国立情報学研究所(NII)が2026年4月3日に公開した国産の大規模言語モデルLLM-jp-4は、日本語MT-Benchで8Bモデルが7.54、32B-A3Bモデルが7.82を記録し、GPT-4oの7.29とQwen3-8Bの7.14を上回った。
約12兆トークンの良質なコーパスで学習し、オープンソースライセンスで商用利用できる。公開以降も更新は続いており、NIIは2026年度中に、より大きいモデルと軽量モデルを順次出すとしている。この結果があまり報じられない背景には「国産LLMはまだ弱い」という先入観があり、具体的な得点が一般の読者に届きにくい。本稿はまずNIIの発表を得点と構成まで分解し、次に「報じられない」という現象を米証券取引委員会の開示件数で測り、資金の薄さを総務省の科学技術研究調査と金融庁EDINETの有価証券報告書で確かめる。その上で、日本語特化・公開・商用利用可という実用性を、中国の公開モデルとの組み合わせという使い方まで含めて整理する。なお今回は添付画像がないため、画像からの抽出は行っていない。本サイトの記事制作にはAIを用いているが、得点と数字はすべてNIIの発表と公的統計による。売買の推奨や評価は示さない。
7.82対7.29、「上回った」の中身を得点と構成で確かめる
NIIの発表を数字で読む。公開されたのは2つのモデルで、LLM-jp-4 8Bは全パラメーター80億の密なモデル、LLM-jp-4 32B-A3Bは全体320億のうち推論時に働くのが30億という混合専門家型である。学習データは公開されたウェブ、政府や国会の文書、合成データで構成した約19.5兆トークンのコーパスのうち約10.5兆トークンを事前学習に使い、中間学習と追加学習を別途行って、合計で約12兆トークンに達する。日本語MT-Benchの得点は8Bが7.54、32B-A3Bが7.82で、比較対象のGPT-4oが7.29、Qwen3-8Bが7.14。NIIはOpenAIが公開した20Bのモデルgpt-oss-20bも上回ると説明している。
得点の差は0.25〜0.68点で、10点満点の指標としては小さくない。ただし日本語MT-Benchは日本語の対話品質を測る指標であり、プログラムの生成や数学、長い文脈の扱いまでを包む万能の物差しではない。「一部のベンチマークで上回った」というNIIの表現は、この限定を正確に反映している。実用上の意味は別のところにある。推論時に30億のパラメーターしか動かない32B-A3Bが、1,000億規模を動かすとされる商用モデルと日本語の対話で並ぶなら、1回の応答にかかる計算費用は桁で違う。商用利用可能な公開モデルでこの水準が手に入ることが、企業の自前運用にとっての本当の価値である。
設計図はLlama 2とQwen3、国産なのは12兆トークンの中身である
見落とされやすい点を1つ添える。LLM-jp-4 8Bの構造はMetaのLlama 2系、32B-A3Bの構造はアリババのQwen3系である。つまりモデルの設計図は米国と中国の公開モデルに由来し、国産なのはその設計図の上に載せた12兆トークンの学習データと、学習の手順と、その結果として得られた重みである。これは弱点ではない。公開された構造を使い、日本語の良質なデータで鍛え直すことで、設計の研究開発費を払わずに日本語の品質を引き上げる方法が成立したという事実を示している。
「中国の公開モデルとの比較や組み合わせ」という使い方は、この意味で既にモデルの内側で起きている。Qwen3の骨組みに日本語を教え込んだものが32B-A3Bであり、外側の組み合わせ、すなわち日本語の対話はLLM-jp-4、プログラム生成や数学はQwen3やDeepSeekの公開モデルに振り分ける構成は、企業の現場では自然な選択になる。国立情報学研究所の大規模言語モデル研究開発センターがモデルと同時にコーパスと学習手順を公開している点は、この組み合わせを検証可能にする土台でもある。
「報じられない」を測る、米開示に日本語LLMは年8件しか現れない
国産LLMが報じられにくいという現象を、日本の報道量ではなく米国の開示で測る。米上場企業が提出書類で「DeepSeek」に触れた件数は、2024年の0件から2025年に443件へ跳ね、2026年も8月21日までで156件ある。「Qwen」は6件、34件、21件。重みを公開する形態を指す「open-weight」は0件、15件、31件と増えている。一方、「日本語」と「大規模言語モデル」を併記する開示は3件、8件、6件にとどまる。米国の投資家の視界に、日本語LLMはほぼ入っていない。
この差は性能の差ではなく、市場の大きさと語られる場の差である。中国の公開モデルは米国企業の費用構造や競争環境に直接影響するため開示に載り、日本語のモデルは日本市場の中で完結するため載らない。「国産LLMは弱い」という先入観は、この可視性の偏りを性能の評価と取り違えたところに生まれる。7.82という得点が一般の読者に届くには、指標の意味を説明する記事が要る。
資金の薄さ、情報通信業の研究費6,203億円はソフトバンクG1社を下回る
