モルガン・スタンレーが中国のクラウド事業者の採算を1台あたりで分解した。営業利益率43.5%に対し、投下資本利益率は13.2%。米国勢の31%との差は利益率ではなく、資本回転率0.36回という一点から生まれている。

同社のBrian Nowakらは、生成AIの投下資本利益率を測る枠組みを3つ作り、自前基盤で計算資源を貸す事業(IaaS)で約31%、自前基盤で自社モデルを売る事業(MaaS)で約46%、第三者の基盤を借りてモデルを売る事業で約25%という値を示した。これは米国勢の水準である。中国側を同じ物差しで測ると13〜20%に沈む。GPU1基あたりの処理量では中国が上回るにもかかわらず、である。本稿は公表された1台あたりの採算表を1行ずつ検算し、差がどこで生まれるかを特定したうえで、日本のGPUクラウドの実績と突き合わせる。円換算は2026年8月14日の為替(1ドル=6.7412元・同159.21円、したがって1元=23.62円。セントルイス連邦準備銀行の公表値)による概算である。売買の推奨や評価は示さない。

年商300万元の機械に、840万元の資本が寝ている

中国CSPの自前IaaS 1台あたり採算表
中国CSPの自前IaaS 1台あたり採算表

基準となる想定から開く。8基構成のGPUサーバー1台を月25万元(約590万円)で貸すと、年商は300万元(約7,085万円)になる。ここから引かれる費用は3つしかない。サーバーの減価償却160万元、データセンター設備の償却2.7万元、電力6.7万元(約159万円)。合計169.4万元で、営業利益は130.6万元、利益率は43.5%に達する。税率15%を引いた税引後営業利益は111.0万元(約2,622万円)である。

投資額はサーバー800万元(約1億8,894万円)とデータセンター設備40万元、合わせて840万元(約1億9,838万円)。税引後営業利益111.0万元をこの840万元で割ると、投下資本利益率は13.2%になる。償却前利益293.3万元から税を引いた営業活動の現金収支は273.7万元で、投資の回収には3.07年かかる。

この表には逆説がある。月額を下げるほど利益率も資本利益率も上がる。月35万元では利益率40.6%・資本利益率11.7%、月15万元では50.3%・17.5%。安い機械を安く貸すほど採算が良く見える。理由は単純で、想定している機械の価格が月額に連動して下がる設計だからである(月35万元ならサーバー1,200万元、月15万元なら400万元)。高価な機械ほど、値付けが投資額に追いついていない。

43.5%が13.2%になる理由は、利益率ではなく回転率にある

営業利益率43.5%は米国勢と比べて遜色がない。それでも投下資本利益率が31%対13.2%と倍以上開くのは、両者の間に資本回転率という係数が挟まっているためである。投下資本利益率は「利益率×資本回転率×(1−税率)」に分解できる。中国の基準想定では年商300万元に対し資本840万元だから、回転率は0.36回。1年で投じた資本の36%しか売上に変えられていない。

米国側の数字は同じ枠組みから逆算できる。売上は1ギガワットあたりで見ればほぼ同等とされ、投下資本利益率は31%、投資回収は2.2年。中国の3.07年に対して0.87年短い。差の源は調達価格にあり、モルガン・スタンレーは中国のサーバー投資額を同等構成の米国比でおよそ3倍と置いている。同じ売上を作るのに3倍の資本を寝かせれば、回転率は3分の1になり、利益率が同じでも資本利益率は3分の1に落ちる。

回転率で説明がつくということは、値下げ競争では解決しないということでもある。中国では智譜(Zhipu)、月之暗面のKimi、深度求索(DeepSeek)が相次いで利用料を下げたが、この採算表の構造からは、1トークンあたりの価格よりも「計算資源1単位あたりいくら稼げたか」のほうが効く。処理量の多い安いモデルは、高価で計算を食うモデルに勝つ。同じ機械からより多くのトークンを取り出せれば、分子が増えて回転率が上がるためである。

電気代は売上の2.2%しかない、原価の94%はサーバーの償却である

3つの事業形態と日中で開く投下資本利益率
3つの事業形態と日中で開く投下資本利益率

費用の内訳には、一般に流れている理解とずれる部分がある。総費用169.4万元のうち、サーバーの減価償却が160万元で94.4%を占める。電力は6.7万元で総費用の4.0%、売上に対しては2.2%にすぎない。データセンター設備の償却に至っては売上比0.9%にとどまる。

