電池が20時間持つという意味ではない。連続で動ける時間を90分に切り詰め、そのぶん充電をはさむ回数を増やして積み上げた合計である。供給する会社を選ぶ物差しは、容量ではなく時間の配分のほうに移っている。
Agility Robotics は2026年9月15日、人型ロボット(ヒューマノイド)の新型 Digit 5 を公表した。90分動いて9分で充電する。同社はこれを、動く時間と充電の時間の比率が10対1になったと説明し、前の世代の Digit 4 では2対1だったと記した。この比率が、1日20時間を超える働きという数字を作っている。電池が長持ちするようになったわけではない。動ける時間をあえて短くし、そのかわり充電をはさむ回数を増やしたのが Digit 5 の設計である。
1日20時間超は、90分動いて9分充電する周期を14.55回繰り返した合計である
90分と9分を足すと1周期は99分になる。1日は1,440分だから、99で割って14.55周期。これに90分を掛けると1,309分、21.8時間になる。公表された20時間超という表現と合う。
この数字は、21.8時間ぶんの仕事を1回の充電でこなすという意味ではない。充電をはさむ回数を数え上げた合計である。割合で言えば、90を99で割った90.9%が動いている時間で、残りの9.1%は充電器につながっている時間になる。先行提供は2027年前半、本格的な販売は同年末の予定で、いずれも実機で測った値ではなく公表された仕様である。
この計算は、充電以外の停止がないことを前提に置いている。作業の切り替え、点検、故障、待機のいずれも差し引いていない。現場で21.8時間が出るかどうかは、電池ではなく運用の組み立てで決まる。
比率を5倍にしても稼働は1.36倍で、かわりに充電時の電力が10倍になる
比率を上げても、効果は頭打ちになる。Digit 4 の2対1なら、動いている割合は3分の2の66.7%で、1日あたり16.0時間にとどまる。10対1にすると90.9%の21.8時間。比率を5倍にしても、稼働時間は1.36倍にしか伸びない。90.9%の先にあるのは100%だから、これ以上上げても取り戻せるのは1日2時間ほどしか残っていない。
かわりに重くなるのが電力である。90分ぶんのエネルギーを9分で戻すのだから、充電のあいだに送り込む電力は、動いているあいだに使う電力のおよそ10倍になる。空の状態から満充電までを9分で終えるなら、容量ぶんを1時間で充電する速さを1Cと呼ぶ物差しで6.7Cにあたる。同社はこれを、ロボットが自分で充電器につながる大電流の直流充電だと説明している。
Digit 5 の電池容量は公表されていないため、電力は他の製品から見当をつけるしかない。Figure が公表した F.03 の電池は2.3キロワット時で5時間動くから、平均の消費電力は0.46キロワットになる。Digit 5 が同じ水準なら、充電時に使う電力は4.6キロワット前後になる。1台で家庭用エアコン数台ぶん、100台なら数百キロワットの受電設備が要る計算になる。本誌の見立てでは、比率を上げる設計は電池の問題をロボットから建物の電気設備へ移し替えている。
もう一方の進め方は、1回の充電で8時間動かす設計にある
同じ「1日働く」を、逆の方向から解いているロボットもある。CATL のセルを積んだ Galbot S1 は最大8時間の連続稼働ができる。CATL は自社の電池工場の製造ラインにこのロボットを導入し、2026年6月に Galbot と世界規模の提携を結んだ。セルは粒の大きさを段階的に変えた正極、リチウムの消費が少ない負極、自己修復する電解液を組み合わせ、セルの不良率は10億分の1の水準だと同社は記している。Galbot S1 自体は、両腕で50キログラムを運び、カメラだけでセンチメートル単位の位置を測り、360度どの向きからでも障害物をよける。
トタルエナジーズ傘下の Saft も同じ方向にいる。Mirokaï 向けの電池パックは同社の MP176065 xec セルで組まれ、ポワティエの工場で専用に作られる。動かせる時間は最大8時間。これまでに28台の試作機ぶんが納められ、生産は2026年から拡大する見込みで、Enchanted Tools は今後10年で10万台という目標を掲げている。
Figure の F.03 は5時間で、この2つと Digit 5 の中間にあたる。同社は3世代でエネルギー密度を94%高め、電池を胴体に直接組み込み、国連・UL・IEC の安全規格の認証と、短絡に備えた内部の遮断機構を2つ備えた。ダイカストや射出成形といった量産向けの工法を使い、年1万2,000台の製造規模を目標にしている。Unitree G1 はおよそ2時間で、抜き差しできる電池を持つ。動く時間は使い方と構成で変わる。
2つの進め方が電池に求めるものは正反対である。長く動かすほうに要るのは、重さあたりのエネルギーが大きいセルである。90分で回すほうに要るのは、短時間に大電流を受けても壊れず、発熱を抑えられるセルと、それを支える充電設備である。どちらも「1日使える」という同じ言葉で語られるが、買う部品が違う。
7社は7つの段階に分かれ、ロボットに載ったか契約があるのは2社である
電池のセル、パック、材料という3つの分野に7社が並ぶ。ところが並べ直すと、分野の違いよりも、商談がどこまで進んだかの差のほうが大きい。
| 企業 | 上場市場と銘柄コード | 分野 | 公表されている中身 | 段階 |
