NVIDIAの供給網を比率で並べた一覧が出回っている。11社の値を足すと118.55%になり、支出の内訳としては成立しない。24.44%とされたアドバンテストは、NVIDIAの売上高に掛けると自社の売上高の7倍に達する。
人工知能向けGPUの需要が、製造受託から広帯域メモリー(HBM)、検査、実装、組み立てまで広い範囲へ波及していることは事実である。その恩恵の大きさを供給元ごとに比率で示した一覧が交流サイト(SNS)で共有され、「NVIDIAはウエハーよりHBMに多く支出している」「売上の4分の1に相当する額を検査装置に使っている」といった読み方が添えられている。本稿は米国証券取引委員会(SEC)に提出された財務データと金融庁のEDINETから各社の実額を集め、この比率が何を測った数字なのかを確かめる。数字の意味が定まらないまま結論だけが独り歩きすると、投資の判断を誤らせる。
11社を足すと118.55%になる、という最初の矛盾
一覧に並ぶのは11社で、比率の大きい順に台湾積体電路製造(TSMC)37.35%、SKハイニックス26.53%、アドバンテスト24.44%、マイクロン・テクノロジー13.62%、テラダイン8.44%、ASEテクノロジー・ホールディング2.49%、キーサイト・テクノロジー1.43%、イビデン1.23%、ファブリネット1.15%、アムコー・テクノロジー0.98%、シスコシステムズ0.89%となっている。
この11社の比率を単純に足すと118.55%になる。ある企業の支出を供給元へ配分した内訳であれば、合計は100%を超えられない。一覧に載っていない供給元も当然あるはずで、実際の内訳ならば合計は100%を下回るのが自然である。合計が100%を超える時点で、この比率が「NVIDIAが誰にいくら払っているか」の配分ではないことが確定する。
矛盾は1社ごとに見るとさらに明確になる。SECに提出されたNVIDIAの年次報告によれば、2026年1月25日に終了した通期の売上高は2,159億3,800万ドルである。アドバンテストの24.44%をこの売上高に掛けると527億7,500万ドルになる。ところがEDINETで確認できるアドバンテストの2026年3月期の売上収益は1兆1,286億1,000万円で、1ドル150円で換算すると75億2,400万ドルにすぎない。NVIDIAが払っているとされる額が、受け取る側の全社売上高の7.0倍になる。同じ計算をテラダインに当てはめると182億2,500万ドルとなり、同社の通期の売上高31億9,000万ドルの5.7倍である。取引として成立しない。
売上原価に対する比率と読み替えても、まだ足りない
NVIDIAの粗利率は71.1%と高く、売上原価は624億7,500万ドルにとどまる。仕入れの話であれば分母は売上高ではなく売上原価だという読み替えは自然で、この置き換えを試すと数字はかなり現実に近づく。TSMCの37.35%は233億3,300万ドルとなり、製造受託の対価として理解できる規模になる。
それでもアドバンテストは説明できない。24.44%を売上原価に掛けると152億6,900万ドルで、同社の全社売上高75億2,400万ドルの2.03倍である。テラダインも52億7,300万ドルとなり、通期の売上高31億9,000万ドルの1.65倍にあたる。分母を売上高から売上原価へ替えても、検査装置の2社は依然として自社の売上高を上回る額を受け取っていることになる。
残る読み方は1つしかない。各社の売上高のうちNVIDIA向けが占める比率として見る場合である。この読み方なら矛盾は消える。アドバンテストの24.44%は同社の売上高のうち18億3,900万ドル、テラダインの8.44%は2億6,900万ドル、マイクロンの13.62%は50億9,100万ドル、シスコの0.89%は5億400万ドルとなり、いずれも各社の売上高の内側に収まる。HBMの検査工程を担うアドバンテストにとってNVIDIA関連が売上高の4分の1という水準は、事業の実態に照らして無理がない。
つまりこの比率は「NVIDIAがその企業へ支払う額の大きさ」ではなく、その企業にとってNVIDIAがどれだけ大きな顧客かを示す数字として読むのが、実額と矛盾しない唯一の解釈になる。一覧の見出しにある文言をそのまま受け取ると、方向が逆になる。
| 供給元 (証券コード) | 比率 | 直近通期の売上高 | NVIDIA売上高に掛けた場合 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| アドバンテスト (6857) | 24.44% | 75億2,400万ドル | 527億7,500万ドル | 全社売上高の7.0倍で成立しない |
| テラダイン (TER) | 8.44% | 31億9,000万ドル | 182億2,500万ドル | 全社売上高の5.7倍で成立しない |
| マイクロン (MU) | 13.62% | 373億7,800万ドル | 294億1,100万ドル | 全社売上高の79%で無理がある |
| イビデン (4062) | 1.23% | 27億7,500万ドル | 26億5,600万ドル | 全社売上高とほぼ同額 |
