さくらインターネットがGPU事業で得た4~6月期の売上高は、GPU1基当たり1時間約400円だった。米大学教授の手法で算出した同社の採算ラインは約480円で、これを下回る。ただ、投資額から補助金分を差し引くと採算ラインは約270円まで下がり、実際の売上高がこれを上回る。

米コロンビア大学ビジネススクールのスティン・ファン・ニューワーバーグ教授は、米国で2025~2032年に増加するデータセンターへの投資を回収するには、GPU1基を1時間当たりいくらで貸し出す必要があるのかを試算した。米ブルッキングス研究所の会議で9月に発表した論文「AIインフラ整備の資金調達」の付録によると、フル稼働なら1時間約5.5ドルになる。教授は、この水準は現在のエヌビディア製の高性能GPUの利用料金とおおむね合っており、非現実的な水準ではないとみる。論文の推計の詳細は既報のAIデータセンター投資の回収に年3.7兆ドルの売上が必要とする記事で伝えた。本稿では、GPUを時間単位で貸し出している上場企業のさくらインターネット(3778)の決算と料金表に、同じ計算方法を当てはめた。

データセンター投資の回収にはGPU1基当たり1時間5.5ドル、稼働率8割なら6.9ドルが必要

論文は標準シナリオとして、2032年までに米国で新たに完成するデータセンターの電力容量を182.7ギガワットと想定した。初期費用は8兆5380億ドルで、建設期間中の金利負担を含めた投下資本は9兆6140億ドルになる。教授は費用の68%を占めるIT機器の耐用年数を6年、建物や電力設備など残りの32%を20年とし、借り入れに頼らずに年10%の投資利回りを確保するのに必要な営業キャッシュフローを年1兆8620億ドルと計算した。毎年、投下資本の19.37%を回収する必要がある計算だ。売上高に対する営業キャッシュフローの比率を50%とすると、必要な売上高は投下資本の38.74%にあたり、2032年に年3兆7250億ドルになる。同年の米国の名目GDP(40兆4810億ドル)の9.2%にあたる。論文は、この計算がAI関連の売上高を予測したものではないと断っている。

教授はこの売上高を、データセンター業界の指標に換算した。施設全体の電力1メガワットあたりでは年約2040万ドル、月約170万ドルになる。電力使用効率(PUE)を1.2とすると、IT機器の電力1メガワットあたり年約2450万ドル、GPUが使う電力1キロワット時あたり2.79ドルだ。PUEは施設全体の電力をIT機器の電力で割った値で、1.2なら冷却などにIT機器の2割分の電力を使う。

GPU1基当たりの料金への換算には、エヌビディアのラック型サーバー「GB300 NVL72」を用いた。1ラックにGPUを72基搭載し、消費電力は約142キロワット、価格は400万ドル。ネットワーク機器などを含めると480万ドルになる。

182.7ギガワットはラック約107万台、GPU約7700万基に相当する。すべてのGPUをフル稼働させる前提では、GPU1基当たり1時間約5.5ドルの売上高が必要になる。稼働率が下がれば必要な料金は上がり、80%なら1時間約6.9ドル、70%なら約7.9ドルとなる。

IT機器の耐用年数を3年とすると、年間に回収すべき額は投下資本の31.10%に増え、必要な売上高は約6兆ドル(GDPの14.8%)に膨らむ。GPU1基当たりでは、1時間約8.8ドルの売上高が必要になる。

本誌は、論文の前提に基づいて計算し直した。182.7ギガワットを1.2と142キロワットで割ると、ラックは107万2000台、GPUは7720万基となる。GPU1基当たり1時間の必要売上高は5.51ドルで、稼働率80%なら6.89ドル、70%なら7.87ドル、耐用年数を3年とすると8.84ドルとなり、論文の数値と一致した。

必要な売上高は、GPU1基当たり年間約4万8000ドルになる。なお、論文本文では増設量を182.8ギガワットとしている一方、付録の表では182.7ギガワットとしている。これは端数処理による差とみられる。

