上場している7つはすべて上げ、それを持つ会社だけが下げた。同じ一日で9.24ポイントの開き。届出を原本から開くと、この四半期に売買された株は1株もなく、増えた451億ドルの半分近くは1社が上場したことで表に現れた分だった。
エヌビディアは四半期ごとに保有株式の報告書を出している。米国の証券取引所法13条(f)にもとづく様式13Fで、運用資産1億ドル以上の機関が四半期末から45日以内に出す書類である。2026年6月30日を基準日とする分は8月14日に提出された。8銘柄、合計634億3,997万4,569ドル。この数字はほとんど読まれていない。
13F(フォーム13F)とは、米国証券取引委員会(SEC)に対し、1億ドル(約150億円)以上の株式などを保有する大口機関投資家が四半期ごとに提出する保有資産の開示書類(株式保有報告書)です。
- 基本的な仕組みと特徴対象者: 運用資産が1億ドル以上の機関投資家(ヘッジファンド、銀行、保険会社、年金基金など)。
- 提出期限: 各四半期末から45日以内。対象資産: 米国上場株式、上場投資信託(ETF)、オプションなど(債券やショート(空売り)ポジションなどは対象外)。
- 閲覧方法: SECが運営する電子情報データベース EDGAR を通じて、一般の個人投資家も無料で内容を確認できます。
2026年9月8日、ニューヨーク時間12時29分。コアウィーブが14.73%高、ネビウスが9.81%高、インテルが9.16%高、コヒレントが8.86%高、ノキアが6.72%高、スペースXが3.20%高、シノプシスが1.39%高。6月末の構成比を当てはめると、この持ち株は7.24%上がっている。持ち主であるエヌビディアは2.00%安だった。
本稿はこの一日を出発点に、届出そのものを原本から開き、数字がどこから来ているかを1件ずつ確かめる。中心にあるのは構成比47.3%を占めるインテルで、その9%高には4つの説明が流れている。4つは同じ強さではない。
図1 — 上場7銘柄の値動きと、6月末の構成比で加重した数字、そして本体
634億ドルの中身を、届出そのものから開く
証券取引委員会の書庫から取れるのは、表紙にあたる文書と明細表の2つである。明細表は簡素で、銘柄名、証券識別番号、評価額、株数、議決権の別しか並んでいない。
図2 — 8銘柄の株数と評価額、そこから逆算した6月30日の株価
最大はインテルで214,776,632株、299億8,926万1,126ドル。株数で割ると1株139.63ドルになる。2番目がスペースXで122,764,805株、209億7,559万4,582ドル、1株170.86ドル。3番目がコアウィーブで47,213,353株、46億9,961万7,158ドル。以下、コヒレント7,788,161株で30億7,219万5,870ドル、ノキアの米国預託証券166,389,351株で22億965万581ドル、シノプシス4,821,717株で21億5,082万3,302ドル、ネビウス1,190,476株で3億2,877万3,757ドル、ジェネレート・バイオメディシンズ833,325株で1,405万8,193ドルと続く。
構成比はインテル47.272%、スペースX33.064%、コアウィーブ7.408%、コヒレント4.843%、ノキア3.483%、シノプシス3.390%、ネビウス0.518%、ジェネレート・バイオメディシンズ0.022%。上位2銘柄で80.3%を占める。
表紙には、届出番号028-23915、明細件数8、合計額63,439,974,569ドル、署名は副社長兼法務担当のレベッカ・ピーターズ氏、議決権はすべて単独、共同保有者なし、開示の一部省略なしと書かれている。「その他の運用者」の欄も空である。エヌビディアはこの持ち株を他人に運用させていない。
読み手にとって効くのは、この書類が書いていないことのほうである。取得原価は載らない。売買した日付も載らない。四半期のあいだに買ったのか、何年も前から持っていたのかは、明細表からは分からない。非上場のまま持っている株式も、売却が制限されている株式かどうかも、新株予約権や優先株式のような株式以外の持ち分も、様式13Fの明細表には現れない。
7銘柄すべてが上げ、それを持つ会社だけが下げた
9月8日の値動きを6月末の構成比で加重すると7.2420%になる。非上場のジェネレート・バイオメディシンズを除いて上場7銘柄だけで再計算しても7.2420%で、構成比0.022%の差は小数点以下に埋もれる。本体の2.00%安との開きは9.24ポイントである。
