NVIDIAが8月14日に提出した13Fと公表済みの出資条件を合わせると、投資先は10銘柄・投下約204億ドル・評価約738億ドルになる。「GPUを買わせる循環金融」か「3.6倍と供給網の布石」か、投下額の中身で確かめられる。

数字の出どころを先に押さえる。土台はNVIDIA自身が2026年8月14日にSECへ提出した13F(2026年6月30日時点)である。原表に載る報告対象は8銘柄・合計634.4億ドルで、これに13Fへ載らない転換優先株2件(ルメンタム、マーベル)とNebiusの行使価格払い込み済みワラントを公表条件から足すと、評価は約738億ドルに達する。634.4億+ワラント58.2億+ルメンタム25.6億+マーベル約20億=738億ドルで、計算はきれいに合う。取得原価は各出資の公表条件の積み上げで約204億ドル。本稿は全10銘柄を原本の株数で照合した上で、この資本配置の設計を読む。円換算は2026年8月7日の為替(1ドル=157.54円、セントルイス連邦準備銀行の公表値)による概算である。売買の推奨や評価は示さない。

13F原本と公表条件で数える、10銘柄の全貌

NVIDIA投資先10銘柄の一覧
NVIDIA投資先10銘柄の一覧
投資先保有 (持分)取得原価評価額 (6月末)
CoreWeave4,721万株・クラスA (約8.6%)約23.5億ドル47.0億ドル
Nebius Group普通株119万株+ワラント2,107万株 (約8.2%)約20.3億ドル61.5億ドル
インテル2億1,478万株 (約4.3%)50.0億ドル (1株23.28ドル)299.9億ドル
コヒレント779万株 (約4.0%)20.0億ドル30.7億ドル
ルメンタム転換優先株・287万株相当 (約3.2%)20.0億ドル (1株695.31ドル)約25.6億ドル
ノキアADR 1億6,639万株 (約3.0%)10.0億ドル (1株6.01ドル)22.1億ドル
シノプシス482万株 (約2.5%)約20.0億ドル21.5億ドル
マーベル転換優先株 (条件非公表・約2%)20.0億ドル約20億ドル
SpaceX1億2,276万株・クラスA (約0.93%)約20.0億ドル (xAI出資を転換)209.8億ドル
Generate Biomedicines83.3万株 (約0.65%)約0.1〜0.15億ドル0.14億ドル

時系列で並べると設計が見える。始まりは2023年のCoreWeaveへの1億ドルで、2025年3月のIPOで2.5億ドルを上乗せ。2025年9月にインテルへ50億ドル(1株23.28ドル)、10月にノキアへ10億ドル、12月にシノプシスへ約20億ドル。2026年に入ると1月にCoreWeave追加20億ドルとNebiusのワラント20億ドル、2月にはxAIへの出資20億ドルがSpaceXクラスA株1億2,276万株へ転換され(全株式交換の買収に伴う)、3月2日にコヒレントルメンタムへ各20億ドル、3月31日にマーベルへ20億ドル。この11か月で投下の8割超が集中した。個別の倍率ではインテルが50億→299.9億ドルの6.0倍、SpaceXが20億→209.8億ドルの10.5倍で、全体の3.6倍を2銘柄が押し上げている。

三つの13Fを並べる: インテルは1株換算36.9ドルから139.6ドルへ

日本でほとんど報じられていないのは、この帳簿の四半期ごとの足取りである。13Fを3期分さかのぼると、原表の銘柄数は2025年12月末の5銘柄(評価計131億ドル)→2026年3月末の7銘柄→6月末の8銘柄と増えた。3月末分でコヒレントGenerate Biomedicinesが初めて計上され、CoreWeaveは1月の20億ドル買い増しを映して2,428万株から4,721万株へほぼ倍増した。SpaceXは2月に転換されたにもかかわらず3月末の原表には現れず、6月末分で初めて1億2,276万株・209.8億ドルが載った。評価の振れも大きい。インテルは株数が2億1,478万株のまま動かないのに、評価額は79.3億→94.8億→299.9億ドルと跳ね、1株換算では36.9ドル→44.1ドル→139.6ドル。4〜6月期だけで3.2倍になった。逆にシノプシスは取得約20億ドルに対し3月末の評価が19.1億ドルと一時含み損に沈み、6月末に21.5億ドルへ戻している。3.6倍という成績は一直線の右肩上がりではなく、四半期ごとに銘柄と評価が入れ替わる動きの中で成立した数字である。

