キオクシアが示した見積もりでは、リモートストレージ1ノードの消費電力は従来の290Wから112Wへ下がる。転送効率は0.725W/Gbpsから0.219W/Gbpsへ改善し、同じ契約電力の枠に約2.6倍の機器を置ける計算になる。

光ファイバーで結ぶSSD、いわゆる光SSDの効果は、性能ではなく電力の帳簿に現れる。キオクシアは技術資料で、現行のNVMe over Fabrics構成と、PCIeを直接光に変える構成の消費電力を部品ごとに並べた。数字は1ワット単位で追える形になっている。本稿はその見積もりを検算し、光部品を足すのに費用が下がる理屈、電気料金の実額、そして光源を独占供給する売上13億円の日本企業までを追う。円換算は2026年8月7日の為替(1ドル=157.54円、セントルイス連邦準備銀行の公表値)による概算である。売買の推奨や評価は示さない。

290Wの内訳を開くと、6割はデータを運ぶための「通訳」だった

従来構成と光SSD構成の消費電力比較
従来構成と光SSD構成の消費電力比較

従来のNVMe over Fabrics構成は4つの部品でできている。光トランシーバー10W、RDMA対応NIC 30W、16コア以上のCPU 150W、SSD 4台で100W(1台25W)。合計290Wで400Gbpsを運ぶ。1Gbpsあたり0.725Wである。

内訳の意味は明白だ。データを保存するSSD本体は100Wで、全体の34%にすぎない。残る190W、つまり66%はデータを運ぶための処理に消えている。中でもCPUの150Wが突出する。SSDが話すPCIeという言葉を、ネットワークが話すイーサネットとRDMAという言葉へ翻訳するために、16コア級のCPUが常時働かされているためだ。キオクシアの資料が「CPU負荷が重い」と名指ししているのはこの部分である。

対する光SSD構成は2つの部品しかない。光電変換モジュールが4個で12W(1個3W)、SSD 4台で100W。合計112Wで512Gbpsを運ぶ。1Gbpsあたり0.219W。翻訳をやめてPCIeの信号のまま光に変えるため、CPUもNICも要らなくなる。帯域が400Gbpsから512Gbpsへ増えているのは、PCIe 5.0の32Gbpsを4レーン束ねたものをSSD 4台分足した値だからである。

検算するとこうなる。消費電力は290Wから112Wへ178W減り、削減率は61.4%。転送効率は0.725から0.219W/Gbpsへ改善し、改善率は69.8%、倍率にして3.31倍になる。電力が減ると同時に帯域が28%増えるため、効率の改善が電力の削減率を上回る。

光部品を足すのに費用が下がる、その順序を追う

「光の部品は高い。追加すれば初期費用が膨らむのではないか」という疑いは、構成図を見れば解ける。光SSDは光部品を足すのではなく、光部品に置き換えてより高価な部品を丸ごと外す設計だからだ。

外れるのは2つ。1つはRDMA対応NICで、400G級の製品はサーバー部品の中でも高価な部類に入る。もう1つは、翻訳のためだけに載せていた16コア級のCPUと、それを支えるマザーボードや冷却機構である。加わるのは光電変換モジュール4個だけで、この置き換えの差引がどちらに転ぶかが初期費用の分かれ目になる。消費電力では、12Wの追加で180Wの削減が成立している。同じ構図が部品価格でも成り立つかは各社の調達条件によるが、少なくとも「光を足すぶん高くなる」という理解は、外れる部品を勘定に入れていない。

構成が単純になる効果は、ここで終わらない。従来の銅配線でPCIeを引き回すと信号が減衰し、数十センチしか届かないため、発熱の大きいCPUとSSDを同じ筐体に押し込む必要があった。光にすればキオクシアのコンセプトモデルで確認された40mまで伸ばせる。計算する機械と記憶する機械を別の場所に置き、それぞれに合った温度で冷やせるようになる。冷却は電力を最も食う工程の1つで、この分離が効くと、機器そのものの電力削減に加えて空調の電力も下がる。

電気料金で数えると、1ノードあたり年間4万8,000円が消える

節約の額は掛け算で出る。178Wを1年間(8,760時間)動かし続けると1,559kWh。米セントルイス連邦準備銀行が公表する2026年7月の電気料金は1kWhあたり0.197ドルで、8月7日の為替では約31.0円になる。1,559kWh×31.0円で、1ノードあたり年間約4万8,300円が消える計算だ。1,000ノードなら年間約4,830万円になる。

これは機器そのものの電力だけを数えた額である。データセンターは機器1Wを動かすために空調や電源損失で追加の電力を使い、その比率をPUEと呼ぶ。仮にPUE 1.5で計算すると削減は267W相当となり、1ノードあたり年間約7万2,500円、1,000ノードで約7,250万円へ膨らむ。機器の分離配置で冷却効率がさらに上がれば、この額は増える。NEDOの事業目標が「データセンター全体で40%以上の省エネ化」に置かれているのは、機器と空調の両方を数えているからである。

節約の価値そのものが上がっている点も見逃せない。米国の電力の生産者物価指数は2026年5月の302.718から7月の341.966へ、わずか2か月で13.0%上昇した。電力を配る事業の物価指数も同期間に9.6%上がっている。電気が高くなるほど、消費電力を6割削る技術の投資回収は速くなる。開示の側でも動きは出ており、米上場企業の提出書類で「power usage effectiveness(電力使用効率)」への言及は2024年の51件から2026年(8月17日まで)の103件へ倍増、「optical interconnect(光インターコネクト)」は19件から80件へ4.2倍になった。電力効率は、技術者の関心事から投資家向け開示の言葉へ移りつつある。

