コロンビア大学のファン・ニューワーバーグ教授が、米国のAI向けデータセンター投資を2025〜32年に10.3兆ドルと試算した。2032年までに完成する施設で年10%の利回りを得るには、同年に3兆7,250億ドルの売上高が必要だ。
米国のAIデータセンター投資は、国内総生産 (GDP) に対する比率で1870〜90年の鉄道建設を上回る計算になる。コロンビア大学ビジネススクールのスティン・ファン・ニューワーバーグ教授の論文「AIインフラ整備の資金調達」で分かった。論文は、米ブルッキングス研究所が年2回開く経済分析の会議に、2026年秋に提出された。データセンターの建物、電力設備、ネットワーク、AI向け半導体などへの投資を、2025〜32年に10.3兆ドル (1ドル145円で約1,500兆円) と見積もる。報道の多くはこの規模と過去の投資ブームとの比較を伝えるが、論文の付録は、施設への投資を回収するのに2032年にどれだけの売上高が要るかも計算している。本誌は2026年9月25日に論文を読み、米セントルイス連銀の経済データベース (FRED) と米エネルギー情報局の統計で前提を確かめた。
AIデータセンター投資、GDP比3.63%で鉄道建設の2.24%を上回る
論文は、過去5つの投資ブームとAIデータセンターへの投資を、GDPに対する比率で比べた。
| 投資ブーム | 期間 | 年平均のGDP比 |
|---|---|---|
| 運河 | 1836〜41年 | 0.66% |
| 鉄道 | 1870〜90年 | 2.24% |
| 電化 | 1905〜25年 | 0.50% |
| 高速道路 | 1956〜73年 | 1.13% |
| 通信・光ファイバー | 1996〜2003年 | 1.10% |
| AIインフラ (推計) | 2025〜32年 | 3.63% |
AIの比率は鉄道の1.6倍にあたり、高速道路や通信・光ファイバーの3倍を超える。経済規模に比べて、過去5つのブームのどれよりも多くの資金がデータセンターや電力設備、半導体に投じられる計算だ。ただし比べたのはこの5つだけだ。論文は、一部の報道にある「米国史上最大の投資」とまでは書いていない。AIは無形の技術革新と語られがちだが、教授は、当面の経済への影響は設備投資という目に見える形で表れると書く。今のAIブームはソフトウエアだけの話ではなく、大規模なインフラ投資の局面でもあるという。
過去との比較は統計の範囲に差、GPUは3〜6年で陳腐化の恐れ
論文は付録で、過去の投資ブームの比率はそれぞれ別の統計に基づき、対象の範囲も会計上の扱いも違うと断っている。鉄道は米経済史家ギャルマン氏の推計で、1860年の物価で換算した実質値だ。機関車や車両の一部は含まない。電化は電力会社の発電・送電・配電設備への投資で、電気を使う側の電気機械は含まない。通信・光ファイバーは、米商務省経済分析局の統計にある通信機器と構築物への投資で、ルーターなどの機器も含む。単年では、鉄道が1870年と1881年に4%を超えた。最も高かった年の比率は、通信が2000年の1.39%、高速道路が1958年の1.32%、電化が1924年の0.96%、運河が1840年の0.90%だった。
資産の寿命の差も大きい。教授は、運河、鉄道、光ファイバーは数十年使えるが、GPUは3〜6年で陳腐化しかねないと注意を促す。投資額が同じでも、減価償却を差し引いて残る資本はAIの方が少ない。建物や電力設備は長く使える。10.3兆ドルには、2030年ごろに見込まれるGPUの更新投資も入っていない。
AIの比率3.63%も、多くの前提に基づく推計だ。論文は米調査会社クリーンビューのデータセンター案件のデータベースから、2026年7月時点で稼働中の米国のデータセンターの容量を約57ギガワット (1ギガワットは100万キロワット)、計画中を約509ギガワットと集計した。2025年以降に稼働した、または稼働予定の容量の合計526.9ギガワットのうち、2025〜32年に182.8ギガワット、2033年以降に117.2ギガワットが稼働し、残る226.9ギガワットは完成しないと仮定する。教授自身が「予測ではなくシナリオ」と書いている。1メガワットあたりの費用と名目GDPは、どちらも年4%伸びるとした。