|---|---|---|---|---|
| CATL | 深セン 300750 | 電池セル | Galbot S1 に電力を供給するセル | 実際に使われている |
| Saft | 親会社トタルエナジーズ ニューヨーク TTE | 電池パック | Mirokaï 向けの専用パック | 供給契約 |
| LGエナジーソリューション | 韓国 373220 | 電池セル | 主要なロボット企業6社へ供給 | 供給を表明 |
| サムスンSDI | 韓国 006400 | 電池の開発 | 現代自動車と起亜とのロボット用電池 | 共同開発で合意 |
| アンプリウス | ニューヨーク AMPX | シリコン負極セル | ロボット向け高密度セル | 販売中 |
| EVEエナジー | 深セン 300014 | 電池セル | ヒューマノイド向けの高エネルギー密度電池 | 技術を開発中 |
| ポスコ・フューチャーM | 韓国 003670 | 電池材料 | シリコン負極材、生産は2028年を目標 | 材料を開発中 |
7社が7つの違う段階にいる。ロボットに載って動いていると確かめられるのは CATL の1社、契約の形が公表されているのは Saft の1社で、残る5社は供給を表明した段階か、開発と販売の途上にとどまる。ロボットはどの会社にとっても事業の一部でしかなく、示されているのは技術のうえでの役割であって、同じ客を持つと確かめられたわけでもない。
現代自動車・起亜・サムスンSDIの3社は、ロボットのエネルギー密度・出力・稼働時間を高める高性能の電池を共同で開発することで合意している。現代自動車と起亜のロボット研究所がロボットでの評価と性能の向上を担い、サムスンSDIが容量の大きい材料を開発する分担になる。電気自動車用の電池をそのまま転用するのではなく、ロボット専用として設計し直す枠組みである。
充電の速さは既存のセルで足り、詰まっているのは高密度側の材料である
2つの進め方は、部品の準備の進み方でも差がついている。
充電の速さのほうは、すでに手が届いている。CATL は2023年に世界初の4C の超急速充電電池を出し、10分の充電で400キロメートルの走行に相当するとした。2026年4月に公表した第3世代は10C相当、最大で15C に達し、10%から80%までを4分未満で充電する。Digit 5 が求める6.7C 相当は、電気自動車向けの最新のセルがすでに超えている水準にある。9分充電という仕様が成り立つかどうかは、セルの材料よりも、熱を逃がす設計と充電設備のほうで決まる。
高密度のほうは材料が間に合っていない。ポスコ・フューチャーMはシリコン負極材の量産技術を確保したと2026年5月に公表したが、商用の生産は2028年を計画している。同社によればこの材料は従来の黒鉛の負極の4倍を超えるエネルギーを蓄えられ、シリコンの混ぜる割合が20%を超える条件でも、1,000回の充放電の後に初期容量の80%超を保った。同社はヒューマノイドと空飛ぶクルマを伸びしろのある用途に挙げている。アンプリウスのシリコン負極セルは最新の世代で1キログラムあたり400ワット時に近いところまで来ているが、ロボット向けには販売と実証の段階にある。
つまり、Digit 5 が2027年前半に先行提供へ入るのに対し、8時間側の性能を押し上げる材料の量産は2028年に置かれている。同じ「1日使える」を目指していても、部品がそろう順番は1年ずれる。本誌の見立てでは、当面の量産は既存のセルで成り立つ90分のほうが先に進み、8時間のほうは材料の量産が立ち上がるのを待つ形になる。
日本の接点は、電池そのものよりロボットの国内販売にある
7社に日本企業は入っていない。日本の読者がこの供給網に触れる点は、いまのところロボット本体の側にある。
兼松(8020)は2025年9月8日、Enchanted Tools と Mirokaï の国内販売契約を結んだ。Saft のパックが入っている、まさにそのロボットである。Mirokaï は身長123センチメートル、重さ26キログラムで、頭部のカメラで表情を読み取り、大規模言語モデルを使って日本語で受け答えする。兼松は正規の販売代理店として長倉製作所と組み、国内の保守と支援の体制を整える。フランスの医療機関で患者への対応に効果があると確かめられており、日本では接客、小売、事務、医療、介護、教育での人手不足への対応が見込まれている。
電池そのものでは、パナソニックエナジーのような日本のセルメーカーが同じ分野にいる。どのロボットに載るかを公表した例は確かめられていないため、同じ分野の会社として挙げるにとどめる。ロボット側はAgility Robotics、Unitree、Galbotを、セル側はCATLとEVEエナジーを、当サイトのロボット関連企業の一覧と蓄電事業データベースに収めている。
ロボットを作る会社だけを追うと、この供給網は見えない。競合する複数のロボットメーカーへ売れる位置にいる会社は、1社の成否に縛られないからである。ただし7社のうち5社は、まだ売れているのではなく、売ろうとしている段階にある。1日20時間超という数字を作っているのは電池の容量ではなく、90分と9分という2つの時間の配分であり、その配分を選んだ時点で、必要な部品と設備が決まる。
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