手のひらに収まる25ワットのセラミック板を積み上げると、325キロワットの発電機になる。ブルームエナジーの四半期売上は初めて10億ドルを超えたが、同じ四半期報告書で保証引当は半年で3.9倍に膨らんでいた。

固体酸化物形燃料電池を「AI時代の電源」として説明する記事は増えた。本稿は台湾のテックニュースが2026年2月24日に出した解説の内容を残らず取り上げたうえで、データシートの公称値、米証券取引委員会に提出された四半期報告書、EDINET の有価証券報告書、e-Stat と FRED の統計に当たり、この技術が誰の売上になり、誰の費用になっているかを数字で確かめる。日本の読者にとっての答えは、その解説が触れていない場所にある。

燃やさずに電気を作る — 酸素イオンが電解質を通って電子を押し出す

一般の電池が「先に電気をためて、後で放電する」のに対し、固体酸化物形燃料電池は電気化学反応によって燃料を直接電力に変える発電技術である。原料は水素、天然ガス、メタンなど複数が使える。仕組みとしては、およそ500度から1000度の高温で動き続ける小型の化学発電所に近い。

固体酸化物形燃料電池はどう電気を作るか
固体酸化物形燃料電池はどう電気を作るか

図1 — 燃料と空気の入り口から電子の出口まで、各段の反応式と材料を対応づけた

燃料は陽極 (アノード) 側から入り、まず水素に変わる。天然ガスを使う場合、メタンは水蒸気質によって CH4 + H2O → 3H2 + CO へと分解される。この反応にはニッケル触媒と700度前後の熱が必要だが、固体酸化物形はそもそもその温度で動いているため、改質器を別に置かず内部で済ませられる。空気中の酸素は陰極 (カソード) から入り、固体電解質の中を移動できる酸素イオン O²⁻ になる。酸素イオンが電解質を通って水素と反応すると、水と二酸化炭素が生まれ、同時に電子が放出されて電流になる。

材料の側から見ると、この技術の核心は電解質にある。使われるのはイットリア安定化ジルコニアやスカンジア安定化ジルコニアという緻密なセラミックで、酸素イオンだけを通し電子は通さない。陽極はニッケルとジルコニアを混ぜたサーメット、陰極はランタン系のペロブスカイト酸化物である。テックニュースが「陽極と陰極は電解質に特殊なインクを塗って作り、貴金属も腐食性の酸も溶融塩も要らない」と書くのはこの構造を指す。固体高分子形が白金を必要とし、リン酸形や溶融炭酸塩形が液体の電解質を扱うのに対し、固体酸化物形はすべてが固体で、常温で扱える粉とインクから作れる。

副生成物は燃料によって変わる。天然ガスを直接使えば反応の過程で二酸化炭素が出るが、石炭火力やガス火力に比べれば排出は大きく減る。純水素を使えば二酸化炭素はほとんど出ない。データシートの公称値は次のとおりである。窒素酸化物は1メガワット時当たり0.001キログラム、硫黄酸化物はほぼゼロ、一酸化炭素は0.005キログラム。燃焼がないため、燃焼を伴う発電設備につきまとう大気汚染物質がここでは桁違いに小さい。二酸化炭素は308から378キログラムで、この幅は後段で効いてくる。

燃料と空気を供給し続ける限り、この反応は途切れずに発電を続ける。燃焼を伴わず、大量の冷却水も要らない。データシートは通常運転での水の消費を「なし」と明記する。冷却塔が不要という事実は、水利権の取得が難しい土地では立地の自由度そのものを変える。

25ワットの板を積み上げて325キロワットにする

産業から見た最大の長所は発電効率である。テックニュースはエネルギー変換効率が50から60%に達し、ガス火力の40から50%を大きく上回ると書く。単セルの寸法は小さいが、積層とモジュール化によって出力を段階的に大きくでき、電力変換装置と組み合わせればさらに効率を上げられる。

