世界で1年に導入するAI向けIT機器の容量は、米ウェルズ・ファーゴ証券の予測で2030年に64ギガワットとなり、2025年の5倍に増える。GPU関連が毎年6割超を占める。基板大手のイビデンは用途別に工場を分けて増産する。

AIの計算に使う半導体は大きく2つに分かれる。米エヌビディアなどのGPU (画像処理半導体) と、米グーグルのTPUのように、IT大手が自社向けに設計する特定用途向け半導体 (ASIC) だ。どちらが伸びるかは、基板や試験装置を手がける日本企業の受注にも影響する。ウェルズ・ファーゴ証券は、国際エネルギー機関 (IEA) などのデータをもとに、2025〜2030年のデータセンターの電力とチップの出荷を予測した。本誌は予測表の数字に矛盾がないかを検算し、IEAの予測、米ブロードコムの決算説明会での発言、イビデンとアドバンテストの開示と突き合わせた。

AI向けIT機器の年間導入量、2030年に64ギガワット

同証券は、データセンターのIT機器の電力容量をメガワット単位で積み上げて予測した。1ギガワットは原子力発電所1基分の出力に相当する。AI向けIT機器の年間導入量は、2025年の12.8ギガワットから2030年に64.4ギガワットに増える。導入量には古い機器の更新分を含む。2030年の64.4ギガワットのうち12.8ギガワットが更新分で、差し引いた51.7ギガワットが、AI向けの累計導入量の1年間の純増になる。

IT機器全体の累計導入量は、2025年の82ギガワットから2030年に301ギガワットになる。このうちAI向けは25ギガワットから224ギガワットに増え、全体に占める比率は30%から75%に上がる。

ウェルズ・ファーゴ証券のデータセンター電力の予測表。年間の純増・累計導入量・AI半導体の消費電力・出荷を並べたもの
ウェルズ・ファーゴ証券のデータセンター電力の予測表。年間の純増・累計導入量・AI半導体の消費電力・出荷を並べたもの

予測は、機器を5年で更新する前提に立つ。2030年の更新分12.8ギガワットは、2025年の導入量と同じだ。本誌が検算すると、各年の純増は導入量から更新分を引いた値に一致した。累計導入量も前年の値に純増を足した値に一致し、1メガワットの端数を除けば表に矛盾はなかった。

IEAは2025年4月の報告書の付録で、世界のデータセンターにあるIT機器の容量を公表した。2024年の68ギガワットが、基本シナリオで2030年に174ギガワットになり、高成長シナリオでも233ギガワットにとどまる。同証券が見込む2030年の301ギガワットは、IEAの高成長シナリオも上回る。冷却や付帯設備を含む施設全体の容量では、IEAは基本シナリオで2024年の97ギガワットが2030年に226ギガワットになると予測する。世界のデータセンターの消費電力量は、2024年の約415テラワット時から2030年に2倍強の約945テラワット時に増える。

導入量はGPUが6割超、ASIC関連は2028年に15ギガワット

AI向けIT機器の年間導入量に占めるASIC関連の比率は、2025年の33%から2026年に26%へいったん下がり、2030年に37%まで上がる。GPU関連は毎年6割を超え、2030年も63%を占める。2028年のASIC関連の導入量は15.2ギガワットになる。

AI向けIT機器の年間導入量をGPU関連とASIC関連に分けたグラフ。2025年の12.8ギガワットから2030年の64.4ギガワットへ。ASIC関連の比率は2030年に37%
AI向けIT機器の年間導入量をGPU関連とASIC関連に分けたグラフ。2025年の12.8ギガワットから2030年の64.4ギガワットへ。ASIC関連の比率は2030年に37%

出荷数量では、GPUが2025年の529万個から2030年に1,190万個に、ASICが400万個から1,300万個に増える。2029年にはASIC (1,200万個) がGPU (1,063万個) を逆転する。それでも電力でGPUが上回るのは、1個あたりの熱設計電力 (後述) がASICのおよそ2〜2.5倍あるためだ。出荷数量に熱設計電力を掛けると、表にあるAI半導体の消費電力とほぼ一致した (本誌の検算)。

