熊本県の公式半導体マップに載る全30市町村・延べ251拠点を漏れなく一覧化し、企業データベースへ収録した。部品・治工具が46%を占める構造と、JASMを囲む装置・材料の輪、2年間の参入と退出を数えて読み解く。

1枚の地図がある。作ったのは広告代理店でも証券会社でもなく、熊本県庁の企業立地課である。題名は「シリコンアイランド九州 熊本企業マップ 半導体関連 主要企業位置図」。県内30市町村に散る半導体関連の事業所を、製造・材料・装置・部品/治工具・メンテナンス・電気ソフト開発・太陽光その他の7色の丸で塗り分けた実務資料で、毎年11月に引き直される。最新の令和7年(2025年)11月版を1拠点も漏らさず転記すると、延べ251拠点になった。その全体を、地理配置を保ったまま1枚に写し直したのが本稿の再現図である。

シリコンアイランド九州 熊本企業マップの再現図(全30市町村・延べ251拠点)
シリコンアイランド九州 熊本企業マップの再現図(全30市町村・延べ251拠点)

この地図が面白いのは、載っている名前の大半を全国紙が一度も報じていないことだ。報道が追うのはJASMの2棟と、せいぜいソニーと三菱電機までで、それは251のうちの数拠点にすぎない。残りの240余りが何をしていて、なぜそこに居るのか。本稿は地図の全収録を市町村ごとに一覧化し、機能別に数え直したうえで、企業データベース半導体チャンネルへ約200社を新規収録した。数えて初めて見える構造が3つある。集積の重心が熊本市ではないこと、収録の半分近くが「部品・治工具・表面処理」という灰色の裏方であること、そして2年前の版と突き合わせると参入と退出の両方が動いていることである。

この地図はAIの物理層の、さらに下の階を描いている

弊誌が追い続けている主題に引きつけて、まず位置づけをはっきりさせておく。AIの計算は言語モデルの重みでも学習手法でもなく、最終的にはシリコンの上で走る。そのシリコンの供給網は、よく「設計→前工程→後工程」という3段の絵で説明される。この地図が描いているのは、その絵のさらに下にある階、つまり前工程の1棟を毎日動かし続けるために要る物理の層である。

前工程の工場は、装置を据え付けたら終わりではない。露光・成膜・洗浄の装置は消耗部品を数週間単位で交換し続け、石英部材は劣化し、薬液とガスは毎日消費され、配管は増設され、治工具は工程改善のたびに作り直される。装置が1時間止まれば損失は億円の単位に達するから、部品と技術者が数時間で届く距離に居ることそのものが価値になる。集積とは、この「在庫と時間の圧縮」の別名だ。地図の7色のうち報道に載るのは桃色(製造)だけだが、工場の稼働率を決めているのは灰色(部品・治工具)と黄色(メンテナンス)である。AIの計算原価を最下層で支えているのがこの2色だ、というのが本稿を貫く見立てになる。

数えると、重心は熊本市ではなく北東の帯にある

251拠点を市町村別に置き直すと、単独で最多なのは県庁所在地の熊本市の46拠点である。ただし中身を見ると装置10・部品17・メンテナンス8と、設計人材と加工業の供給源という性格が強い。集積の重心は別の場所にある。菊陽町12・大津町28・合志市16・益城町19・西原村11・菊池市19。この6市町だけで105拠点、全体の4割強が、阿蘇くまもと空港と九州自動車道に挟まれた半径約10キロメートルの帯に収まる。

熊本県30市町村・延べ251拠点の分布
熊本県30市町村・延べ251拠点の分布

帯の中心が菊陽町である。TSMCが約86.5%を出資するJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)の第1工場が12〜28ナノメートル世代で稼働し、東隣で第2工場が建設中だ。両工場合計の投資は約2.1兆円、政府助成は最大7,320億円、雇用は計3,400人超を見込む。同じ町にソニーセミコンダクタマニュファクチャリング熊本テクノロジーセンターがあり、画像センサーの基幹工場として四半世紀動き続けてきた。JASMの立地選定がソニーの既存工場の隣だったこと自体、この地図の前史である。半導体は更地には来ない。水と電力と、人と、そして既に居る仲間の隣に来る。