米国のGPU利用料金は1時間6〜10ドル超、焦点は需要の確保と料金の維持

教授によると、エヌビディア製の高性能GPUの利用料金は、使いたいときに借りるオンデマンドや短期の契約で1時間約6ドルから10ドル超だ。長期契約や、空き容量を割安で提供するスポット契約では、実勢価格はこれより安い。米クラウド企業コアウィーブの料金表では、9月28日時点のGPU1基1時間のオンデマンド料金は、GB200 NVL72が10.50ドル、HGX B200が8.60ドル、HGX H200が6.31ドル、HGX H100が6.16ドルだった。最新のGB300 NVL72の料金は公表しておらず、個別に見積もる。

5.5ドルは、この範囲の下限をやや下回る。教授は、必要な売上高は最新GPUの現在の利用料金からみて非現実的な水準ではないとしたうえで、課題は2つあると指摘した。1つは、約180ギガワットの新たな設備を高い稼働率で動かせるだけの需要が見込めるかどうか。もう1つは、設備が増え、米アマゾン・ドット・コムなどの大手クラウド事業者、そのほかのクラウド事業者、AI開発企業の競争が激しくなっても、料金を今の水準に保てるかどうかだ。論文は参考として、米オープンAIと米アンソロピックの年間売上高は合わせて約1000億ドルで、3兆7250億ドルに届くには2032年まで年約80%のペースで伸び続ける必要があると記している。

さくらインターネットのH100は1時間900円(税抜き)、12か月契約なら437.5円相当

さくらインターネットの仮想サーバー型GPUサービス「高火力VRT」は、H100を1基利用するプランの1時間当たりの料金(同社は「時間額」と呼ぶ)が税込み990円。日額は2万3100円、月額は38万5000円となっている。7月1日には、一定期間の利用を約束した顧客向けに料金を割り引く「期間コミットプラン」を設け、6カ月契約では5%引きの月額36万5750円、12カ月契約では10%引きの月額34万6500円とした。旧型のV100は1時間当たり481円で、2027年3月末に提供を終了する。

税抜きで1時間あたりに換算すると、1時間単位の料金は900円、月額(30日で割る)は486円、12か月契約は437.5円になる。4〜6月の平均相場の1ドル=159円39銭(欧州中央銀行の参考為替相場)でドルに換算すると、それぞれ5.65ドル、3.05ドル、2.74ドルだ。論文の指摘どおり、さくらインターネットでも長く借りる顧客ほど料金は安く、12か月契約は1時間単位の料金の半分以下になる。1時間単位の料金の5.65ドルは、論文がフル稼働で必要とした5.5ドルをわずかに上回るが、稼働率80%の6.9ドルは下回る。ただ、H100は2022年に発表された世代で、GB300より性能が低い。性能の低い世代の料金を、最新世代を前提にした論文の必要額とそのまま比べることはできない。

さくらインターネットのGPU事業、4~6月期の売上高は47億円GPU1基・1時間約400円

さくらインターネットの2026年3月期の売上高は353億100万円と前期比12.4%増えたが、GPU関連の減価償却費などがかさみ、4億365万円の営業損失を計上した。GPUを貸す事業(GPUインフラストラクチャーサービス)の売上高は81億4400万円で、前期の67億7100万円から20.3%増えた。同社は決算説明資料で、AI市場の競争が激しくなり「販売単価の調整」が続いたと説明した。市場の需給を踏まえて価格戦略を見直したという。下期は大口案件を獲得し、稼働率は改善した。競争が激しくなれば料金を保ちにくいという論文の懸念に通じる動きは、同社では2026年3月期にすでに表れていた。

2026年4〜6月期は業績が一転して改善した。売上高は111億3400万円と前年同期比48.6%増え、営業利益は12億3000万円と、前年同期の4億5700万円の赤字から黒字に転じた。GPU事業の売上高は47億1800万円と、前年同期の13億6300万円の3.5倍(245.9%増)になった。同社は、前期に増やしたH200とB200に加え、既存のH100も高い稼働率で動いたと説明する。同社は通期の業績予想を上方修正し、売上高を455億円(従来予想は450億円)、営業利益を25億円(同15億円)とした。4月に示したGPU事業の通期計画は184億円で、4〜6月期の売上高を4倍した188億7200万円はこれを上回る。