AIのデータセンターは電力の問題だと語られることが多いが、少なくともこの採算表の上では、事業の正体は電気を売る商売ではなく、機械を貸すリース業に近い。電力単価を1kWhあたり0.6〜0.8元とすれば、年6.7万元は8基構成で10kW前後の消費に相当する(記者の試算)。電力が制約になるのは1台の損益ではなく、契約電力の上限が設置台数を決めるという別の局面である。

事業の形は3つに分かれる。第1が自前で機械を持つ形で、営業利益率43.5%・投下資本利益率13.2%・回収3.07年。第2が機械を借りて転貸する形で、月20万元で借りて25万元で貸すと年商300万元・賃借料240万元・営業利益60万元、利益率20.0%。投資額はゼロだから投下資本利益率は定義できず、回収年数も存在しない。現金は初月から回る代わりに、貸出価格が20万元まで下がれば利益率はそのまま0%になる。第3が自社モデルを売る形で、年商360万元・営業利益190万元・利益率53.1%・投下資本利益率19.4%。最も稼ぐが、モデルの優劣が入れ替われば積み上げた基盤ごと価値を失う、最も崩れやすい形でもある。

この第2の形態を指す「neocloud」という語は、米国の開示書類ではまだ新語である。全文検索では2024年に0件、2025年に87件、2026年は8月19日までに253件と、2年で語彙として定着した。「model as a service」は7件から21件へ増えたにとどまる。事業の形が先に生まれ、開示の言葉が後から追いついている。

中国のGPUのほうが多く処理する、その意味を取り違えない

モデル提供の比較では、中国側の数字が米国を上回る箇所がある。GPU1基あたりの処理量は中国4,000トークン毎秒に対し米国2,750で、45%多い。それでも投下資本利益率は19.5%対46.2%と半分以下にとどまる。

処理量の差を「中国製のGPUのほうが速い」と読むと誤る。この数字は機械の性能ではなく、載せているモデルと運用の設計を映している。中国勢は混合エキスパート構造を強く効かせた比較的軽いモデルを、低い価格帯に合わせて大きな束にして処理する設計を採る。同じ機械からトークンを多く取り出す方向に最適化した結果であり、1トークンあたりの品質を揃えた比較ではない。米国側は推論が処理全体に占める割合が65%と、中国の50%より高い。学習は資本を食うだけで直接の売上を生まないため、推論の比率が高いほど回転率は上がる。

差を埋める道は3つある。GPUの調達価格が下がること、モデルの世代交代が速くなって同じ機械の稼ぎが増えること、処理の重心が学習から推論へ移ること。3つとも回転率の分母か分子に効く。モルガン・スタンレーはこの3方向に大きな弾力があるとみて、アリババをOverweightに据え、米国上場株の目標株価を180ドルに置いた。同社のクラウド売上に占めるAIの比率は5割に近づき、阿里雲が自社モデルQwenを売るモデル提供の担い手になっている。

増分モデルの31%と、決算に現れる21%は別の数字である

米ハイパースケーラーの実績と資本コスト
米ハイパースケーラーの実績と資本コスト

ここまで扱ってきた数値は、いずれも「サーバー1台を買って貸したときの増分」である。投資家が実際に買うのは企業の株式だから、決算に現れた数字も並べておく必要がある。米証券取引委員会のXBRLデータから直近の年次報告を引くと、営業利益を総資産で割った値はマイクロソフトが20.5%(営業利益1,552億ドル・総資産7,584億ドル)、アルファベットが21.7%(1,290億ドル・5,953億ドル)、メタが22.8%(833億ドル・3,660億ドル)、アマゾンが9.8%(800億ドル・8,180億ドル)となる。

増分モデルの31%と、決算の20%台には10ポイント前後の開きがある。増分モデルは新しく置いた1台が生む利益だけを見るのに対し、決算には過去に積んだ資産と、まだ稼いでいない建設中の設備が丸ごと入るためである。中国の13.2%と比べる相手を「31%」から「21%前後」に置き換えれば、差は3分の1ではなく6割程度に縮む。

もう1つ、借りて転貸する形態の実物を見ておく。米CoreWeaveの直近年次報告では、総資産493億ドルに対し営業損益はほぼ均衡(0.1%の赤字)、設備投資は103億ドルだった。モルガン・スタンレーの想定では第2形態は「投資額ゼロ・利益率20%」だが、現実に上場している事業者は巨額の資産を自ら抱えており、想定どおりには動いていない。日本のさくらインターネットが営業赤字にあるのと同じ構図が、太平洋の両側で起きている。