その東隣の大津町が28拠点で、単独の町としては異様な数字になる。核は東京エレクトロンの製造子会社、東京エレクトロン九州の大津事業所である。塗布現像装置で世界首位級の同社製品はここで作られており、つまり熊本は「工場の隣に、その工場へ装置を納める装置工場がある」という入れ子構造を持つ。大津町の残り26拠点の多くは、この2つの重力に引かれた装置出先(米テラダインスパンドニクス)、部品(信越石英の九州工場、フェローテック系開発拠点)、ガス・施設管理(ジャパンマテリアル熊本事業所)である。

251拠点の機能内訳 ― 46%が灰色

7色の内訳を数えると、部品・治工具・表面処理が115拠点で全体の46%を占める。装置が49拠点(20%)、メンテナンス・プラントが32拠点(13%)でこれに続き、報道の主役である製造は23拠点(9%)、材料は15拠点(6%)にとどまる。電気・ソフト開発が14拠点、太陽光その他が3拠点である。

251拠点の機能内訳
251拠点の機能内訳

この比率は、半導体工場という装置の塊が何で出来ているかをそのまま映す。1棟の前工程工場には数百台の製造装置が入り、装置1台は数万点の部品で構成される。その部品は真空チャンバー内で溶け、削れ、汚れるから、定期交換と再生処理(洗浄・めっき・溶射)が永久に続く。めっきのオジックテクノロジーズ、ふっ素樹脂継手の日本ピラー工業、ウエハ搬送容器のミライアル、プローブカードの日本電子材料ニデックSVプローブ。灰色の丸の一つひとつが、この永久機関の歯車である。誘致合戦は補助金の額で報じられるが、工場が来たあとに勝負を分けるのはこの層の厚みで、熊本はそれを46%という比率で既に持っている。

JASMを囲む56拠点の輪

菊陽町・大津町・合志市の3市町を合わせると56拠点になり、前工程2拠点(JASMとソニー)を4層の輪が取り囲む構図が見える。第1の輪が装置とその出先、第2の輪が材料とガス、第3の輪が部品の即納網、第4の輪がメンテナンスとプラントである。

前工程2拠点を取り囲む56拠点の輪
前工程2拠点を取り囲む56拠点の輪

合志市には三菱電機パワーデバイス製作所メルコパワーセミコンダクタチップが並び、パワー半導体というもう1本の柱が立つ。ソニーは同市に新工場用地を取得済みで、輪は今も外へ広がっている。空港隣接の益城町にはアプライドマテリアルズの日本法人、SCREEN系のサービス会社、ディスコの九州支店、HOYAのFPD技術開発センターが集まり、装置保守の前線基地の性格を帯びる。露光装置のASMLも菊陽町に保守拠点を置いた。装置の巨人たちは工場が動き始めてから来る。誘致の第2幕は工場の中ではなく、工場の周りで起きている。

2年でマップに何が起き、何が消えたか

手元には令和5年(2023年)11月版がある。2年分を突き合わせると、この地図は集積の速度計として読める。最も象徴的な変化は中心の表記だ。2023年版のJASMには「稼働予定: 2024年末まで」という注釈が付いていた。2025年版では注釈が消え、稼働中の事業者として太字で載る。予定が実績に変わった2年間だった。

2023年11月版と2025年11月版の突合
2023年11月版と2025年11月版の突合

新たに載った名前は、装置・検査・保守の国際勢と、その受け皿になる地場の加工業に二分される。ASMLジャパン(菊陽町)、アプライドマテリアルズジャパン(益城町)、ニデックSVプローブ(菊陽町)。荒尾市は4拠点から8拠点へ倍増し、Feedback Technology Japanヒューグルエレクトロニクス九州工場などが加わった。一方で消えた名前もある。阿蘇市のNOK熊本事業所、荒尾市のアトム精密、菊陽町のウエハーマスターズ・サービスファクトリーは2023年版に載り、2025年版の欄から外れた。削除が即撤退を意味するとは限らず、収録基準の変更や社名変更の場合もあるが、好況の絵の中でも入れ替わりが起きていることは数字として残る。

全収録一覧 ― 30市町村・延べ251拠点

以下が位置図の全転記である。凡例は(製)=製造、(材)=材料、(装)=装置、(部)=部品・治工具・表面処理、(保)=メンテナンス・プラント、(電)=電気・ソフト開発、(他)=太陽光発電その他。社名は地図の表記に従った。