同社の決算説明資料によると、生成AI向けに設置したGPUは、概算でH100が2840基、H200が1072基、B200が約1500基で、合計約5400基となる。GPU事業の4~6月期の売上高47億1800万円を、資料に記載されたGPU台数を合計した5412基と、2184時間(91日)で割ると、GPU1基当たり1時間約399円(約2.50ドル)となる。

ただし、これは本誌による推定値で、実際の金額より低めに算出されている可能性がある。仮想サーバー型の「高火力VRT」やコンテナ型の「高火力DOK」の売上高はクラウド事業に、推論APIなどの「さくらのAI」の売上高はその他サービスに計上されているためだ。算出に使った5412基には、これらのサービスに利用されているGPUも含まれるとみられる一方、その売上高はGPU事業の売上高には含まれていない。

GPU1基1時間あたりの採算ラインと、さくらインターネットの料金・売り上げ
GPU1基1時間あたりの採算ラインと、さくらインターネットの料金・売り上げ

図1 — GPU1基1時間あたりの採算ラインと、さくらインターネットの料金表・4〜6月期の売り上げ(論文、同社の決算説明資料と料金表から本誌作成)

データセンター投資の採算ラインは約480円、国の補助金分を差し引くと約270円

さくらインターネットは、生成AI向けのGPU基盤に合計約1130億円を投じる計画を立て、経済産業省の「クラウドプログラム」の認定を得て、最大575億円の助成を受ける。助成は補助の対象となる事業費の半分だ。2026年3月期末までに投じたのは521億円で、主な内訳はGPUが434億円、コンテナ型データセンターが78億円だ。今あるGPU約5400基は、この521億円で調達した。残りは発電機棟(44億円)の建設のほか、データセンター第3期や次世代GPUの調達に充てる計画だ。助成金は設備の取得価額から直接差し引く圧縮記帳で処理しており、2026年3月期末の圧縮記帳額の累計は226億9991万円だった。同期の設備投資は、圧縮記帳の143億1169万円を差し引いた後で225億5322万円となっている。助成の一部は補助金収入として営業外収益にも計上され、2026年3月期は6億1700万円だった。

本誌は、論文と同じ前提(利回り10%、IT機器の耐用年数6年など)を、投資済みの521億円に当てはめて試算した。投資を回収するために必要な売上高は年間約227億円(投資額の約44%)で、GPU1基当たり1時間約479円(約3.01ドル)となる。

圧縮記帳の累計額約227億円を国の補助金分として差し引き、294億円を投資額として計算すると、必要な売上高は年間約128億円、GPU1基当たり1時間約270円(約1.70ドル)まで下がる。

同社の採算ラインが論文の5.5ドル(約877円)より低くなるのは、同社のGPU1基当たりの投資額が約960万円(約6万ドル)と、論文が想定するGB300の約11万ドル(施設費を含む)より小さいためだ。

論文では、費用の32%(GPU1基当たり約3万5000ドル)を建物や電力設備に充てている。一方、同社の521億円には、コンテナ型データセンターの費用78億円(GPU1基当たり約9000ドル)が含まれるが、既存のデータセンターの建物や電力設備の費用は含まれていない。

4〜6月期の売り上げの約399円は、補助金分を差し引かない場合の採算ライン(約479円)の8割強にとどまるが、補助金分を差し引いた採算ライン(約270円)は約5割上回る。ただ、論文は建設期間3年の金利負担と、費用に占めるIT機器の比率68%を前提にしている。数か月で設置でき、投資の8割強をGPUが占める同社に当てはめると、採算ラインは上にも下にもずれる可能性がある。既存の施設の費用を含めれば、採算ラインはさらに上がる。

さくらインターネットのGPU事業の売上高と、設置したGPUの数
さくらインターネットのGPU事業の売上高と、設置したGPUの数

図2 — さくらインターネットのGPU事業の売上高と設置したGPUの数(同社の決算説明資料から本誌作成)

同社は7月28日、エヌビディアの次世代GPU「ルービン」への投資を決め、2027年1〜3月に設置する予定だ。論文が米国について1時間5.5ドルとした採算ラインを、同社の投資額で計算し直すと約480円になる。GPU事業の売上高だけで測ると、4〜6月期はその8割強で、国の補助金分を差し引けば上回る。企業情報はさくらインターネットの企業ページに、決算や開示資料はさくらインターネットの銘柄ページにまとめている。

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