単セル25ワットから発電所規模へ
単セル25ワットから発電所規模へ

図2 — 5段の積み上げと、エナジーサーバー6.5 の公称仕様

最小単位である単セルは手のひら大で出力は数十ワット、ブルームエナジーの図では25ワットと示される。これを数十枚重ねてスタックにすると数キロワット級になり、さらにモジュール、装置全体へと統合してメガワット級以上を作る。実際の出力規模と構成は、製造元ごとのセル材料、積層方式、熱管理の設計によって少しずつ異なり、それが効率と大きさ、設置の自由度を左右する。

実際の数字を当てはめると、段階の説明が具体的な機械の姿になる。2026年2月4日版のデータシートによれば、エナジーサーバー6.5 の定格出力は交流正味325キロワットである。旧型の5.5では200キロワットだったから、1台当たりの出力が62.5%増えた。三相480ボルト、50または60ヘルツ。天然ガスの供給圧力は12から18 psig。質量は13トン、寸法は9.0メートル×1.3メートル×2.5メートルで、40フィートの海上輸送用コンテナより少し短い程度の細長い機械が屋外に据えられる。使用温度は氷点下20度から45度、騒音は3メートル離れて65デシベル未満である。

効率の数字は、この「50から60%」より慎重に読む必要がある。データシートは累積発電効率を「65から53%」と幅で書く。これは機種の違いではなく、同じ機械の新品時と寿命末期を指す。セルスタックは高温で劣化する消耗品で、時間とともに効率が落ちていく。だから二酸化炭素の排出も308から378キログラムと24%の幅がある。効率が落ちれば、同じ1メガワット時を作るのに多くのガスを燃やすためである。排熱は350度超で取り出せて熱効率は36%超、電気と熱を合わせた総合効率は90%超になるが、これは排熱の引き取り先がある設置場所に限った話で、引き取り先がなければ発電効率だけが意味を持つ。

車の燃料電池とは別の機械 — 起動の遅さが長所に変わった日

同じ水素の燃料電池でも、車に載る固体高分子形とは用途がまったく違う。固体高分子形は100度以下の低温で動き、起動が速いため、発停を繰り返す交通機関に向く。対する固体酸化物形は高温で動くので起動に時間がかかるが、発電効率が極めて高い。

同じ燃料電池でも別の機械
同じ燃料電池でも別の機械

図3 — 動作温度から用途まで9項目の比較と、国内で売られている機種の公表値

排熱の扱いはもっと大きな差を生む。固体酸化物形が出す高温の排熱はさらに回収して使え、蒸気、暖房、その他の工程に回せる。これが熱電併給であり、全体の効率は80%を超える。この「一度起動したら長時間運転し続ける」性質が、まさにデータセンターの電力の使われ方と合致する。

テックニュースが挙げた4項目の比較に、電解質の材料、動くイオンの種類、使える燃料、劣化の性質を足すと、両者が別の機械であることがはっきりする。固体高分子形が動かすのは水素イオン H⁺ で、陽極から陰極へ移動する。固体酸化物形が動かすのは酸素イオン O²⁻ で、向きは逆の陰極から陽極である。固体高分子形は事実上、高純度の水素しか使えない。膜と白金触媒が一酸化炭素で被毒するためで、都市ガスを直接入れることはできない。固体酸化物形は天然ガス、メタン、バイオガス、水素のいずれも使え、燃料の自由度がはるかに高い。

起動の遅さは長らく欠点として語られてきた。数時間かけて温度を上げなければならず、冷やして再び温める発停を繰り返せばセラミックに熱応力がたまって割れる。ところが2025年から2026年にかけて、この弱点は消えた。消したのは技術ではなく需要の性質である。AI向けデータセンターは24時間365日、負荷率をほぼ一定に保って動く。止めない機械にとって、起動の遅さは費用にならない。

二強は同じ製品を売っていない — セラミックと金属支持

市場の主役は2社である。一方のブルームエナジーは技術が最も成熟した世界最大手で、グーグル、アップルエヌビディアデータセンターが顧客に並ぶ。セラミック技術を看板に掲げ、動作温度は相対的に高い。費用は高いが発電の安定性が極めて高い。もう一方のセレスパワーは金属支持型を看板とし、動作温度は相対的に低く、冷熱の発停を多く繰り返しても耐えられる点が長所である。主に技術許諾で事業を広げ、台達電子と韓国の斗山グループがすでに許諾を得ている。