市町村拠点収録企業
菊池市19アムコー・テクノロジー・ジャパン 泗水地区(製)、東京応化工業 阿蘇工場 阿蘇くまもとサイト(材)、応用電機 熊本工場(装)、菊池電子(装)、サンワハイテック(装)、シナジーシステム(装)、平田機工 七城工場(装)、山清工業九州(装)、旭野(部)、アルバック九州工場 熊本加工センター(部)、九州イノアック(部)、クラボウ 熊本事業所(部)、井和工業 熊本工場(部)、ソリューション(部)、日信商工 NISCO熊本(部)、日本電子材料 熊本事業所(部)、ミライアル 熊本事業所(部)、アルバックテクノ(保)、熊谷製作所(電)
山鹿市13山清工業九州 山鹿工場(装)、葵精機 熊本事業所(部)、SB精密(部)、アースアテンド 熊本事業所(部)、オムロン リレーアンドデバイス(部)、鹿本金型機工(部)、タカムラ・エンタープライズ(部)、フジクラプレシジョン(部)、丸山ステンレス工業(部)、美加川製作所(部)、徳神(部)、メイソウ(部)、ユウキ精研(部)
和水町6マイスティア 和水工場(装)、イワキコーティング工業(部)、ネクサス(部)、パナソニックインダストリー メカトロニクス事業部 デバイスソリューション事業部 熊本拠点(部)、Ring 熊本工場(部)、共栄精密 菊水工場(保)
南関町7荏原製作所 熊本事業所(装)、吉野電子工業(装)、エヌ.エフ.ティ 熊本事業部(部)、ネクサス(部)、茂木製作所(部)、荏原フィールドテック 九州工場(保)、F-WAVE 熊本工場(他)
荒尾市8Feedback Technology Japan(製)、平井精密工業 熊本事業所(材)、エム・エー・シー テクノロジー(装)、ヒューグルエレクトロニクス 九州工場(装)、旭製作所(部)、スギモト精工(部)、日本精密電子 熊本工場(部)、山本製作所(保)
長洲町1不二ライトメタル(部)
玉名市7トッパンエレクトロニクスプロダクツ 熊本工場(材)、カンケンテクノ 熊本工場(装)、甲斐田技研(部)、九州プレシジョン 玉名工場(部)、九州メカニクス(部)、タツミ精工(部)、京写 九州工場(電)
熊本市46九州電子(製)、ジーダット(製)、野田市電子(製)、プリバテック 九州技術センター(製)、ルネサスセミコンダクタマニュファクチュアリング 川尻工場(製)、タチバナ化成 熊本事業所(材)、アイシン九州(装)、アラオ(装)、くまさんメディクス(装)、三幸九州TEC(装)、シーアイティ(装)、テクノクリエイティブ(装)、テクノデザイン(装)、TOP(装)、平田機工(装)、ホクエツ 熊本TC(装)、植木製作所(部)、エヌ・ティ・ケイ(部)、オジックテクノロジーズ(部)、空間アートシール(部)、熊防メタル(部)、熊本防錆工業(部)、ケイ・エヌ・テック(部)、三晃精機(部)、ジャパンリッチ(部)、TMD(部)、東邦電子 熊本営業所・工場(部)、中九州金属工業(部)、西日本エレクトロニクス工業(部)、野毛電気工業 九州事業部(部)、双葉金属(部)、北翔工業(部)、マツシマ(部)、NECプラントエンジニアリング(保)、大塚産業(保)、九州CIC研究所(保)、ティ・シー・ケイ(保)、テクサーブ(保)、日本マーテック(保)、帆宣テック(保)、ラジカル(保)、アウルクリエイティブ(電)、オオクマ電子(電)、熊本テクノ(電)、ソルブテック(電)、日本ミニコンピュータシステム(電)
嘉島町5プレシード(装)、ミクロ技研 九州工場(装)、旭千代田工業(部)、金剛(部)、富田鉄工(部)
宇土市7エア・ウォーター西日本(材)、三菱ケミカル 熊本工場(材)、NTF(装)、PTC(装)、ユーエムテック(部)、新菱 熊本工場(保)、熊本マランツ(電)
上天草市2エムテック 熊本工場(部)、ユニテクノ 天草事業所(部)
天草市2プレシード 天草事業所(装)、鶴丸産業(部)
宇城市10九州電子(製)、中央電子工業(製)、旭国際テクネイオン 精密板金工場(部)、ケイ・エム・ケイ(部)、シマヅテック(部)、創剛精機(部)、プレシード 加工センター・技術研究所(部)、理化電子 九州事業所(部)、小川電機(電)、プロダクションテクノロジーセンター九州(電)
合志市16マイスティア 合志本店(製)、メルコパワーセミコンダクタチップ(製)、三菱電機パワーデバイス製作所 熊本(製)、日本エア・リキード(材)、インターアクション 熊本事業所(装)、熊本アイディーエム(装)、東京エレクトロン九州(装)、ローツェ 九州工場(装)、オジックテクノロジーズ 合志事業所(部)、三晃精機(部)、SHINKA Force(部)、新日本ステンレス工業 合志事業所(部)、タイコーテクニクス(部)、PILLAR 九州工場(部)、旭精機(保)、H・Iシステック(電)
菊陽町12Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(製)、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング 熊本テクノロジーセンター(製)、富士フイルムマテリアルマニュファクチャリング(材)、エヌエーエスコーポレーション(装)、井手上精機(部)、SUS 熊本事業所(部)、熊本ニチアス(部)、ナカヤマ精密テクニカルセンター(部)、ニデックSVプローブ(部)、ASMLジャパン(保)、インターテックエンジニアリング(保)、NECプラントエンジニアリング(保)
大津町28アムコー・テクノロジー・ジャパン 大津地区(製)、大津電子(製)、レスター(製)、スパンドニクス 熊本技術センター(装)、スリーダインテクニカルセンター(装)、テラダイン(装)、テラシステム(装)、東京エレクトロン九州 大津事業所(装)、ワイエイシイメカトロニクス 熊本工場(装)、有明技研 熊本工場(部)、池松機工(部)、上村エンタープライズ(部)、九州エバーロイ 熊本工場(部)、九州マグテックス(部)、コスミック 熊本工場(部)、信越石英 九州工場(部)、テクノフレックス 熊本工場(部)、萩原エンジニアリング(部)、フェローテックテクノロジーデベロップメントジャパン(部)、フジデノロ(部)、SCREEN SPEプラステックプレシジョン(部)、プラケミ合成(部)、エムシーピー(保)、ジャパンマテリアル 熊本事業所(保)、JMエンジニアリングサービス(保)、ハマダレクテック(保)、ラムリサーチ(保)、サンユー工業 熊本事業所(電)
阿蘇市2東京応化工業 阿蘇工場(材)、オムロン阿蘇(部)
高森町2伊澤製作所(部)、サンユー工業(電)
西原村11三井ハイテック 阿蘇事業所(材)、セイブ(装)、テクノデザイン(装)、ニューイングス(装)、堀場エステック 阿蘇工場(装)、エムイーエス(部)、エム・エス・ケー技研(部)、クリスタル光学 熊本工場(部)、ナカヤマ精密 熊本工場(部)、プラスチック加工興和(部)、ネクサスプレシジョン(部)
山都町1九州日誠電氣(製)
益城町19マイスティア 益城本社(製)、メイビスデザイン(製)、HOYA FPD技術開発センター(材)、JCU(材)、日精電子(材)、エヴォルト(装)、ジャパンユニックス 熊本テクノセンター(装)、テクノデザイン(装)、アドヴァンス(部)、UEMATSU(部)、ミヤムラ(部)、淀川ヒューテック(部)、アイエス・セミソリューション(保)、アプライドマテリアルズジャパン(保)、KHC(保)、SCREEN SPEサービス(保)、ディスコ 九州支店(保)、テセック熊本(保)、カンセツ 熊本事業所(電)
御船町3光栄(部)、永田製作所(部)、三原精機(部)
甲佐町1九州電子(製)
八代市12櫻井精技(装)、スリーダイン(装)、神田工業 熊本事業所(部)、ケイ・エフ・ケイ(部)、サンテック 八代工場(部)、GGS(部)、藤興機(部)、パリッシュ(部)、ヤマナ(部)、吉田精工所(部)、横場工業(保)、末松電子製作所(他)
多良木町1宮本電機(部)
山江村1伸和コントロールズ 熊本工場(装)
人吉市2山下機工(部)、共栄精密 人吉工場(保)
錦町1ルネサスエレクトロニクス 錦工場(製)
水俣市4JNC水俣製造所(材)、JNCセントラル(保)、摂津工業 水俣工場(保)、アスカインデックス 水俣高度技術センター(他)
芦北町2テラプローブ 九州事業所(製)、東海カーボン 田ノ浦工場(材)