本誌はGDPの前提をFREDで確かめた。2025年の名目GDPは、四半期ごとの年率換算値を平均すると30兆7,621億ドルで、論文の30兆7,620億ドルとほぼ一致した。一方、2026年4〜6月期の名目GDPは32兆4,861億ドルと前年同期比6.6%増え、論文が前提とする年4%を上回っている。GDPの伸びが大きければ、同じ投資額でも比率は下がる。年ごとの比率にも波がある。論文の表では2026年4.5%、2029年2.2%、2032年5.1%と変動する。8年間の比率を平均すると3.63%で、投資の合計10兆2,790億ドルを名目GDPの合計283兆4,480億ドルで割った値と同じだ。
200メガワット級拠点の初期費用82億ドル、7割がIT機器
10.3兆ドルは、標準的な施設を想定して求めた1メガワットあたりの費用に、完成する容量を掛けた推計だ。論文は、AIの学習に使う200メガワット級の拠点の初期費用を約82億ドルと見積もる。内訳は建物が22億ドル、変電所や送電網への接続などの電力設備が4億ドルで、IT機器が約56億ドル (56億1,600万ドル) と全体の68%を占める。1ギガワットに直すと約410億ドルになる。
IT機器の中心は、米エヌビディアのラック型サーバー「GB300 NVL72」だ。1台にGPU72個を載せ、消費電力は約142キロワットにのぼる。電力使用効率 (PUE) を1.2とすると、200メガワットの拠点でIT機器に回る電力は166.7メガワットで、ラックを約1,170台置ける。価格は1台400万ドル (約6億円) で、約1,170台分の46億8,000万ドルだけで初期費用の57%を占める。ラック間をつなぐネットワーク機器、共有ストレージ、設置の費用を加えると1台480万ドルになる。CPUが中心の従来型サーバーのラックは消費電力が1台5〜10キロワットだが、AI向けは100キロワットを優に超える。このため、チップに取り付けた冷却板に液体を流す液冷方式が広がっている。拠点の初期費用の内訳は、AIデータセンターの負債の記事でも詳しく報じた。
電力の消費量も膨大だ。論文によると、200メガワットの拠点を1年間フル稼働させると、米国の一般家庭17万世帯分の電力を使う。2032年までに完成する約183ギガワットの施設がすべて1年中フル稼働すると、消費電力量は年1兆6,030億キロワット時になる。米エネルギー情報局によると、2025年の家庭部門の販売電力量は1兆5,100億キロワット時で、データセンターの消費はその106%にあたる。米国全体の電力消費4兆2,000億キロワット時に対しては38%になる (いずれも本誌試算)。論文の「家庭部門全体の電力消費を倍にする」という記述は、フル稼働を前提にすれば計算が合う。
回収に年3.7兆ドルの売上、稼働率8割でGPU1個を1時間6.9ドルで貸す水準
論文の付録は、施設への投資を回収するのに要る売上高を計算している。対象は2032年までに完成する182.7ギガワットで、10.3兆ドルのうち2033年以降に完成する施設への先行支出は含まない。論文の本文の182.8ギガワットと付録の表の182.7ギガワットの差は、端数処理による。初期費用は8兆5,380億ドルで、建設期間中の資金コストを加えると、稼働時点の投下資本は9兆6,140億ドルになる。耐用年数はIT機器 (68%) を6年、建物や電力設備 (32%) を20年とした。借り入れを使わずに年10%の投資利回りを確保するには、年1兆8,620億ドルの営業キャッシュフローが要る。売上高に対する営業キャッシュフローの比率が50%なら、2032年に年3兆7,250億ドルの売上高が必要になる。論文が想定する同年の名目GDP 40兆4,810億ドルの9.2%にあたる。論文は、この数字がAIの売上の予測ではないと断っている。必要な売上高は前提によって幅があり、利回り5%、営業キャッシュフローの比率67%なら2兆2,910億ドル、利回り15%、同33%なら6兆7,200億ドルになる。
教授はこの売上高を、GB300のGPU1個の1時間あたりの貸出料金に換算した。フル稼働なら1時間5.5ドル、稼働率80%なら実際に貸し出した1時間あたり6.9ドルだ。最先端GPUを短期で借りる料金は現在1時間6ドルから10ドル超で、教授はおおむねその範囲にあるとしている。本誌は論文の前提で検算した。182.7ギガワットをPUEの1.2で割ると、IT機器向けは152.25ギガワットになる。ラック1台を142キロワット、GPU72個として数えると、GPUは約7,720万個、年6,762億GPU時間になる。3兆7,250億ドルをこの時間で割ると1時間5.51ドル、稼働率80%で6.89ドルとなり、論文の数字と一致した。
