グーグルのTPU出荷が2027年に88.4億個へ3.2倍になる、という一覧が出回っている。1年前に出回った推計は3,500万個で、今回の数字はその253倍にあたる。単位の段階で崩れている。

TPUはグーグルが自社設計するAI専用半導体で、社内のAI処理から外部顧客向けのクラウド事業へ役割を広げつつある、という見立て自体は方向として間違っていない。出回っている一覧は、2024年の27.6億個から2027年の88.4億個へ出荷が約3.2倍に拡大し、旧世代が新世代のTPUへ置き換わると述べ、設計と製造と周辺部材の担い手を10社余り並べている。本稿は、その数字のうち一次資料で確かめられるものと確かめられないものを仕分け、確かめられる側の実額を米国証券取引委員会(SEC)の提出書類とAnthropicの公表資料から取る。

88.4億個は、先行して出回った推計の253倍にあたる

最初に単位を検算する。2027年に88.4億個という数字は、2026年8月時点で確かめられるどの開示とも整合しない。AlphabetはTPUの出荷数を開示しておらず、設計を受けるとされるブロードコムの年次報告にも個数の記載はない。比べられるのは、先行して出回った推計だけである。1年ほど前には「2026年に3,500万個」という予測が広く共有され、その真偽は別稿で検証した。88.4億個はこの253倍にあたる。

253倍という開きは、予測の上振れでは説明できない。説明がつくのは単位の取り違えである。元の資料の単位が百万個であれば、2024年は276万個、2027年は884万個となり、2024年比3.2倍という倍率はそのまま保たれ、3,500万個という先行推計とも同じ桁に乗る。逆に88.4億個をそのまま受け取ると、世界で1年間に出荷されるスマートフォンの数倍のAI専用半導体が2027年に出荷されることになり、製造を担うとされるTSMCの生産能力の桁を超える。

出回るTPU出荷量の推計の食い違い
出回るTPU出荷量の推計の食い違い

一覧に並ぶ新世代の開発名も確かめられない。v7 Ghostfish、v8AX SunfishとHellcat、v8x ZebrafishとMaddogという名称は、SECの提出書類にもグーグルの公表資料にも現れない。供給網の調査会社を経由した情報とみるのが自然で、名称と世代の対応も、2027年に旧世代がほぼ消えるという構成比も、公開情報からは裏づけられない。

役割分担の一覧は、開示で確かめられる部分が限られる

一覧は担い手を細かく割り振っている。ブロードコムが2016年からTPUを共同設計して2031年まで関係が続き、チップの配置設計、高速伝送回路、電源、先端パッケージを担う。メディアテックが第2の設計パートナーとして推論向けの入出力設計を受け、マーベル・テクノロジーが第3の候補に挙がる。製造はTSMCが3ナノメートルから2ナノメートルへ進め、インテルはサーバー用CPUと通信処理装置で加わる。周辺ではルメンタムが光通信、Arista Networksが高速スイッチ、アンフェノールがコネクターとケーブルを受け持つ、という構図である。

この役割分担のうち、各社の開示で確かめられるものはほとんどない。ブロードコムの年次報告は半導体ソリューションという区分の売上高を示すだけで、特定顧客向けの設計受託の契約期間は開示していない。2031年までという年限も、メディアテックとマーベルの分担も、開示からは確認できない。企業の開示制度は特定顧客との取引を原則として明かさないため、確かめられないこと自体は異常ではない。ただし、確かめられない情報を積み上げた一覧であることは、読む側が知っておく必要がある。

例外が1つある。Anthropicは2026年4月6日、グーグルおよびブロードコムと、複数ギガワット規模の次世代TPU容量に関する契約を結んだと公表した。稼働開始は2027年からとされる。これに先立つ2025年10月には、最大100万個のTPUを含む数百億ドル規模の利用拡大と、2026年に1ギガワットを大きく超える容量の稼働見込みも公表している。一覧が述べる「2027年以降の大規模なTPU利用」はこの公表と整合し、しかも契約の相手にブロードコムが名指しされている。設計の担い手をブロードコムとする一覧の中心部分は、顧客側の公表によって裏づけられる。この2件が、TPUの外販拡大を一次資料で確かめられる唯一の経路になっている。

出荷数の代わりに確認できるのは、発注者の投資と受注者の実額

出荷数が開示されなくても、金の流れは毎年開示される。発注者側のAlphabetの設備投資は、2023年12月期の322億5,100万ドルから2024年の525億3,500万ドル、2025年の914億4,700万ドルへ、2年で2.8倍になった。2025年の設備投資は同期の営業利益1,290億3,900万ドルの70.9パーセントに達する。研究開発費は610億8,700万ドルで、TPUの設計もこの中に含まれる。稼いだ利益に迫る規模の投資を毎年積む構造が、TPUを含む計算基盤の拡大を支えている。

