米証券会社トゥルーイスト・セキュリティーズは、AI向けクラウドの年間経常収益が2030年に2025年の6.75倍の2兆940億ドルに増えると推計した。光部品を手がけるフジクラは3か月で2度、今期の業績予想を上方修正した。
フジクラは5月、2027年3月期の売上高を前期比5.1%増と予想していた。8月には48.4%増に引き上げ、営業利益の予想は当初の2倍強になった。2026年4〜6月期には、情報通信事業部門の売上高が前年同期比83.9%増えた。一方、トゥルーイストの推計を基に計算すると、AI向けデータセンターが1年間に増やす電力容量 (年間増設量) は、2030年まで年率26%前後で伸びる。フジクラの情報通信事業部門の伸びは、これを大きく上回る。差が生じた理由を、同社の開示資料から探った。
AIクラウドの収益、5年で6.75倍に
年間経常収益 (ARR) は、契約などに基づいて毎年継続して得られると見込める売上高のことだ。トゥルーイストはAIクラウドの年間経常収益を、2026年に4,930億ドル、2028年に1兆1,810億ドル、2030年に2兆940億ドルと見込む。この推計を紹介した米国の投資情報サービスは、SNS (交流サイト) への投稿で、2030年に2.1兆ドル近くに達し、伸びは年率約47%になると説明している。
編集部が計算し直すと、年率は46.5%だった。ただし毎年同じペースで伸びるわけではない。前年比の伸び率は2026年の59.0%から2027年に64.7%へ高まり、その後は2028年45.4%、2029年36.8%、2030年29.6%と低下していく。
トゥルーイストは年間経常収益を、米マイクロソフトや米アマゾン・ドット・コムなどの大手クラウド事業者 (ハイパースケーラー) と、AI向けクラウドを専門に手がける新興事業者 (ネオクラウド) などに分けて推計している。2025年はほぼ全額がハイパースケーラーの分だった。区分ごとの金額は公表されていない。編集部の概算では、ネオクラウドなどの比率は2026年に約12% (約600億ドル)、2028年に約23% (約2,700億ドル)、2030年に約29% (約6,100億ドル) になる。
需要の中心は学習から推論へ、AIが使われるたびに収益
投稿によると、設備需要の中心は、AIモデルを開発する学習から推論に移りつつある。推論は、利用者がAIを使うたびに必要になる計算を指す。学習は、モデルを作るときに一度行えば済む。これに対し推論は、質問への回答や画像の生成、商品の推薦、AIエージェントの作業、業務の自動処理など、AIを使う場面ごとに発生し、その都度クラウド事業者に利用料が入る。投稿は、AIクラウドの売上高が一時的な設備投資ブームで終わらず、従量課金型の事業に近づいていると指摘する。米不動産サービス大手のジョーンズ・ラング・ラサール (JLL) も、2027年には推論向けの需要が学習向けを上回り、データセンター需要の中心になると予想している。
投稿は、AIエージェントが普及すれば、この流れに一段と拍車がかかると予想する。エージェントは1つの依頼をこなすまでに、手順を考える、検索する、アプリを操作する、結果を確かめる、誤りを直すといった段階を踏み、段階ごとにAIモデルを動かす。モデルを使う回数は数十回に及ぶこともある。
推論のコストが下がると、設備投資の総額はかえって増える可能性もある。安く使えるようになれば、開発者がより多くの製品にAIを組み込み、頻繁に使うようになるためだ。クラウドやインターネット回線でも、単価が下がって利用量が大きく増えたという。
AI向け容量は100GWへ、全体の容量はJLLの見通しとほぼ一致
トゥルーイストは、推計した年間経常収益を生み出すのに必要なAI向けデータセンターの電力容量が、2025年の24ギガワット (GW、1GWは100万キロワット) から2030年には100GWに増えると見込む。データセンター全体の容量に占めるAI向けの比率は23%から50%に上がるという。推計には、データ会社のビジブル・アルファやJLL、各社の資料を使っている。
| 年 | 年間経常収益 (億ドル) | 前年比 | AI向け容量 (GW) | 年間増設量 (GW) | 1GW当たり売上高 (億ドル) |
|---|---|---|---|---|---|
| 2025年 | 3,100 | 24 | 129 | ||
| 2026年予想 | 4,930 | +59.0% | 33 | 9 | 149 |
| 2027年予想 | 8,120 | +64.7% | 44 | 11 | 185 |
| 2028年予想 | 1兆1,810 | +45.4% | 59 | 15 | 200 |
| 2029年予想 | 1兆6,160 | +36.8% | 77 | 18 | 210 |
