製造業の従業員1万人あたりで何台のロボットが動いているか。この物差しで日本は1994年から2009年まで世界首位を保ったが、2024年は446台で4位に下がった。ただし台数そのものは前年から27台増えている。

国際ロボット連盟(IFR)が2026年4月8日に公表した2024年実績で、首位は韓国の1,220台だった。2位シンガポール818台、3位ドイツ449台、4位が日本の446台と続く。世界平均は132台である。順位を落とした国が導入を止めたわけではない。日本の密度は前年の419台から446台へ増えており、抜かれたのは絶対量ではなく増やす速さだった。本稿は30年分の順位の動きを追い、その途中で統計の分母が書き換わった経緯、そして作る国と使う国のずれを日本企業の実数で確かめる。円換算は2026年8月7日の為替(1ドル=157.54円、セントルイス連邦準備銀行の公表値)による概算である。売買の推奨や評価は示さない。

1994年から2024年まで、日本の位置が動いた瞬間は3回ある

ロボット密度の世界順位の推移
ロボット密度の世界順位の推移

順位表を5年刻みで並べると、日本の位置が動いた瞬間は3回に絞られる。

1994年の首位は日本で、以下スウェーデン、ドイツ、イタリア、フランス、フィンランド、韓国と続く。1999年と2004年も日本が首位を守り、2位にドイツ、3位に韓国が上がってくる。2009年まで日本の首位は続いた。ここまでが15年である。

最初の転換は2014年に起きた。韓国が日本を抜いて首位に立ち、日本は2位に下がる。2度目は2019年で、シンガポールが2位に入り日本は3位。3度目が2024年で、ドイツが日本をわずかに上回り4位になった。ドイツ449台に対し日本446台、その差は3台である。

密度を年平均の伸びで見ると差の正体が見える。2019年から2024年にかけて、韓国は年平均7%、シンガポールは13%で伸びた。日本とドイツはともに5%である。日本は減速したのではなく、他国が加速した。同じ期間、世界平均は132台まで上がり、西欧は267台、北米は204台、アジアは131台になった。

密度は割り算である、そして分母のほうが大きく動いた

この統計を読むときに落としてはいけない点がある。ロボット密度は「稼働台数÷製造業の従業員数×1万」という割り算であり、分子と分母の両方が動く。分母が変われば、1台も導入していなくても密度は変わる。

その実例が中国で起きた。IFRが2024年11月に公表した2023年実績では、中国の密度は470台で世界3位、ドイツと日本を初めて上回ったと報じられた。ところが2026年4月公表の2024年実績で、中国は166台とされ、アジア6位・世界22位に位置づけられている。前年比では17%増と書かれており、台数が減ったのではない。中国国家統計局が示す製造業の従業員数、つまり分母の見直しに伴って水準が書き換わった。

絶対量で見れば中国の存在感は変わらない。IFRによれば中国の稼働台数は約200万台で、2位の日本の約4.5倍にあたる。2024年に世界で新規設置されたロボットの54%(29万5,000台)が中国に入っている。台数では圧倒的でありながら、製造業で働く人の数がそれ以上に多いために、1万人あたりでは世界平均を下回る。「中国が日本を抜いた」という2024年の見出しと、「中国は22位」という2026年の統計は、どちらも同じ機関の発表である。順位を語るときは、分子と分母のどちらの話をしているかを確かめる必要がある。

分母の重みは他国でも確かめられる。米国の製造業雇用者数はセントルイス連邦準備銀行の統計で2026年7月に1,261万1,000人だった。米国の密度307台と掛け合わせると稼働台数は約38.7万台になる。日本の446台という数字も、製造業就業者が約1,000万人という規模を前提にした値である。密度は技術の普及度を測ると同時に、その国の製造業がどれだけの人を雇っているかを映す鏡でもある。

作る国と使う国は一致しない、日本は世界の46%を作っている

日本のロボット産業の実数と供給網
日本のロボット産業の実数と供給網

順位の後退と、産業としての強さは別の話である。IFRの集計で日本は世界のロボット生産の46%を担う最大の供給国であり、日系企業の売上高で数えれば世界シェアは65.9%に達する。使う場所としての順位は4位でも、作る場所としては首位を保っている。

その中核が有価証券報告書で確かめられる。ファナック(6954)は2026年3月期に売上高8,578億円・営業利益率21.4%、研究開発費450億円で、外国人持株比率は51.4%と過半を海外の投資家が占める。安川電機(6506)は売上高5,421億円・営業利益率8.7%。両社の利益率の差は、ファナックが工作機械の頭脳にあたる数値制御装置を握るのに対し、安川がモーターから機体までの製造に軸足を置く事業構成の違いを映す。不二越(6474)は工具と軸受を自社で持つ垂直統合型で、中堅製造業の自動化の受け皿になる。デンソーの子会社であるデンソーウェーブは小型の組み立てロボットとQRコード機器を手がける。