7銘柄が7勝0敗で、下げているのはそれらを持つ会社だけという配置は、めったに揃わない。相場が同じ日に何をしていたかを1枚で示している。AIの計算をこなす半導体そのものから資金が出て、その半導体が動くために要るものへ入っていった。そしてエヌビディアは、その「必要とするもの」の多くを既に持っている。
ただし、この計算には手続き上の断りがいる。構成比は6月30日時点のもので、提出は8月14日、当日は9月8日である。9月8日の実際の構成比は、6月末から各銘柄の株価が別々に動いたぶんずれている。インテルは6月末の139.63ドルから当日の104.58ドルまで25.1%下がっており、6月末の構成比47.3%は当日には下がっている。それでも加重の順位や符号は変わらない。
株価はいずれも終値ではなく、ある一瞬に読み取った値である。同じ日の引けでは違う数字になる。相場の1日を語るときにこの断りを落とすと、精度を装った不正確さになる。
「約300億ドル」は6月30日の値段である
インテルの9%高をめぐって流れている説明のうち、最も広く引かれているのが「エヌビディアの持ち分は約300億ドル」という数字である。
その299億8,926万1,126ドルは、6月30日を基準日とする13Fの評価額そのものである。214,776,632株で割ると1株139.63ドルになり、これは6月30日のインテルの株価に一致する。9月8日のインテルは104.58ドルだった。同じ214,776,632株は224億6,134万ドルにしかならない。差は75億2,792万ドルである。
エヌビディアがこの株を取得したのは2025年12月で、1株23.28ドル、支払いは214,776,632株×23.28ドル=49億9,999万9,993ドル。つまり50億ドルちょうどになるように株数が決められている。取得原価に対しては104.58ドルで4.49倍であり、含み益は大きい。同時に、いま引用されている評価額より75億ドル低い。
どちらも事実である。語られているのは片方だけである。四半期末の評価額を当日の価値として引くのは、13Fを読むときに最も起こりやすい取り違えで、45日の提出猶予と相まって、数字は世に出た時点で最長で135日古い。
1株も売買していない四半期に、持ち株が3.5倍になった
過去9四半期分の13Fを機械で並べると、届出だけを読んでいては見えない形が出てくる。
図3 — 合計評価額の推移と、183億ドルから634億ドルへの増加451億ドルの内訳
合計評価額は2024年6月末の3億9,316万ドルから2026年6月末の634億3,997万ドルへ、2年で161倍になった。ただし増え方の中身は四半期ごとに違う。
2025年10〜12月期に、中身がほぼ入れ替わっている。それまで持っていたアーム・ホールディングス1,101,249株、アプライド・デジタル7,716,050株、リカージョン・ファーマシューティカルズ7,706,363株、ウィーライド1,738,563株がそろって消え、代わりにインテル214,776,632株、ノキア166,389,351株、シノプシス4,821,717株が同時に現れた。銘柄数は6から5に減り、合計額は38億4,368万ドルから131億482万ドルへ跳ねている。小型のAI関連から、半導体と通信設備の本体へ入れ替えた四半期だった。
2026年1〜3月期は、コアウィーブを24,277,573株から47,213,353株へ倍増させ、コヒレント7,788,161株とジェネレート・バイオメディシンズ833,325株を新規に取得した。ここまでが売買の記録である。
そして2026年4〜6月期。コヒレント、コアウィーブ、ジェネレート・バイオメディシンズ、インテル、ネビウス、ノキア、シノプシスの7銘柄は、株数が3月末と1株も違わない。増えた451億ドルの内訳は、スペースXが209億7,559万ドル、インテルの評価額上昇が205億1,117万ドル、コヒレント12億1,698万ドル、コアウィーブ10億4,200万ドル、ノキア8億7,188万ドル、シノプシス2億3,911万ドル、ネビウス2億525万ドル、ジェネレート・バイオメディシンズ364万ドルである。買い増しによる増加はゼロだった。
スペースXの209億ドルが「新しい保有」として現れた理由は、上場である。同社は2026年6月11日に登録が効力を生じ、12日に様式424B4を提出してナスダックに上場した。13Fの対象は取引所で売買される証券なので、非上場のあいだは何株持っていても明細表に載らない。上場した瞬間に、既に持っていた株が表に現れる。買った日は何年も前かもしれない。
