推論向けのデータセンターを小規模に分散して設ける動きが、米国と欧州で広がり始めた。大手AI企業の2社も小さな施設を求め始めた。利用者に近づけても応答の速さはほぼ変わらず、勝負を分けるのは送電網への接続のしやすさと建設期間だ。
AIの学習では施設の規模が競争力を左右してきたが、推論では施設を各地に分散させることが重要になる。こうした見方がAIインフラの関係者の間で広がっている。オープンAI、アンソロピック、推論を手がける新興企業が、1〜30メガワットの小さなデータセンターに目を向け始めた。推論とは、学習を終えたAIのモデルを動かし、利用者の質問に回答を返す処理を指す。これまでのデータセンターは、規模が大きいほど電力、冷却、運用の費用が下がるという前提で建てられてきた。推論の広がりは、この前提を揺さぶる。理由として挙がるのは、利用者の近くに計算設備を置けば遅延が縮むこと、小さな施設は既存の送電網にすぐ接続できること、許認可が早く下りることの3つだ。
本稿は、報道と各社の発表、米国の電力研究機関の資料を2026年9月22日に確認し、3つの理由を数字で検証した。遅延については、光ファイバーの仕様とAIの性能基準をもとに独自に計算した。
オープンAIとアンソロピックは、推論向けに20〜30メガワットの小型データセンターの確保を探っている
米CNBCは2026年9月18日、アンソロピックとオープンAIが20〜30メガワット規模の計算能力の調達契約を探っていると報じた。関係者によると、アンソロピックは英国と北欧で、オープンAIは北欧で打診した。米国でも同じ規模の協議が進んでいるという。オープンAIの広報担当者は同局に対し「用途によって必要なインフラは異なる。性能、信頼性、時期、費用に照らして案件を検討している」と説明した。
両社はこれまで大型の契約を重ねてきた。アンソロピックは米ウェストバージニア州で約460メガワットの計算能力を借りる約450億ドルの契約を、英エヌスケールと結んだ。オープンAIは大型計画「スターゲート」で当初目標の10ギガワットを4月に超え、その後ジョージア州で3ギガワット、オハイオ州で8ギガワットの開発を上積みした。1ギガワットは30メガワットの施設33.3か所分、20メガワットなら50か所分にあたる。小規模な施設の確保は大型計画に代わるものではなく、それを補う位置づけだ。
背景には、データセンターの使われ方の変化がある。CNBCが引用した不動産サービス大手JLLの報告によると、世界のデータセンターの容量に占める推論の割合は2025年に9%で、学習の14%を下回った。2027年には学習を上回り、2030年には推論が37%、学習が13%になる見通しだ。推論向けの容量は、学習向けの0.64倍から2.85倍に広がる計算になる。テキサス州でオープンAI向けの大型拠点を建設した米クルーソーも、小型のデータセンターに投資していると米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。同社は企業価値309億ドルの評価で39億ドルを調達したと発表している。
データセンターは規模で4つに分かれ、大規模なほど電力と冷却の単価が下がる
データセンターは、受電容量によって大きく4つに分けられることが多い。1メガワット以下の超小型、20〜30メガワットの小型、100〜300メガワットの中規模、1,000メガワット以上の大規模である。本稿の図は、それぞれの区分と、各社が公表した施設の規模を並べた。
大規模な施設の利点は、電力、冷却、ネットワーク、運用で規模の経済を最大限に生かせる点にある。大規模な学習や最先端のモデルの開発に最も適しており、送電網を含むインフラを一体で整備できる。一方で投資額がかさみ、工期が長く、許認可や環境面の審査も厳しい。xAI、グーグル、マイクロソフト、メタが1ギガワットを超える拠点を計画・建設しており、オープンAIがオラクルと組むテキサス州アビリーンの拠点は約1.2ギガワットの規模になる。
中規模の施設は、多数のGPU (画像処理半導体) を連携させて効率よく動かせる規模で、学習と推論の両方に使える。大手クラウドやAI企業を顧客として呼び込みやすく、大規模な施設より段階的に建設しやすいうえ、許認可も比較的早い。米コアウィーブはペンシルベニア州ランカスターで、当初100メガワット、最大300メガワットまで拡張できる施設に最大60億ドルを投じる。米ラムダはミズーリ州カンザスシティーで、24メガワットで稼働を始め、将来は100メガワット超に拡張する施設を約5億ドルで計画している。
小型と超小型の施設は、規模の経済を犠牲にする代わりに、建設の速さと立地の自由度を得る。小型は建設の速さと費用のバランスがよく、余剰電力や再生可能エネルギーを含め、確保できる電力量に合わせて建設できる。推論向けに設計され、ギガワット級より立地の自由度が高く、初期投資が小さく工期も短い。超小型は利用者の近くで推論を処理できるため遅延が最も小さいとされ、数週間で設置でき、既存の電源や自家発電設備と同じ敷地に置ける。米ランウェアの推論用設備は、20フィートのコンテナに約1,200個のGPUを収めた1メガワットの装置で、主にエヌビディアのRTX PRO 6000を搭載する。液体を循環させる冷却方式を採り、通常の運転では水を消費しない。
