NVIDIAの次々世代GPU「Rubin Ultra」を144基収めるラック「Kyber」の量産が、基板の製造難で2027年から2028年へ延びるとSemiAnalysisが2026年7月に分析した。NVIDIAは「計画に変更はない」と否定している。

8台のOberonラックを中板で結ぶつなぎ案も顧客の反発で取り下げられたと報じられた。壁になっているのは、ラックの中で8つの区画をつなぐ中板である。最大78層の多層基板に、M9級の銅張積層板(CCL)、石英系のガラスクロス、PTFE(フッ素樹脂)を混ぜて使う設計で、この組み合わせの歩留まりが上がらない。NVSwitch 7、開発名「Portia」は前世代の2倍の帯域と接続数を持つとSemiAnalysisは見ており、信号が速くなるほど損失の小さい材料が要る。本稿はCCLの等級表をM6からPTFEまで1枚に再構成し、誘電率と誘電正接を数字で確かめ、なぜ電気の要求が機械加工の要求と正面衝突するのかを解く。その上で、この材料を供給する日本企業11社の体力を金融庁EDINETの有価証券報告書で、銅の価格を米セントルイス連邦準備銀行のデータで、材料の行き先を財務省の貿易統計で追う。Rubin Ultraの時期に関する数字は報道ベースで、NVIDIAの公式計画とは食い違いがある。売買の推奨や評価は示さない。

M6からPTFEまで、誘電正接は1桁下がり樹脂は別物になる

銅張積層板の等級と電気特性
銅張積層板の等級と電気特性

等級表を読む。10GHzでの誘電率(Dk)はM6の3.61からM7の3.35〜3.61、M8の3.13〜3.27、M9の3.0〜3.1と下がり、PTFEは2.1〜2.2まで落ちる。誘電率が低いほど信号の伝わる速さが上がり、配線を細く短くできる。誘電正接(Df)は損失の大きさで、10GHzでM6が0.004、M7が0.002〜0.003、M8が0.0016〜0.0018、M9が0.00046〜0.00050、PTFEが0.0004未満である。M6からM9へ1桁近く下がり、M9とPTFEの数字は紙の上では近い。1GHzでの値はM6とM7しか測られておらず、M8以上は10GHzの高周波で初めて意味を持つ材料であることを、表の空欄そのものが示している。

数字が近いM9とPTFEの間に、材料の断絶がある。M8とM9はPPO/PPE、すなわちポリフェニレンエーテル系の熱硬化樹脂を骨格にし、ガラスクロスと銅箔を熱と圧力で一体にする従来の積層工程で作れる。M9はさらに石英系のガラスクロスを併用して誘電率を3.0台前半へ落とす。PTFEはフッ素樹脂で、損失は最も小さいが、表面が滑らかすぎて銅箔に密着しにくく、柔らかすぎて穴あけで崩れる。AIサーバー基板の材料の逼迫を追った回で見たM8の供給制約は、M9とPTFEでは材料の入手より加工の難しさに主戦場が移る。

78層の中板で、NVSwitch 7の帯域倍増と穴あけの限界が正面衝突する

Rubin Ultraの2つのラック案と基板の壁
Rubin Ultraの2つのラック案と基板の壁

SemiAnalysisの分析を構造で読む。本命のKyber NVL144はRubin Ultraを縦挿しの計算ブレードに収め、ラック600kW級で2027年後半の投入が計画されていた。これを支える中板が最大78層で、M9級CCLと石英ガラスクロスとPTFEの混成材を使う。78層の基板には層をまたぐ貫通穴を無数にあける必要があり、PTFEを含む積層は穴の内壁が荒れやすく、銅めっきの付きが悪くなる。1か所の不良が基板全体を不良にするため、層数が増えるほど歩留まりは掛け算で落ちる。報道の翌日、アジアの基板・材料株は時価総額100億ドル超を失った。

つなぎ案はOberon 8台のNVL576だった。OberonはGB200世代から使われてきたラックで、計算トレイとスイッチトレイを横挿しで重ねる構成である。これを8台並べ、NVSwitch間を中板で結べば既存のトレイと冷却を流用できるが、設置面積と配線の長さが増えてKyberの密度に届かない。顧客の反発でこの案も取り下げられたと報じられた。NVSwitch 7の帯域倍増は、同じ銅配線でより高い周波数の信号を通すことを意味し、材料の損失の上限を1桁引き下げる。電気の要求は材料をM9とPTFEへ押し上げ、機械加工の要求は78層という厚みで限界に達する。Kyberの延期は、この2つの要求の衝突が表面化した最初の事例である。JPモルガンのメモリー推計を検証した回で見た「供給の硬さ」は、メモリーだけでなく基板にもある。