表は、IT機器の電力のうちAI半導体そのものが使う割合も示す。2025年から2030年にかけて、GPU関連では69%から76%に、ASIC関連では43%から68%に上がる。表に内訳はないが、本誌の推定では、残りはメモリーや通信機器、電源の損失などだ。

ブロードコムの顧客分、2028年度に約20ギガワット

同証券は2028年のASIC関連の導入量を15ギガワットと予測するが、ブロードコムが決算説明会で認めた数字はこれを上回る。9月2日の説明会で、米調査会社バーンスタインのアナリストが顧客ごとの数字を足し上げた。2027年度は約10ギガワット、2028年度は約20ギガワットになるとして、その当否を尋ねた。アナリストの試算では、2028年度の約20ギガワットのうち約15ギガワットが米アンソロピックと米オープンAI向けだ。ホック・タン最高経営責任者 (CEO) はこの数字を認め、2027〜2028年度の2年で顧客6社の需要は合計30ギガワットになると述べた。ただし、すべてがこの2年で稼働するとは限らないという。

タン氏は顧客ごとの計画も挙げた。暦年か会計年度かは明示していない。アンソロピック向けは2026年の1ギガワットに続き、2027年にグーグルのTPUで5ギガワット、2028年にさらに10ギガワットを予定する。オープンAI向けは2028年に5ギガワット超、米メタ向けは2028年までに3ギガワットの計画だ。ブロードコムは6月、米投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントとブラックストーンの2社と資金支援の枠組みを設けた。2028年末までにオープンAIとアンソロピックが計20ギガワット超のAI計算基盤を導入できるよう、資金を出す仕組みだ。顧客6社の約20ギガワットとは別の数字になる。

ブロードコムのAI半導体の売上高は5〜7月期に167億ドルだった。同社は8〜10月期に217億ドルを見込む。年度では2026年度に580億ドル、2027年度に約1,150億ドル、2028年度に約2,300億ドルと、毎年ほぼ倍増する見通しだ。タンCEOは、2027〜2028年度のAI半導体の売上高は合計約3,500億ドルになり、その実現の確度はかなり高いと述べた。

比べる際には注意がいる。ウェルズ・ファーゴ証券の15ギガワットは、ASIC全体の暦年の導入量で、更新分を含む。ブロードコムの約20ギガワットは、同社の顧客分を会計年度で足した値だ。この数字がIT機器の電力か施設全体の電力かも、ブロードコムは明らかにしていない。仮に施設全体の電力だとすると、IT機器の電力に直した値は、電力使用効率 (PUE、施設全体の電力をIT機器の電力で割った値) をいくつとするかで変わる。IEAの予測で2030年の大規模施設の1.10なら、IT機器の電力は約18ギガワットだ。2030年の世界平均の1.29なら約15.5ギガワットとなり、ブロードコム1社の顧客分だけで、同証券が見込むASIC全体の15ギガワットに並ぶ。両者の開きのうち、どこまでが実際の需要の違いかは分からない。

ASICを手がける他社も、事業の大幅な伸びを見込む。米マーベル・テクノロジーは、カスタム半導体の売上高が2028年1月期に前期の2倍を超えるとの見通しを示した。台湾のメディアテックは、2026年のデータセンター向け売上高が20億ドルを超えるとした。米クアルコムはクラウド大手2社とASICの開発を進めている。台湾のアルチップ・テクノロジーズは、北米の顧客向けに回路線幅3ナノメートル品の出荷を5月に始めた。

ウェルズ・ファーゴ証券の予測は、ASICの部分ではブロードコムなど各社の見通しを下回り、全体ではIEAの予測を上回る。同証券は各社との差の理由を示していない。資金や電力の制約、建設の一時停止で投資のペースが落ちれば、各社の見通しは下振れする可能性がある。米国では、データセンターの新設を止める地域が出てきた。メリーランド州モンゴメリー郡の議会は7月、データセンター新設の許可を18か月凍結する条例を可決した。インディアナ州マリオン郡 (インディアナポリス) も8月、2027年末まで新設を一時停止した。