この2社の違いは、投資家にとっては損益計算書の姿の違いに直結する。ブルームエナジーは自ら工場を持ち、セルを焼き、スタックを組み、完成した発電機を売る。売上高は大きく伸びるが、設備投資と在庫と保証責任を自ら抱える。セレスパワーは工場を持たない。開発料、技術許諾料、そして許諾先が量産に入ってからの実施料で稼ぐ。売上の規模は小さいが、粗利率は構造的に高く、量産の負担は許諾先が負う。

セレスの許諾網は台湾だけではない。中国ではウェイチャイ・パワーが製造の許諾を得て、AI向けデータセンターや商業建築、産業用途に向けたセルとスタックの製造拠点を置く計画で、ボッシュの既存許諾を延長する形で中国市場に供給し、セレスは合弁会社のスタック販売から実施料を受け取る。韓国では斗山が量産を開始した。英国ではセントリカとの商用契約がある。日本の読者が「セレスパワー=台達電子」とだけ覚えると、この会社が実際には5つの地域に同じ技術を供与している事実を見落とすことになる。

台湾が部品の3割を握る — ホットボックス、電源装置、接続板

台湾は供給網で重要な役割を果たす。高力熱処理はブルームエナジーにホットボックス (高温反応容器) を供給し、康舒科技は電源装置を供給する。台達電子はセレスパワーと組み、2026年に台南工場で量産に入る予定である。

誰がどの部品を作っているか
誰がどの部品を作っているか

図4 — ブルームエナジー系とセレスパワー系の供給網、そして日本の位置

この3社に、本稿は4社目を加える。台湾の経済誌コモンウェルスの取材によれば、台湾企業はブルームエナジーの部品の約3割を占め、そこには康舒の電源装置、高力のホットボックスに加えて、ポライト台湾が作るクロム合金の接続板が含まれる。接続板は積層したセルを電気的につなぎ、燃料と空気の流路を分ける部材で、800度前後の酸化雰囲気に長時間耐える合金を精密に加工する必要がある。目立たない部材だが、ここが割れればスタック全体が止まる。

高力の数字は、この供給網がどれだけ急に膨らんだかを示す。2026年1月から3月期の売上高は34億2,000万台湾ドルで前年同期比238.6%増、純利益は6億台湾ドルで361.5%増、1株当たり利益は6.54台湾ドルと過去最高になった。受注の見通し期間は半年から1年へ延びた。2026年の設備投資は15億台湾ドルに引き上げられ、高雄・橋頭の新工場、桃園の増強、2026年末完工予定のタイ工場が同時に進む。生産能力は2027年下期に現状の3倍、2028年に6から7倍を目標に掲げる。康舒は3月の連結売上高が31億4,600万台湾ドル、企業向け電源が売上の38%を占め、燃料電池と米国データセンター向け電源が伸びの主因になった。

台達電子がセレスから得た許諾の対価は約4,300万ポンドである。対象は固体酸化物形の燃料電池と、逆反応で水素を作る固体酸化物形の水電解の両方で、台達は自社の電力変換の技術と熱管理の技術を組み合わせる。台南第2工場には台湾初となるメガワット級の水電解・燃料電池の研究拠点を置いた。2026年1月には日本の MODEC、エルドエナジーと組み、浮体式石油生産貯蔵積出設備への搭載でも手を組んだ。量産開始は2026年末の予定である。

四半期売上高10億ドルの裏で、保証引当が19倍になった

ここから先は台湾の解説が触れていない領域に入る。ブルームエナジーが2026年7月28日に米証券取引委員会へ提出した四半期報告書を読むと、市場が沸いた数字と、同じ書類に載っているもう一つの数字が並んでいる。

四半期売上高が初めて10億ドルを超えた会社の、別の数字
四半期売上高が初めて10億ドルを超えた会社の、別の数字

図5 — 損益の内訳、保証引当の急増、履行義務と顧客集中

2026年4月から6月期の売上高は10億6,536万5,000ドルで、前年同期の4億124万2,000ドルから165.5%増えた。四半期として初めて10億ドルを超えた。内訳は製品が9億3,541万3,000ドル (215.4%増)、設置工事が5,097万8,000ドル、保守が6,902万3,000ドル、電力販売が995万1,000ドルである。売上総利益は3億5,557万2,000ドルで利益率は33.4%、前年同期の26.7%から6.7ポイント善した。営業利益は1億8,223万7,000ドルで、前年同期の350万3,000ドルの赤字から転じた。純利益は1億9,885万6,000ドルである。

