歩けることは商品価値ではない。工場でも倉庫でも家庭でも、任される仕事は物を掴んで動かすことである。部品表を数え直すと、その掴む機能だけに全体の4分の1の点数と、原価の2割が集まっている。
人型ロボット1体を構成する部品は、およそ1,200点にとどまる。自動車1台の2万点から3万点と比べれば20分の1から25分の1で、組み立ての規模としては桁が違う。ところが簡素になったのは体のほうで、複雑さは別の場所へ移っている。
1,200点のうち約300点が、分解されずに置かれている
部品表を一点ずつ床に並べた写真では、演算基板も歯車も軸受も線材も外装もすべてばらされている。手だけが組んだ状態のまま置かれる。両手を分解すれば約300点になり、全体のおよそ25%を占める。原価では約20%である。
手に部品が集まる理由は三つある。第一に関節の数が桁で違う。脚は歩くために数関節あれば足りるが、片手は指ごとに複数の関節を持ち、そのそれぞれに駆動する電動機と、力を伝える機構と、位置を測る検出器が要る。第二に力を測らなければ掴めない。卵と工具を同じ力で握れば片方が壊れるため、指先ごとに力の検出器を置き、握力を都度変える必要がある。第三に体積の制約が厳しい。脚なら太く作れる部品を、手では指の中へ収める。小型化はそのまま単価と歩留まりに跳ね返る。
歩行の実演は見栄えがするが、それは前提であって商品ではない。手が使えなければ、残りの900点がどれだけ精巧でも、その機械にできる仕事が存在しない。感知から駆動までをどの層が担うかは四つの層に分けて整理した稿で扱ったが、量産の難所は最も下の層、つまり物理的な部品の側に残っている。
部品の群ごとに、国内の供給企業が入れ替わる
1,200点を機能で束ねると四つの群になる。判断する部分、動かす部分、掴む部分、支える部分である。群ごとに必要な技術が違うため、対応する日本企業も入れ替わる。
動かす部分では、関節ごとに減速機と電動機と軸受が一式必要になる。人型は関節数が産業用ロボットより多く、1体あたりの必要数がそのまま伸びる。掴む部分は小型の電動機と力覚検出器が主役で、産業用ロボットの部材とは要求が異なる。支える部分は構造材と線材と電池で、締結部品が点数を押し上げる。
関節の数だけ電動機があり、電動機の数だけ磁石がある
小型で強い力を出す用途では永久磁石を使う電動機が選ばれ、その磁石はネオジム系になる。高温で回り続けると磁力が落ちるため、耐熱性を上げる添加物としてジスプロシウムとテルビウムが加えられる。手だけで数十基の電動機を積む構造では、磁石の必要量が体格に対して不釣り合いに増える。
中国は2025年4月4日、サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7品目を輸出管理の対象に加え、輸出には許可の取得を義務づけた。同年10月には範囲を広げたが、11月7日の公告第70号で10月分の実施を2026年11月10日まで停止している。停止は撤廃ではなく、4月の措置はそもそも停止の対象に入っていない。人型ロボットの量産が立ち上がる時期と、この期限が重なる。
有価証券報告書を並べると、恩恵の入り口が割れている
供給網に載っているという事実だけでは、どの企業がこの需要を取りにいっているかは分からない。金融庁の開示に提出された有価証券報告書から、連結・通期の実数字を取り出して並べた。
| 企業 | 売上高 | 研究開発費 | 設備投資 | 売上に対する研究開発の比率 |
|---|---|---|---|---|
| TDK (6762) | 2兆5,048億円 | 2,896億円 | 2,985億円 | 11.6% |
| 村田製作所 (6981) | 1兆8,308億円 | 1,588億円 | 2,477億円 | 8.7% |
| ファナック (6954) | 8,578億円 | 449億円 | 219億円 | 5.2% |
| オムロン (6645) | 7,673億円 | 456億円 | 542億円 | 5.9% |
TDKは売上の11.6%を研究開発へ投じ、設備投資とほぼ同額を並べている。部品を作りながら次の部品を探す構えである。村田は設備投資が研究開発を889億円上回り、既に決まった需要へ生産能力を積む側に寄る。ファナックとオムロンは研究開発の比率が5%台にとどまり、装置を売る事業の性格がそのまま出る。ファナックの設備投資219億円は研究開発449億円の半分以下で、4社の中で唯一、工場より頭に金を入れている構図になる。
人型ロボットの量産が来るとして、この4社で恩恵の入り口は同じ場所にない。部材を売る側は数量が出た時点で伸び、装置を売る側は顧客が工場を建てる決断をした時点で伸びる。時間差が生じる。
数えられる部品と、数えられない工程
部品表は点数を数えられるが、組み立ての手間は数えられない。1,200点という数字が独り歩きすると、自動車より簡単に作れる印象を与える。実際には両手に集まった300点が、最も小さく、最も精度が要り、最も検査に時間がかかる部品群である。
自動車の2万点は工程が標準化され、供給網も百年かけて整えられてきた。人型ロボットの1,200点にはその蓄積がない。点数が少ないことは、量産の容易さを意味しない。
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