13Fは保有を報告する書類であって、売買を報告する書類ではない。この区別を落とすと「エヌビディアが四半期に450億ドル買った」という、届出のどこにも書かれていない話ができあがる。
13Fに載らない479億ドルと、1,085億ドルの保証
634億ドルは、エヌビディアの株式関与のうち最も見やすい部分にすぎない。四半期報告書の注記を開くと、13Fが構造上映せない部分の大きさが分かる。
図4 — 非上場株式の増減、上場株式に付いた条件、そして保証の最大総額
2026年7月26日時点の非上場株式は478億9,800万ドルである。1年前の2025年7月27日は37億9,900万ドルだった。12.6倍になっている。
四半期の増減を追うと、期首423億3,600万ドル、新規の取得131億600万ドル、評価益49億ドル、上場への振替▲123億2,300万ドル、減損と評価損▲1億2,100万ドルで、期末478億9,800万ドル。半年で見ると新規の取得だけで310億500万ドルが積み上がっている。
この「上場への振替」123億2,300万ドルが、スペースXが13Fに現れた会計上の痕跡である。非上場のときは取得原価から減損を引き、観察できる取引価格で調整した額で持っていた。上場すると相場価格で測る資産に移る。13Fの評価額209億7,559万ドルとの差86億5,000万ドルほどが、上場によって付いた値段の分になる。
上場株式の側にも、13Fが語らない条件が付く。同じ日の公正価値の表では、相場価格で測る株式が369億3,400万ドル、類似の情報で測る株式が108億600万ドル、合わせて477億4,000万ドルである。このうち369億ドルには短期の売却制限が付き、50億ドルは2027年12月まで売れないため流動資産ではなくその他の資産に計上されている。「類似の情報で測る株式」108億ドルの中身は、上場企業に対する未登録の新株予約権と、普通株式に転換できる優先株式である。13Fの明細表は普通株式などを並べる書類なので、この形の持ち分は載らない。
そして、株式ですらない最大の関与がある。2026年8月、エヌビディアはSBエナジーの関連会社との土地・電力・建屋の整備について、オープンAIの関連会社を借り手とする賃貸借に信用補完を差し出した。上限は1,050億ドル。対象はオハイオ州パイク郡のPORTS-Pike技術団地で、合計約4.25ギガワットの情報技術負荷にあたる。9段階に分けて建てられ、1段階目は2029年1月期の見込み。20年の賃貸借で、借り手が十分な信用格付けを得れば保証は終わる。見返りに、この敷地はエヌビディアのAI設備を独占的に置く。さらに約3.8ギガワット分の追加の信用補完を自らの判断で行える権利も持つ。AIクラウド向けの土地・電力・建屋の保証35億ドルと合わせ、保証の最大総額は1,085億ドルになる。
金額でみれば、13Fの634億ドルより外側のほうが大きい。保証は資産ではなく偶発的な債務なので、そもそも投資の一覧に並ぶ性格のものではない。それでも相手先の資金繰りは、これで回る。本誌が1ギガワットのデータセンターに要る金属を数えた記事で見た物量が、この9段階の敷地に積まれていく。
インテル9%高の4つの説明を、証拠の強さで並べ直す
ここから、当日の相場が売買していた材料に入る。
図5 — 何が語られているかと、何に支えられているか
第1は届出である。インテルは2026年8月10日に条件を決め、12日に様式424B5を提出して210,526,315株を1株95.00ドルで発行した。総額は19,999,999,925ドル、つまり200億ドルちょうどになるよう株数が逆算されている。31,578,947株の追加購入権が付き、これは発行株数のちょうど15.0%にあたる。原本で確認できる事実で、4週間前の出来事である。インテルがいまの株価水準にある理由ではあっても、当日に動いた理由ではない。
第2は、6月の数字が当日の服を着ている例である。前節で見たとおり、299億8,926万1,126ドルは6月30日の評価額で、当日の価値ではない。
第3は未確認である。供給網筋を情報源とする報道が、インテルが10月にパソコン向け中央演算処理装置を約1割値上げすると伝えた。会社の確認はない。報道を追うと、これは2025年末以降で3度目にあたり、1回目が2026年1〜3月期の約1割、2回目が7月の一部の民生用と業務用製品で、上げ幅は数十ドルから1,000ドル超まで幅があったとされる。背景として、製造能力が利幅の厚いサーバー向けに優先され、パソコン向けに回る枠が細っていること、利幅の薄い省電力コア系の製品群を製造終了の対象として見直していることが挙げられている。筋は通っている。ただし、いまの時点では証拠ではない。