工程別に分けると見え方が変わる。製品の粗利率は36.5%、保守は18.7%、電力販売は31.1%だが、設置工事は原価5,282万9,000ドルが売上5,097万8,000ドルを上回り、3.6%の赤字である。製品原価には、緊急経済権限法に基づいて支払った輸入関税のうち3,740万ドルの戻し入れが含まれ、うち540万ドルはすでに返金されている。粗利率の改善には一時的な押し上げが混じっている。

そして貸借対照表である。保証引当は2025年12月末の2,001万3,000ドルから、2026年6月末には7,779万7,000ドルへ増えた。3.9倍である。内訳を見ると、製品性能引当は1,679万1,000ドルから1,679万ドルへとまったく動いていない。増えたのは製品保証引当だけで、322万2,000ドルから6,100万7,000ドルへ、18.9倍になった。半期のキャッシュフロー計算書でも保証引当の増加は5,778万4,000ドルと記録され、前年同期は456万6,000ドルの取り崩しだった。売上高が2.7倍になった半年で、保証引当は19倍に増えている。

この数字が何を意味するかは、図2で見た「65から53%」の幅に戻る。セルスタックは高温で動く消耗品で、数年ごとに交換する。交換の周期が長ければ10年、15年、20年の長期保守契約は利益を生み、短ければ赤字になる。会社自身が過去に「全機の平均で5年以上もてば保守事業は損益が均衡する」という趣旨の説明をしてきた水準が、その分かれ目である。保証引当が19倍に積まれたという事実は、その見積りが引き上げられたことを意味する。売上高の伸びを追う投資家が見落としがちなのは、この費用が数年遅れて損益計算書に現れることである。

受注残の報道と、監査対象の履行義務4億4,240万ドル

同じ報告書には、受注の実像を測るもう一つの数字がある。未充足の履行義務は2026年6月末で4億4,240万ドル、2025年12月末で3億9,440万ドルであり、主に製品販売と設置工事に関わるもので、顧客の工事日程に沿って今後1年から2年で売上高に振り替わると記されている。

報道や会社説明で語られる受注残と、この数字は別物である。前者は基本契約や覚書で示された上限値を積み上げた社外向けの数字で、後者は収益認識の基準に沿って監査の対象になる金額を指す。2026年に発表された大口契約は次々に大きくなった。1月にアメリカン・エレクトリック・パワーと26億5,000万ドル・20年・最大1ギガワットで合意し、4月にはオラクルと最大2.8ギガワットの基本契約を結んだ。ブルックフィールドとの50億ドルの提携は250億ドルの枠へ広がり、エクイニクスとは100メガワットで契約した。1月から3月の3カ月で76億5,000万ドルの案件が積み上がった。それでも履行義務は4億4,240万ドルで、半年の伸びは12%である。ギガワットで語られる約束と、四半期ごとに監査される金額の間には、実際の着工と据え付けに要する長い時間の隔たりがある。

顧客の集中も見ておく必要がある。4月から6月期は上位2社が売上の44%と21%を占め、うち2社目は関連当事者である。1月から6月期では単一の顧客が売上の約73%を占めた。関連当事者向けの売上は半期で3億7,608万ドルに達し、前年同期の2,986万ドルから12.6倍になった。報告書はブルックフィールドとの関係を、AI基盤ファンドのなかに置かれた共同出資会社の枠組みと説明し、これらの共同出資会社は「最終利用者ではなく事業資金の調達主体」だと明記する。売上の相手が発電機を使う会社ではなく、それを買って貸し出す資金の受け皿であるとき、需要の実体をどう測るかは投資家の判断に委ねられる。米国向けの売上比率は前年同期の59%から90%へ跳ね上がった。