国内の需要側も統計で追える。内閣府の機械受注統計(e-stat API)によれば、産業用ロボットの受注額は2025年に8,337億円で前年比41.1%増と大きく伸びた。2024年の5,910億円から一気に回復しており、押し上げたのは外需である。2026年に入っても月あたり870億円から960億円の水準で推移する。国内の製造業が買う分だけでは、この伸びは説明できない。

密度で先を行く国の企業も市場に並ぶ。首位の韓国では協働ロボット最大手のドゥーサンロボティクスが2023年に上場し、6位デンマークのユニバーサルロボットは協働ロボットという分野そのものを切り開いて米テラダイン傘下に入った。両社に共通するのは、専門知識のない現場でも導入できる操作性を売りにした点である。日本の課題として指摘される中小企業の自動化に、先に答えを出した企業が密度上位国から出ている。

米国の開示では、工場の自動化への言及がむしろ減っている

投資家の関心の所在は、開示書類の言葉遣いに現れる。米上場企業の提出書類を全文検索すると、「factory automation(工場自動化)」への言及は2024年の308件から2025年274件、2026年(8月18日まで)245件へ減っている。「labor shortage(人手不足)」も986件から614件へ減った。「industrial robot(産業用ロボット)」は17件、19件、14件と横ばいである。

同じ期間に急増したのは別の言葉だった。光インターコネクトの言及は19件から80件へ、電力使用効率は51件から103件へ増えている。ヒト型ロボットへの言及も3年で100倍を超えた。米国企業の関心はAIのデータセンターと次世代のロボットに移り、既存の工場自動化は投資家向けの説明から相対的に退いている。日本のロボット各社の主戦場が、その退いた領域にある点は覚えておく価値がある。国内の受注が外需で伸びている一方、その外需の担い手である米国企業の関心は別のところにあるという、ねじれた構図が統計に出ている。

ロボットの関節にはレアアースが要る、その川上は中国にある

ロボット1台には多数のサーボモーターが入り、その回転子にはネオジム磁石が使われる。高温でも磁力を保つには、ジスプロシウムやテルビウムといった重希土類を混ぜる必要がある。中国は2025年4月から重希土類7品目を輸出許可制の下に置いており、中国域外の供給網はまだ細い。ロボットを作る力で世界の46%を持つ日本も、その関節の材料では川上を握っていない。

関連する日本企業を有価証券報告書の実数で並べると次のようになる。

企業役割直近通期の実数
信越化学工業 (4063)レアアース磁石の国内大手売上2兆5,740億円・営業利益率24.7%
大同特殊鋼 (5471)重希土類を使わないネオジム磁石を量産売上5,781億円・7.3%
TDK (6762)磁石とセンサー、研究開発費2,897億円売上2兆5,048億円・10.9%
双日 (2768)豪ライナスの重希土類を日本へ供給売上2兆7,574億円
豊田通商 (8015)インドでレアアース製錬、非中国調達網売上11兆5,619億円・4.7%

関節の駆動部品も日本勢が握る。波動歯車装置のハーモニック・ドライブ・システムズ(6324)は営業利益率4.3%、精密減速機のナブテスコ(6268)は6.7%、直動案内のTHK(6481)は6.0%。世界の産業用ロボットの関節を支える部品を持ちながら、利益率はロボット本体より低い。人型ロボットの価格競争が波動歯車の本家の利益を消した構図は、この数字にも現れている。

確かめられる点

検証は統計の公表日で追える。第1に、IFRの次回のロボット密度統計(例年1月から4月)で、日本とドイツの3台差がどちらに動くか。第2に、中国の密度が新しい分母で継続して集計されるか、再び基準が変わるか。第3に、内閣府の機械受注統計で産業用ロボットの外需がいつまで伸びるか。月次で追える。第4に、ファナック安川電機の中間決算(10月から11月)で、中国向けの比率がどう動くか。第5に、中国の重希土類の輸出許可の運用と、双日や豊田通商の非中国調達の実績。第6に、米国の開示書類で工場自動化への言及が減り続けるかである。

446台と1,220台の差は、技術の差ではなく投資の速さの差である。日本は作る力で世界の46%を持ちながら、自国の工場では4番目の密度で動いている。この非対称を埋める鍵として名前が挙がるのは、専門知識がなくても導入できる協働ロボットと、それを中小の現場へ届ける仕組みである。答えを先に出した企業が、密度で日本を抜いた国から出ている点に、この統計が投げる問いが集まっている。