第4は否定されたものである。8月31日ごろ、韓国の経済紙がSKハイニックスがHBM4Eの土台となる半導体でインテルの受託製造部門を使うと報じた。SKハイニックスは技術計画の詳細は確認できないとしたうえで、「HBM4Eの生産にインテルの受託製造を現時点で検討していない」と述べた。
この否定の読み方には注意がいる。文言は慎重に選ばれており、話し合いがあったかどうか、時期がどうかまでは否定していない。一方で技術面は事実である。SKハイニックスは2026年8月のホットチップスで、インテルのEMIB-Tに対して自社の設計を検証したと説明し、貫通電極で積層した半導体に垂直に電力を送る構想を示した。技術の半分は本物で、商いの半分が名指しされた顧客に否定された。
否定は会社の説明として複数の媒体が伝えたもので、届出として取得できる文書ではない。そして株価が上がったこと自体は、どの説明が正しくても変わらない。ここで並べているのは証拠の強さであって、値動きの向きではない。
外部顧客2億9,300万ドルの正体は、自分が手放した子会社だった
インテルの受託製造事業が外部の顧客を取れているかどうかは、四半期報告書のたった1行で測れる。そしてその1行を読むと、当日の相場が売買していた話とは別の絵が出てくる。
図6 — 部門売上の内訳と、新株発行を1株単位で開いた条件
2026年4〜6月期の受託製造部門の売上は57億6,500万ドルである。このうち外部顧客からの売上は2億9,300万ドル、割合にして5.08%。残る54億7,200万ドルは社内向けで、インテル自身の製品部門にウエハーや基板を売った分である。
四半期報告書はこの外部売上の増加について、理由を明記している。前年同期は2,200万ドルで、2億7,100万ドル増えた主因は「アルテラが2025年7〜9月期に連結から外れ、外部顧客に変わったこと」である。アルテラはインテルが持ち分の51%を売却した元の子会社で、プログラム可能な論理素子を手がける。上期でみると外部売上は4億6,700万ドル、前年同期は5,300万ドルである。
つまり、9月8日の相場が売買していた「名前のある外部顧客」の話とは別に、いま数字に現れている外部顧客は、大半が自社が手放した会社である。受託製造事業の看板である第三者の受注は、この行にはまだほとんど出ていない。
部門の営業損益は▲20億8,900万ドルで、前年同期の▲31億6,800万ドルからは縮んだ。全社では売上161億2,800万ドルで前年同期比25.4%増、営業損益は+17億9,600万ドルとなり、前年同期の▲31億7,600万ドルから黒字に転じている。データセンターとAI部門の売上が62億6,200万ドルで前年同期比59.0%増、パソコンと物理AI部門が88億7,700万ドルで12.8%増だった。会社全体は明確に良くなっている。良くなっていないのは受託製造の外部売上だけである。
増資の条件を1株単位で開くと、別の縛りが出てくる
200億ドルという見出しの裏で、目論見書は条件を1株単位まで書いている。
公開価格は1株95.00ドル。引受手数料は1株1.5675ドルで合計3億3,000万ドル、率にして1.65%。会社の手取りは1株93.4325ドル、合計196億6,999万9,926ドルである。追加購入権が全部行使されると手取りは約226億2,000万ドルになる。発行後の株式数は5,253,490,564株、追加購入権を含めると5,285,069,511株。8月10日の終値は97.52ドルだったので、発行価格は2.58%の割引で決まった。主幹事はJPモルガン、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、シティグループの4社である。
エヌビディアが持つ214,776,632株は、この発行株数210,526,315株とほぼ同じ大きさで、発行後の株式数に対して4.09%にあたる。
目論見書はさらに、株式数の外側にあるものを列挙している。2026年6月27日時点で発行済みは5,043百万株。ここに含まれないものとして、未確定の譲渡制限株式と業績連動株式が1億1,900万株、未確定の新株予約権が400万株、報酬制度の発行枠が3億6,800万株と2億500万株、米国商務省のために信託に預けた株式が1億4,300万株、そして新株予約権にもとづき発行されうる株式が2億4,100万株ある。