オラクル向けの取引の会計処理も、決算資料を読むうえで意味を持つ。2025年10月28日、データセンター向けに現地で電源を供給する提携に伴い、会社はオラクルへ新株予約権を発行することに合意した。2026年5月1日に無償行使が完了して190万5,433株が発行され、純額決済を促すための追加交付24万8,798株の公正価値7,230万ドルが加わった。この対価は「顧客の顧客への支払い」として扱われ、対象の発電機が引き渡されるのに応じて売上高から差し引かれる。契約を得るために株式を渡した取引であり、将来の売上をあらかじめ減らす形で計上されている。

スカンジウムという、もう一つのボトルネック

2026年7月8日、投資と報道を兼ねるハンターブルック・メディアが、株価下落で利益を得る立場にあることを開示したうえで、ブルームエナジーの供給網に関する調査を公表した。中核の主張は、同社が「中国に依存しない」と説明してきたスカンジウムについて、国際貿易統計、中国企業の登記情報、衛星画像、中国側の取引先への取材から、実際には中国産に依存しているというものである。ハンターブルックはさらに、2025年10月から12月期の売上の74%がブルックフィールド系の共同出資会社を経由したこと、社外に示された200億ドルの受注残に対して監査対象の履行義務が5億ドルを下回ること、主要案件の遅れを挙げた。あわせて、ニューヨーク州の日次計量データ (2014年9月から2025年12月、37基) とデラウェア州の月次報告 (2012年6月から2025年5月、約30メガワット) を用いて、実機の効率と出力の推移を分析している。

会社は翌7月9日に臨時報告書を提出して反論した。業績と会計に関する主張を「虚偽であり誤解を招く」として全面的に否定し、監査済みの財務諸表の正確性を強調した。スカンジウムについては、現在の需要と受注残を満たす供給を確保しており、供給は中国に依存しておらず、将来の需要拡大に向けた増産についても中国に依存しないと述べた。同社は酸化スカンジウムをチタン、ニッケル、コバルト、ウランの処理の副産物として複数の国の複数の供給元から調達しており、年間25ギガワットの生産に対応できる供給網の見通しがあると説明している。株価は当日5.7%下げ、翌日には3.1%戻した。8月には別の投資家からも同種の指摘が出たほか、株主による集団訴訟への参加を呼びかける通知も出ている。

技術の側から見ると、なぜスカンジウムが争点になるのかは明快である。電解質に使うジルコニアは、そのままでは酸素イオンを通しにくい。少量の酸化物を混ぜて結晶構造を安定させると伝導性が上がり、これがイットリア安定化ジルコニアやスカンジア安定化ジルコニアである。学術文献によれば、スカンジア安定化ジルコニアの伝導度はイットリア安定化ジルコニアの1.5倍から3倍あり、10モル%のスカンジア安定化ジルコニアは8モル%のイットリア安定化ジルコニアのおよそ3倍、機械的強度も約2倍になる。伝導度が高ければ、同じ電力を出すのに必要なセルの枚数が減る。つまりスカンジウムは、単セル1枚当たりの出力を上げるための材料である。

その一方で、この元素は単独の鉱床をほとんど持たない。他の金属の処理の副産物としてしか採れず、世界の年間生産は数十トンの規模にとどまる。ハンターブルックは、年産5ギガワットに交換需要を足すと年間およそ220トンの酸化スカンジウムが必要になると見積もり、米地質調査所の2025年の消費量約60トン、生産量約80トンと比べて3.7倍、2.8倍に当たると主張した。ここで注意すべきは、この220トンが会社の公表値ではなく第三者の推計であることと、10モル%スカンジア安定化ジルコニアにセリアを加えた組成が還元雰囲気でセリウムの価数変化を起こし強度が落ちるという、材料側の別の課題も学術文献で報告されていることである。レアアースの供給を巡る議論が磁石から電池へ広がるなかで、本誌がレアアース30銘柄を役割で読むで書いた「中国が握るのは鉱山ではなく精製工程」という構図は、この元素にもそのまま当てはまる。