地図の外周には周辺5県の主要拠点も小さく載る。福岡県は日清紡マイクロデバイス福岡、三菱電機パワーデバイス製作所、ローム・アポロ、三井ハイテック、三菱ケミカル九州事業所、旭国際テクネイオン、エヌ.エフ.ティ、カンセツ福岡事業所。佐賀県は日清紡マイクロデバイスAT、SUMCO九州事業所、パナソニックインダストリー系事業部。長崎県はソニーセミコンダクタマニュファクチャリング長崎テクノロジーセンター、三菱電機長崎製作所、SUMCO TECHXIV、伸和コントロールズ九州事業所。大分県はアムコー・テクノロジー・ジャパン、ジャパンセミコンダクター大分事業所、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング大分テクノロジーセンター、豊前東芝エレクトロニクス、ルネサスエレクトロニクス大分工場、ワイエイシイメカトロニクスWP事業部、カンセツ大分事業所、大分キヤノン。宮崎県はラピスセミコンダクタ宮崎工場、旭化成、SUMCO TECHXIV宮崎工場。鹿児島県はソニーセミコンダクタマニュファクチャリング鹿児島テクノロジーセンター、フェニテックセミコンダクター、アルバック九州、マルマエ、京セラ(川内・隼人・国分)である。九州全体で見れば、ウエハ(SUMCO)、画像センサー(ソニー3拠点)、パワー(三菱電機・ローム)、ロジック受託(JASM)、後工程受託(アムコー)、パッケージ(京セラ)が1つの島に揃う。