このうち2つは、日本ではほとんど報じられていない。1つは商務省の1億4,300万株で、機微施設向けの計画にもとづき資金を受け取るのに応じて解放される仕組みになっている。もう1つは2億4,100万株の新株予約権で、行使できるようになる条件が「インテルが受託製造事業の51%以上を直接または間接に保有しなくなったとき」と書かれている。受託製造を切り離すと希薄化が起きる設計である。
外部顧客を取れているかを測る指標が四半期報告書のたった1行であるのに対し、事業を切り離しにくくする仕組みは目論見書の側に、株式のかたちで書かれている。9月8日に相場が売買していたのは前者の話で、値段を長く決めるのは後者の側にある。
日本側で同じ取引を持っている会社
ここまでは米国の届出の話である。日本の投資家がこの構図に触れる経路は、実のところ2つある。1つは同じ株を持っている会社、もう1つは同じ相手に売っている会社である。
図7 — 顧客名と金額、投資損益の内訳、そして3つの開示制度が見せるもの
前者がソフトバンクグループ (9984)である。2026年3月期の有価証券報告書は、持株会社投資事業の投資利益2,181億1,100万円の内訳を実名で書いている。エヌビディア株式で3,390億9,200万円の利益、インテルへの出資で2,785億6,600万円の利益。一方でTモバイル株式で6,568億3,800万円、アリババ株式で1,697億4,200万円の投資損失を計上した。同社はTモバイル株式75.4百万株を162.5億ドルで売却し、ドイツテレコム株式は全売却で27.4億ドルを資金化している。親会社の所有者に帰属する純利益は5兆22億7,100万円で、前期比3兆8,489億3,900万円の増加だった。
エヌビディアがインテル株の評価益を13Fの数字として持っているのと同じ期間に、ソフトバンクグループは同じインテルへの出資で2,785億円の評価益を計上した。日本の投資家にとって、この取引に最も近い上場企業はここである。
後者がイビデン (4062)である。2026年3月期の有価証券報告書は「主要な顧客ごとの情報」で顧客名と金額を開示している。エヌビディアが1,224億7,000万円で売上の29.4%、インテルが753億1,900万円で18.1%。前期はインテルが767億900万円で20.8%、エヌビディアが750億7,700万円で20.3%、アドバンスト・マイクロ・デバイセズが407億700万円で11.0%だった。エヌビディアが金額でも構成比でもインテルを抜き、アドバンスト・マイクロ・デバイセズは開示基準を下回って表から消えた。2社で売上の47.5%を占める。事業別では電子が2,433億1,600万円で23.4%増、セラミックが825億5,400万円で1.8%減、合計4,162億100万円で12.7%増である。
もう1つ、キオクシアホールディングス (285A)の有価証券報告書には、取締役会長執行役員のステイシー・スミス氏の略歴が載っている。1988年8月にインテルに入社し、2018年1月に退社したのち、2024年3月からインテルの取締役を務めている。日本のメモリ大手の会長が、いま議論の的にある会社の取締役会に座っている。
日本の開示制度には13Fがない、代わりに顧客の名前が載る
EDINETから2026年6月提出の有価証券報告書29社を取得し、本文の語数を機械で数えた。
エヌビディアに当たる語を最も多く書いたのはソフトバンクグループの17回で、アドバンテスト (6857)とイビデンが各3回、キオクシアが2回。29社の合計は25回である。インテルは合計35回で、ソフトバンクグループ18回、キオクシア6回、イビデンと日立製作所 (6501)が各3回と続く。オープンAIは合計145回のうち144回がソフトバンクグループで、残る1回が日立製作所である。データセンターは29社で延べ222回だった。
SKハイニックスを書いた会社は29社に1社もない。9月8日に相場を動かした報道の当事者が、日本の重電・半導体・電子部品の主要各社の有価証券報告書には一度も出てこない。
SBエナジーの名も、ソフトバンクグループの2026年3月期の有価証券報告書には出てこない。1,050億ドルの保証が結ばれたのは2026年8月で、同社の決算期のあとである。日本の年1回の開示制度では、この取引が有価証券報告書に載るのは2027年6月になる。エヌビディアは8月26日提出の四半期報告書で、既に注記に書いている。
