モルガン・スタンレーが2026年7月24日時点の資料としてまとめた整理が広く引かれている。AI基盤の供給網を、施設を保有し運営する側と、その下に積み上がる物理的な構成要素とに分けて並べたものだ。上段に5つの区分、下段に7つの層、そのなかに合わせて28の細分が置かれている。
この整理は「どこに資金が流れるか」の地図として紹介されることが多い。本稿は別の読み方をする。28の区分を、部品表ではなく依存関係として並べ直し、それぞれの層を1つ用意するのに何が要るかを工学の側から確かめる。株価や市場の数字は扱わない。扱うのはキロワット、ミリメートル、そして年単位の待ち時間である。
先に、この整理から取り出せる観察を1つ置く。7つの層は左から右へ、半導体から電力へと並んでいる。同時にそれは、調達に要する時間が短いものから長いものへの並びにもなっている。演算装置は数週間から数か月で届く。電力系統への接続は、中央値で5年近く、データセンターの案件では最長12年に達する。全体の完成時期を決めているのは、いちばん左の箱ではない。
28の区分を、そのまま書き出す
まず内容を漏らさず確認する。上段の「保有・運営する側」は5つに分かれる。超大規模の事業者、データセンターを保有し運営する事業者、資産を保有・運用する主体、一般企業と第2階層のクラウド、そして新興のクラウド事業者。ここに位置する組織が施設の建設を発注し、下段の全体を成立させる。
下段の7層と、その細分は次のとおりになる。
半導体の製造は6つに割れている。回路の設計、後工程の組立と検査、受託製造、設計から製造まで自社で行う事業者、設計の受託支援、そして製造装置。演算装置の層は2つで、画像処理用の演算装置と汎用の演算装置。サーバーの構成部品は4つで、電源、受動部品、放熱と冷却の部品、基板と実装基板。サーバー本体は2つで、完成品の商標を持つ側と、設計と製造を受託する側。
通信の層は5つに分かれる。インフィニバンド、イーサネット、データセンター間の経路制御と光伝送、記憶と保管、そして配線。施設内部の電力と冷却は3つで、液体による冷却、電力の変換と制御、無停電電源装置。最後の電力供給は6つあり、系統からの受電と敷地内の再生可能電源および蓄電、発電機と系統への接続、系統そのものの設備、原子力発電所の敷地内、燃料電池、そして採掘設備からの転用である。
7層のうち3層が電力と熱に関わる。半導体に関わるのは2層にすぎない。この配分が、いまの制約がどこにあるかを表している。
1ラック7.6キロワットが120キロワットになった経緯
施設内部の電力と冷却が独立した層として立っているのは、比較的最近の事情による。数字で追うと理由がはっきりする。
業界の平均的なラックの消費電力は7.6キロワットとされてきた。汎用の演算装置を収めた標準的な筐体で最大12キロワット、空冷で高密度に詰めた前世代の学習用構成でおよそ40キロワット。これに対し、演算装置72個を1つの筐体に収める現行の構成は、公称でおよそ120キロワット、全負荷では130キロワットから132キロワットが観測されている(SemiAnalysis)。
平均の7.6キロワットに対して15.8倍。この筐体は30キロワットの電源棚を4段積み、480ボルトの三相で受電する。
密度が上がると、空気で熱を運ぶ方式が物理的に成り立たなくなる。理由は熱を受け取る能力の差にある。同じ体積で比べたとき、水が受け取れる熱量は空気のおよそ3,500倍になる。空気で120キロワットを運ぼうとすれば、風量か温度差のどちらかを非現実的な水準まで上げる必要が生じる。実務上の限界は30キロワットから40キロワットの間にあり、それを超えると液体による冷却が選択肢ではなく前提条件になる。
「液体による冷却」が独立した細分として立ち、そこに空調機器の会社と配管の会社が並ぶのは、この転換の結果である。以前の構成では、冷却は施設側の設備であって、サーバーの供給網には現れなかった。いまは筐体の内部に入り込んでいる。
無停電電源装置が同じ層に置かれているのも、同じ密度の帰結だ。1つの筐体が120キロワットを消費するなら、瞬間的な電圧の落ち込みが与える損害も比例して大きくなる。
層ごとの待ち時間を並べると、図の意味が変わる
7つの層は同時に手配できない。それぞれ調達に要する時間が違い、その差が桁で開いている。
演算装置と記憶素子は、割り当てさえ確保できれば数週間から数か月で届く。サーバーの組み立てを受託する側も、部材があれば数か月で出荷できる。ここまでが並びの左側である。