同じ機械が日本では採算に乗らない — 燃料費だけで6.7倍の差

テックニュースは最大の課題を「技術ではなく、全体の費用が他の発電方式より明らかに高く、初期投資の負担が重いこと」と書く。加えて水素の調達先の不確実性を挙げる。天然ガスの質で作る水素は費用が安いが国際的なエネルギー情勢の変動を受けやすく、なお炭素を排出する。水の電気分解で作る水素は脱炭素につながる可能性があるが追加の電力が必要で、変換効率と費用の改善が残された課題である。それでも安定供給と24時間の連続運転を重視する AI データセンターの流れのなかで、需要は伸び続けている。

日本の読者にとっては、ここにもう一つ、決定的な数字が加わる。

同じ機械が日本では採算に乗らない理由
同じ機械が日本では採算に乗らない理由

図6 — 熱消費率にガス価格を掛けた燃料費の日米比較、市場規模、e-Stat の生産と利益

データシートの熱消費率は高位発熱量基準で1キロワット時当たり5,811から7,127英熱量単位である。これに燃料価格を掛ければ、設備費も保守費も含まない燃料費だけを取り出せる。FRED によれば米国のヘンリーハブ現物価格は2026年9月1日に100万英熱量単位当たり2.90ドル。掛け合わせると新品時で1キロワット時当たり0.0169ドル、寿命末期で0.0207ドル、1ドル159.97円で換算して2.70円から3.31円になる。同じ FRED の系列で、日本の液化天然ガス輸入価格は2026年7月に100万英熱量単位当たり19.562ドルである。同じ機械、同じ熱消費率で計算すると、18.18円から22.30円になる。

その差は6.7倍である。日本の産業用電力の電力量料金がおおむね1キロワット時20円前後であることを思えば、設備費、保守費、改質と補機の電力を1円も足さない段階で、燃料費だけが系統から買う電気の単価に並んでしまう。米国の顧客は2.70円で燃料を買い、送電網の増強を待つより安く自前で電気を作れる。ブルームエナジーの米国向け売上比率が59%から90%へ上がったのは、営業努力ではなく、この価格差が生んだ地理的な偏りである。

市場規模の見通しは、テックニュースが引いた調査の数字がそのまま使える。フォーチュン・ビジネス・インサイツによれば、2025年の世界市場は37億8,000万ドル、2026年に50億5,000万ドル、2034年に346億5,000万ドルに達し、予測期間の年平均成長率は32.44%になる。同じ調査はアジア太平洋が2025年に72.87%を占めるとする。ただしデータセンター向けに限った別の推計では、2025年の1億3,800万ドルから2032年の6億2,800万ドル、年平均21.8%とされる。市場全体の伸びと、AI データセンター向けの伸びは同じではない。

日本のセルは、森村グループの合弁1社に集まっている

日本にセルを焼く技術がないわけではない。むしろ逆に、1社へ集約されすぎている。

森村SOFCテクノロジー株式会社は愛知県小牧市にあり、資本金1億円、2019年12月に事業を開始した。日本特殊陶業 (5334)が67%、TOTO (5332)が20%、日本ガイシ (5333)が8%、ノリタケカンパニーリミテドが5%を出資する、森村グループ4社の合弁である。平板型のセルスタックを開発し、2021年には業務・産業用の燃料電池システム向けの量産を始めた。

この構造は有価証券報告書の記述にそのまま現れる。EDINET から2026年6月提出の有価証券報告書11社を取得して語数を機械集計すると、日本特殊陶業の本文には「SOFC」が15回、「セルスタック」が4回、「燃料電池」が11回、「電解」が7回出てくる。同社は森村SOFCテクノロジーを議決権67%で連結し、原材料の一部を販売し製品の一部を納入させ、工場用建物を貸していると記す。TOTO の有報にも同社は関連会社として登場するが、「SOFC」の語はその1回だけである。アイシン (7259)は家庭用の「エネファーム (SOFC)」の高効率化と拡販を気候変動対応の戦略に記している。

対照的なのが京セラ (6971)である。同社は円筒平板型という独自のセル形状と片持ち構造を持ち、家庭用700ワットから業務用3キロワットまでセルスタックを量産している。それにもかかわらず、有価証券報告書の本文に「SOFC」も「固体酸化物」も1回も出てこない。出てくるのは「データセンター」の4回で、文脈は半導体パッケージの需要である。三浦工業 (6005)に至っては「燃料電池」が0回、「水素」が4回だけである。