規模が大きいほど有利という前提が推論で崩れる理由について、調査会社ストラクチャー・リサーチのジャベズ・タン調査責任者はCNBCの取材に答えている。学習では大量のGPUを高速の通信で結び、一体として動かす必要がある。これに対し推論の多くは、利用者ごとの要求を個別に処理できる。小さな計算機群に分けても性能が落ちにくく、1か所に集める必要がない。
利用者に近づけても遅延はほとんど縮まず、1,000キロ離れても往復9.79ミリ秒にとどまる
3つの理由のうち、遅延の効果は計算で確かめられる。光ファイバーの中を信号が伝わる速さは、真空中の光の速さを屈折率で割って求める。米コーニングの光ファイバー「SMF-28 Ultra」の仕様では、波長1,550ナノメートルでの実効群屈折率は1.4682である。ここから計算すると、信号の速さは毎秒20万4,190キロで、往復の遅延は100キロで0.98ミリ秒、500キロで4.90ミリ秒、1,000キロで9.79ミリ秒、4,000キロで39.18ミリ秒となる。
比較の対象は、AIが回答を返すまでの時間である。業界団体のMLコモンズが定めるAIの性能基準「MLPerf」は、対話での利用を想定した試験で、要求の99%について最初のトークン (AIが文章を処理する単位) を450ミリ秒以内に返し、以降は40ミリ秒以内の間隔で返すよう求めている。往復の遅延は、回答の表示が始まるまでの時間に1回だけ加わる。1,000キロ離れた施設でも9.79ミリ秒で450ミリ秒の2.2%、4,000キロ離れても8.7%にとどまる。
実際の通信経路は地図上の距離より長く、中継機器による遅れも加わるため、ここで示した値は最小値にあたる。それでも、文章で回答する対話型のAIでは、応答時間の大半を計算処理が占める。記者の見立てでは、利用者の近くに置く利点が大きいのは、音声での会話や映像の処理のように数十ミリ秒の差が使い勝手に響く用途に限られる。小型化を進める理由としては、遅延よりも次の2つが重い。
小型のデータセンターは、変電所の余力を使って早く稼働できる
1つ目は電力である。米国の電力業界の研究機関である米電力研究所 (EPRI) は2026年2月3日、エヌビディア、物流施設大手のプロロジス、データセンター設計のインフラパートナーズと組み、5〜20メガワットの小型データセンターを変電所やその近くに設ける共同研究を始めると発表した。送電容量に余裕のある変電所を選んで迅速に設置し、2026年末までに米国で5か所以上の実証拠点を整える。EPRIのアルシャド・マンスール社長は「既存の送電網の容量を活用し、推論の計算設備を必要な場所の近くに迅速に置くことは、関係者すべてに利点がある」と述べた。エヌビディアのマーク・スピーラー氏も「送電網の余力がある場所に計算設備を置けば、使われていない電力を活用できる」と話した。
ここでいう送電網への接続は、敷地内に発電所を設ける自家発電とは異なる。ギガワット級の拠点は、送電網の増強を待つか、自前の発電所を建設する必要がある。これに対し20メガワット程度であれば、既存の変電所の余力で受け入れられる場合がある。ストラクチャー・リサーチのタン氏も「電源を備えた既存の施設で数メガワットを確保するほうが、1か所で大規模な電力の割り当てを待つより現実的な場合がある」と指摘した。本誌の世界のデータセンター一覧でも、各施設の所在地や運営会社を調べられる。
GPUを高密度に搭載する小型の設備は、電力の消費も集中する。ランウェアの1メガワットの装置を1,200個で割ると、GPU1個あたり833ワットになる。エヌビディアによると、RTX PRO 6000のサーバー向け製品の最大消費電力は600ワットで、差の233ワットは冷却装置や中央演算処理装置 (CPU)、通信機器に使われるとみられる (推定)。小さな施設でも電力の密度は高く、変電所の余力が立地を左右する。
許認可と工期の短さが小型化を後押しし、ランウェアは組み立てを平均3週間とする
2つ目は許認可と工期である。CNBCによると、米国の大型データセンターは各地で地域住民の反発を受け、欧州では用地と電力が不足している。ニューヨーク州のように新設を止める動きも出ている。詳しくはデータセンター新設の一時停止と住宅投資を抜いたAI向け投資で分析した。小さな施設は環境への負荷が小さく、許認可や地域の同意を得やすい。
ランウェアによると、同社の装置の設置に必要なのは用地、電源、通信回線だけで、組み立ては平均3週間で済む。従来のデータセンターは建設に3〜5年かかるという。施設の費用はGPUを除いて1ギガワットあたり1億5,000万ドルで、従来のギガワット級の施設の最大100分の1になると同社は主張している。2026年後半に最大1万台のサーバーを稼働させ、2027年には1ギガワットを超える推論能力を目指す。1ギガワットは同社の装置1,000台分、GPU120万個分にあたる。設置の候補地は160か所あり、単純に割ると1か所あたり6.25メガワットになる。
推論の比重が高まるほど、データセンターの価値を決める要素は、1か所に集める規模から、すぐに電力を使える場所の数へと移っていく。オープンAIとアンソロピックが大型計画と並行して20〜30メガワットの施設を探すのは、1,000キロ離れても10ミリ秒に満たない遅延のためではない。変電所の余力と短い工期を押さえ、推論の需要の伸びに間に合わせるためである。
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