なお2025年版の横長版には、位置図と別に「熊本県内関連企業・協力企業群」という一覧枠が加わり、部品加工・板金プレス・金型治具・樹脂加工・表面処理熱処理・プラント設計製缶・電気電子ソフトの7分類で約90社が並ぶ。位置図の灰色の層を県自身が分解して見せた形で、裏方こそが売り物だという編集方針がここにも出ている。

この1枚から拾える銘柄と、拾えない果実

投資の目で見ると、地図に載る名前のうち東京証券取引所で株式を買えるのは20社前後ある。工場の増設と一緒に伸びる装置・部材では、平田機工(6258)が熊本本社の生産システム大手として両工場の自動化に絡み、ローツェ(6323)は九州工場でウエハ搬送を、日本ピラー工業(6490)は合志市でふっ素樹脂継手を供給する。稼働率に連動する消耗・検査の層では、ミライアル(4238)、日本電子材料(6855)、ジャパンマテリアル(6055)、テラプローブ(6627)が並び、テラプローブは芦北町の九州事業所に50億円の検査設備増強を発表済みだ。材料では東京応化工業(4186)、SUMCO(3436)、三井ハイテック(6966)、HOYA(7741)、東海カーボン(5301)、JCU(4975)。装置保守の前線としてはディスコ(6146)、テセック(6337)、インターアクション(7725)、荏原製作所(6361)が置ける。EDAのジーダット(3841)、商社のレスター(3156)、配線板の京写(6837)、繊維由来のクラボウ(3106)まで含めると、1枚の地図がそのまま小さな指数を構成する。

同時に、この地図が教える「拾えない果実」もある。115拠点の部品・治工具の大半は非上場の中小企業で、株式市場からは直接買えない。彼らの成長は取引先の上場企業の原価と納期に、地元の地価と賃金に、そして地銀の貸出に姿を変えて現れる。集積の果実の過半は、東京の市場ではなく熊本の地面に落ちる構造になっている。誘致補助金の議論で見落とされがちだが、7,320億円の助成が買っているのは工場1棟ではなく、この251拠点の網の維持費だと考えたほうが実態に近い。

登録の記録

本稿の転記に基づき、位置図の収録企業のうち未収録だった約200社を半導体チャンネルへ一括登録した。既に収録済みの東京エレクトロンルネサスエレクトロニクスASMLラムリサーチアプライドマテリアルズ信越化学工業の重複は親ブランドへ集約している。出典が位置図のみの中小企業は、その旨と確度を各社の欄に明記した。地図は毎年11月に更新される。次の版で何が加わり何が消えるかは、補助金の発表よりも正直に、この集積の体温を教えてくれるはずだ。半導体の供給網を7層で数えた別稿TSMCの3層構想を解剖した記事と併せて読むと、熊本の1枚が世界の供給網のどの断面なのかが立体で見える。