投資家にとっての判定線は資本コストである。米10年国債の利回りは4.72%、BBB格社債の利回りは5.60%(いずれも2026年8月17日)。中国CSPの13.2%はこの水準を7ポイント以上上回るから、資本を壊してはいない。ただし米ハイパースケーラーの20%台と比べれば、超過分は3分の1にとどまる。同じAI設備投資でも、どこに資本を置くかで超過収益の厚みが変わる。

日本で確かめる、売上の64%を設備に回した会社は営業赤字に沈んだ

日本のGPUクラウドと装置側の実数
日本のGPUクラウドと装置側の実数

この採算表を日本の実績と突き合わせると、投資家が最も間違えやすい点が浮かぶ。43.5%という利益率は増分の概念であり、企業の損益計算書に現れる数字ではない。

有価証券報告書で確かめられる。さくらインターネット(3778)の設備投資額は2023年3月期の19.8億円から、2024年3月期69.4億円、2025年3月期222.4億円、2026年3月期225.5億円へと3年で11倍に増えた。売上高も218.3億円から353.0億円へ伸びている。ところが営業損益は8.8億円の黒字、41.5億円の黒字を経て、2026年3月期は4.0億円の赤字に転落した。純利益は2.2億円の黒字にとどまる。設備投資が売上の63.9%に達し、償却が増収分を追い越した。

他社と並べると、この比率の高さが際立つ。同じ通信・情報の分野でインターネットイニシアティブ(3774)の設備投資は売上比9.3%、日本電信電話(9432)が16.1%、ソフトバンク(9434)が10.6%である。営業利益率はそれぞれ10.1%、11.8%、14.8%と安定している。資本を寝かせる度合いが桁違いである。

資本回転率の観点で見れば、機械を売る側は正反対の位置にいる。ディスコ(6146)は売上4,369億円に対し設備投資327億円(売上比7.5%)で営業利益率42.3%、東京エレクトロン(8035)は売上2兆4,435億円に設備投資2,160億円(8.8%)で25.6%。誰が投下資本利益率で苦しんでも、機械の代金は同じように入る。中国のサーバー投資額が米国の3倍だという事実は、装置と部材を売る側から見れば3倍の売上機会でもある。

資本回転率を下げているものは、突き詰めると材料と規制である

中国のサーバー価格が高い理由は、性能あたりの調達費が高いことに帰着する。先端GPUの輸入が制限されるなかで国産に寄れば、同じ処理量を得るのに台数が要る。国産の性能を引き上げるには先端の製造と積層が要り、そこには材料と装置の壁がある。回転率の分母を小さくする作業は、金融ではなく材料の問題に行き着く。

その材料側では、中国は輸出の側でも対抗手段を握る。ネオジム磁石に必要なジスプロシウムとテルビウムを含む重希土類7品目は2025年4月から輸出許可制の下にあり、光通信用のリン化インジウムや量子ドットレーザーの土台となるガリウムでも管理が強まっている。データセンターを建てる側の日本企業から見れば、これらは冷却装置のモーターや電源、光配線を通じて費用に効く。関連する国内企業を有価証券報告書の実数で並べると次のようになる。

企業役割直近通期の実数
信越化学工業 (4063)レアアース磁石とウエハーの両方を持つ売上2兆5,740億円・営業利益率24.7%
大同特殊鋼 (5471)重希土類を使わないネオジム磁石を量産売上5,781億円・7.3%
TDK (6762)磁石とセンサー、研究開発費2,897億円売上2兆5,048億円・10.9%
三井金属 (5706)亜鉛製錬の副産物としてインジウムを回収売上7,585億円・17.3%
双日 (2768)豪ライナスの重希土類を日本へ供給売上2兆7,574億円

確かめられる点

検証は開示の日付で追える。第1に、アリババの次の四半期開示で、クラウド売上に占めるAIの比率が5割を超えるか。第2に、中国勢のサーバー調達価格が下がった証拠が各社の設備投資額と減価償却費に現れるか。第3に、推論が処理に占める割合が中国側で50%から米国の65%に近づくか。第4に、さくらインターネットの中間決算(11月)で営業損益が黒字に戻るか、設備投資の売上比が6割台から下がるか。第5に、米国の開示書類で「neocloud」の言及が253件からさらに増えるか。第6に、中国の重希土類とガリウムの輸出許可の運用である。

利益率が43.5%あっても資本利益率が13.2%にしかならない事業は、儲かっていないのではなく、儲けを取り出すのに時間がかかる事業である。回転率0.36回という数字は、投じた資本が売上に姿を変えるまで3年近くかかることを意味する。日本で同じ賭けに出た会社の損益計算書が先に赤字を映したのは、その時間差が決算期をまたいだためであり、機械の性能が足りなかったからではない。