| シスコシステムズ (CSCO) | 0.89% | 566億5,400万ドル | 19億2,200万ドル | 全社売上高の3%で成立する |
「HBMがウエハーを上回った」という結論が立たない理由
この数字から導かれている主張のうち、最も踏み込んでいるのが「NVIDIAはいまやウエハーそのものよりHBMに多く支出している」という読みである。根拠はSKハイニックス26.53%とマイクロン13.62%を足した40.15%が、TSMCの37.35%を上回るという計算にある。
前節の検証を踏まえれば、この計算は成り立たない。比率が各社にとっての顧客集中度を示すのであれば、社ごとに分母が違う数字を足し合わせても意味を持たない。売上高5兆6,000億円のマイクロンの13.62%と、売上高4,800億円のテラダインの8.44%は、同じ物差しの上にない。合計や大小の比較は、分母をそろえた後にしか行えない。
供給網の重心が製造受託からメモリーへ移りつつあるという観察そのものは、別の根拠で語れる。広帯域メモリーは1つのGPUに複数を積み重ねて載せる方式で、価格も汎用のメモリーより大幅に高い。HBMの製造能力が汎用メモリーの生産能力を圧迫する構造は技術解説で扱ったとおりである。ただしそれを「支出額でウエハーを超えた」と断定するには、NVIDIAの部材別の支出を開示した資料が必要になる。同社の年次報告にその内訳はない。
日本の2社が要約から消えている
一覧そのものより、そこから何が抜け落ちたかを見る方が、投資家には役に立つ。交流サイトで共有された要約はTSMC、SKハイニックス、マイクロン、テラダイン、ASE、ファブリネット、アムコー、シスコの8社を並べ、アドバンテスト24.44%とイビデン1.23%、キーサイト1.43%の3社が抜け落ちている。抜け落ちた3社のうち2社が日本企業で、しかもアドバンテストは一覧全体で3番目に大きい比率を持つ。
要約の本文には「売上の4分の1に相当する額を検査装置に使っている」という記述が残っており、これはアドバンテストの24.44%を指している。数字だけが引用され、社名は消えている。日本語で読む投資家にとって、これは実害のある省略である。
EDINETで確認できる2社の実額を示す。アドバンテストは2026年3月期の売上収益1兆1,286億1,000万円・営業利益4,991億2,000万円で、営業利益率は44.2%に達する。研究開発費は781億円。イビデンは売上高4,162億100万円・営業利益620億2,700万円で利益率は14.9%、設備投資642億7,700万円は営業利益を上回る規模で、研究開発費は299億1,600万円である。イビデンの設備投資が営業利益を超えている点は、GPUの実装に使う基板の増産へ資金を先に投じている姿を示す。
| 企業 (証券コード) | 供給網での役割 | 2026年3月期 (EDINET) |
|---|---|---|
| アドバンテスト (6857) | HBMとGPUの検査工程。積層数が増えるほど検査の負荷が高まる | 売上高1兆1,286億円・営業利益4,991億円 (44.2%) |
| イビデン (4062) | GPUの実装に使う高多層の基板 | 売上高4,162億円・営業利益620億円 (14.9%)・設備投資643億円 |
新たに企業データベースへ収めた米国側の3社も並べておく。キーサイト・テクノロジーは高速通信規格の検証で売上高53億7,500万ドル、ファブリネットは光トランシーバーの受託製造で46億4,100万ドル、シスコシステムズはデータセンター向けのネットワーク機器で566億5,400万ドルである。光通信の側の日本勢がどこに位置するかは別稿で整理した。
供給網の一覧を読むときの3つの手順
同種の一覧は今後も出回る。数字の意味を確かめる手順は単純である。
第1に、比率を足す。合計が100%を超えるなら、それは配分の内訳ではない。第2に、比率に分母を掛けて、受け取る側の売上高と比べる。受け取る額が全社の売上高を超えたら、その分母は間違っている。第3に、分母が社ごとに違う数字を足したり大小を比べたりしない。この3つで、今回の一覧に添えられた結論のうち2つは崩れる。
供給網の広がりという観察は正しい。NVIDIAの粗利率71.1%という水準は、同社が付加価値の大きな部分を自社に取り込んでいることを示す一方、売上原価624億7,500万ドルは供給元へ流れる資金の総額としては巨大である。その資金が製造受託、メモリー、検査、実装、組み立てへ分かれていく構図に投資の機会があるという見立て自体は、実額に裏づけられている。崩れるのは、根拠として置かれた比率の読み方だけである。
今後の焦点を3つに絞る。第1に、アドバンテストの次の四半期でHBM向けの検査需要がどこまで伸びるか。第2に、イビデンの設備投資が営業利益を上回る状態がいつまで続き、基板の増産が売上高へ表れるか。第3に、NVIDIAの粗利率71.1%が維持されるかどうかである。粗利率が下がれば、それは供給元へ払う額が増えたことの裏返しになる。比率の一覧より、この3つの実額の方が先に動く。
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