右へ進むと様相が変わる。変圧器と開閉装置は、いま世界的に数年待ちの状態が続いている。そして最も長いのが電力系統への接続だ。米国では接続の順番待ちが2,600ギガワット分まで積み上がり、商業運転に至るまでの待ち時間は中央値で5年に近づいている。データセンターの案件では最長12年に達する見通しが示されている(RMI)。
待ちきれずに離脱する案件も多い。新規に申し込まれた案件のおよそ8割が取り下げられており、その主な理由は予測できない遅延と、系統側の増強に要する費用である。取り下げられた案件では、接続に関わる費用が計画全体の3割から3割7分を占めていた。
規模の感覚として、地域の系統運営者が2026年5月に公表した最初の改革後の受付では、811件の案件が合計220ギガワットの容量を申請している。
これらを並べると、整理の読み方が変わる。全体の完成時期を決めるのは、いちばん時間のかかる層である。演算装置を確保しても、接続がなければ動かない。逆に接続を確保していれば、演算装置の入手は後から間に合う。左から右へ「作る順番」として読むと、実務では順序が逆になる。
右端の3つの箱は、待ち行列を迂回するための装置である
電力供給の層に置かれた6つの細分のうち、3つは他と性格が違う。事業の種類ではなく、順番待ちを回避する手口として並んでいる。ここが、この整理でほとんど論じられていない部分になる。
1つ目が「発電機と系統への接続」だ。系統からの受電を待つ代わりに、敷地内で発電する。据え置きの発電機であれば、系統への接続の順番待ちに並ばずに電力を得られる。この細分が独立して立っていること自体が、待ち行列の深刻さを表している。
2つ目が「原子力発電所の敷地内」である。発電所の隣に施設を置き、送電網を経由せずに直接受電する構想を指す。ここには規制上の攻防が記録されている。ペンシルベニア州の原子力発電所に隣接する施設について、事業者は300メガワットから480メガワットへの拡大を申請した。米国の連邦エネルギー規制委員会は11月1日、2対1の議決でこれを退けている。送電網を介さない受電の拡大を認める特別な契約について、当事者の説明が不十分であるという判断だった(Utility Dive)。
その後の展開が、この分野の実務を象徴している。事業者は方式を変え、いったん送電網を経由する形へ移行した。この形であれば規制委員会の承認を要しない。移行は2026年春、発電所の燃料交換のための停止に合わせて行われる予定とされた。同委員会は2025年12月、地域の系統における併設について指針を出している。
3つ目が「採掘設備からの転用」だ。並びの中では最も奇異に見えるが、待ち時間の観点では最も合理的な区分になる。暗号資産の採掘に使われていた施設は、すでに系統への接続を済ませ、変電設備と土地と冷却の基礎を持っている。そこを転用すれば、数年から十数年の順番待ちを丸ごと省略できる。
実際に動いている規模で見ると、ある事業者は約590メガワットを高性能計算向けへ転換し、そのうち約350メガワットがすでに通電している。別の敷地では1.2ギガワット分が通電済みとされ、テキサス州の1か所だけで700メガワットの規模がある。20年の期間で約401メガワットを貸し出す契約も結ばれている。
ここで買われているのは建屋ではない。すでに通電している接続の権利である。同じ土地を更地から始めれば、同じ設備を建てても数年の待ちが加わる。ある事業者が述べているとおり、設計は速くできても、系統側の遅れだけは自社で縮められない。
発電機の箱を実際に使った事例と、その手続き
上段の区分にスペースXが入っている点は、見落とされやすい。宇宙輸送の会社が超大規模の事業者と同じ区分に置かれているのは、地上設備と、同じ創業者が率いるAI開発の施設が理由になる。
その施設が、前節で見た「発電機と系統への接続」の箱を、文字どおり使った。テネシー州メンフィスの学習用設備では、地元の電力会社から引ける容量が足りず、不足分を敷地に持ち込んだ天然ガスのタービンで賄っている。2025年4月の航空写真では35台、合計422メガワット分が確認された。
手続きの経緯が、右端の区分がなぜ存在するかを説明している。これらのタービンは当初、大気汚染の許可を取らずに稼働していた。地域の保健当局の規則が、可搬型の発電機を「同じ場所に364日を超えて設置した場合」にのみ規制の対象とする構造だったためだ。環境団体は2025年6月に提訴し、当局は同年7月、15台およそ247.2メガワット分について2027年1月までの許可を出している(TechCrunch)。