GPU1個の熱設計電力は2030年に2,577ワット、基板は130ミリ角超に

同証券の表は、消費電力の目安となる熱設計電力 (TDP) も前提として示す。GPUは2025年の1,113ワットから2030年に2,577ワットへ、ASICは450ワットから1,250ワットへ上がる。GPUは2倍強、ASICは3倍弱になる。

チップが大きくなり電力を多く使うようになると、載せる基板も大きくなり、給電用の配線も強くしなければならない。イビデンは5月の決算説明会で、最先端品のICパッケージ基板が大型化する見通しを示した。基板の大きさは2025年の80ミリ角から2028年に110ミリ角、2030年以降は130ミリ角を超える。基板の芯材 (コア) の片側に重ねる配線層は、9層から14層に増える。イビデンは世代ごとに給電性能を高める。芯材にガラスを使って反りを抑えるガラスコア基板の開発も進める。

GPUとASICの1個あたりの熱設計電力と、イビデンが示す基板の大型化。GPUは2030年に2,577ワット、基板は130ミリ角超へ
GPUとASICの1個あたりの熱設計電力と、イビデンが示す基板の大型化。GPUは2030年に2,577ワット、基板は130ミリ角超へ

検査の負担も増える。アドバンテストは7月の決算説明会の質疑応答で、AI半導体は出荷前検査の負荷がCPUより大きく、検査時間も長いと説明した。3次元実装でチップの構造が複雑になっているためだという。

イビデンは用途別に工場を増強、アドバンテストは装置を使い回す

イビデンは総額5,000億円の設備投資を計画している。大野事業場 (岐阜県大野町) の新工場は一部が稼働しており、まだ設備を入れていない残り半分に約2,800億円を投じる。ここではAI用GPUの高機能ICパッケージ基板をつくる。河間事業場 (同県大垣市) には約2,200億円を投じ、AI用ASICの基板をつくる。大野は2028年3月期から、河間は2028年3月期末から順次稼働する。河間の業績への寄与は2029年3月期からの予定だ。投資に見合う額は契約に基づき顧客が負担し、イビデンはその一部を前受金として受け取る。

イビデンの資料は、外部の調査会社の情報をもとにGPUとASICの出荷を分けて示し、推論に特化したASICの需要が急速に増えるとしている。ただ、同資料のグラフでは2030年もGPUの出荷がASICを上回る。2029年にASICがGPUを抜くとするウェルズ・ファーゴ証券の予測とは食い違う。どちらも出荷の数え方は示していない。

イビデンは8月、2027年3月期の電子事業の見通しを引き上げた。5月時点の売上高3,300億円、営業利益750億円から、それぞれ3,750億円、1,100億円とした。GPUや高性能CPU向けが堅調で、業界の供給能力を上回る需要が続いているという。4〜6月期の説明会では、販売価格と製品構成の変化による265億円の営業増益は、主に値上げによるものだと説明した。次の生産能力の増強は、遅くとも2027年3月期中に決める。

アドバンテストの主力の試験装置「V93000」は、GPU、ASIC、CPUなど幅広い半導体の検査に使われる。装置の構成が似ていて、顧客が用途に合わせて組み替えられるためだ。同社は「成長の源泉がどこであるかは大きな問題ではない」と説明する。現時点ではGPU向けの市場が最大だが、将来はASIC向けがGPU向けに並ぶか、大きく上回る可能性もあるとしている。

基板の工場は用途を決めて設備を入れるのに対し、試験装置は用途を問わず転用できる。両社の事業の概要はイビデンの企業ページとアドバンテストの企業ページ、ASICとGPUの関係はグーグルのTPUを軸にした記事にまとめている。

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