資金の側を総務省の科学技術研究調査で確かめる。企業が内部で使った研究費は2025年調査(2024年度実績)で全産業17兆4,303億円に対し、情報通信業は6,203億円と全体の3.6%にすぎない。情報通信業の研究費は2021年調査の3,760億円から伸びたが、2023年調査の6,512億円を頂点に足踏みしている。比較として、ソフトバンクグループ(9984)1社の有価証券報告書上の研究開発費は9,755億円で、連結子会社のArmなどを含む数字とはいえ、情報通信業全体の研究費を1社が上回る。国産LLMの資金の薄さは、個別の研究機関の努力不足ではなく、産業としての研究費の配分の構造に根がある。
NIIのLLM-jpは文部科学省と経済産業省などの公的資金と、参加機関が持ち寄る計算資源で成り立つ。為替も効く。1ドル=159.21円の水準では、米国のAPIを呼ぶ費用は円建てで膨らみ、公開モデルを自前で動かす選択の相対的な価値が上がる。12兆トークンの学習に要するGPUはNVIDIA製で、その調達費用もドル建てである。国産LLMの価値は、学習を国内で行う意地ではなく、推論を円建ての計算資源で回せる点にある。
有報で見る当事者8社、研究開発費は9,755億円から39億円まで
LLM-jpの周辺で自前の日本語モデルを公開してきた上場企業の体力を、EDINETの有価証券報告書で並べる。tsuzumiを持つNTT(9432)は売上14兆4,091億円・営業利益率11.8%・研究開発費2,786億円で、外国人持株比率は14.2%と低い。Sarashinaのソフトバンク(9434)は売上7兆387億円・14.8%・968億円。cotomiのNEC(6701)は3兆5,827億円・10.0%・1,052億円で外国人45.0%、Takaneの富士通(6702)は3兆5,030億円・9.9%・1,373億円で外国人55.4%。サイバーエージェント(4751)は売上8,740億円に対し研究開発費39億円で、公開モデルCALMの開発が事業費の中に埋め込まれていることを示す。ELYZAを傘下に持つKDDI(9433)は売上6兆719億円・営業利益率18.1%・研究開発費400億円である。
計算資源を貸す側も見ておく。LLM-jpの学習基盤を担うさくらインターネット(3778)は売上353億円で営業利益率は−1.1%。GPUを先に買って貸し出す事業は、Anthropicが計算資源を5段構えで押さえた回で見た通り世界では年100億ドル単位で動くが、日本では売上353億円の企業が赤字で支える規模にとどまる。国産LLMの得点が上がる一方で、それを動かす計算資源の当事者が利益を出せていないという構図が、日本のAI基盤の現在地である。
実務での使いどころ、日本語特化・公開・商用可という3つの条件
この成果の価値は3点に集約される。日本語特化・オープンソース・商用利用可能という実用性、「日本のAIは基礎モデルでも戦えている」という誇りと現実の均衡、そして中国の公開モデルとの比較と組み合わせである。これを現場の判断に落とす。第1に、日本語の対話品質で商用モデル並みの公開モデルがあることは、顧客データを外部に送れない業種、すなわち金融、医療、自治体にとって自前運用の選択肢を実質的に開く。第2に、推論時に30億のパラメーターしか動かない32B-A3Bは、GPU1枚級の機器で動かせる規模であり、AIの仕組みを整理した回で扱った混合専門家型の利点がそのまま費用に効く。第3に、組み合わせである。日本語の応答はLLM-jp-4、プログラム生成や数学は中国や米国の公開モデルという振り分けは、1つの商用APIに依存するより費用と主権の両面で有利になる。
本件の文脈は精錬や磁石と接点が薄いため、関連銘柄はレアアースではなく、国産LLMの学習と推論を円建てで支える計算基盤と当事者で構成する。
確かめられる点
検証は公表の日付で追える。第1に、NIIが2026年度中に出すとする、より大きいモデルと軽量モデルの公開時期と得点。第2に、日本語MT-Bench以外の指標、たとえば日本語の理解やプログラム生成での結果が第三者の検証で再現されるか。第3に、商用利用の導入事例。自治体や金融機関がLLM-jp-4を自前運用した事例が公表されれば、実用性の主張が実績に変わる。第4に、総務省の2026年調査で情報通信業の研究費が6,203億円から動くか。第5に、米提出書類で「日本語」と「大規模言語モデル」を併記する開示が年10件を超えるか。可視性の指標として、得点より遅れて動く数字である。
7.82という得点は、国産LLMが弱いという先入観を数字で崩した。その一方で、設計図は米中の公開モデルに由来し、資金は業界全体で持ち株会社1社に届かず、計算資源の当事者は赤字で支えている。日本のAIが基礎モデルで戦えているという誇りは得点に裏付けがあり、現実はその得点を支える基盤の薄さにある。両方を同じ紙面に置くことが、この成果の正しい読み方である。
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