あわせて蓄電装置が168台並び、最終的には200台前後、1ギガワット時規模の緩衝を置く計画になっている。学習の負荷は0.2ヘルツから3ヘルツの帯で振れるため、ガスタービンでは追従できない。蓄電装置は、追従できない発電側と振れる負荷の間に入る緩衝材として働く。
区分の言葉に直せば、「系統そのものの設備」を待たずに「発電機と系統への接続」で立ち上げ、振れの吸収を「系統からの受電と敷地内の蓄電」で補った、ということになる。区分の並びが、現実の回避経路をそのまま予告していた。都市伝説の類ではなく、行政の許可と訴訟の記録に残っている経緯である。
日本勢が現れる層と、現れない層
日本の読者にとって最初に確かめる価値があるのは、どの区分に日本の会社が入っているかである。数えると、単独の国としては最も多くの層に分布している。
半導体の製造装置の細分には、東京エレクトロン、スクリーン、アドバンテスト、ニコン、キヤノン、アルバック、ウシオ電機、レーザーテック、東京精密系の後工程装置、ディスコ、ホヤが並ぶ。設計から製造まで自社で行う事業者にはルネサス。受動部品には村田製作所と太陽誘電。基板と実装基板にはイビデン。放熱と冷却の部品には山洋電気。サーバーの電源にはコーセルとサンケン電気。液体による冷却にはダイキン。電力の変換と制御、および発電機の細分には三菱系。系統そのものの設備には東京ガス。原子力発電所の敷地内という細分には関西電力。
7つの層のうち、日本の会社が現れないのは演算装置の層とサーバー本体の層だけになる。
同時に、現れない場所も明確だ。上段の保有・運営する側に日本の組織はなく、回路の設計と画像処理用の演算装置という、この供給網で最も上流に位置する2つの細分にも入っていない。
構造として読むと、日本勢は「何を作るか」を決める層ではなく、「どう作るか」を支える層に集中している。装置と部材と電力の側に厚く、設計と運営の側に薄い。この配置は短期では動きにくく、需要が増えるほど売上は伸びるが、仕様を決める立場には近づかない。
図を右から左へ読むと、実務の順番になる
この整理から現場で取り出せるものを、効き目の順に並べ直す。
最初に確保すべきは電力系統への接続である。中央値で5年、条件によっては12年という待ち時間は、他のどの層の調達期間よりも長い。用地の選定は土地の価格ではなく、接続の可否と時期で決まる。すでに通電している敷地の価値が、更地との比較で跳ね上がっているのはこのためだ。
次が冷却の方式である。1つの筐体で120キロワットを扱う前提に立てば、空冷を選べる余地はない。液体による冷却は建屋の設計そのものに影響し、床の耐荷重、配管の経路、漏水時の対応まで初期の図面に織り込む必要がある。後から足せる設備ではない。
3つ目が変圧器と開閉装置の手配になる。数年待ちの状態が続く以上、演算装置の割り当てが決まってから発注したのでは間に合わない。右側の層ほど、意思決定を前倒しする必要がある。
演算装置と記憶素子の確保は、この順番の最後に来る。品薄が報じられる層ではあるが、調達期間は最も短い。ここを先に押さえて他が揃わなければ、届いた装置は倉庫で待つことになる。
制約が移った先を、図が先に描いていた
7つの層のうち3層が電力と熱に関わり、半導体に関わるのは2層。この配分は、供給網のどこに手間がかかるかの分布を映している。
演算装置の性能が上がるほど、1つの筐体が消費する電力は増え、運ぶべき熱も増える。密度が15.8倍になった時点で、冷却は施設の付帯設備からサーバーの構成部品へ移り、電力は調達品目から用地選定の条件へ移った。右端に発電機と原子力発電所と採掘設備の転用が並ぶのは、その移動の到達点にあたる。
順番待ちを迂回する3つの箱が独立した細分として立つということは、正規の経路が詰まっているという診断そのものである。この整理は、資金の流れる先を示すためではなく、どこが詰まっているかを示すために読むほうが、実務では役に立つ。
本記事は、モルガン・スタンレーが2026年7月24日時点の資料として公表した整理の構造(上段5区分・下段7層28細分)を出発点に、筐体あたりの消費電力と冷却方式の関係(SemiAnalysis)、電力系統への接続の順番待ちと離脱率(RMI)、原子力発電所への併設をめぐる規制上の判断(Utility Dive)、および敷地内の発電設備に関する許可と訴訟の経緯(TechCrunch)を突き合わせて検証・構成した。水と空気が同じ体積で受け取れる熱量の比、および平均に対する消費電力の倍率は、公表値から本稿が算出した。会社名は原資料の読み取りに基づく。株価や時価など市場の数字は本稿の対象外とした。
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