「循環金融」批判を投下額で仕分けると、当てはまるのは36%

循環金融か供給網の布石かの仕分け
循環金融か供給網の布石かの仕分け

批判の構図は単純である。NVIDIAが出資した先がそのカネでGPUを買えば、売上は自作自演ではないかという指摘だ。反論側は、3倍超の含み益と供給網の深化は資本の賢い使い方だとする。この論争は、投資先を「GPUを買う側(顧客)」と「NVIDIAに部材・製造・道具を売る側(供給)」に仕分けると定量化できる。

顧客側はCoreWeave、Nebius、SpaceX(xAI)、ノキア(AI基地局でGPUを採用)の4件で、投下は約74億ドル。一方の供給側はインテル(製造と自社PC向け半導体の協業)、コヒレントルメンタム・マーベル(光配線の部材)、シノプシス(設計自動化の道具)の5件で、投下は約130億ドルに達する。つまり公開分の投下額の64%は、GPUの買い手ではなく売り手の川上に向かっている。循環金融という批判がそのまま当てはまるのは投下額の36%であり、残りは自社製品を作るための生産能力の前払いに近い。コヒレント・ルメンタムへの出資に複数年の購入確約と生産能力への優先アクセスが付いていることは、この読みを裏づける。光インターコネクトの供給不足は自社の出荷制約に直結するからだ。

ただし批判の本丸は13Fの外にある。表に載らない未公開枠として、OpenAIへ最大1,000億ドル(約15.8兆円・初回分は実行済み)、Anthropicへ最大100億ドル、仏Mistral AIへの出資が公表済みで、これらは全て「顧客側」である。未公開枠が満額実行されれば顧客側への投下が供給側を大きく上回り、循環の議論は再燃する。ハイパースケーラーの設備投資と同様、この構図の健全性は最終需要(AIサービスの売上)が投資に追いつくかどうかで決まる。

光へ60億ドル: 伏せられていた「2社」の正体が13Fで確定した

3月の光3社への計60億ドル(約9,500億円)は、部材の確保という文脈で読むべき数字である。調査会社トレンドフォースは8月、NVIDIAが「主要サプライヤー2社」に各20億ドルを投じ長期供給契約を結んだと報じたが、社名は伏せられていた。13F原本と公表条件で、その2社がコヒレントルメンタムであることが確定する。ルメンタムのCEOはリン化インジウム(InP)の需給ギャップを「DRAM・NANDを超えた」と表現しており、NVIDIAは出資と購入確約で逼迫部材の生産能力を押さえに行った。マーベルの転換優先株20億ドルを足せば、光インターコネクトだけでポートフォリオの3割弱を占める。

この川上には鉱物の問題が続いている。中国は精錬インジウムの世界の約70%を握り、2025年からInP・インジウムの輸出管理を強化した。日本側でこの川上に立つのは、亜鉛製錬の副産物としてインジウムを回収する三井金属(5706、営業利益率17.3%)とJX金属(5016、19.8%)で、レアアースではなくレアメタルの精錬が、光3社への60億ドルの成否を左右する土台になっている。

出資10社に日本企業はゼロ、それでも購入確約の川下に日本がいる

10銘柄に日本企業は1社も入っていない。NVIDIAの資本は米国(8社)と欧州(Nebius、ノキア)に配られ、日本へは届いていない。それでも経路は2本ある。第1に、部材の川下。コヒレントルメンタムの増産はInP基板や光部品材料の調達拡大を意味し、InPレーザーを内製する住友電気工業(5802、営業利益率8.2%)、古河電気工業(5801、4.9%)、光配線で最高益のフジクラ(5803、16.0%)と同じ土俵の需要が膨らむ。第2に、出資が要らない独占工程。HBMの試験を握るアドバンテスト(6857、44.2%)や積層加工のディスコ(6146、42.3%)は、NVIDIAが資本を入れて確保するまでもなく買わざるを得ない装置であり、有価証券報告書の利益率がその交渉力を示している。

