GPUの2大メーカーが出資した米リカーシブは、資金調達の発表から1か月後、AIに書き換えさせたGPU向けプログラムの成績を公表した。エヌビディアが作った235問のベンチマークで、理論上限までの差を得点の上で従来より18%縮めた。
自分で自分を改良するAIの開発を掲げる米新興企業リカーシブ・スーパーインテリジェンス (以下リカーシブ) は、2026年5月に6億5,000万ドルの資金調達を発表した。出資者には、GPU (画像処理半導体) の2大メーカーである米エヌビディアと米AMDが入っている。6月11日に同社が公表した最初の成果のうち、出資者に最も近いのは、GPUで動く小さな計算プログラム (カーネル) をAIに書き直させ、同じGPUからより多くの計算を引き出すものだった。GPUの売り手が、1基のGPUでこなせる計算を増やす研究に資金を出した形になる。GPUを時間単位で貸す事業者にとって、こうした改良は1基が1時間にこなせる処理量に関わる。日本では、さくらインターネットがこの貸し出しで2026年4〜6月期の売上高の4割強を得た。
リカーシブの6億5,000万ドルの調達はGVとグレイクロフトが主導し、エヌビディアとAMDも出資した
リカーシブは自社の公式アカウントで、6億5,000万ドルを調達し、事業の内容を初めて公にしたと発表した。調達を主導したのは米アルファベット傘下のGVと米グレイクロフトで、AMDの投資部門AMDベンチャーズとエヌビディアも主な出資者として加わったと説明している。GVも5月13日に公表した文書で、この調達を共同で主導したと説明した。
GVによると、最高経営責任者はリチャード・ソーチャー氏で、共同創業者はほかに7人いる。画像認識モデル「ビジョン・トランスフォーマー」の論文の筆頭著者のアレクセイ・ドソヴィツキー氏、英グーグル・ディープマインドで研究チームを率いたティム・ロックテシェル氏、ジェフ・クルーン氏、ジョシュ・トービン氏、カイミン・ション氏、田淵棟 (ティエン・ユエンドン) 氏、ティム・シー氏だ。同社は公式サイトで、共同創業者がセールスフォースとウーバーのAI研究所を立ち上げ、オープンAI、ディープマインド、グーグル・ブレイン、メタでチームを率いてきたと説明する。公式サイトによると従業員は25人を超え、拠点はサンフランシスコとロンドンにある。英国の会社登記所の記録では、同じ社名でロンドンを登記上の住所とする法人が2025年12月31日に設立され、取締役はロックテシェル氏だけだ。
日本との縁もある。クルーン氏は、東京のサカナAIが2024年8月13日に発表した研究自動化の仕組み「AIサイエンティスト」の論文の共著者の1人で、当時はカナダのブリティッシュ・コロンビア大学に所属していた。論文によると、この仕組みは着想から執筆までを1本15ドル未満でこなせる。
同社は公式サイトで、最初に自動化するのはAIの研究そのもの、つまりAIがAIを改良する研究だとしている。ソーチャー氏は米テッククランチの取材に、製品は出すとしたうえで、待つのは年単位ではなく四半期単位だと語った。
最初の成果は3つのベンチマークで、言語モデルの学習2つとGPUカーネル1つの記録を塗り替えたとした
6月11日の発表によると、同社の仕組みは、改良の案を出し、プログラムに書き、実験して結果を確かめ、次の実験を選ぶ一連の作業を自動で繰り返す。点数だけを稼ぐ抜け道 (報酬ハッキング) を見分ける検査も研究の手順に組み込んだという。腕試しに選んだのは、短時間で評価でき、結果のばらつきが小さい3つのベンチマーク (性能を比べるための課題集) で、同社はいずれも従来の最高記録を塗り替えたとした。
| ベンチマーク | 競う内容 | 従来の最高記録 | リカーシブ |
|---|---|---|---|
| ナノチャット | 1基のGPUで5分学習した言語モデルの誤差 (損失。小さいほどよい) | 0.9372 | 0.9109 |
| ナノGPTスピードラン | H100を8基積んだサーバーで損失3.28まで学習する時間 | 79.7秒 | 77.5秒 |
| SOL-ExecBench | 235のGPUカーネルの速さの得点 (理論上限=1.0) | 0.699 | 0.754 |
数字はすべて同社の発表による。改善の幅を計算すると、ナノチャットは損失が0.0263下がり、2.8%の改善にあたる。同社によると、同じ損失まで学習を進める速さは約1.3倍になる。スピードランは2.2秒、2.8%の短縮だ。