3つの制度は、それぞれ違うものを見せる。様式13Fは四半期末から45日以内で、上場株式の銘柄・株数・評価額が分かるが、取得原価も売買日も非上場株も保有理由も分からない。日本の大量保有報告書は発行済株式総数の5%超で5営業日以内と、提出の速さでは13Fを大きく上回るが、5%以下の持ち分は見えず、保有全体の一覧も作れない。有価証券報告書は年1回で期末から3か月以内と最も遅いが、政策保有株の実名と保有理由、そして主要な顧客の名前と金額まで書く。イビデンの「エヌビディアから1,224億7,000万円」は、米国の10-Kにはこの粒度では出てこない情報である。
日本の企業がどれだけの株式を持っているかは、法人企業統計で規模が分かる。金融保険業を除く全産業が固定資産として持つ株式は、2025年度で417兆7,650億円である。2019年度は325兆5,530億円だったので28.3%増えた。情報通信業は15兆9,109億円から33兆4,923億円へ2.1倍、電気機械器具製造業は7兆9,602億円から13兆1,592億円へ1.65倍になっている。
6月30日の円ドル相場162.61円で換算すると、エヌビディアの上場株式477億ドルと非上場株式479億ドルの合計956億ドルは、15兆5,000億円ほどになる。日本の電気機械器具製造業が全社合わせて持つ株式13兆1,592億円を上回る。1社の投資勘定が、1つの産業の全社合計より大きい。
相場の外側で動いていた3つの数字
この一日を、もう少し広い枠に置く。
第1に、6月30日という基準日が特殊である。ナスダック100は6月30日に30,276.35で、2026年の最高値である6月2日の30,660.60から1.3%以内にあった。13Fの634億ドルは、指数がほぼ年間の高値圏にあった日の値段で測られている。9月4日は29,544.16で、6月末から2.42%下がっている。四半期末の評価額を当日の価値として引くと、指数の水準がずれた分だけ高く出る。
第2に、資金の値段が上がっている。米10年国債利回りは6月30日の4.44%から9月4日の4.78%へ34ベーシスポイント上がった。一方で信用の値段は下がっており、ハイイールド債の上乗せ幅は6月30日の2.75%から9月7日の2.68%まで縮んでいる。国債利回りは上がり、信用の上乗せ幅は縮んだ。この組み合わせが、1,085億ドルの保証や20年の賃貸借を組みやすくしている。
第3に、通貨と物価が逆を向いている。広義のドル指数は3月末の121.04から6月末120.92、8月10日119.12、9月4日118.07へ下がり続けた。同じ期間に半導体の生産者物価は2019年7月の32.50から2026年7月の28.99へ10.8%下がり、半導体の生産指数は107.41から213.49へ98.8%上がっている。7年で数量が2倍、価格が1割安である。この産業は、値段を上げずに量で伸びてきた。持ち株の634億ドルがどこから増えたかを考えるとき、この非対称は効いてくる。
11月の次の13Fで確かめる4つの数字
第1は、インテルの構成比である。エヌビディアの次の13Fは2026年7〜9月期分で、11月中旬に出る。株数が214,776,632株のままなら、47%の持ち分は方針である。減っていれば、それは商いだった。ここは株数だけを見ればよく、評価額は株価が動いた分だけ勝手に変わる。
第2は、インテルの四半期報告書にある受託製造部門の外部売上である。7〜9月期の数字がアルテラの寄与を超えて増えているか、そして外部顧客の名前が書かれるかどうか。2億9,300万ドルという水準は、部門売上の5%でしかない。
第3は、SKハイニックスの否定がどうなるかである。1か月後も否定のままであることと、発表に変わることは、別の物である。技術面の検証は既に公の場で説明されているので、残っているのは商いの部分だけになる。
第4は、エヌビディアの非上場株式の残高である。478億9,800万ドルが次の四半期にどう動くか、そして「上場への振替」がまた出るかどうか。振替が出れば、次の13Fにもまた「買っていない新規保有」が現れる。
届出を読む作業そのものは、誰にでもできる。証券取引委員会の提出書類一覧を機関の識別番号で引き、13F-HRの受付番号から明細表を開けば、本稿が使った数字はすべて同じ場所にある。難しいのは数字を取ることではなく、その数字がいつの、何の値段かを落とさずに運ぶことである。9月8日に流れた4つの説明のうち2つが崩れたのは、そこだった。
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