発電効率63%を作った国が、それを決算資料の主役にしていない

日本勢は、小容量の機種の効率で見れば世界の先頭にいる。東京ガス (9531)と三浦工業が共同開発した「FC-6M」は、発電効率63%という世界最高水準の業務・産業用5キロワット級で、2024年10月に三浦工業から販売が始まった。東京ガスが独自に進めてきた高効率化技術と、三浦工業が持つ熱流体と制御のシステム化技術を組み合わせ、一般的な50から55%を大きく上回った。この効率は世界最高水準の大型火力発電所に匹敵する。京セラの業務用3キロワット機は発電効率52%、排熱の給湯利用を含めた総合効率は90%で、大阪ガス (9532)が販売する。三菱重工業 (7011)は250キロワット級の固体酸化物形とマイクロガスタービンの複合システムを持つ。

同じ会社の有報を並べると、力の入れどころが読める。三菱重工業の本文には「データセンター」が12回、「水素」が9回、「電解」が3回出て、生成AI の進展で電力と冷却と配電の供給が逼迫していることを課題に挙げ、これらを一括して最適化する事業を成長領域として掲げる。ただし「SOFC」も「燃料電池」も0回である。同社が売っているのはガスタービン複合発電であり、燃料電池ではない。高砂熱学工業 (1969)は「電解」が8回、「水素」が24回で、水素製造用の水電解装置と、太陽光・蓄電池・燃料電池を組み合わせた北海道石狩市厚田地区の小規模電力網の4年間の運用を記す。岩谷産業 (8088)は「水素」が130回と群を抜くが、その中身は水素ステーションと燃料電池船であって、定置用の発電ではない。

統計の側から見ても、日本の分散電源は縮んでいる。e-Stat の鉱工業指数で一般用蒸気タービンの生産指数は2024年1月から3月期の81.4から2026年1月から3月期の12.4へ、2年で6分の1になった。一般用エンジン発電機は105.8から87.9、水管ボイラは70.5から57.4。伸びているのはリチウムイオン蓄電池だけで、125.8から204.6へ62.6%増えた。燃料電池は鉱工業指数の品目に掲げられていない。統計に品目として掲げられない産業は、まだ小さいということである。法人企業統計で電気機械器具製造業を見ると、2026年1月から3月期の売上高9兆8,377億円、営業利益9,511億円、設備投資4,977億円と過去最高圏にあるが、この数字を押し上げているのは半導体とデータセンター向けの部材であって燃料電池ではない。

資源エネルギー庁の2040年度のエネルギー需給の見通しは、2040年の電力需要を9,000億から1兆1,000億キロワット時と幅で置き、その幅がデータセンターと半導体工場による押し上げと、省エネによる抑制の両方から来ると説明する。本誌がAIのボトルネックは電力で追った104ギガワットの不足も、送電網につながない選択肢は日本でも取れるのかで分解した系統接続の関門も、この幅のなかで動いている。日本で固体酸化物形が主役になるとすれば、それは燃料費が下がったときか、系統接続の待ち時間が燃料費の差を上回るほど長くなったときである。

これから確かめる4つの数字

第1はブルームエナジーの保証引当である。2026年6月末の7,779万7,000ドルが9月末、12月末にどう動くか。売上の伸びに比例して増えるのか、それを超えて増えるのかで、セルスタックの交換周期に関する会社の見立てが読める。第2は未充足の履行義務で、4億4,240万ドルが四半期ごとにどれだけ増えるか。ギガワットの発表と監査対象の金額の差が縮まらなければ、発表は着工に変わっていない。第3は台湾の高力の生産能力で、2027年下期に3倍、2028年に6から7倍という目標に対する進捗が、ブルームの実際の出荷量を映す指標になる。第4は日本の液化天然ガス輸入価格で、100万英熱量単位当たり19.562ドルが下がらない限り、この機械の日本での採算は燃料費の段階で成り立たない。

手のひらに載る25ワットの板は、積み上げれば発電所になる。その積み上げが利益になるかどうかは、板の性能ではなく、板を焼く場所と、燃料を買う場所で決まっている。