設計はソニーに残り、量産だけが合弁へ出される。この配分が、7,470億円という金額よりも多くを語る。世界で最も多くのイメージセンサーを出荷している会社が、自前の工場では追えなくなった工程がどこかを示しているからだ。
ソニーセミコンダクタソリューションズとTSMCは2026年8月11日、熊本県合志市を拠点とする合弁会社「Advanced Vision Semiconductor Manufacturing株式会社」の設立について、法的拘束力を持つ確定契約を締結した。2026年5月8日に公表した基本合意書を、金額と持ち分の入った契約へ進めたことになる。
4,650対2,820という配分が決めていること
ソニーは現金出資と会社分割による資産移管をあわせて約4,650億円を拠出する。資産移管の中身は、合志市にソニーが既に投資している新工場である。TSMCは約2,820億円を全額現金で出す。合計7,470億円のうちソニーが62.2%、TSMCが37.8%を占める計算になる。
過半を握ることの意味は会計にも及ぶ。合弁会社はソニーグループの連結子会社として扱われ、代表取締役もソニーから選出される。技術を持ち込む側が経営権を取らない形は、受託生産を本業とするTSMCの立ち位置と矛盾しない。同社は1987年の設立以来、顧客の製品を自社ブランドで売らないことを商売の前提にしてきた。2025年には305種類の工程技術で534社の製品12,682品目を製造している。
出資は一度に払い込まれるわけではなく、市場の需要と事業環境に応じて段階的に実行される。設立と取引の完了そのものも、関係当局の許認可を含むクロージング条件を満たすことが前提になる。加えて、生産能力の実現に向けた資金については日本政府の支援を受けることを前提に検討が進んでいる。7,470億円は両社の拠出であって、工場の総投資額ではない。
光を受ける層ではなく、その真下が足りなくなった
今のイメージセンサーは一枚の板ではない。光を電気に変える画素の層と、その信号を処理する演算の層を別々に作り、貼り合わせて積む。世代によっては一時的にデータを貯める記憶の層が間に挟まる。
この二つの層は、必要な工程技術がまったく違う。画素の層は微細化しても性能が上がらない。光子を受け止める面積と雑音の少なさが効くため、むしろ細かくしすぎると不利になる。ソニーが世界首位を保ってきたのはこちらの領域である。
一方で演算の層は普通の論理回路であり、微細化がそのまま搭載できる回路の量になる。画素を増やすだけなら既存の世代で足りていたが、端末の中で被写体を認識し、複数の画像を合成し、動きを予測する処理が標準になると、載せる回路の量が跳ね上がる。同じ面積に収める方法は微細化しかない。端末側のAI処理の要求が、ソニーが自社で持つ40ナノメートル級の工程を上回ったとDIGITIMESは伝えている。
ソニーが中核技術の開発と製品の企画・設計を手元に残し、量産に向けた開発と製造だけを合弁へ出した理由がここにある。渡しているのは作り方であって、何を作るかではない。
合志市という住所が持つ意味
新会社の拠点となる合志市は、TSMCの子会社である日本先端半導体製造(JASM)の工場がある菊陽町に隣接する。同じ通勤圏に、同じ会社の工程技術を使う拠点が二つ並ぶことになる。
これは偶然ではなく設計である。半導体の量産立ち上げでは、装置の据え付けから歩留まりが安定するまでの間、工程技術者が現地に張り付く。既に人が集まっている場所に隣接して置けば、その移動と滞在の費用が下がる。熊本の半導体集積が2年でどう変わったかは県内251拠点を数え直した稿で扱ったが、そこで見えた「菊陽町を中心とする北東の帯」に、また一つ重い拠点が加わる形になる。
量産開始は2029年である。確定契約から3年近い距離があるのは、工場の建屋と装置の導入に加え、貼り合わせを含む工程の作り込みに時間がかかるためだ。この間に端末側のAI処理の要求はさらに上がるため、投入する世代の選択そのものが賭けになる。
積み上げるほど、平らにする工程が増える
積層型のセンサーは、層を貼り合わせるたびに表面を原子の高さまで平らにする研磨の工程が入る。段数が増えれば工程の回数が増え、研磨材の消費量に直結する。ここに日本の部材各社が並ぶ。
| 工程 | 役割 | 日本の主な供給企業 |
|---|---|---|
| 土台となる円板 | 積層の基礎になる高純度の板 | 信越化学 (4063) / SUMCO (3436) |
| 貼り合わせと薄化 | 層を重ね、削って薄くする | ディスコ (6146) / 東京エレクトロン (8035) |
| 平坦にする研磨材 | 貼り合わせ面を原子の高さまで均す | レゾナック (4004) / 第一稀元素化学工業 (4082) |
| 封止と実装 | 完成した積層体を保護する | レゾナック / 住友金属鉱山 (5713) |
研磨材の主成分は酸化セリウムである。セリウムはレアアース17元素のうち原子番号の小さい側、軽希土類に分類される。
セリウムは規制の7品目に入っていない
中国は2025年4月4日、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7品目を輸出管理の対象に加え、輸出には許可の取得を義務づけた。同年10月には範囲を広げたが、11月7日の公告第70号で、10月に追加した措置の実施を2026年11月10日まで停止している。停止は撤廃ではなく、4月の措置はそもそも停止の対象に入っていない。
セリウムはこの7品目に含まれていない。 磁石に使うジスプロシウムやテルビウムと違い、研磨材の側は現時点で許可制の外にある。ただし精錬の集中度という点では事情が変わらず、軽希土類の分離精錬も中国に偏っている。規制の対象かどうかと、供給が集中しているかどうかは別の問題である。
| 銘柄 | 証券コード | この文脈での位置 |
|---|---|---|
| 第一稀元素化学工業 | 4082 | 酸化ジルコニウム・セリウム系材料の専業。研磨材の原料側に最も近い |
| レゾナック | 4004 | 研磨材と封止材の双方を手がけ、積層工程の増加が数量に効く |
| 住友金属鉱山 | 5713 | 非鉄の製錬と機能性材料。原料に近い位置から関与する |
| 信越化学 | 4063 | 円板と、希土類磁石を含む機能材料の両方を持つ |
| 双日 | 2768 | 政府系機関との合弁で豪州産の重希土類を日本向けに確保する枠組みを持つ |
積層の段数は仕様書の一行だが、その裏では研磨の回数と研磨材の消費が比例して増える。合弁が2029年に量産へ入るとき、増えるのは工場の面積だけではない。
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