ガラス・銅箔・樹脂、日本の材料11社の利益率は2.9%から23.6%まで

低損失基板を構成する日本の材料連鎖11社
低損失基板を構成する日本の材料連鎖11社

M9とPTFE級の基板を構成する材料は、ガラスクロス、樹脂、銅箔、ソルダーレジストの4層に分かれ、それぞれに日本企業が位置取りを持つ。金融庁EDINETの有価証券報告書で実数を並べる。低誘電ガラスクロスの日東紡(3110)は売上1,182億円・営業利益率17.6%・外国人持株比率30.6%で、Tガラスで世界の9割を握る構図を追った回の当事者である。M9で併用する石英系ガラスクロスも同社の領域に入る。低粗度銅箔の三井金属鉱業(5706)は7,585億円・17.3%・44.1%で、高周波で表面に偏る電流の損失を抑える銅箔の平滑さが付加価値になる。ソルダーレジストの太陽ホールディングス(4626)は1,379億円・23.6%と11社で最も高い利益率を持つ。

樹脂の側はどうか。PPE樹脂の旭化成(3407)は3兆745億円・7.5%、BT材料と低誘電材の三菱ガス化学(4182)は7,382億円・6.1%、PTFE樹脂を持つダイキン工業(6367)は5兆150億円・8.3%、フッ素系低誘電材のAGC(5201)は2兆588億円・6.2%。いずれも基板材料は事業全体の一部にすぎず、連結の利益率には表れにくい。CCLそのものを作るパナソニックホールディングス(6752)は売上8兆487億円に対し営業利益率2.9%で、高機能CCLの収益は連結の中に埋もれる。PTFE基板の専業では日本ピラー工業(6490)が小さいながら位置取りを持ち、パッケージ基板のイビデン(4062)は4,162億円・14.9%、回路材料の日東電工(6988)は1兆282億円・17.9%である。材料の単品に近い企業ほど利益率が高く、付加価値はガラスと銅箔とレジストに寄っている。

銅は6割高、NVIDIAは売上2,159億ドル、材料の行き先は台湾

銅価格とNVIDIAの実数と輸出先
銅価格とNVIDIAの実数と輸出先

銅箔の原料から確かめる。米セントルイス連邦準備銀行のデータで、国際銅価格は2024年1月の1トン8,351ドルから2026年7月に13,543ドルへ62%上がった。銅箔の原料費は上がるが、低粗度銅箔の値は加工賃で決まるため、原料高は汎用箔の採算を圧迫し、高機能箔の相対的な価値を上げる方向に働く。三井金属の17.3%という利益率は、この構図の上にある。

買い手の側を米証券取引委員会の提出書類で見る。NVIDIAの売上は2025年1月期の1,305億ドルから2026年1月期に2,159億ドルへ65%増え、営業利益は1,304億ドルで利益率60%に達した。この売上の次の段がRubin Ultraであり、基板1枚の歩留まりがその時期を決める。米上場企業の提出書類で「copper clad laminate」に触れた開示は2024年4件、2025年15件、2026年11件と、基板材料が投資家向けの説明に載る頻度は低いままで、Kyberの延期報道が市場にとって不意打ちだった理由がここにある。材料の行き先は財務省の貿易統計が示す。2026年1〜6月の日本からの半導体等電子部品の輸出は台湾向け1兆701億円が首位で、中国9,560億円、韓国2,996億円、米国1,331億円が続く。NVIDIAの基板とサーバーは台湾の製造受託で組まれるため、日本の材料は米国でなく台湾へ渡って製品になる。

精錬の側から見た基板、フッ素と石英と銅の上流

基板の材料を精錬・精製の段階までさかのぼると、3つの上流がある。第1にフッ素で、PTFEの原料であるフッ化水素は蛍石から作られ、蛍石の生産は中国に集中する。第2に石英で、M9のガラスクロスに使う高純度の石英ガラス繊維は原料の珪石の純度と溶融の技術で決まり、供給者は少ない。第3に銅で、電解銅箔は高純度の電気銅から作られ、価格は国際市況に連動する。レアアースそのものは基板にほとんど入らないため、本件の文脈では希土類の銘柄でなく、この3つの上流から基板に至る材料の銘柄で構成する。

確かめられる点

検証は公表の日付で追える。第1に、NVIDIAがKyberの量産時期を公式にどう示すか。2027年後半という計画と2028年という分析の差は、次の決算説明と投資家向け説明で埋まる。第2に、中板の層数と材料構成の確定。78層とM9・石英・PTFE混成という報道値が、基板メーカーの受注公表でどう裏付けられるか。第3に、日東紡と三井金属の次の四半期決算で、低誘電ガラスクロスと低粗度銅箔の販売量が開示されるか。第4に、銅価格。1トン13,543ドルからの推移が汎用箔と高機能箔の採算差をどう動かすか。第5に、米提出書類で「copper clad laminate」の言及が年20件を超えるか。基板が投資家の語彙に入る時が、材料株の評価が変わる時である。

等級表の空欄は、M8より上の材料が10GHzの世界でしか意味を持たないことを示していた。NVSwitch 7の帯域倍増はその世界を前提にし、78層の中板がその世界の物理的な限界を示した。Rubin Ultraが2027年に出るか2028年に出るかを決めるのは、GPUの設計ではなく、ガラスと樹脂と銅箔を78層重ねて穴をあける工程の歩留まりである。