必要な売上高から見ると、焦点は投資の規模そのものではない。IT機器の耐用年数6年のあいだ、GB300のGPU1個を1時間7ドル近くで貸し続け、稼働率80%を保てるかどうかだ。教授は、新たに約180ギガワット分の設備が加わった後も、この料金を支えられるほどの需要と価格決定力が続くかどうかを、投資を判断するうえでのリスクに挙げる。
米IT大手の設備投資が営業キャッシュフローに迫り、資金調達は簿外へ
設備投資の伸びに、企業が自ら稼ぐ資金が追いつかなくなりつつある。論文によると、米オラクル、米マイクロソフト、米アマゾン・ドット・コム、米メタ、米アルファベットの5社の設備投資は、2020年の約970億ドルから2025年に4,000億ドル超へ増えた。2026年は8,000億ドルを超え、初めて5社の営業キャッシュフローの合計を上回る見込みだ。本誌が5社の決算資料で確かめたところ、2026年1〜6月の設備投資は3,398億ドルで、営業キャッシュフロー3,602億ドルの94%に達していた。2025年は70%だった。詳しくはIT大手の設備投資の記事で報じた。
不足分を、貸借対照表に載らない形で集める動きが広がっている。論文は、IT機器では今も自社保有が重要だとしつつ、追加で必要な資金の調達先がリースや合弁、プロジェクトファイナンスなどに移っていると指摘する。不動産投資信託 (REIT)、ファンドなど銀行以外の貸し手による融資 (プライベートクレジット)、証券化、特別目的会社も使われている。米格付け会社ムーディーズは、大手クラウド企業のリース契約に基づく将来の支払い額を約9,700億ドルと見積もる。このうち約6,600億ドルは、開始前で貸借対照表に計上されていないリース分だという。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの集計では、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタの4社のデータセンター関連の債務や支払い義務は約3兆ドルで、うち2兆4,000億ドルが簿外だ。簿外分の内訳は将来のリースが9,040億ドル、主に半導体の購入契約が1兆5,200億ドルとなっている。貸借対照表に載るのは6,040億ドルで、5分の1にとどまる。メタが大型拠点の資金調達に使った特別目的会社の社債は、利回りが6.58%だった。論文は、同じ時期にメタ自身が無担保社債を出した場合より少なくとも1ポイント高いと見積もる。米モルガン・スタンレーは、大手クラウド企業が2025〜28年にデータセンターを増強するのに必要な約2兆9,000億ドルの半分超を、外部資金で賄うと見込む。借り入れのうちプライベートクレジットが約8,000億ドルにのぼるという。
長期金利も上がっている。FREDによると、米10年物国債の利回りは2026年9月23日に5.11%で、2025年1月2日の4.57%から0.54ポイント上がった。30年物は5.40%で、0.61ポイント上昇した。米IT大手の社債の大量発行が、長期金利を押し上げる要因の一つになっているとの見方がある。AI投資で半導体やIT大手の利益が伸び、金利上昇の影響を打ち消すほど伸びたとの指摘もある。論文は、AIインフラが過去の融資ブームに匹敵するシステミックリスク (金融システム全体に及ぶリスク) になったと結論づけるのは早いとする。一方で、簿外の仕組みは全体のリスクを必ずしも増やさないものの、同時に損失が出かねない投資の偏りを、景気後退の前に見えにくくするおそれがあると指摘する。
ファン・ニューワーバーグ教授の論文の付録によれば、2032年までに完成するAIデータセンターへの投資で年10%の利回りを得るには、同年に米国のGDPの9.2%に相当する売上高が要る。エヌビディアのGPU1個を稼働率80%、1時間7ドル近くで貸し続ける水準だ。
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