| 2030年予想 | 2兆940 | +29.6% | 100 | 23 | 209 |
(出所: トゥルーイスト・セキュリティーズの推計。前年比・年間増設量・1GW当たり売上高は編集部の計算)
年間経常収益を推計の容量で割ると、1GW当たりの売上高は2025年の129億ドルから2029年の210億ドルへ約1.6倍になり、2030年は209億ドルで頭打ちとなる。ただ、推計の容量は売上高から逆算した値で、実際の設備を積み上げたものではない。このため1GW当たりの売上高は推計の前提で決まり、推計の当否を確かめる材料にはならない。2030年は売上高の伸び (29.6%) と容量の伸び (29.9%) がほぼ同じで、トゥルーイストはこの年に1GW当たりの売上高が増えなくなると想定していることになる。
AI向けの容量をその比率で割ると、データセンター全体の容量が分かる。2025年は24GWを23%で割って約104GW、2030年は100GWを50%で割って200GWだ。JLLは2026年1月6日、世界のデータセンター容量が足元の103GWから2030年に200GWへ増えるとの見通しを公表した。2025年、2030年ともトゥルーイストの数字とほぼ一致する。JLLはAI向けの比率を2025年に約25%、2030年に50%とみており、2025年の値はトゥルーイストより2ポイント高い。24GWをJLLの103GWで割ると23.3%になる。トゥルーイストは、売上高から逆算したAI向け容量をJLLが示した全体の容量で割って、AI向けの比率を出したとみられる。
国際エネルギー機関 (IEA) は報告書「エネルギーとAI」(2025年4月) で、データセンターのIT機器の電力容量が2024年の68GWから、2030年に基本シナリオで174GW、高成長シナリオで233GWになると予測している。定義が違うため水準はJLLと比べられないが、伸びを年率に直すと、IEAの基本シナリオでも17.0%となり、JLLの14.2%を上回る。
76GWの増設、電力からネットワーク機器まで
容量を5年で24GWから100GWへ増やすには、76GWを増設する必要がある。編集部の計算では、年間増設量は2026年の9GWから2030年には23GWへ増える。増設量の伸びは2027年が22%で、2026年から2030年の年率は26.4%だ。ただし推計の容量は整数で示されているため、2025年と2030年の値を固定しても、途中の年の端数によって年率は24〜29%の間で変わる。推計には2024年の容量がないため、2026年の増設量の伸びは計算できない。同じ2026年から2030年までを年率でみると、容量は31.9%、年間経常収益は43.6%で、増設量の伸び (26.4%) はいずれよりも低い。
投稿は、76GWの増設に必要なものとして、発電、送電網への接続、変圧器、開閉装置、冷却装置、ネットワーク機器、メモリー、用地、建設、資金調達を挙げる。クラウドの売上高の多くを取り込むのはマイクロソフト、アマゾン、米グーグル、米オラクルの4社とみており、大手の設備で需要をまかないきれない場合は、オランダのネビウス・グループなどのネオクラウドにも恩恵が及ぶとしている。
個別の企業では、米マイクロン・テクノロジーにはメモリーの需要増が追い風になるとみる。米アリスタ・ネットワークスは、画像処理半導体 (GPU) を大量につないだクラスターの大型化で、ネットワーク機器の需要が伸びるという。米バーティブ、電機大手のイートン、米GEベルノバ、米パウエル・インダストリーズ、電気設備のエヌベント、米エムコー・グループも、クラスターを動かす電源や冷却設備、電気工事を担う企業として名前が挙がる。投稿は、見落とされがちな分野として電力業界も挙げる。データセンターの運営会社が安定した電力を確保するため、電力会社や天然ガスの生産会社、原子力発電所の開発会社、蓄電事業者と長期の供給契約を直接結ぶ動きが広がる可能性がある。
投稿が挙げたのは米国上場の銘柄だけだが、クラスターをつなぐ部材の需要が伸びていることは、フジクラの決算からも分かる。同社はデータセンター内の配線に使う光ファイバーケーブルと、多数の光ファイバーを一度につなぐ多心光コネクターを手がける。
フジクラ、3か月で2度の上方修正
フジクラの2026年3月期の連結決算は、売上高が前期比20.7%増の1兆1,824億円、営業利益が39.2%増の1,887億円だった。けん引役の情報通信事業部門は、売上高が44.7%増の6,530億円、営業利益が65.7%増の1,527億円となった。決算短信は、生成AIの普及・拡大を背景にデータセンター向けの需要が伸びたと説明している。