スピードランでは、2024年半ばに約45分 (2,700秒) かかっていた学習を、世界の参加者が83回の記録更新で79.7秒まで縮めてきた。2年で約34分の1になった後に残っていた余地から、リカーシブはさらに2.2秒を削ったことになる。77.5秒を出した手法は、文脈を読み取る計算 (注意機構) の一部を8ビットの浮動小数点数で行う、学習の調整にノイズを加えるといった変更を組み合わせたもので、書き換えたプログラムは約200行だった。ただし同社は、この結果はモーダルのサーバーで得てアンドロメダのサーバーで再確認したもので、記録表の公式の機材での計測と提出はこれからだと注記している。
計算に使ったのはエヌビディアのGPUだ。ナノチャットはH100で改良案を探し、既存の記録と比べるためブラックウェル世代のB200で評価した。リカーシブ自身も、GPUを時間単位で借りて研究を進めている。
エヌビディア自身のベンチマークで、GPUカーネルの理論上限との差を18%縮めた
3つのうち、出資者との関係が最も深いのがSOL-ExecBenchだ。エヌビディアの研究者らが2026年3月19日に公表したベンチマークで、言語・画像・音声などの124のAIモデルから取り出した235のカーネルを、ブラックウェル世代のGPUでどこまで速くできるかを競うものだ。速さは0〜1の得点で表す。基準となる実装から、ハードウエアの性能から理論的に求めた上限までの距離をどれだけ詰めたかを測り、基準と同じ速さなら0.5、上限に達すれば1.0になる。16ビットの計算に加え、8ビットや4ビットといったビット数の少ない新しい数値形式の計算も含む。
同社によると平均の得点は0.754で、それまでの記録表の最高0.699を上回った。上限1.0までの差は0.301から0.246に縮んだ。縮めた幅は0.055で、元の差0.301に対して18.3%にあたり、同社の「18%」と一致する。これは得点の上の差で、実行時間が18%縮んだという意味ではない。同社は、235件をまとめて解かせることで、メモリーからのデータの運び方や計算の分け方の工夫を、似た問題の間で共有させたと説明している。ただし、出力を流用する、計測の仕組みの癖を突くといった抜け道で点を稼ぐ候補が多く出たため、段階的に厳しくした自動の検査で選り分けたという。
その後、トービン氏は、推論に使うGPU向けのライブラリ (同氏によるとエヌビディア製) の一部のカーネルに潜む誤りを同社の仕組みが見つけ、修正に協力したと投稿した。同社の公式アカウントもこれを再投稿した。注意機構で計算から外す位置の目印をマイナス5万という値に固定していたが、本来の計算値がそれより小さくなる場合があったという。このライブラリは、広く使われている推論用のソフトウエア2種の土台になっている。
同社によると、今回の成果の多くは効率の改善である。同社は、AIの進歩は既存のシステムをより速く、より安く動かし、ハードウエアを効率よく使うことからも生まれるとし、この種の仕組みがAIを使うコストを下げると見込む。成果物はソースコードの共有サイトに載せた。GPUの売り手が出資した会社が最初に示したのは、同じ台数のGPUでこなせる計算を増やす技術だった。
エヌビディアとAMDの開示に、リカーシブへの出資額は出てこない
エヌビディアの10-Q (2026年5〜7月期の四半期報告書) と、AMDの10-Q (同4〜6月期) の全文を検索したが、リカーシブの名前も出資の額も見当たらない。分かるのは、未公開企業への出資が全体でどう動いたかである。
エヌビディアの未公開企業への出資 (非上場株) の残高は、2026年1月25日の222億5,100万ドルから4月26日に423億3,600万ドル、7月26日には478億9,800万ドルになり、半年で2.2倍に膨らんだ。新たな出資から売却などを引いた純増は、リカーシブの調達の発表があった5〜7月期だけで131億600万ドル、上半期 (2〜7月) では310億500万ドルで、前年同期の9億4,800万ドルの約33倍にあたる。リカーシブの調達総額6億5,000万ドルを仮に全額エヌビディアが出していても、5〜7月期の純増の5.0%にとどまる計算だ。同社は出資の目的を、成長の機会を広げ、取引先や協業先のつながり (エコシステム) を育て、競争上の地位を強めることと書き、7月26日時点の出資を990億ドル、出資の確約を250億ドルとした。上場株の持ち分の内訳は13Fで投資先10社を検算した記事にまとめた。
