個別の案件として報じられている金額を足し合わせると、そこで初めて偏りが数字になる。主な5案件6兆6,500億円のうち、熊本県だけで4兆5,500億円。全体の68.4%が一つの県に集まり、支援額まで並べると別の比率も出てくる。

外資による国内の半導体投資は、個別の案件として報じられることが多い。TSMCの熊本工場、マイクロンの広島工場、タワーセミコンダクターの富山と新潟。それぞれの金額は大きく扱われるが、横に並べて合計した図はあまり示されない。

68.4%が一つの県に集まっている

5案件の内訳は、TSMC熊本第1工場が約1兆3,500億円、同第2工場が約2兆2,000億円、マイクロン広島の新製造棟が約1兆5,000億円、タワーセミコンダクターの富山・新潟が約6,000億円、ソニーグループとTSMCの熊本県での共同投資が1兆円規模である。

5案件の投資額と国の支援上限、地域と作る物の分布
5案件の投資額と国の支援上限、地域と作る物の分布

熊本県が受けるのはTSMCの2工場とソニーグループとの共同投資で、合わせて4兆5,500億円になる。広島県が1兆5,000億円で22.6%、富山県と新潟県が合わせて6,000億円で9.0%。案件の数では熊本が3、広島が1、富山・新潟が1だが、金額では熊本が7割近くを占める。

集積が進めば装置の保守も技術者の移動も効率が上がるが、同時に一つの地域に依存する構造になる。地震や水の供給といった局地的な要因が、国全体の生産能力に直結する形になる。熊本の半導体拠点が2年でどう変わったかは県内251拠点を数え直した稿で扱った。

投資1円につき、国が26.7銭から35.7銭を出している

投資額と並べて示されることが少ない数字が、国の支援額である。TSMC熊本第1工場には最大4,760億円、第2工場には最大7,320億円の補助が示されている。マイクロン広島には経済産業省が最大5,360億円、タワーセミコンダクターには最大約1,600億円である。

投資額に対する比率を計算すると、TSMC第1工場が35.3%、第2工場が33.3%、マイクロン広島が35.7%、タワーセミコンダクターが26.7%になる。支援額が公表されている4案件を合わせると、投資5兆6,500億円に対して支援1兆9,040億円で33.7%にあたる。

ソニーグループとTSMCの共同投資については、両社が拠出するのはソニー約4,650億円とTSMC約2,820億円の合計7,470億円で、これとは別に日本政府の支援を前提として資金計画の検討が進んでいる。事業規模として示されている1兆円と、両社の拠出額7,470億円の差が、その部分にあたる。合弁の出資構造は確定契約を配分から読んだ稿で扱った。

作る物が重ならないという配置

同じ「半導体投資」でも、5案件が作る物は競合しない。TSMCの2工場は演算する回路を担い、第2工場ではAI向けの先端品の生産が検討されている。マイクロン広島は記憶を担い、国内で唯一のDRAM拠点にあたる。タワーセミコンダクターとソニーグループ・TSMCの合弁は、運ぶことと見ることを担う。光通信向けの回路と画像センサーで、演算とも記憶とも競合しない。

日本国内で人気の高い銘柄であるマイクロンについて、広島の新製造棟は2026年7月に起工した。第1期のクリーンルームは約28,000平方メートルで、装置の搬入は2028年後半に始まる予定である。量産の開始として告知される時期より、装置が入る時期のほうが先に訪れる。

最も投資額の小さいタワーセミコンダクターが、最も早く出荷に届く。富山県魚津市と新潟県妙高市で、光電融合向けの回路と実装を手がける。計画されている生産能力は月あたり16,000枚と2,000枚で、供給開始は2027年5月と9月である。工場の規模と、市場に物が出る時期は比例しない。

装置が入るまでは、建物への支出が先に走る

投資額の大半は、まず建屋と電源と用水の工事に向かう。その後に装置が搬入され、量産に入って初めて売上が立つ。決算に現れる順番も、建設、装置、材料、そして稼働後の消耗品という順になる。

金融庁の開示に提出された有価証券報告書から連結・通期を取ると、東京エレクトロンは売上高2兆4,435億円、営業利益6,249億円で利益率25.6%、従業員20,236人。ディスコは売上高4,369億円、営業利益1,850億円で利益率42.3%、従業員5,547人である。装置各社の投資の型を三つに分けた比較は有報の実数字で並べた稿にある。

建設段階については、有価証券報告書に建設業固有の科目が並ぶ。完成工事高、完成工事原価、完成工事総利益、そして着工前に受け取る未成工事受入金である。鹿島建設の直近の連結では、完成工事高が2兆6,786億円、完成工事総利益が3,472億円、未成工事受入金が2,245億円だった。

一方で受注高は、これらと同じようには取り出せない。財務諸表の科目ではなく事業の状況を記す箇所に置かれており、金額としての標識が付いていないためである。実際に開示書類を要素まで開いて確かめたが、受注に相当する項目は1件も現れなかった。工事の進み具合を金額で追うなら、完成工事高と未成工事受入金の組み合わせが代わりになる。前者は既に引き渡した分、後者はこれから引き渡す分に対して先に受け取った金額を表す。

工場が動き出すと、規制のかかった材料が要る

稼働後に必要になるのは装置ではなく材料である。記憶素子の内部配線にはタングステンが使われ、薄膜トランジスタの酸化物半導体にはインジウムが入る。この2つを含む5品目は、2025年2月4日の公告第10号で輸出許可制の対象になった。テルル、ビスマス、モリブデンも同じ枠組みにある。

磁石に使うジスプロシウムやテルビウムを含む中重希土類7品目への輸出管理は2025年4月4日に始まり、繰り返し報じられてきた。その2か月前に、別の公告で別の5品目が動いている。工場の建設は数年で終わるが、材料の調達は稼働している限り続く。

銘柄証券コードこの文脈での位置
JXアドバンストメタルズ5016非鉄とレアメタルの製錬。規制対象を含む素材側に最も近い
第一稀元素化学工業4082ジルコニウム系を専業で扱い、絶縁膜と研磨材の材料に関与する
住友金属鉱山5713非鉄の製錬と機能性材料を併せ持つ
三井金属5706亜鉛製錬の副産物として希少金属を得る工程を持つ
双日2768政府系機関との合弁で豪州産の重希土類を日本向けに確保する枠組みを持つ

誘致の成否は、工場が建つかどうかでは決まらない。支援が終わった後も設備更新の投資が続くかどうかで決まる。第1工場の稼働から次の世代への更新までに要する期間は、補助金の交付期間より長い。