もう1つ、資本の流れを映す数字がEDINETにある。NVIDIAの出資は日本に来ていなくても、海外投資家は市場経由で既に日本のAI関連を厚く持っている。有価証券報告書の外国人持株比率はキオクシア68.5%、アドバンテスト49.5%、東京エレクトロン47.6%、ディスコ43.9%(いずれも直近通期)。米欧マネーの保有経路は、出資契約より先に株式市場で太っていた。規模感の物差しも1つ添える。財務省の法人企業統計(e-stat API)では、金融保険業を除く日本の全法人の設備投資は2026年1〜3月期に季節調整値で約15.2兆円。NVIDIA1社の投資先評価11.6兆円は、日本中の企業が1四半期に投じる設備投資の4分の3に相当する。

対照的なのはインテルへの50億ドルだ。国家の補助金ではなく1社の資本参加が、経営不振だった製造大手の評価を6倍にした。日本が官民でラピダスを支える構図と並べると、AI時代の産業政策の主役が政府から需要側の企業へ移りつつあることが、この13Fが示す最も大きな変化である。

確かめられる点

検証は開示の日付で追える。第1に、次回13F(11月中旬提出・9月末時点)で光3社の追加取得や新規銘柄が現れるか。第2に、マーベルの転換条件が開示されるか。現状は「条件非公表」で評価額に幅がある。第3に、OpenAIへの最大1,000億ドルの実行ペース。第4に、Nebiusのワラント行使と持分の確定。第5に、コヒレントルメンタムの増産計画(6インチInPウエハー能力倍増)が四半期決算でどう進むか。第6に、日本の光・装置各社の中間決算(11月)で、この購入確約の川下需要が数字に出るかである。

204億ドルで738億ドルという成績は、投資会社として見ても一級である。ただしこのポートフォリオの本質は運用益ではない。売り手が買い手と部材供給者の両方に資本を張り、自社製品の需要と供給を同時に太らせる設計であり、13Fはその設計図が四半期ごとに更新される公開文書になっている。

13Fとは

米国の機関投資家が、四半期ごとにSEC(米国証券取引委員会)へ提出を義務付けられている「保有株式報告書」です。正式名称は「Form 13F - Information Required of Institutional Investment Managers Pursuant to Section 13(f)」で、証券取引法(Securities Exchange Act of 1934)のSection 13(f)に基づくため「13F」と呼ばれます。

提出義務がある投資家

投資裁量権を持つ資産が1億ドル以上の機関投資家。
対象は主にヘッジファンド、投資顧問会社、銀行、保険会社、年金基金など。

報告内容
四半期末時点で保有している米国上場株式などの詳細を開示します。主な項目は以下の通りです。

  • 銘柄名
  • CUSIP番号
  • 保有株数
  • 市場価値
  • 議決権の保有状況

基本的にロングポジションが対象で、ショートポジションは原則として含まれません。

直接的な影響はほぼ「ADR銘柄」に限られる
Form 13Fは、原則として米国で取引される証券だけを対象とします。

  • 東証にしか上場していない純粋な日本株 → 報告対象外
  • 米国でADR(米国預託証券)として上場している日本企業の株式 → 報告対象

そのため、13Fで見える日本関連の動きは、主に以下の銘柄に集中します。

  • トヨタ(TM) 7203
  • ソニーグループ(SONY) 6758
  • ホンダ(HMC) 7267
  • ソフトバンクグループ(SFTBY) 9984
  • 三菱UFJ(MUFG) 8306
  • みずほFG(MFG) 8411
  • 三井住友FG(SMFG) 8316
  • 野村HD(NMR) 8604
  • 武田薬品(TAK) 4502
  • 任天堂(NTDOY) 7974

など

実際に、過去の13Fでは海外ヘッジファンドがソニーやレーザーテック、メガバンクなどの持ち高を減らした例が報じられています。この動きはADR価格に影響し、裁定取引を通じて本家の日本株にも一定の影響を与えることがあります。