同じ10-Qによると、エヌビディアは5〜7月期に、AI向けのクラウド事業者がエヌビディアのデータセンター製品を購入し、その計算能力をエヌビディアが借り受ける契約を始めた。契約額は7月26日時点で360億ドルで、期間は主に6年である。GPUを売るだけでなく、計算能力の借り手の側にも回っている。
AMDの未公開企業への出資などの長期投資は、2025年12月27日の11億ドルから2026年6月27日には17億ドルになった。AMDは、研究開発の初期段階にある技術を持つ未公開企業への出資が中心だと説明している。
さくらインターネットは、GPUの時間貸しで4〜6月期の売上高の42%を得た
GPUからより多くの計算を引き出す改良が効くのは、GPUを保有して時間単位で貸す側である。日本でこの事業の売上高を区分して開示している上場企業の一つがさくらインターネットだ。2027年3月期第1四半期 (2026年4〜6月) の連結売上高は111億3,400万円で前年同期比48.6%増、営業損益は12億3,000万円の黒字 (前年同期は4億5,700万円の赤字) に転換した。
伸びをけん引したのは、GPUを貸し出す「GPUインフラストラクチャーサービス」だ。決算説明資料のグラフによると、この売上高は前年同期の13億6,300万円から47億1,800万円に増え、3.46倍になった。増加率を計算すると246.1%で、同社が示す245.9%とほぼ合う。47億1,800万円は売上高全体の42.4%にあたる。同社は、前期に追加したエヌビディアのH200とB200、既存のH100がいずれも高い稼働率を保ったことを理由に挙げ、その向上で収益性もよくなったとした。同社は通期の予想も引き上げ、売上高を450億円から455億円に、営業利益を15億円から25億円にした。なお、同じページの見出しは増加額を「3,455百万円増」としているが、グラフの2つの値の差は33億5,500万円で、1億円ずれている。
同じ資料には、GPUの設置台数の概算も載っている。H100が2,840基、H200が1,072基、B200が約1,500基で、合わせて約5,400基 (計算上は5,412基) になる。4〜6月のGPUインフラの売上高をこの台数で割ると1基あたり約87万円、91日分の2,184時間で割ると1基1時間あたり約400円になる。台数は概算で、機種ごとの単価や稼働率の違いを無視した粗い値である。同社はエヌビディアの次世代GPU「ルービン」への投資を7月28日に決め、2027年3月期の第4四半期に設置する予定だ。
リカーシブが示したような改良が広まれば、同じ1時間で借り手がこなせる学習や推論は増える。それが借りる時間を減らす方向に働くのか、計算が安くなった分だけ研究を増やす方向に働くのかは、どの会社の開示にもまだ表れていない。さくらインターネットの開示で確かめられるのは、GPUの稼働率が高く、その向上が利益を押し上げたところまでだ。同社の開示資料は銘柄ページにまとめている。
エヌビディアとAMDが資金を出したリカーシブの最初の成果の一つは、エヌビディアのGPUで同じ計算をより短い時間で終える方法を、AIに探させたものだった。GPUを時間単位で貸す事業の採算は、単価や稼働率に加え、1基が1時間にどれだけの仕事をこなせるかにも左右される。売り手の出資先が最初に手を付けたのは、その数字を上げる技術だった。
※2026年10月14日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版の出所を中国語の報道から、リカーシブの発表、出資者の発表文と四半期報告書、さくらインターネットの開示に改めました。旧版にあった円換算、アンソロピックとミストラルAIとの評価額の比較、TSMCの先端パッケージングの月産能力の数字、最初の成果の公表時期を18〜24か月以内とした見立ては、裏づけを確かめられない、または事実と異なるため削除しました。共同創業者は4人から8人に改め、出資者の発表文に発言者の示されていない一文をソーチャー氏の発言として引用した箇所も削除しました。
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