本当の争点は電気代ではなく、契約電力の上限である

費用対効果を電気料金だけで測ると、この技術の意味を半分しか捉えられない。AIデータセンターが直面している制約は「電気代が高い」ではなく「契約している電力の上限に達して、これ以上サーバーを置けない」という物理的な壁だからだ。床は空いていても、受電設備の容量が足りなければ増設できない。

この壁に対して、消費電力の削減はそのまま設置できる台数に置き換わる。例えば500kWの電力枠を全てストレージノードに充てると仮定する。従来構成は1ノード290Wだから約1,724ノード。光SSD構成は112Wだから約4,464ノードで、2.59倍になる。空調を含めて同じPUEで計算しても比率は変わらない。帯域で数えれば差はさらに開く。従来構成の400Gbps×1,724ノードに対し、光SSD構成は512Gbps×4,464ノードで、同じ電力枠から取り出せる転送能力は3.31倍になる。

受電設備の増設は変電所の容量や送電線の空きに左右され、数年単位の待ちが生じる地域もある。工事を伴わずに設置台数を2.6倍にできるなら、それは事業者にとって費用の削減ではなく、売れる容量そのものの拡大を意味する。AI設備投資が2031年に年1兆6,360億ドルへ向かうなかで、電力枠は資金より先に尽きる資源になりつつある。

開発体は大企業5社、しかし光源は売上13億円の1社が握る

光SSD連合の実数と供給網の急所
光SSD連合の実数と供給網の急所

この技術は1社の製品ではなく、NEDOグリーンイノベーション基金(JPNP21029)の共同開発体から生まれた。キオクシアがSSD本体、アイオーコアが5mm角のシリコンフォトニクス光トランシーバー「IOCore」、京セラが光電気混載モジュール「OPTINITY」を担い、古河ファイテルオプティカルコンポーネンツ、富士通NECも参画する。研究開発の期間は2026年3月までで、同年4月以降は段階的な社会実装の段階へ移った。

有価証券報告書の実数を並べると、開発体の顔ぶれは日本の代表的な大企業である。

企業直近通期の売上高営業利益率研究開発費 (売上比)
キオクシアHD (285A)2兆3,376億円37.2%1,411億円 (6.0%)
富士通 (6702)3兆5,030億円9.9%1,373億円 (3.9%)
NEC (6701)3兆5,827億円10.0%1,052億円 (2.9%)
京セラ (6971)2兆702億円5.7%1,157億円 (5.6%)
古河電気工業 (5801)1兆3,076億円4.9%284億円 (2.2%)

ところが供給網をさかのぼると、様相が変わる。アイオーコアの光トランシーバーに入る光源、量子ドットレーザーを供給しているのはQDレーザ(6613)である。富士通研究所発の専業で、2026年3月期の売上高は13.7億円、営業損益は3.3億円の赤字、社員は約60人。キオクシアの売上の1,700分の1に満たない規模の会社が、光SSDの光を作っている。同社の量子ドットレーザーは高温でも発振波長が動きにくく、温度制御の回路を省けるため、機器の中に光源を組み込む用途で採用が進む。開発体の総売上は12兆円を超えるが、その先端に立つのは時価総額で3桁小さい1社という構図になっている。

光源の土台はガリウム、その9割超を中国が握っている

供給網をもう一段さかのぼると、金属の問題に行き着く。量子ドットレーザーはヒ化ガリウム(GaAs)を土台に作られる。そのガリウムは、中国が世界の精錬の大半を握る金属である。中国は2023年8月に許可制を導入し、2024年12月には米国向けを全面的に止め、2026年1月には日本向けの管理も強化した。国際価格は規制前の約3倍の水準が続く。

日本側にも足場はある。GaAs基板の加工では世界シェアの約4割、窒化ガリウム(GaN)基板では約96%を日本勢が担う。基板を作る力は残っているが、原料のガリウムそのものは中国からの輸入に頼る構図が続く。光配線のもう1つの急所であるリン化インジウムでも、精錬インジウムの約70%を中国が握り2025年から輸出管理が強化された。光でデータを運ぶ技術は、レアアースではなくガリウムとインジウムという2つのレアメタルの上に建っている。この川上に立つ日本企業を実数で並べると、亜鉛や銅の製錬から副産物を回収する三井金属(5706、営業利益率17.3%)とJX金属(5016、19.8%)、DOWAホールディングス(5714、4.6%)、住友金属鉱山(5713)が並ぶ。製錬会社としては高い利益率が、代替の難しさを示している。

確かめられる点

検証は公表の日付で追える。第1に、2026年4月から始まった社会実装で、光SSDを採用するデータセンター事業者の名前が出るか。第2に、キオクシアの四半期決算で光SSDが製品として計上される時期。第3に、アイオーコアの量産計画が動けばQDレーザの量子ドットレーザーの売上に表れるため、同社の決算(次回は11月)で研究開発向け以外の売上が立つか。第4に、NEDO事業が掲げる「2030年までに40%以上の省エネ化」に対する中間報告。第5に、中国のガリウム輸出管理の運用と国際価格。第6に、米上場企業の開示で電力使用効率への言及が増え続けるかである。

290Wを112Wにする技術の価値は、電気代の4万8,000円ではない。受電設備を増やさずに置ける機器が2.6倍になるという、事業の天井そのものを動かす点にある。そしてその技術の光源をたどると、売上13億円の会社と、中国が9割を握る金属に行き着く。AIの計算能力を巡る競争は、最後は金属と電力の話になる。