5月14日に示した2027年3月期の予想は慎重だった。光ケーブルの増産を急ぐと、水素など一部の原材料の調達が追いつかなくなるおそれがあるとして、その影響を保守的に織り込んでいた。その後、6月と8月に予想を引き上げた。フジクラは6月の修正で、下期についても「少なくとも上期に実現した売価アップ及び水素不足影響の緩和は継続が見込まれる」とした。
| 発表日 | 売上高予想 | 営業利益予想 | 会社が挙げた理由 |
|---|---|---|---|
| 5月14日 (当初) | 1兆2,430億円 | 2,110億円 | 原材料の調達難の影響を保守的に織り込む |
| 6月18日 | 1兆4,620億円 | 3,100億円 | 期初計画になかったハイパースケーラー向けの受注、値上げ、水素不足の緩和 |
| 8月7日 | 1兆7,550億円 | 4,320億円 | 光部品を中心に販売が伸び、需要も続く見通し |
(出所: フジクラの決算短信と業績予想の修正に関するお知らせ)
8月の予想は当初予想に比べて売上高が41.2%多く、前期比では営業利益が2.3倍になる。
8月7日に発表した2026年4〜6月期の決算は、売上高が前年同期比50.1%増の4,020億円、営業利益が2.6倍の1,048億円だった。情報通信事業部門は売上高が83.9%増の2,644億円、営業利益が2.9倍の980億円で、全社の営業利益の93%を占めた。決算短信は、データセンター向け光部品の販売増に加え、米国外の新規案件で光部品を大量に受注したと記している。
設備の増強も進める。2026年3月には、日米で合計最大3,000億円を投じて光ファイバーケーブルを増産し、生産能力を現状の最大3倍に広げる方針を決めた。2026年3月期には、同社が世界初とする1万3,824心の細径・高密度の光ケーブルを、大規模データセンター向けに発売した。
増設ペース上回るフジクラの伸び、値上げと米国外受注が支えか
先に見た通り、トゥルーイストの推計を基にすると、AI向けの年間増設量の伸びは年率26%前後だ。これに対し、フジクラの情報通信事業部門の売上高は2026年4〜6月期に83.9%増えた。フジクラの数字は円建てで為替の影響を含み、3月期決算のため暦年の推計とは期間もずれる。情報通信事業部門には、通信会社向けの光ケーブルや融着接続機、工事などAIデータセンター向け以外の事業も含まれる。それでも伸び率の差は大きい。
フジクラは、売上高の伸びのうち販売数量の増加と値上げがそれぞれどれだけ寄与したかを開示していない。手がかりの1つは利益率だ。情報通信事業部門の営業利益率は、2025年4〜6月期の23.6%から2026年4〜6月期の37.0%に高まった。売上高の伸び以上に利益が伸びており、6月の修正で会社が挙げた値上げが効いているとみられる。光部品の比率が高まり、工場の稼働率が上がったことも、利益率を押し上げた可能性がある。
もう1つの手がかりは販売先の拡大だ。情報通信事業部門の4〜6月期の地域別売上高は、北米向けが1,097億円から1,564億円へ42.6%増えた一方、アジア (日本除く) 向けは105億円から680億円へ6.5倍になった。北米以外の比率は23.7%から40.8%に高まった。地域別売上高は「北米」で区切っており、決算短信が記す「米国以外」とは範囲が異なる。このため、この比率は目安にとどまる。
兆しは前期から出ていた。2026年3月期の北米向けは前の期の3,695億円から4,570億円へ約24%増えた。一方、アジア (日本除く) 向けは214億円から850億円へ約4倍になり、北米以外の比率は18.1%から30.0%に上がった。
トゥルーイストが推計した容量は世界全体の値で、米国外の案件も世界の増設量に含まれる。フジクラは米国外で大口の受注を得て顧客を広げ、世界の増設需要に占めるシェアを高めた可能性が高い。発注者は開示されておらず、ハイパースケーラーかネオクラウドかは分からない。GPUのクラスターが大型化し、1GW当たりの光ファイバーの使用量が増えていれば、それも売上高を増やす要因になる。
フジクラの企業情報は企業データベースのフジクラのページと銘柄ページに、AIデータセンターの設備の構成はAI技術の体系解説 (インフラ編)に掲載している。AIデータセンターの電力の見通しはイビデンの基板工場と電力需要の記事、投資の回収に必要な売上高はAIデータセンター投資の回収の記事で扱った。
AIクラウドの年間経常収益は2兆ドル規模に向かうとの推計がある。ただ、フジクラのような部材メーカーの売上高を左右するのは、市場全体の規模より、年間増設量、1GW当たりの部材の使用量、その価格だ。フジクラの場合、需要が当初の慎重な見通しを上回り、そこに値上げと受注先の拡大が重なったとみられる。値上げが定着するか、米国外の受注が続くかが、次の決算の焦点になる。
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