ5.0%安と古河電工5.1%安、開示との乖離を測る

下げの中心にいた電線大手2社の足元を、開示の実数で確かめる。古河電気工業の2027年3月期第1四半期(4〜6月)は売上高3,652億円で前年同期比24.3%増、営業利益は254億円で3.1倍(205.4%増)。売上営業利益率は2.8%から7.0%へ改善し、光ファイバーケーブルを含む光関連が黒字化を牽引した。会社は8月6日に通期の経常利益を43%上方修正し、1,430億円の最高益予想を掲げたばかりである。株価が5.1%下げた8月24日に、業績側の新しい悪材料は存在しない。

フジクラの立ち位置は有価証券報告書(書類番号S100YGP3)の実数が説明する。2026年3月期は売上高1兆1,824億円に対し営業利益1,887億円、利益率は16.0%に達する。同じ電線大手でも古河電気工業の4.9%、住友電気工業の8.2%に対し、フジクラの利益率は突出しており、データセンター向け高密度光配線の採算の良さが数字に出ている。市場の人気がフジクラに集中してきた根拠はこの利益率の差であり、人気の集中は調整局面では下落率の大きさに反転する。住友電気工業の下げが1.2%にとどまったのは、自動車ハーネスや電力ケーブルまで事業が分散し、光通信の持ち高調整の影響が薄まるためで、同社の事業構成は企業データベースにまとめてある。

サンコール12.0%安、72%上昇の後始末

下落率首位のサンコールは、この日の値動きの主役が需給であることを最も分かりやすく示す。同社は8月7日に2027年3月期の通期業績予想と配当予想を上方修正し、修正後の予想は売上高560億円、営業利益85億円(前期比19.3%増)、年間配当35円(前期20円)。前期の2026年3月期もHDD用サスペンション事業からの撤退と構造改革で営業利益71億円(107%増)と回復を鮮明にしており、そこへ光通信用コネクターの成長期待が重なって、株価は修正発表から8月21日までの2週間で約72%上昇していた。8月24日に新しい個別の悪材料は確認されていない。2週間で7割上がった小型株が、地合いの悪化を合図に利益確定と信用・レバレッジ取引の解消で12%下げる。急騰の中身も急落の理由も、どちらも需給の側にある。

デクセリアルズだけが上げた理由、2022年の先回り買収

11銘柄で唯一上昇したデクセリアルズ(0.3%高)の強さには裏付けがある。同社は2022年に光半導体の京都セミコンダクターを買収し、2024年4月には光学設計部門と統合したデクセリアルズフォトニクスソリューションズを発足させた。800ギガビットから1.6テラビットへ向かう光トランシーバーの受光側を担うフォトダイオードを持ち、AIデータセンターの通信高速化の直接の受益者である。有価証券報告書ベースの2026年3月期は売上収益1,138億円に対し営業利益381億円、利益率33.5%と、今回の11銘柄で最も高い。テーマ全体が売られる日に選別買いが入る銘柄には、利益率という共通項がある。

残る銘柄の下げはいずれも小幅で、性格も共通する。精工技研(0.2%安)はLumentum決算後の急騰と反落を往復した後の方向感のない小動き、海底ケーブル用光部品の湖北工業(1.0%安)と半導体検査用ソケットの山一電機(1.2%安)は一括売りの巻き添え、浜松ホトニクス(1.3%安)は金利上昇局面に特有の高PER成長株の評価調整、光学結晶のオキサイド(2.1%安)は小型・高ベータゆえの振れである。個別に需要の悪材料が出た銘柄は1つもない。

光の増幅と遮断はレアアースが担う、テルビウムは規制リストの中にある

光通信の部材を1段掘ると、この銘柄群にも希土類の急所がある。長距離・大容量の光伝送で信号を増幅するのはエルビウムを添加した光ファイバー増幅器(EDFA)であり、反射光を遮断して半導体レーザーを守る光アイソレーターの心臓部は、テルビウムを含むガーネット結晶(TGG)や磁性ガーネットである。テルビウムとイットリウムは、中国が2025年4月に輸出許可制の対象とした中・重希土類7種に含まれ、ジェトロは磁石とともに影響が特に大きい元素にテルビウムを挙げる。エルビウム自体は7種の対象外だが、希土類の精錬能力の約9割を中国が握る構図の内側にある点は変わらない。DRAMとレアアースの依存構造を対で追った検証記事の光通信版がここにある。

関連する日本の素材銘柄は3つ挙げられる。TGGセラミックスを手掛ける神島化学工業(4026)、レアアースマグネットを自社生産する信越化学工業(4063)、そして光学単結晶を育成するオキサイド(6521)である。オキサイドは今回の下落銘柄でもあり、テーマの需給で売られる日も、素材の希少性という中長期の論点は動いていない。

電線の隣には電力網がある、SWCCが繋ぐもう1つの国策

SWCC(3.0%安)の下げは、この銘柄群の二面性を照らす。同社の主力は光通信ではなく電力インフラ向けの電線・ケーブルであり、送電網の増強と再構築という、AIデータセンターのもう1つのボトルネックの側に立つ。電力設備投資のテーマ自体はこの日も崩れておらず、SWCCの下げは電線株として一括りに売られた持ち高調整の巻き添えである。データセンターの電力不足と敷地内発電を検証した前稿、原子力を含む電源側の90銘柄を仕分けた全数照合と並べて読むと、光配線・電力線・電源の3層が同じAI基盤投資の別の断面であることが分かる。

見るべき点を絞る。第1に8月26日のエヌビディア決算で、ガイダンス910億ドル±2%に対する着地よりも、データセンター設備投資の先行きの言い方が電線・光通信株の需給を決める。第2に米10年債・30年債利回りが8月21日の4.74%・5.27%からさらに切り上がるかどうか。第3にフジクラ古河電気工業が出来高を伴って下げ止まるか、そしてサンコールの短期資金の流出が一巡するか。需要の実測が変わらないまま株価だけが動く局面は、仕分けを済ませた投資家にとって、恐れる場面ではなく確かめる場面である。