受注者側の実額はこうなっている。ブロードコムの2025年11月期は売上高638億8,700万ドル、営業利益254億8,400万ドルで営業利益率39.9パーセント。研究開発費109億7,700万ドルに対して設備投資は6億2,300万ドルしかない。工場を持たず設計に集中する事業の型が、そのまま数字に出ている。製造を受けるTSMCは2024年12月期に売上高882億6,800万ドル、純利益353億2,700万ドルで純利益率40.0パーセントである。対照的なのがインテルで、2025年12月期は設備投資146億4,600万ドルを続けながら営業損失22億1,400万ドルだった。工場を持つ側と持たない側で、利益の型が分かれている。

TPU供給網とされる各社の実額
TPU供給網とされる各社の実額

周辺の3社も並べる。スイッチのAristaは2025年12月期に売上高90億570万ドル、営業利益率42.8パーセントで、今回調べた8社のうち最も高い。コネクターのアンフェノールは売上高230億9,470万ドル、営業利益率25.4パーセント。光通信のルメンタムは2026年6月期に売上高30億1,400万ドル、営業利益5億2,480万ドルの黒字でありながら、最終損益は69億3,510万ドルの損失だった。営業段階の黒字と最終段階の大幅な損失が同居しており、この差の中身は年次報告の本文で確かめる必要がある。マーベルは2026年1月期に売上高81億9,460万ドル、営業利益率16.1パーセントである。

生産の現場が動いていることは統計にも出ている。米国の半導体・電子部品の鉱工業生産指数は、2019年1月の103.8から2026年7月の191.9へ85.0パーセント上昇し、2024年1月と比べても37.6パーセント高い。AI向けの増産が指数を押し上げる局面が続いている。

企業一覧での役割直近通期の実額 (SEC)
ブロードコム共同設計の中核売上高639億ドル・営業利益率39.9%
TSMC製造 (3ナノ→2ナノ)売上高883億ドル・純利益率40.0% (2024年)
メディアテック第2の設計パートナー台湾上場のためSECの年次報告はない
マーベル・テクノロジー第3の設計候補売上高82億ドル・営業利益率16.1%
インテルCPU・通信処理装置売上高529億ドル・営業損失22億ドル
ルメンタム光通信売上高30億ドル・最終損失69億ドル
Arista Networks高速スイッチ売上高90億ドル・営業利益率42.8%
アンフェノールコネクター・ケーブル売上高231億ドル・営業利益率25.4%
アルファベット発注者設備投資914億ドル (2年で2.8倍)
Anthropic外販の大口顧客複数ギガワットのTPU契約を公表 (非上場)

GPU一強かどうかは、実額の比率で測る

一覧の結論は「エヌビディアが終わるのではなく、GPU一強からASICとTPUの併存へ広がる」というもので、恩恵の順位をブロードコムTSMCメディアテックとAristaの順に置く。この方向は、上で見た実額と矛盾しない。Alphabetの投資は2年で2.8倍になり、Anthropicという外部顧客の契約も公表された。専用チップの側に実需があることは確かめられる。

ただし規模の比率も同時に見る必要がある。エヌビディアの2026年1月期の売上高は2,159億3,800万ドルで、ブロードコムの全社売上高の3.4倍にあたる。しかもブロードコムの639億ドルにはソフトウェアや通信半導体が含まれ、TPUを含むAI向け特定用途半導体はその一部にすぎない。併存へ広がる方向と、現時点の規模の差が大きいことは、両方とも実額が示す事実である。どちらか片方だけを取り出すと読み違える。

供給網の裾野は日本にもつながっている。特定用途のAI半導体が増えても、高性能のパッケージ基板、検査工程、光配線という要素は共通で、イビデンアドバンテストフジクラといった日本側の担い手の位置づけは、GPU向けと変わらない。2028年に向けた広帯域メモリーの需要でブロードコムが最大の買い手になるという予測の検証は別稿で扱った。

出荷数の一覧を読むときの3つの手順

同種の推計は今後も出回る。確かめる手順は3つで足りる。

第1に、単位の桁を先行する推計と比べる。今回の88.4億個は、1年前の3,500万個と253倍離れていた。2つの推計が2桁以上ずれているとき、少なくとも一方は単位か前提を誤っている。第2に、その数字が開示に存在するかを確かめる。TPUの出荷数は、発注者の年次報告にも受注者の年次報告にも存在しない。存在しない数字は、誰かの推計であって実績ではない。第3に、恩恵の順位は利益率と規模で測り直す。営業利益率で並べると今回の8社はAristaの42.8パーセントが最も高く、順位の一覧とは別の景色になる。

出荷数の推計が百万個単位でも億個単位でも、毎年確実に開示される数字は変わらない。発注者の設備投資、受注者の売上高と利益率、そして顧客側の契約の公表である。2027年のTPUがどの開発名で呼ばれるかより、Alphabetの次の設備投資の計画額と、ブロードコムのAI半導体の売上高の伸びの方が先に確定する。